浅〇からだった。




私は躊躇わずに電話に出た。




トシは……




「終わった………」




と言わんばかりの、何とも言えない顔をしていた。




「もしもし?」




電話の向こうから、弾んだ声が聞こえる………。




「もしもし?トシの家内です。」




私が答えると、浅〇は驚いたのか、返答がない。




私は構わずに話を続けた。




「主人とどんなご関係ですか?

 人の亭主寝取って…どういうつもりですか?」




「私……寝取ってなんて………

それに、結婚してるなんて知らないですよ!」




「はい?朝まで一緒にいたら、誰に話してもそんなの信じないデスヨ?

 それに相手が結婚してるかどうか、同じ職場にいたらわかるんじゃないですか?

 指輪してましたよね?」




「………気が付きませんでした………」




「指輪に気がついても気がつかなくても
 30過ぎた男が独身かどうか、よく確かめなかったあなたにも非はありますよね?」




「そんな………私……被害者です!!」




「被害者は私と子供達だと思いますけど!?

 よく平気で私にそんなこと言えますね?

 申し訳ありませんの一言もないんですか?」




「………………」




「主人と直接話します?」




「そうさせてください。」




「じゃあ代わりますね。」




トシは、私が浅〇と話しているのを、




私の前で正座をして、俯いて聞いていた。




「代わってだって。

 私の前でちゃんと話してよ。」




そう言って携帯をトシに渡すと……………




切った!!!




「なんで切るの?

 ちゃんと話せばいいじゃない!」




「話す事なんて…………ないよ…………」




トシは憔悴した顔をしていた。




「ごめんなさい………」




トシは土下座した。




「彼女に……結婚してるって…言ってなかったんだ………?」




「……………」




「それじゃあ、私が電話したら確かにみっともないよね?

 トシが!!」




「……………」




「そんな事してまで、私以外の女といたかったんだ…………」




「………………」




「彼女、いくつなの?」




「26………」




「かわいそうだよ。こんなの………」




私はいつのまにか、浮気相手の女に同情していた………。




自分でもよくわからない………。




なんでこんな言葉が出るのか…………。




でも……同情はしても憎しみの方が強い……。




トシと彼女を憎む気持ちは、自分でも、どうやって抑えたらいいのか……わからない………。




「本当にごめんなさい。」




トシは再び深く頭を下げた………。




でも…………




今の私には…………




許す………とも




許さない………とも




答えを出すことは………できなかった……。
「嘘じゃん………全部嘘だったんじゃん………」




口を開いた途端、涙が出てしまった………。




泣かないで話そうと思えば思うほど、涙がこぼれる………。




「携帯……貸して……」




トシが携帯をテーブルの上に置いた。




私は浅〇のアドレスを開き、携帯をトシの方へ向けた。




「浅〇って誰………?」




「派遣で来てる子だよ……」




「トシは、私を裏切ってたんだね………

 いつからなの………?」



まるで答えを準備していたかのように、落ち着いた様子でトシが答える。




「あの日だけだよ」




(……あの日だけ…?…嘘だ……まだ嘘つくんだ………)




淡々と嘘を言えてしまう今のトシでは、何を話してもごまかされる。




私は何とかして、トシの本心を聞きたかった。




「…………まだ嘘つくの?そんなワケないでしよ?

ラーメン博物館がどうとかってメールきてたじゃない……」




「だから……断ったよ」




「でも、そういう約束をするくらいの期間の付き合いがあるんでしょ……?」




「そんなんじゃないって」



トシはのらりくらりと、私の質問をかわす……。




私の感情がだんだんと高ぶっていく……。




「連れてきて………今すぐ!ここに浅〇って女、連れてきてよ!!!」




「どこに住んでるか知らないから無理だよ」




「知らないワケないでしょ!!どこに住んでるかも分からない女と一晩中一緒にいたって言うの!?

 ふざけたこと言わないで!!」




「知らないモノは知らないよ。」




顔色一つ変えずに答えるトシに腹が立つ。




そのトシの陰に、浅〇の影がちらついて、私は冷静さを保っていられない。




「じゃあ直接話す!!」




私はトシの携帯から浅〇に電話をかけた。




その途端、トシの顔色が変わった………。




向かい合って座っていた私に近づき、焦った表情で携帯を取り上げようとする。




私はそれをかわして発信ボタンを押す……。




「やめろって!!」




「やめない!!この女とトシで、私の前でちゃんと説明しなさいよ!!!」




その間にも、携帯のコールは鳴っているが……出ない。




「もうやめろよ!!」




トシはどうしても浅〇に話されたくないのか、

今までに見せたことがない程必死な顔をして、

私から携帯を取り上げようとする。




私も取られまいと携帯を握りしめる。




「なんでこの女を守ろうとすんの!!

 トシが守らなくちゃいけないのは私達家族でしょ!!」




私はかなりヒステリックになって怒鳴っていた。




だって、許せない。




私を裏切ったトシも……。




今、トシに守られている浅〇も………。





その浅〇は……まだ電話にデナイ……




結局、留守電になってしまった……。




私が電話をきると、




トシはホッとした表情を見せた。




私はそんなトシを睨みつけた。




「この女だけ何も知らないでのうのうと生活するなんて………

 絶対許さないから!!」




再び発信ボタンを押そうとすると




「みっともないからやめろ!!」




と、トシが声を荒げる。




「みっともないことしてるのはどっちよ!!」




私がそう言った時




私の手の中で………




トシの携帯がブルった……。
トシの浮気を見つけるまでの三日間、



(…………やっぱり………………浮気だよね……………)


(違うかな…………?考えすぎ……………?)



(ううん………女だよな…………あの時、ピンときたし……………)



(でも………違ってたら……………?)



(……だけど、あの日のトシは………明らかにいつも違ったよ……………)



私は私の中の、トシを信じようとする思いと、トシを疑う思いに、板挟みにされていた……………。



トシの浮気はほぼ確実だとわかっていながら、



(トシが私を裏切るわけない)



と思いたい自分がいた。



この三日間、私への愛情を確かめたくて、でも、口では言えなくて、毎日仕事中にトシにメールを送った。



「トシは、あの日私がどんな思いで、朝を迎えたのかわかる?」



「トシはまだ、私に愛情がある?」



「トシは私に謝ってくれたけど、毎日毎日、不安だよ……」



その度に、トシは



「遥は俺にとって、一番大切な人で愛してます」



「もう悲しませるようなことはしません」



「本当にごめん」



と返事をくれた…………。



だけどなぜか、どの文面も私の心には、トシの心からの言葉とは思えず、何も響いてこなかった……………。



私はそんなことを思い出しながら、トシに、何から話したらいいのかを考えていた………。



でも、ひどく動揺していたせいか、考えはまとまらなかった………。



とりあえず、子供達が寝た後、頭と心の中がグシャグシャなまま、私はトシを座らせた…………。