イメージ 1 あらすじ
お願いだから私を壊して、帰れないところまで連れていって見捨てて、あなたにはそうする義務がある―大学二年の春、母校の演劇部顧問で、思いを寄せていた葉山先生から電話がかかってきた。泉はときめきと同時に、卒業前のある出来事を思い出す。後輩たちの舞台に客演を頼まれた彼女は、先生への思いを再認識する。そして彼の中にも、消せない炎がまぎれもなくあることを知った泉は―。

ひと言
2006年版「この恋愛小説がすごい」で第1位に輝いた作品。ナラタージュ【narratage】とは、映画などで、ある人物の語りや回想によって過去を再現する手法らしい。松本潤 有村架純 主演で昨年映画も公開され、DVDもレンタルされているようなので今度観てみたいと思いました。
読者レビューで、ひとことで言うと「恋愛した時のどうしようもない人間の弱さ」の話と書かれた方がありましたが、そうかもしれないなぁと一人で納得してしまいました。

立ち止まってから小野君はまた口を開いた。 「そういうのってきっと堂々めぐりなんだ。たとえ誰かのせいで不幸になったとしても、人間は基本的に自由なんだから、その不幸から抜け出す努力をすべきなんだよ。死ぬまで誰かのせいにしていたら、なんのために生きていたんだか本当に分からなくなる」 「だけど抜け出せなかったら? たとえば自分がいなくなるとほかの人間が傷つくとか、逃げたいと思っていても状況が許してくれない場合は」 「それは優しさという言葉に置き換えることもできるけど、同時にその人の弱さでもあると思うよ。自分がいなくなって傷つく誰かがいたとしても、その人間はやっぱりまた自分の力でなんとかすることが必要なんじやないかな。寄りかかるのに慣れてしまうと、逆に精神的な足腰がどんどん弱って、よけいにひどいことになるし」
(16)

「あなたはいつもそうやって自分か関われば相手が傷つくとか幸せにできないとか、そんなことばかり言って、結局、自分が一番可愛いだけじゃないですか。なにかを得るためにはなにかを切り捨てなきゃいけない、そんなの当然で、あなただけじゃない、みんなそうやって苦しんだり悩んだりしてるのに。それなのに変わることを怖がって、離れていてもあなたのことを想っている人間に気付きもしない。どれだけ一人で生きてるつもりなの? あなたはまだ奥さんを愛しているんでしょう。私を苦しめているものがあるとしたら、それはあなたがいつまで経っても同じ場所から出ようとしないことです」 一気に喋ったせいで過呼吸になりそうになった。
葉山先生は身動き一つせず、凍ったように立ち尽くしていた。
(19)

「分かりました。荷物は紙にリストアップしてもらえればすべて取りに行きます」面倒だとは感じず、むしろ、こういうときにまっさきに必要とされるのはとても嬉しいことだった。 ありがとう、とまだ点滴の針が剌さった腕をこちらにすっと差し出してきた。おそるおそる手を握ると指先がぎょっとするほど冷たかった。コートのポケットの中に入れておいたカイロを取り出して渡した。 「下腹部のほうはまだ痛みますか」 彼の手のひらがカイロを握ったのを確認してから手を離そうとすると、腕の内側に流れる青白い脈が皮膚の下で静かに打っているのを親指の腹に感じた。それだけでなにか自分にとってかけがえのないものに触れたような気がして、しんとした気持ちになった。「いや、だいぶ良くなった。それに」「それに?」「君が来てくれて安心した」「いくらでも安心してください。これからは毎日来ます」「本当に?」 この顔だ、と思った。少年のように無防備な喜び方、そして私は痛烈に実感する。 この人からはなにも欲しくない。ただ与えるだけ、それでおそろしいくらいに満足なのだ。
(22)
イメージ 1
 
昨日、師匠から教えてもらったおいしいお店、あま市の「つけ麺 舞」へさっそく夕食に家族で出かけました。開店20分前に到着して8番目でした。師匠のおすすめの つけそば(850円)とりめし一口サイズ(50円)わさび(20円)をいただきます。まずは麺だけ、しっかり腰があってとてもおいしいです。店内にくどいほどスープが濃いので麺の半分ぐらいだけ漬けて食べてください。と書いてあるので漬け過ぎないように注意していただきます。う、うまい!さすが師匠、いいお店を教えてくれたなぁ。

 

残ったつけ汁に鶏めしとポットに入った出汁を入れてお茶漬け風で〆ます。これもおいしい!以前は熱田球場の近くでカウンターのみ5席の人気店があま市の方に移転してきてくれてうれしい限りです。
混雑するのであまり薦めたくはないですが、とてもおいしいつけ麺でおすすめです。ごちそうさまでした。

 

 

つけ麺 舞(食べログ)
あま市七宝町沖ノ島十八

 

イメージ 1 あらすじ
小学校の卒業記念に埋めたタイムカプセルを開封するために、26年ぶりに母校で再会した同級生たち。夢と希望に満ちていたあのころ、未来が未来として輝いていたあの時代―しかし、大人になった彼らにとって、夢はしょせん夢に終わり、厳しい現実が立ちはだかる。人生の黄昏に生きる彼らの幸せへの問いかけとは。

ひと言
読み終えて重松さんの歳を確認してみました。確か自分より少し若かったよなぁ。1963年生まれ、私より2つ若い。1970年の万博のときは重松さんは小学2年、自分は小学4年。はっきり覚えていないけど、万博も5回ぐらいは行ったと思う。うちの小学校では5、6年は遠足で万博へ行ったのに、4年生だった自分は遠足では行けなかったのがすごく残念だった想い出。
懐かしいなぁ… 太陽の塔を近くで観たいなぁ 太陽の塔に触れてみたいなぁ。ネットで太陽の塔と検索をかけると太陽の塔予約システムというのがあり、うれしくなって氏名とメアドを登録し、お盆に大阪へ帰省する日時にあわせて入館予約をしようと思いましたが、残念ながら希望する日時は空いていませんでした。でも、いつか、できればみんなで観に行きたいと思いました。


「万博って、ウチの両親も行ってるんです。高校生の頃だったんですよね、二人とも。高橋さんはいくつのときだったんですか?」 「小学二年生。ハ歳だな」 「ほらあ、高橋さん、やっぱり若いじゃないですかぁ」 「……三十一年前なんだからさ」 太陽の塔の話を、少し教えてやった。
ホンモノの塔の高さは七十メートル。丹下健三が設計したお祭り広場の屋根を突き破って、そそり立っていた。未来をあらわす金色の顔は直径十一メートル、おなかの顔のレリーフは現在をあらわして直径十一メートル五十センチ、信楽焼でつくられた背中の黒い顔は過去。金色の顔の目玉には直径五十センチの電球が入っていて、毎日午後六時に光が放たれた。「すごいですね、数字まで覚えてるんですか」
「塔は、太陽の塔だけじゃなかったんだ。青春の塔と母の塔もあったんだけど、まあ、とにかく太陽の塔だよな。俺たちの世代にとっては、東京タワー以上のシンボルだから」 「中に入れるんですか?」 「途中まで、らせん階段で上れた。生物の進化の歴史をたどる展示があったんだけど、薄暗くて、ちょっと怖かったな」過激派の若者が、太陽の塔の目玉にたてこもった事件もあった。三月十四日の開幕から約一カ月半後の四月二十六日に事件が起きて、男は八日間たてこもった。その間、男が焼け死ぬ恐れがあるから、と目玉の点灯は中止されたのだ。
優香里には「過激派」の意味から説明しなければならなかったが、ふだんは思いだす機会のない記憶をたどっていくのは予想以上に心地よかった。なにか、頭の中の掃除をしているような気もする。
モノレールに動く歩道、ロープウェイに電気自動車、テレビ電話、空中ビュッフェ、空中エスカレータ、手塚治虫が設計したフジパンロボット館、蚊遣りブタのデザインのガス・パビリオン、古河パビリオンの七重の塔、ワコール・リッカーミシン館の万博結婚式、三百六十度の球面マルチスクリーンのあった東芝IHI館……。
毛糸玉から糸を引き出すように、思い出が次々に、途切れることなくよみがえる。エアドーム式のアメリカ館の目玉は、アポロ11号が待ち帰った月の石と、月着陸船だった。アポロ12号の宇宙飛行士もアメリカからやってきた。ソ連館も宇宙船ソユーズとボストークを展示していた。ロンドン橋の形のイギリス館、水中に建っていたオランダ館、ガラス張りのチェコ館……。
「万博のテーマは『人類の進歩と調和』だったんだ。ベトナム戦争のこととか全共闘のこととか、公害とか、核実験とか、親父やおふくろが話してるのは聞いてたけど、そういうのも未来には……二十一世紀にはぜんぶなくなって、世界は平和になって、宇宙にも行けるようになって、ガンで死ぬひともいなくなってるって、そういう未来が絶対に来るんだって、信じてたんだ。信じることができたんだよ、万博を見てると」 自分でも驚くほど熱の入った口調になった。クサかったかな、と一瞬悔やんだ。
(第四章)

「僕ね、独身で、こういう病気と付き合ってるでしょ。そうしたら、『なんとかのために』も『なんとかのせいで』も、あんまり信じられなくなっちゃうんですよね」 自分が誰のために生きてるのか。誰のせいでこんな病気になってしまったのか。考えても考えても、ぽっかりと空白が残ってしまう、という。 「それでね、こんなこと思うわけです。『ために』と『せいで』を遣うひとって、ずるいよな、って」 「……どこがだよ」 「ジャイアンは家族のためにがんばって、失敗しちゃったんでしょ。じゃあ、それは家族のせいです。自分のせいじゃないです」「違う、俺が悪いんだよ。俺のせいだって言ってるだろ」 「だったら、ジャイアンはいままで、家族じゃなくて自分のためにがんばってきたんですよ。家族を幸せにするためじゃなくて、家族を幸せにする自分のために、がんばったんじゃないんですか?」 「………わけわかんねえよ、屁理屈言うなよ、なにも知らないくせに」 語気を強めると、それをいなすように杉本はふふっと笑う。 「自分のためにがんばって、自分のせいで失敗した。自爆ですよ、ジャイアン。自業自得っていうか……」 思わず椅子から立ち上がった。つかみかかりたいのをこらえ、怒鳴り声をあげるのもこらえて、奥歯を食いしばると、頭の芯が重く痛んだ。
(第七章)

「ジャイアン、ちょっと待ってくれ」「もういいよ、おまえと話してもしようがねえや」「いいから」 追いかけて、背広のポケットからコスモスの種の袋を取り出した。 「これ、おまえにやる。大阪の住宅展示場で、彼女が貰ったんだ。家の庭で咲かせたいからって、でも、陽当たりが悪いから、咲かなかったらかわいそうだからって、俺にくれたんだ」 「だったら、おまえのものだろ。要らねえよ、こんなの」 「ジャイアン、いいから、貰ってくれよ」 頼む――と頭を下げて、袋を無理に握らせた。 「すぐに捨てるぞ? それでもいいのか?」 「ああ、ジャイアンが捨てるんなら、いい。でも、蒔いてみてくれ。花が咲いてる庭を、彼女に見せてやってくれよ。ジャイアンちがどんな庭か知らないけど、花はちゃんと咲くんだって……教えてやってくれよ。そうしないとさ、このままだと、ほんとにおまえたち……」 徹夫はなにも言わずに、また歩きだした。袋を面倒くさそうにズボンのポケットに入れた。 克也はもう追いかけない。遠ざかっていく徹夫の背中をじっと見つめる。
(第七章)

「ドラえもんってさ、未来のいろんな道具をのび太に貸してやるだろ。でも、その中に、勇気の出てくる道具はないんだよ。おまえの名前の。ユウキじゃなくて、心の。ユウキな」 「はあ?」 「二十二世紀だか二十三世紀だか知らないけど、どんなにすごい未来でも、勇気を持ってくるのはできないんだ。勇気はいまの自分からしか湧いてこないんだよ」 「……どうしたの? なんか、わけわかんないこと言ってない?」 「カッコいいこと言ってるだろ、パパ」 ははっ、と自分で笑い飛ばして、ステアリングを両手で握り直す。あいかわらず雨はどしゃ降りで、視界が悪い。 前方を、ぐっとにらみつけた。 さすがに照れて由輝には旨えなかった、「カッコいい」ことが、もうひとつ。 万博の太陽の塔の「現在の顔」が、なぜ、あんなにおっかない表情をしているのか。あれは勇気を持って困難に立ち向かうときの顔だったんだな――と、いま、確かに思う。
(第九章)
イメージ 1
 
ナゴ丼を食べた後のデザートに大須の松屋コーヒーの向かいの「リッケッツァ・トレ」へ連れてもらいました。フレンチトーストが有名なお店ということでフレンチトースト(750円)とホットケーキ(750円)を注文し師匠とシェアしていただきます。注文してから20分ほど時間がかかりますが、しっとりふわふわ、ふっくら焼き上げたとてもおいしいフレンチトーストとホットケーキでした。ごちそうさまでした。

 

それから師匠においしいお店の情報をいろいろと教えてもらい、そちらへ食べに行くのも楽しみです♪

 

 

 

イメージ 1
 
名古屋が観測史上初の40℃を超えて40.3℃を記録した8月3日、グルメの師匠と大須へランチに出かけました。「創作名古屋めしまかまか ナゴ丼」で究極のナゴ丼と元祖ひきずり丼の選べる2種丼コンビ(1000円)をいただきます。創作名古屋めしのNo1を決める「NAGO-1グランプリ」の優勝メニュー「味噌鶏ちゃん」を載せた丼と鶏肉を使った名古屋のヘルシーなすき焼き「引きずり鍋」の丼です。大盛無料で小振りな器に山盛りの丼は全部で6種類あり他のメニューも食べてみたいです。ごちそうさまでした。

 

 

イメージ 1
 
ここ最近の異常な暑さのため、お昼を食べに出るのを控えていましたが、今日は久しぶりに前から行きたかった「京都 アンテナショップ 丸竹夷」へ自転車で出かけました。選べるランチセット2ドリンク付き(1200円)をいただきます。選べるメイン料理には鳥の西京焼きを、食後の飲み物は上林春松のほうじ茶を選びました。4種のおばんざいもどれもとてもおいしく、お味噌汁のお豆腐も美味しかったので、お店の方にどちらのお豆腐屋さんですか?とお尋ねしたところ、京田辺の業務用で市販はされていないお店のお豆腐ですと教えていただきました。

 

少し遅めのお昼だったので他のお客はいなくて、まったりとした時間を過ごさせていただきました。ごちそうさまでした。

 

 

京都 アンテナショップ 丸竹夷
名古屋市西区栄生2

 

イメージ 1
 
今朝7時ごろの名古屋駅での用事を済ませ、JRの入場券(140円)を買って、前から行きたかった駅のホームにある「住よし」で朝食です。揚げ物は東海道線の3・4番ホーム店の厨房で調理して各店舗に配るので、そちらの方が揚げたてを食べられるからいいという方もみえますが、新幹線下りホーム店でかき揚げ玉子入りきしめん(570円)をいただきます。
熱田神宮の中で食べる「宮きしめん」もおいしいですが、こちらも名古屋を代表するきしめんで、とても美味しかったです。ごちそうさまでした♪

 

住よし JR名古屋駅・新幹線下りホーム店(食べログ)
名古屋市中村区名駅1-1 名古屋駅構内

 

イメージ 1 
 
あらすじ
ある朝、伽耶は匡にこう告げる。「あなた、恋人がいるでしょう」 結婚十五年、セックスレス。妻と夫の思惑はどうしようもなくすれ違って…。愛しているなら、できるはず? 女がいて、男がいて、心ならずも織りなしていく、やるせない大人のコメディ。

 

ひと言
えっ、4人でキャンプに行くの!?。破天荒な伽耶の思いつきに、ちょっとドン引き気味でしたが、どこか分かったようなわからないような心の揺れ動きに、楽しく?読ませてもらいました。

 

 

誠一郎とよりを戻してしまったのもその頃たった。その日のことははっきりと覚えている。朝からぎらぎらと日が照りつけていたウィークデーのある日。朝食のテしブルで、梅雨はもう明けたのかしら? と伽耶は匡に言ったのだった。さあ。匡は新聞から目を離さずに、そう答えた。 伽耶はしばらくの間匡を眺めていた。もっと何か言うはずだと思ったのだ。しかしすごい日差しだね、とか、今日も暑くなりそうだなあとか、何でもいい、あと一言か二言。匡が新聞をめくったところで、眺めるのをやめた。怒りは覚えなかった。夫の二言目をずっと持っていた自分をばかだと思っただけだった。
その日の昼食はカルボナーラを作ったが、あまりおいしくなかった。匡が例によって大量に持ち帰ってきた、紙のように薄っぺらいベーコンを使ったせいだと思った。そういえば新婚の頃に一度だけ行ったイタリアンレストランのカルボナーラはびっくりするほどおいしかった、と思い出した。あの頃は月に一度か二度、外食を愉しんでいた ―― 店を探すのは伽耶の役目だったが、二人とも愉しんでいたのだ、と考えた。あのレストランの店名はなんだったろう? たしか青山に開店したばかりの小さな店だったが、今は人気店になっているのか、潰れてしまったのか、この頃はそういう情報を熱心に追いかけることはしなくなったから、見当もつかない。 それで伽耶は、昔の手帳を引っ張り出して、レストランの名前が書いてある箇所を探しはじめたのだった。自分がなんのためにそうしているのかはわからなかったが、どうしてもそれを探し出さなければならない、という気分になっていた。結果的に、レストランの名前は出てこなかった。それを見つける前に星野誠一郎の電話番号を見つけてしまったから。
(11)

 

 

「本当に、本当?」 伽耶がぐるりとこちらに向き直った。もう笑ってはいない。真剣な表情だ。匡は重々しく頷いた。 「どうして?」 「どうしてって……」 大きな声を出すと脅かされたからだなどとはもちろん言えないから、匡は再び海を見て、「そんな気になれなくてさ」と呟いた。海って便利だなと頭の隅でちらりと思う。 「じゃあ、同じね。私もそんな気になれなかったの」 伽耶も海のほうへ顔を戻して言った。「ふつう、なれないさ」「どうして?」「そりゃあ、僕らがお互いを大事に思っているからさ」 海を見ているせいでそう言ってしまった。しかし嘘でもない、と匡は思った。そう思うのも海のせいかもしれなかったが。 「大事? 私のこと」 伽耶がまたこちらを向いた。瞳がきらりと光る。きれいだ、と匡は思った。「決まってるよ」 「ちゃんと、言って」 「愛してるよ」 囁く自分の声に匡は自分でぐっときた。その気分が盛り上がるままに、妻を抱き寄せて唇を重ねた。
(20)

 

 

よくわからなかった。結局のところ、どちらでもいいように思えた。どちらにしても、この日々は続いていくのだから。続けていくことを、たぶん私も匡も選んでいるのだから。 立ち上がろうとして伽耶はふと座り直して、再びパソコンを開いた。韓国料理の教室を検索しはじめたとき、携帯電話が鳴りはじめた。ディスプレイにあらわれた名前は誠一郎。呼び出し音を、伽耶は七回まで数えた。パソコンのモニターにあらわれた検素結果のひとつをクリックし、九回目が鳴り出す前に受話ボタンに指を押しつけた。
(23)

 

イメージ 1 
 
あらすじ
川本麻由はかつての恋人によるDVで心に傷を負い、生きることに臆病になっていた。ある日、カウンセリングの相談室で植村蛍という年上の男性に出会い、次第に惹かれていく。徐々に生活を取り戻し始めた麻由だったが、もっと彼に近付きたいのに、身体はそれを拒絶してしまう。フラッシュバックする恐怖と彼を強く求める心。そんな麻由を蛍は受け止めようとするが…。リアルな痛みと、光へ向かう切実な祈りに満ちた眩い恋愛小説。

 

ひと言
先日の159回の直木賞を受賞した島本理生さんの本のコーナーが図書館に設けられていて、もちろん受賞作の「ファーストラヴ」はありませんでした(もちろん予約は入れました)が、この本が置いてあり、DVで心に傷を負った女性を島本さんがどう描くのかなと思って借りました。途中タイトルが、波打ち際の麻由じゃなくなんだろうと思いながら読みましたが、読み終えて、島本さんはさとるを描きたかったんだなと納得した気になりました。

 

 

「あなたは、どうしてそこで自分の責任だと思っちゃうのかな。理由は分かる?」 「私は、もっと早く逃げ出すことだってできたんです。でもしなかった。さらに言うなら、安心できて幸せな日々も、恐怖や理不尽や孤独だけの日々も、大して変わらないように思っていた。すべては自分で蒔いた種で、私の心が弱かったせいなんです」加藤先生はいったんペンを置くと、右手をゆっくりと持ち上げて 
「前も話したと思うけど、人から暴力を繰り返されて強い力で押さえ込まれていると、次第に自分を無力に感じて、そこから逃げ出すこと自体をあきらめちゃうのは、よくあることなのね。それを相談できなくて気付いてくれる人もいないと、誰も自分を助けてくれないと思って、よけいに動けなくなるものなの。だから、それはけっしてあなたの責任じゃないんだよ」 信じられないんです、と私は首を振った。強く振った。
「道端でいきなり殴られたり刺されたりしないことを。ホームに立ってて背後から突き落とされないことを。知らない人が、意味もなく私を蔑んだり疎んだりはしないことを。キスやセックスが、私を殺しはしないことを」
(3)

 

 

「加藤先生」 私はここへ来て、ただ際限なく甘やかされたいだけじゃないか。 「ん?」 話に集中しているうちにうっすら赤く染まった彼女の頬を見ながら、この人はいったい誰なんだろう、とふいに思った。本当の性格も趣味も好きな男性のタイプも、何一つ知らない。愚痴すら言わない、このカウンセラーという形をした女性は。「ここへ来て、色々と話を聞いてもらって帰っていく。その行為がなんなのか、どういう意味があるのか、私にはまだよく分からないんです。最初は両親を安心させるためだったのに、最近は、母はもう薬でも飲めばいいと言う。じゃあ、なんのために私はここにいるのか」 その質問に、加藤先生はすごくゆっくりと、言葉を紡いだ。 
「そうね。これは私が以前、読んだ本に書かれてたことだけど、セラピーは、親密な他者をお金で買うことだと」その答えがあまりに的を射ていたので、私は何度か強くまばたきしてから、言った。 「じゃあ、これは擬似的な親密さの中で、人に対する信頼を取り戻す訓練なんですね」 「だけど、もともと信頼なんてものは完璧じゃないのよ。あまりよくない種類の信頼だって、その人の優しさや弱さ、用心深さの度合いで、簡単に獲得できる。信頼そのものがすべて正しいわけじゃないと思うの」 「じゃあ、これはいったいなにを信じるための話し合いなんですか? 他人じゃなければ、日常がそこまで悪いものじゃない、世界はけっして危険な揚所じゃないこと?」 「ぜんぶ含めて、それを判断している自分自身を信頼するの。そのために私がいるの。これから先、きっとまた誰かがあなたを傷つけることだってある。世界が安全な場所だなんて誰にも約束できない。それでもあなたが、また日々を続けられるように。それは誰かが優しくしてくれるとか、世界が救ってくれるからじゃなくて、あなたが、あなた自身を支えることなの」 そこで、加藤先生は言葉を切った。私は壁に掛かった時計に視線を移した。 彼女はゆっくりと肩にこめていた力を技くと、おつかれさまでした、と微笑んだ。 私は小さく会釈してから、立ち上がった。 会計を終えて外へ出たとき、加藤先生が明るい声で、お腹空いたから出てくるねー、と言うのが聞こえた。 私は、なるほど、とようやく納得して、後ろ手でドアを閉めた。
(6)

 

 

蛍は昨日と同じように、少し前を歩いていた。スニーカーのまま波打ち際ぎりぎりまで近付いていって、なぞるように黒くなった砂をたどっては、また離れる。襟足からのぞく首筋は白くて儚いほどで、青いシャツに包まれた肩、骨張った肘を見つめていても、彼が今なにを考えているのか分からなかった。
私はそっと、蛍に声をかけた。「そんなところにいると靴が濡れちやうよ」 振り返った彼は、真顔で、答えた。「ああ、うん。いいんだ。白線だから」「白線?」 私は聞き返した。
「ちょっと目を離したら、すぐに遠くへ流されちゃいそうだから。ここにいれば、俺がずっと、白線の外側に」 ようやく自分のことを言われているのだと理解した瞬間、その骨を砕くほど強く抱きつきたい衝動に駆られた。私はとっさに背を向げて、波打ち際から遠ざかるように、蛍とは反対方向へ歩き出した。
(6)

 

イメージ 1 
 
あらすじ
ともに全盲である弁護士と声楽家の夫婦が、半生を振り返る。見えない苦しみを抱えながらも夢を実現し、恋に落ち、結婚。現在は2児の親だ。幼い頃から顔見知りだった二人は20代で趣味の音楽を通じて再会し、交際が始まる。互いに「ずっと一緒にいたい」と願ったが、しばらくは見えない者同士で家族になる自信が持てなかった。母親の死に直面した夫が、最愛の相手を悟り、結婚を決断。決断とは、自らつかみ取ること。勇気を持って人生を切りひらくこと。

 

ひと言
まず今日7月26日は、相模原市の「津久井やまゆり園」で19名もの尊い命が失われるという事件が発生して2年、3回忌にあたります。亡くなられた方のご冥福を心よりお祈りいたします。

 

 

結婚して2人の子どもさんを育てている、どちらも全盲のご夫婦がいることを、以前ニュースのドキュメント番組で知りました。図書館でこの本と出会えたことに感謝です。もし、自分が……と考えると、結婚し2人の子どもを育てるという自分では到底できないであろう2人の決断に、ただただ拍手を送りたいです。この本の最後に、盲導犬と一緒のご家族4人の笑顔の写真が添えられていて、幸せというものに形があるとしたらこれなんじゃないかと思うほどのとてもすばらしい写真でした。
決断とは、自らつかみ取ること。勇気を持って人生を切りひらくこと。
この言葉を胸に、自分も頑張らなくっちゃと たくさんの元気をこの本からいただきました。
ありがとうございました。

 

 

イメージ 2

中2の夏休み、僕は自分の人生を変えることになる一冊の本と出会いました。
その日、夏の読書感恋文を書くために、校内の図書館で本を探していました。するとたまたま、『ぶつかって、ぶつかって。』というタイトルの本が目にとまりました。 失明して2年経っていましたが、それでも毎日いろんなところに頭をぶつけてタンコブが絶えませんでした。心の中でも、多くの可能性が閉ざされ、人生の壁にぶつかっていました。 それで、この『ぶつかって、ぶつかって。』というタイトルが気になったのだと思います。 本を手に取り、ページをめくると、この本は、日本で初めて点字を使って司法試験に合格し、弁護士になった京都の竹下義樹さんという弁護士の書いた本でした。この方が出ている番組を、以前母が見せてくれたこともあり、僕は何かとてつもない衝撃を受けました。 全盲でも努力すれば、最も難しいと言われる試験の一つ、司法試験に合格できる。そして、弁護士になることができるかもしれない。目が見えなくても希望はあると。 僕は失明したことで、いろいろな人生の可能性が閉ざされたと思っていたけれど、それは思い過ごしかもしれないと考え直したのです。 僕の前にはいろいろな可能性の海が広がっていて、その可能性を一つでも開花させられれば、自分で自分の人生を変えていくことができるんじゃないか、そんなふうに思いました。 失明したことで、これから先は一生、誰かの手助けを受けて生きるしかないのかな、そう思っていたけれど、弁護士になれたら、今の僕のように苦しんでいる誰かのために、僕は働くことができるかもしれない。 そんなふうに誰かのために働くことができたら、自分が他の人よりも劣った存在になってしまったというコンプレックスからも解放され、自由になれるに違いない、と思いました。(第1章 見えない世界)

 

 

1年間の浪人生活を経て1997年4月、僕は慶應義塾大学法学部に入学することができました。次に、僕のやることは下宿探しでした。沼津から上京した母と不動産屋さんを回りました。 大学近くの不動産屋さんは、僕が慶應義塾大学の新入生と知っていても、全盲であることがわかるととたんに、「火事が出たら危ない」「段差があって危ない」などといろいろな理由をつけて、遠回しに部屋を貸すことを拒否してきたのです。 母と一緒に何軒も不動産屋さんを回りましたが、ほとんどの不動産屋さんに断られました。 母はそれまで僕や弟が視覚障害があることで悲観したり、精神的な動揺を見せることは一切ありませんでした。それがこのときばかりはよほど悔しかったのか、駅に向かってとぼとぼ歩いて帰るとき、僕の前で初めて涙ぐんでいました。「誠、ごめんね。アパートを借りてあげられなくて、本当にごめんね」 わが子が、目が悪くても必死にがんばって勉強して大学に合格した。けれど、アパート一つ借りてあげられない。そのときの母の思いを想像すると、本当につらかったんだろうなと思います。 「自分の子どもに障害があるということで母が『ごめんね』なんて口にしなければいけない、そんな社会はどこか間違ってるんじゃないか。僕が弁護士になったら、こんな社会を変えるために働きたい」 そのとき感じた強い憤りも、僕を司法試験に向かわせる力になりました。 僕と母はその後、大学から2本電車を乗り継いで約1時間ほどかかる場所で、ようやく求めていた下宿を見つけることができました。
(第1章 見えない世界)

 

 

父と山に登りながら、僕は小学生の頃、山で父に聞いた言葉を思い出しました。「山は、登り始めは山頂の景色がくっきり見える。あそこをめざして登っていけばいいんだな、と力が湧いてくる。それが山頂の手前あたりに来ると、山頂の景色が不意に消え、見えなくなる。見えなくなると、不安にかられる。このままこの道を登って行っていいんだろうかと……。いいか、誠。もし山頂の景色が突然、見えなくなっても、その場所は山頂に近すぎて見えないだけで、そこはもう、山頂の一歩手前。″もうだめだ″と思う瞬間が、実は、夢に一番近づいてるんだ」 父の言葉を思い出して、もう一度、僕は自分の心に問いかけてみました。 「つらい受験勉強を、明日からまたがんばれるか、そこまでして本当に、弁護士になりたいか」 僕の中に、弁護士になって誰かのために働いている姿が浮かびました。ワクワクするような、ドキドキするような、弁護士になった自分の姿です。
「時間がかかってもいいじゃないか。誠のことだもの、いつかは必ず受かるよ」 山頂で、僕の背中をそっと押すように、父が言いました。
(第3章 結婚)

 

 

「だいじょうぶですか? お供しましょうか」 駅のホームで、声をかけられることがあります。そういうときは、遠くからではなく、すぐ側で話しかけてくださると嬉しいです。 もし盲導犬と一緒に歩いている視覚障害者の誘導をしてくださるときには、進行方向に向かって左側からではなく、「右側」から進む方向や周りの状況を教えてください。 私たちの左側を盲導犬は歩きます。 左側から声をかけられると、盲導犬の視界が塞がり歩きにくくなります。 特に、駅のホーームのような騒音の大きなところでは、より大きな声を出してくださると助かります。
(第6章 子どもと親と盲導犬と)

 

 

最近読んだ村上春樹の小説『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』に次のような一節があります。 「人の心と人の心は調和だけで結びついているのではない。それはむしろ傷と傷によって深く結びついているのだ。痛みと痛みによって、脆さと脆さによって繋がっているのだ」
人間は人間によって傷つくけれど、同時に人間によって癒されるのだとこの小説は伝えています。僕たち夫婦も、視覚障害者ゆえの痛みを持っていますが、その痛みがあるがゆえに、ふたりだけの強く深い結びつきがある。 見えないふたりが一緒に生活をしていることの不思議。つらさや苦労とい
う痛みはあるけれど、その痛みゆえに喜びもあるように感じています。
(第6章 子どもと親と盲導犬と)