手紙「私がどんな思いで、この数日を過ごしてきたのか、トシにはわかるかな……

 それに……トシは、まだ私に愛情がある?

 昨日のトシからは、何も伝わって来なかったよ……」




今の自分の思いをそのまま、文字にした………。




送信ボタンを押し、私は職場に向かった。




パートの私は、正織員のみんなより30分遅れての出勤。




病棟につくと、みんなはすでに忙しく動き回っている。




「おはよーございまーす」




挨拶をし、昨夜の病棟の様子の情報収拾を済ませて



みんなに続いて患者さんの朝のケアに入る。




リハビリ病棟のため、患者さん達はみんな比較的元気ニコニコ




病室に入ると




「遥さん、おはようパー




と、声をかけてくれる。




スタッフも明るい。




「あ~、遥さんおはよー。今日はね~………」




と、昨日までと何も変わらず仕事の話が始まる。




正直………今日は休んでしまいたかった………




とても仕事になんてならない………そう思ってた……




だけど、休まなくて良かった。




何も知らないみんなは、何の変わりもなく接してくれる。




そのことが、嬉しかった。




(人って温かい)




そう感じた。




仕事をしている時間は、トシのことを少し忘れていられた。




私は出来るだけ、昨日の私と変わらないように振る舞った。




患者さんやスタッフと話をして笑った。




ふとした瞬間に、涙が込み上げてきても、堪えることができた。




13時になり、私は家路についた。




すると、帰りの車の中で…………




涙が………




自分の意思とは無関係に溢れてきて………止まらない………




ついさっきまで、みんなと笑ってたのに………




一人になった途端、涙が止まらない………




家に着いても、涙は止まらなかった………




食事をする気も起きず、ただひたすら泣いた………(ノ_・。)




すると、携帯にメールが。



トシから、私が朝送ったメールへの返事だった………




手紙「今までも、これからも遥は俺にとってそばにいて必要な存在で愛してます。


 ただ今は何を言っても嘘に聞こえると思うから……


 全ては俺の責任だけど、やり直してもらえないかな」




(やり直す……?)




目の前の現実さえ受け入れられずにいる私にとって、トシのその言葉は、とてつもなく軽率に感じられた。




(トシにとって、今回のことって何なんだろう……)




私は




手紙「今、その答えを出せないよ。気持ちの整理がつかない。


 トシは昨日、「それでも遥を愛してる」って言わなかった。


 「遥が一番なんだ」って言ってくれなかった。


 今のトシからは何も伝わってこないよ……」




と送った。




数分後、トシから返信があった。




手紙「ごめんダウン


 俺には遥だけだから………心から愛してますドキドキ




(はっ?絵文字?こんなときに?)




私はトシの神経を疑った。




メールは相手の表情がわからない。だからこそみんな、絵文字を使って、少しでも自分の思いを上手く伝えようとする。




でも、反対に絵文字を使うことで、真剣な表現が軽くなってしまうこともある。




今の私とトシは、後者の方だ。




私は益々、トシが自分のしたことをどう思っているのか、解らなくなってしまった……。
結局一睡もデキズ……




私はいつもより早めに身支度を始めた。




洗面所に行き、顔を洗って鏡を見ると、




酷い顔………




瞼は腫れ、頬も熱を持って赤くなってる………




明らかに「昨日泣きました」って顔………




(今日仕事なのに……)




腫れた顔を隠すように化粧をする………




だけど………




また涙が出そうになる………




堪えるのがやっとだ………




身支度を終えると、子供達が起きてきた。




「ママ、おっはよーニコニコ




今日も元気だ。




救われる………




子供達の顔を見て、私は自分に誓った。




(何があっても、この子達の前では笑っていよう




「着替えたらご飯ねニコニコ




「はーい(^o^)/」




元気な返事が返ってくる。




子供達が支度を終え、一緒に食卓につく。




「いっただま~すニコニコ




………が




あれ…………?




ああ…………食べられない………




パンをちぎって口に運んでも、喉を通ってイカナイ………




結菜が




「ママ………まだ具合悪いの?」




と聞いてきた。




「う~ん、そうみたい……。食べられそうにないなぁ。ごめんねニコニコ




私はそう言って席を立った。




そして…………




トシを起こさなければナラナイ…………




(どんな顔して起こしたらいいんだろう……)




私は重い気持ちで寝室に入った。




ベッドでは、彩花とトシがスヤスヤ眠っている。




その姿を見て、また涙が出てくる………




(トシ………なんで?………どうして……)




私はトシの近くに行くことが出来ず、部屋の入り口から声をかけた。




「トシ、起きて」




「ん~…起きる……」




トシはいつもと変わらない……。




いつもと同じように支度をする。




いつもと同じように、私が運転する車で駅に着く。




ただ………




いつもの「行ってきます」のKissは………




トシはしようとしても………




私は、受け入れることができなかった………




トシが車を降りて、改札に向かう………




その後ろ姿を見ると、どうしようもなく淋しくて………




(あの隣に、私じゃない人が並んで歩いたんだ……)



そんなことを思った………




家に戻る車の中で一人、声を上げて泣いた………




そう………淋しくて………




トシが、私以外の女の人のことを考えている………




私のいないところで、私以外の女の人と幸せを感じている………




家を出た後は、私達家族のことなんて……きっと……忘れてる……




言いようのない淋しさが、後から後から込み上げて、涙が溢れてくる……




家の駐車場に車を入れ、




(あの子達の前では笑うんだ




また自分に誓って家に戻った。




結菜と海斗は時間になると




「行ってきま~す




と、元気に家を出ていった。




私も彩花を連れて、職場へ向かう。




彩花を保育園に預け、職場に着く。




ロッカールームで着替えを済ませると、私はトシにメールをした。




離れていても、私の存在を忘れてほしくなかった……




私のことを考えていてほしかった………




それに、トシに聞きたいことがあった………。
私は………何も言えずに………




寝室にいき、ベッドに入った………




静かな寝息をたてている彩花の、小さな身体に手をまわすと




涙が溢れてきた………




止まらない………




一人、声を殺して泣いていると




トシが寝室に入ってきた………




そしてベッドに横になる………




私も、トシも、無言のまま…………




しばらくすると………




トシは…………




いびきをかき始め………




眠ったようだった………




(こんな夜でも……この人は眠れるんだ……)




そんなトシに強い憤りを感じ………




浮気相手と直接話したことで、トシの浮気は変えようのない事実になり………




体の奥から、怒りとも悲しみとも言えない感情が込み上げ…………




全身の震えは増し………




眠れない………




私は、静かにベッドから体を起こし寝室を出た……




ベランダに出て、タバコに火をつける………




暗く、静かなベランダでまた、涙が頬をつたう……




悲しみ?怒り?淋しさ?絶望感?憎しみ?失望?………




色んな感情が全てゴチャゴチャになって、込み上げてくる……




「ハァーーーーー」




無気力に似たようなため息をして、寝室に戻る……




再びベッドに入ったけど………




トシが熟睡している……それだけで、私の中の怒りの部分が加熱し、眠れない………




そして………また………




涙が溢れてくる…………




再び、ベッドから体を起こし、寝室を出る………




ベランダで、タバコを吸う………




涙は止まらない…………




何が辛くて何が悲しくて泣いているのか…………




自分でもわからない………




気持ちの整理のつけようがない………




涙は、流そうとしなくても、後から後から溢れてきて、止まらない………




しばらく………涙を出てくるままにしておくと……




いつの間にか私は、放心状態になっていた………




私の視線は、暗闇の中の一点に定まっているのかいないのか………




何も考えられないでいた…………




だけど、ふと我に返ると、また泣けてくる………




私は、寝室とベランダを行ったり来たり………




そんな事を繰り返していた………




気がつくと、夜が明けはじめていた……………