健康と美容のために鉄は重要な栄養素。鉄分を補う栄養補助食品の活用は有効ですが、栄養補助食品や飲み物なら何でもよいというわけではありません。ポイント、注意点について解説します。

健康と美容のために、鉄分を意識している方は多いと思います。ここでは鉄を補う栄養補助食品について解説します。
実は医療機関の鉄剤よりサプリメントのヘム鉄がよい
医療機関などで保険診療に用いられる医療用医薬品における鉄剤とは「ヘム鉄」ではなく「非ヘム鉄」です。医療機関で処方される鉄剤が胃腸障害(胃部不快、下痢、便秘、腹痛など)により飲めない人も、ヘム鉄であれば飲むことができる方がいます。鉄は粘膜の代謝に関わっています。鉄が足りない人ほど、医療機関の鉄剤が飲めないかもしれません。
処方される経口鉄剤や非ヘム鉄のサプリメントは「タンパク質と結合していない鉄」です。
吸収率が悪く、5%以下ですので、服用するとすぐに便が真っ黒になります。吸収されなかった余分な鉄は腸で悪玉菌のエサになってしまう可能性があります。
鉄分が不足すると引き起こすトラブル
鉄分が不足すると、全身に酸素を送る働きがあるヘモグロビンが不足し、体内にある貯蔵鉄を代替えして使うことで、酸素を送ることに使ってしまうため、体内で鉄不足が起こり、貧血症状を招きます。
めまいや立ちくらみ、だるさなどの倦怠感や神経質になる、イライラするなど、精神的な面までさまざまなトラブルを引き起こしてしまいます。
鉄不足を解消するために、日常生活での食事やサプリメント、飲み物などに気を配りたいものですが、1日あたりの鉄分の必要摂取量は、性別や年齢、その他持病や健康状態によって異なるため個人差があります。肉や魚などの動物性食品を摂りつつ、野菜や大豆などの植物性食品もあわせて摂取し、バランスのよい食生活を送ることで、ヘム鉄、非ヘム鉄の両方をとることができます。
摂取量はどれくらいが目安?
摂取量のポイントは「便の色が黒くなるかならないか」の量が理想です。「タンパク質と結合している」(タンパク質に抱き込まれた形になっている)ヘム鉄のサプリメントは10~30%吸収され、副作用が少ないメリットがあります。
どれを飲んでよいかわからないなど、不安なことがあれば栄養に詳しいドクターに相談しましょう。また、効果が感じられない、飲んでから具合が悪くなった場合にもすみやかな受診が大切です。
栄養ドリンク(健康ドリンク)に注意
栄養ドリンクの中に、鉄分配合タイプがありますが、一見お手軽でよさそうですが、たくさんのカフェインや糖質、時にアルコールが入っていることがあります。慢性疲労の方には重度の副腎疲労や機能性低血糖症が併存している人も少なくないと思いますが、このような方にはおすすめできません。
依存性のある嗜好品であることも考慮すると、疲れるからといって安易に鉄の補給を、日々栄養ドリンクに頼るのはよくありません。基本は日々の食事から栄養を摂ることが大切です。ヘム鉄は赤身の魚や肉に多く含まれています。
他の食べ物・飲み物との組み合わせについて
タンニン酸には注意が必要
茶葉やワインなどの渋みはタンニン酸と呼ばれる成分で、「非ヘム鉄」の吸収を妨げるとされてきました。ただし、最近では体内の鉄が不足している状態においては、タンニン酸は鉄の吸収にほとんど影響を及ぼさないとされる報告もあり、制限する必要はないという見方もあるようです。気になる場合は、食事の前後30分~1時間間隔をあければ、タンニン酸の影響を低減することができると考えられています。あまり神経質になりすぎず、できる範囲で意識してみるとよいでしょう。
胃液の強酸でイオン化する
食品中に含まれる無機鉄は三価鉄で存在します。三価鉄は中性環境下ではイオンとして溶存できずに、不溶性の水酸化物などになってしまい、吸収されません。
胃内の強酸によって、イオン化された三価鉄Fe3+の状態で胃液中に溶け出すことができます。
そのため、食前に水分を摂りすぎて胃液が薄まったり、制酸剤の服用により胃酸を抑制しすぎることは控えた方がいいでしょう。また、ピロリ菌の保菌者は、ピロリ菌が出すアンモニアが酸をアルカリ化することがあるので、除菌を考慮してもよいかもしれません。
三価鉄を二価鉄に還元する
体内への取り込みは二価鉄だけなので、イオン化された三価鉄を二価鉄に還元する必要があります。
非ヘム鉄は、十二指腸から空腸の間の粘膜上皮細胞の表面で、還元酵素(Dcytb:duodenal cytochromeb)によって吸収しにくい三価鉄から吸収しやすい二価鉄に還元されたのち、専用の吸収口(DMT-1:divalent metal transporter1:二価金属のトランスポーター)から取り込まれます。腸粘膜上皮に三価鉄を二価鉄に還元する機能が一応備わっていますが十分ではありません。腸管内で二価鉄に還元しておくと、吸収率がかなり上がるので、それには還元作用のあるビタミンCを一緒にとることがおすすめです。
非ヘム鉄であっても、または、鉄の吸収を妨げるフィチン酸や食物線維などを摂取していても、ビタミンCと一緒に摂取することで吸収率を大幅に上げることができます。ビタミンCをサラダなどで補う他、サプリメントでの摂取も効率的です。
二価鉄は反応性が非常に高いため、吸収される前に他の物質と反応する可能性があります。そのため、有機酸や含硫アミノ酸を含むタンパク質などと抱合させる、あるいはクエン酸やリンゴ酸などにキレート化させることも有用です。キレート化とは、ある分子がカニのはさみのように金属イオンと強く結合し、安定な化合物を作ることです。結果として鉄の吸収を高めることになります。
ちなみに、含硫アミノ酸(側鎖に硫黄原子Sを含むアミノ酸で、メチオニン、システイン、シスチン、タウリンなど)は、イワシ、サンマ、アジなどの青魚や大豆、大豆製品、かつお節などに多く含まれています。
もし鉄欠乏性貧血になったら
もし鉄欠乏症とみられる症状が出たら、早めに医療機関に相談するようにしましょう。鉄欠乏症は、見逃されていることが多い病態です。適切な治療を受けるためにも体の異変に気がついたら、早めに医療機関で血液検査をしてもらい、自分の鉄に関する病態を専門の医師に解説してもらいましょう。