鉄不足によって起こる症状は東洋医学(漢方)の観点からも、密接な関係性をもっています。ここでは、鉄不足による症状、症状改善に役立つ漢方など、ご紹介していきます。

鉄不足から起こる症状は、東洋医学(漢方)においても密接な関係があります。
気血水(きけつすい)と漢方
鉄欠乏の諸症状は、漢方医学でいう「血虚(けっきょ)」の症状に加えて、気の異常(気虚・気滞・気逆)の一部がみられることが多いです。
「血虚」の症状では
- 不眠
- 冷え性
- 肌のツヤがない
- 乾燥肌
- 血色が悪い
- 立ちくらみ
- 髪のツヤがない
- 脱毛
- めまい
- 動悸(どうき)
- 眼精疲労、かすみ目
- 爪が割れやすい
- 脚がつる
「気虚(ききょ)」の症状では
- 身体がだるい
- 気力がない
- 疲れやすい
- 食欲不振
- 風邪を引きやすい
「気滞(きたい)」の症状では
- 喉のつかえ感
- 抑うつ傾向
- 頭重感
「気逆(きぎゃく)」の症状では
- キレやすい(焦燥感)
などの症状があります。
鉄欠乏症の漢方薬
そのため、鉄欠乏の患者さんには、漢方薬では「血虚」+αで効く漢方を中心にして考えます。
漢方薬では、血虚の基本となる漢方薬では四物湯(しもつとう)があります。
四物湯は、当帰(とうき)、川きゅう(せんきゅう)、芍薬(しゃくやく)、地黄(じおう) の生薬から構成されています。
八珍湯(はっちんとう)=四物湯+四君子湯(しくんしとう)【血虚+気虚】
連珠飲(れんじゅいん)=四物湯+苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)【血虚+気逆】
鉄欠乏性貧血における漢方薬の報告は、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、加味帰脾湯(かみきひとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)などがあります。鉄剤に加えて漢方薬を併用することでより早く諸症状を緩和することが期待できます。
【例】
- 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
色白でなで肩のきゃしゃな女性によく使われます。血を補い、体の余分な水分を排出してくれ、体を温めてくれる作用があります。当帰(とうき)、川きゅう(せんきゅう)、芍薬(しゃくやく)、蒼朮(そうじゅつ)または白朮(びゃくじゅつ)、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)から構成されます。女性の聖薬ともいわれています。
- 六君子湯(りっくんしとう)
胃の働きを良くしてくれます。気虚の代表処方である四君子湯(しくんしとう)(蒼朮または白朮・茯苓・人参・大棗・生姜・甘草)に、二陳湯(にちんとう)(半夏・陳皮・茯苓・生姜・甘草)を合わせたものです。
鉄が足りない人ほど鉄剤が飲めない
鉄欠乏が重症な人ほど粘膜障害があるために、医療機関で処方される鉄剤により胃腸症状が出現し服用が困難になる傾向があります。鉄欠乏が重症な人は、ヘム鉄と漢方薬の併用をおすすめします。
胃酸で鉄の吸収率アップ
漢方薬で胃の働きを高めることで、胃酸の適切な分泌により吸収しやすい鉄に変えてくれます。
腸管などの微細な炎症は鉄の吸収を妨げる
腸管を漢方薬で整えて、鉄の吸収率や利用を高めることが期待できます。
鉄欠乏症において漢方薬が期待されること。
- 胃腸を整えて、鉄の吸収を助ける。
- 鉄剤における胃腸症状などの副作用の緩和。
- 「血虚」を中心とした漢方薬により鉄の代謝を助ける可能性。
漢方医学的な診察と血液検査の大切さ
漢方医学的な問診に加えて、脈診、舌診、腹診を行い、医師が漢方医学的な判断をします。体質に合わない漢方薬を飲むと、胃腸をこわしたり体のバランスが崩れて体調が悪くなることがあります。
また、定期的に血液検査をしてもらうことによって、「副作用が出ていないか」「今のつらい症状の原因が他にないか」等をチェックしてもらうことが大切です。きちんと診察してもらい、自分の体質にあった漢方薬を専門の医師と一緒に探していくことが「安全」で「近道」です。