あらすじ
吉祥寺にある書店のアラフォー副店長理子は、はねっかえりの部下亜紀の扱いに手を焼いていた。協調性がなく、恋愛も自由奔放。仕事でも好き勝手な提案ばかり。一方の亜紀も、ダメ出しばかりする「頭の固い上司」の理子に猛反発。そんなある日、店にとんでもない危機が…。書店を舞台とした人間ドラマを軽妙に描くお仕事エンタテインメント。本好き、書店好き必読。
吉祥寺にある書店のアラフォー副店長理子は、はねっかえりの部下亜紀の扱いに手を焼いていた。協調性がなく、恋愛も自由奔放。仕事でも好き勝手な提案ばかり。一方の亜紀も、ダメ出しばかりする「頭の固い上司」の理子に猛反発。そんなある日、店にとんでもない危機が…。書店を舞台とした人間ドラマを軽妙に描くお仕事エンタテインメント。本好き、書店好き必読。
ひと言
読書好きの人のブログを参考に、読んでみようと図書館で借りました。とても読みやすく、先が気になって一気に読みました。この本に出てくる吉本ばななさんの『キッチン』。昔すごく話題になった本なのに、私は読んだことがないので、ぜひ今度借りて読んでみたいと思いました。渡辺麻友、稲森いずみさん出演のTVドラマ『戦う!書店ガール』のDVDも今度借りて観てみたいです。
読書好きの人のブログを参考に、読んでみようと図書館で借りました。とても読みやすく、先が気になって一気に読みました。この本に出てくる吉本ばななさんの『キッチン』。昔すごく話題になった本なのに、私は読んだことがないので、ぜひ今度借りて読んでみたいと思いました。渡辺麻友、稲森いずみさん出演のTVドラマ『戦う!書店ガール』のDVDも今度借りて観てみたいです。
一伸堂。いつも行く近所の本屋だった。辛いことや落ち込むことがあると、いつもきまってここに来る。……。
その日も、店主はいつものように穏やかに迎えてくれた。だけど、いつもと違うのは、珍しく自分から本を勧めてくれたのだ。『これ、面白かったから、読んでみない?』 当時、評判になっていた吉本ばななの『キッチン』たった。たぶん、いつもなら買わないタイプの本だ。装丁が少女趣味な気がしたし、すごく売れているという事実がなんだか嫌だった。若かったこともあって、当時はベストセラーになる本に対して反発を感じていた。ペストセラーになるということは、普段本を買わない人が好む本ということだから、自分のような本好きとは相容れないものだ、と思っていたのだ。……。
でも、いろんなことがどうでもいいや、と思えたのだ。おじさんが勧めるんだから、なんでもいい。だけど、それを読んで泣いた。家族を喪うことの悲しみ。孤独。癒しがたい空白感。絶望と、再生に向かう意志。そこに書かれていることは、これから自分に降りかかることだと思えた。作り話だし、どこか少女漫画のようだと思ったけれど、臆面もなく泣けた。母の病気の話を聞いた時は泣けなかった。ことの深刻さに、ショックで泣くこともできなかったのだ。だが小説なら泣ける。泣いて泣いて一晩中泣き明かして、そうしてすっきりした。泣いて気持ちを吐き出したことで、前に進める気持ちが湧いてきた。
大切な誰かを喪うことは、生きてる限り避けては通れない。哀しみも寂しさもきっと襲ってくるだろう。だけど、そうした感情を味わったからこそ得られる何かがきっとある。そこでできる絆もあるに違いない。たった一冊の小説が、自分の心を強くした。主人公が物語の中で手にするカツ丼は、自分にとってはこの本そのものだった。そして、母の病と向き合う覚悟ができた。残されたわずかな時間、できるだけ母に寄り添おうと思ったし、短い大学生活だとしても自分なりに楽しもうと思った。あとで「おもしろかった。これを読めてよかった」と、本の感想を言ったら、店主に「それはよかった。理子ちゃんが辛そうな顔をしていたので、趣味と違うかもしれないと思ったけど、ああいう本がいいんじゃないか、と思ったんだよ」と言われた。お見通しなんだな、と思った。そして、そんなふうに自分のことを気にしてくれる店主が嬉しかった。だから、仕事で辛い時、しんどい時は、この店に来る。来て何があるというわけじゃなくても、なんとなく安心する。あのゆったりした空間がほっとするのだ。なにより、ここが自分の仕事の原点だ。この店があったから、自分は書店員になろうと思ったのだ。『キッチン』という本に出会ったことで、自分の気持ちが救われた。自分もおじさんみたいに必要な人に必要とされる本を手渡す、そんな仕事がしたいと思ったのだ。(16)
その日も、店主はいつものように穏やかに迎えてくれた。だけど、いつもと違うのは、珍しく自分から本を勧めてくれたのだ。『これ、面白かったから、読んでみない?』 当時、評判になっていた吉本ばななの『キッチン』たった。たぶん、いつもなら買わないタイプの本だ。装丁が少女趣味な気がしたし、すごく売れているという事実がなんだか嫌だった。若かったこともあって、当時はベストセラーになる本に対して反発を感じていた。ペストセラーになるということは、普段本を買わない人が好む本ということだから、自分のような本好きとは相容れないものだ、と思っていたのだ。……。
でも、いろんなことがどうでもいいや、と思えたのだ。おじさんが勧めるんだから、なんでもいい。だけど、それを読んで泣いた。家族を喪うことの悲しみ。孤独。癒しがたい空白感。絶望と、再生に向かう意志。そこに書かれていることは、これから自分に降りかかることだと思えた。作り話だし、どこか少女漫画のようだと思ったけれど、臆面もなく泣けた。母の病気の話を聞いた時は泣けなかった。ことの深刻さに、ショックで泣くこともできなかったのだ。だが小説なら泣ける。泣いて泣いて一晩中泣き明かして、そうしてすっきりした。泣いて気持ちを吐き出したことで、前に進める気持ちが湧いてきた。
大切な誰かを喪うことは、生きてる限り避けては通れない。哀しみも寂しさもきっと襲ってくるだろう。だけど、そうした感情を味わったからこそ得られる何かがきっとある。そこでできる絆もあるに違いない。たった一冊の小説が、自分の心を強くした。主人公が物語の中で手にするカツ丼は、自分にとってはこの本そのものだった。そして、母の病と向き合う覚悟ができた。残されたわずかな時間、できるだけ母に寄り添おうと思ったし、短い大学生活だとしても自分なりに楽しもうと思った。あとで「おもしろかった。これを読めてよかった」と、本の感想を言ったら、店主に「それはよかった。理子ちゃんが辛そうな顔をしていたので、趣味と違うかもしれないと思ったけど、ああいう本がいいんじゃないか、と思ったんだよ」と言われた。お見通しなんだな、と思った。そして、そんなふうに自分のことを気にしてくれる店主が嬉しかった。だから、仕事で辛い時、しんどい時は、この店に来る。来て何があるというわけじゃなくても、なんとなく安心する。あのゆったりした空間がほっとするのだ。なにより、ここが自分の仕事の原点だ。この店があったから、自分は書店員になろうと思ったのだ。『キッチン』という本に出会ったことで、自分の気持ちが救われた。自分もおじさんみたいに必要な人に必要とされる本を手渡す、そんな仕事がしたいと思ったのだ。(16)
文庫化に際して、理子が幼い頃から通っていた地元の本屋さんの語を書き加えていることにも最後に触れておきたい。他にも文庫化に際して手を入れた箇所は散見するが、この挿話が物語の奥行きを作っていることは見逃せない。一冊の本が人を救うことはある。カを与えてくれることはある――そう思うだけで、なんだかむくむくと元気が出てくる。碧野圭が本書で描こうとしたのは一つの書店の興亡ではなく、私たちと本を結び付けるそういう濃い繋がりなのではないか。そんな気がしてならない。(解説)



















