世界中の誰よりも信じていたトシ………




世界中の誰よりも私を大事にしてくれたトシ………




もうあの頃のトシに会えないの?




あの頃と同じ気持ちで手を繋げないの?




こんなにもトシに傍に居てほしいのに………




トシがそう感じる相手は、もう私じゃないのかな………




朝の駅までの道。




トシはすぐ隣に乗っているのに、遠く感じる………




駅に着き車を降りたトシは、私の知らない世界へ向かうようで………




改札に向かうトシの背中が遠くて遠くて………




涙で滲む………




トシは何処へ向かうんだろう………




私は………?子供達は………?




ここから前に進める日が、いつか来るんだろうか………




その時、トシは私達の傍にいるんだろうか………




私の取るべき道は……?




今はまだ見えない………




そんな重~い気持ちで今日も出勤………




(仕事できる気分じゃないよ………休んじゃおっかな……)




(でも………一人でいたくない………)




(そーだよ!こういう時ほど、人と関わったほうがいい!)




頭を切り替えた。




しかし出勤早々に、病棟で1番仲の良いYちゃんが




「遥ちゃん、何かあった?」




そんな言葉をかけてきた。




「えっ!なんで……?」




「ん、なんか寂しそうな顔してるから……。気になって……。」




さすが看護師さん……




観察力が鋭い。




「実はね………」




私は今の状況を手短に話した。




話しているうちに張り詰めていたモノが緩んで、




ポロポロと泣けてきた………




「仕事中に………ゴメン……」




私が謝ると




「そんな状況なのに、ちゃんと笑顔で仕事してる遥ちゃんは凄いと思うよ!
 だけど無理しないで。
 辛いでしょ………?遥ちゃん旦那さんのこと大好きだから………」




Yちゃんのこの言葉………




嬉しかった………




(わかってくれる人がいた)




私の想いを理解してくれる人がいる。




トシには多分、伝わっていないであろう想いを、わかってくれる人がいた……




押し潰されそうだった気持ちが、少し楽になった気がした。
奥さんにばれても二人の関係は続き………



そんな母に対する嫌悪感は、次第に強くなっていった………



私は家に寄り付かなくなり、



たまに母と顔を合わせても、口をきかなかった……



そんな日々を送りながら高校に入り、



今だに関係が続いている二人への嫌悪感は、かなり強いモノになっていた……



(高校卒業したら家、出よう)



そう考えていたけど………



それより前に、



母が出ていった………



不倫相手と共に失踪した………



私は………



父にも母にも、捨てられた………



私………寂しかったんだと思う………



その寂しさを「男」で埋めていた………



傍にいてくれるなら、誰でも良かった……



そんな私を見兼ねた伯母が、私の面倒を見てくれた。



その伯母も、高校卒業と共に他界………



高校の先生のお陰で、何とか看護学校に入れたものの、



私は一人になりたくなくて、



その当時付き合っていた人と結婚した。



だけど、ギャンブル・借金・浮気………



結婚生活は半年で終わった………



もう、何を信じたらいいのかわからなかった………



(信じられるのは自分だけ)



自分にそう言い聞かせた。



看護師の資格を取得し、就職して間もない頃、トシと出会った。



トシは、今まで出会った人とは違っていた。



私はトシから色んな事を教えてもらった。



人に大事にされる喜び。



自分に正直でいる事の大切さ。



辛い時は人に頼ってもいいこと。



甘えてもいいんだってこと。



「自分を大事にする」という事の本当の意味を……



(この人を失いたくない)と思った。



初めて、自分の全てをさらけ出せる相手に出会った。



初めて心から信じられる人に出会った。



一緒にいるだけで、心が暖かくなれた。



トシとなら、お互いがおじいちゃん、おばあちゃんになっても



手を繋いで歩いていける。



そう思えた相手。



トシのことが大好きだった。




ーーーーーーーーーーーー



(なのに……なんでこんな事になったの………?)




信頼が強かった分、




裏切られたショックが大きい………




(もう、あの頃と同じ気持ちでトシを想えないんだ………)




そのことに気付いた頃、空は明るくなりはじめてた………
お風呂から出たトシは、




「俺、寝るね」




と、さっさと寝室へ。




まるで、逃げるように……




その後子供達も就寝……




私は…………




今夜も眠れずに、ベランダに出てタバコに火をつけた。




そして、色んな事を思い出していた………




∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

私は母子家庭で育った。



父は女を作って出て行った……。



慰謝料も養育費もなし。



当時三歳だった私と母は、捨てられたも同然だった。



私には母しかいなかった。



母にも私しかいなかった。



母の友人や親戚は、私の顔を見る度に



「遥ちゃんがお母さんを支えてあげるのよ」



「遥ちゃんがお母さんを助けてあげなきゃダメよ」



そう言った。



私は母が大好きだったから、幼心に



(お母さんを助けてあげるんだ)



(お母さんには遥がいなきゃダメなんだ)



そう思っていた。



だけど……



母に恋人ができた。



私が小1の頃、母が家に男の人を連れてきた。



その人は私の事もすごく可愛がってくれて、



(遥のパパになるのかなドキドキ



なんて思っていた。



でも………



私が中学生の時、異変が起き始めた………



突然、無言電話が一日に何度もかかってくるようになり、



母の車のサイドミラーが割られたり、



玄関のドアに、蹴ったような靴跡がついていたり……



家の窓ガラスが割られたり………



そんな事が頻繁に起こるようになった。



…………そう………



母の恋人は………



妻子持ち…………。



母は不倫をしていた………。



様々な異変は全て、母の不倫相手の奥さんによるモノだった……。



母が不倫だなんて……



信じたくなかった………



夫に裏切られる辛さを、誰よりも身を持って知っているはずの母が………



何で………?



しかし、私のそんな思いなんて母は知るはずもなく………



母の中は不倫相手でいっぱいだった。



奥さんにばれたせいか、母の不倫相手は以前程頻繁に家に来なくなった。



不倫相手に会えない日の母は、生気のない人形だった。



そして、不倫相手が家にきた日には、



それまでの淋しさを埋めるかのように愛し合う………



私の存在なんてお構いなしだった………