2日め 黒岳 北海岳・旭岳縦走
歩程約10キロメートル
2005年平成17年7月19日。
1日めの宿は層雲峡の立派な温泉ホテル。
男4人は相部屋。70歳、66歳、64歳、62歳。
私は最年少。
ほかの3人は日本アルプスなど経験豊かな方々のようだった。
8時頃、皆就寝。朝食は6時。7時に温泉ホテルを出発。
歩いて数分の黒岳ロープウェイ層雲峡駅標高670メートルに向かう。
5合目。黒岳駅は標高1300メートル。
黒岳ペアリフトで標高1520メートル。
リフトの下や7号め付近にはウコンウツギ、ヨツバシオガマ、エゾツツジ、チングルマ、クロユリ、ミヤマキンポウゲ、チシマノキンバイソウ、エゾコザクラ、エゾゼンテイカ、コマクサ、ウルップソウなどが咲いている。
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8時間かけて旭岳温泉まで縦走する。
表大雪の大雪銀座と言われている。
安全を考慮してか、威丈夫なセカンドガイドも加わった。
高山植物に詳しい方だった。ストレッチや人員確認をする。
8時過ぎ、樹林帯の登山道を歩き始める。
樹木や高山植物の垂直分布がよくわかる。
マイヅルソウ、ヒョウタンボク、モミジカラマツ、カラマツソウ、サンカヨウ、ハクサンボウフウ、トカチフウロが咲いている。葉よりも高く上に白い花を咲かせるウラジロナナカマド。
葉裏は白い。
葉と同じ高さで横に伸びて花を咲かせるタカネナナカマド。
どちらも白い花を咲かせている。
秋になると赤い実が北国をいろどる。
10月に旭川空港に降り立ったことがある。
空港から旭川市内までナナカマドの街路樹が続いていた。
目に鮮やかなナナカマドの赤い実には郷愁を誘われる。
8時50分、8合めで小休止をした。
キバナノコマノツメ、ミヤマキンポウゲ、ミヤマキンバイ、チシマノキンバイソウ。
黄色鮮やかな高山植物が咲いていた。
紫色で可憐なエゾヒメクワガタ。
赤みがかったヨツバシオガマ。
ハクサンチドリ。
白い花のツマトリソウ。
ミツバオウレン。
ハクサンイチゲ。
稜線の登山道脇にクロユリが咲いていた。
ミネズオウ、コケモモ、クロスゲ、ウスユキトウヒレンも咲いていた。
黒岳1984メートルに9時50分に登頂。
時折小雨がパラついたり雲の中を歩いたり視界が明るくなったりの登山。
黒岳は花の山だった。
時折、青空が顔をのぞかせ視界が開けた。
右には桂月岳1938メートル。
凌雲岳2125メートル。
左に烏帽子岳2072メートル。
どの山にも雪渓があり、壮麗な景観が広がっている。
黒岳山頂にとどまったのは7分。
登山道を進むと盆地状の広々としたカムイミンタラが見えてきた。
本州の尾瀬や九州の坊がつるを連想した。
セカンドガイドに尋ねると雲の平ということだった。
山岳地図で確かめると左方面北海沢。
正面は御鉢平。
右方面は雲の平。
周囲に北海岳・間宮岳・中岳・北鎮岳・黒岳。
秀麗な白と緑の世界が広がっている。
遙か下に赤い屋根が見下ろせた。
黒岳石室である。
なだらかな花の細道を降りていく。
赤石川の雪渓を渡る。
黒岳石室に10時20分に到着。
お花畑が広がっている。
赤い花は、エゾツツジ、エゾコザクラ、エゾノツガザクラ、コマクサ。
白い花は、イソツツジ、ヒメイソツツジ、チングルマ、ハクサンイチゲ、アオノツガザクラ。
黄色はチシマキンレイカ、別名タカネオミナエシ。
キバナシャクナゲも群生している。
紫色はイワブクロ。
休憩は20分。
手早く昼食をとり、撮影の時間を少しでも長くした。
数年前まで写真は撮っていなかった。
大雪山に来る前から祈っていた。
ずっと前に乗鞍岳で見たキバナシャクナゲが咲いていますように。
秋田駒が岳阿弥陀池付近で見たエゾツツジが咲いていますように。
裏磐梯浄土平湿原に咲いていたイソツツジが咲いていますように。
エゾコザクラやコマクサが咲いていますように。
昨日の駒草平。
そして今日。
眼前の黒岳石室付近のお花畑。
期待をはるかに超える高山植物が全部咲いている。
想像していたよりもはるかにスケールが大きい。
花もみずみずしい。
花の種類も多い。
しかも今は休息の自由な時間。
撮影をしていても、一行の山旅に迷惑をかけない。
まさしくここは神々の遊ぶ庭。
生きていてよかった。
来てみてよかった。
日本の四季は、なんとすばらしいのだろうか。
10時40分、黒岳石室を出発。
前後していた30人のツァー一行は、右方向、北鎮岳・中岳方面のコースをとった。
私たちは、北海岳を目指して左方向に進む。
北の大地。雪山の奥深く、花の細道が続く。
なんと白い花のイワブクロが咲いていた。
紫色のイワブクロの花は、3日間大雪山中の多くの場所に咲いていた。
美しかった。
なのに、今、目の前の1株は真っ白である。
胸がときめいた。
昨日のキバナシオガマと合わせて、予期せぬ貴重な高山植物。
どきどきしながら撮影した。
ガスが立ちこめている。
小雨も降っている。
果たして写っているだろうか。
とにかく撮影できた幸福感に満たされながら一行に追いついた。
メアカンキンバイやイワウメが咲いている。
ミネズオウ、コメバノツガザクラ、イワヒゲも咲いている。
予想以上の高山植物や大雪の峰々に心洗われ、それほどの疲れは感じない。
北海岳への登りにかかった頃、雨が強くなってきた。
頬に当たる雨粒は雪か氷のようだ。
視界も狭まる。
色とりどりの防寒着と防寒手袋。
皆寡黙になった。
これから北海岳を越え、さらに北海道の最高峰旭岳を越えて行くのだ。
山岳ガイドの足取りもゆっくりから普通の速さに戻っている。
一行は黙々と進む。
私も撮影を中止した。
前進にのみ注意を注いだ。
稜線の砂礫地にタカネスミレが咲いている。
やがてタカネスミレの群落となった。
気高く美しい。
みぞれのような風雨は強まり、稜線から吹き飛ばされないように集中しなければならなかった。
撮りたいという衝動に駆られたが、さすがに写真撮影はできなかった。
11時15分、雪渓の途中で小休止し、人員を確認した。
11時20分、体が冷えないうちに出発する。
12時20分、北海岳2149メートル山頂に到着した。
私よりも高齢者が多い。
19人の女性は元気だ。
特段に遅れる人もいない。
22人のツァー一行の体力や経験を洞察し、山の天候を考慮しながら、
2人の山岳ガイドと若い女性のツァーガイドは、様々な配慮をしているのだろうと感謝した。
北海岳を12時40分に出発。
稜線を歩く。
風衝地の細道が続く。
色鮮やかな高山植物は少なくなった。
砂礫地や岩場にミネズオウ、イワウメ、イワヒゲ、ジムカデ、クモマユキノシタ、チシマクモマグサ、エゾタカネツメクサなどがときおり見られた。
地をはうような高山植物である。
1時20分、間宮岳2185メートル山頂に着く。
3分だけの小休止で旭岳山頂に向かう。
風の強い稜線。
緊張感が高まってくる。
目の前に大雪渓が現れた。
長さは白馬の大雪渓と同じくらいの印象だ。
幅はなん倍も広い。
傾斜はそれほどでなく、落石やクレバスなどの危険は無さそうだった。
雨は止みかけていた。
山岳ガイドに勧められ、一行は大雪渓の上で記念写真を撮った。
小休止のあと大雪渓を登り始める。
セカンドガイドに大雪渓の名前を聞くと、
「裏旭の大雪渓とでも言うほかはないなあ。」とのことだった。
今日も10を越える大小の雪渓を越えてきた。
7月19日の日本に、こんなに大きな雪渓が幾つもあるとは驚きだった。
雪渓は谷とか渓流とか湿原とか北斜面とかの窪地に残りやすい。
8月末にはかなりの雪渓が融けて、高山植物が咲くという。
雪渓が融けるとその分、下りて、また登ることになる。
むき出しになった岩場は雪よりもひざへの衝撃が強くなる。
雪渓を下り、雪渓を渡り、雪渓を登るのは、足腰に優しい一面を持っている。
私はむしろこの雪渓の登りを1歩1歩楽しんだ。
大雪渓を登り終えると、植物はほとんど見かけられなくなった。
わずかに岩タデくらいである。
冷たい雨が強くなってきた。
風も強く吹きつけてくる。
荒々しい岩場の稜線が続く。
勾配もきつい。
真冬の嵐のようになった。
2時50分、旭岳山頂2090メートルに到達。
風雨の中の記念写真。
5分後に下山を開始。
急な岩場の稜線を下山し続ける。
1時間ほど真剣に下山し続けた。
風雨は弱まってきた。
4時に姿見の池に到着。
振り返ると、旭岳山頂は地獄谷の噴煙の彼方であった。
ここから旭岳ロープウェイ姿見駅標高1600メートルまで700メートル。約20分。
整備された平坦に近い花の細道。
エゾコザクラやツガザクラが咲いていた。
4時30分、一行25人は、旭岳ロープウェイ山麓駅標高1100メートルに到着。
白雲橋の近く。歩いて数分の宿。
4時50分に着く。
セカンドガイドとはここで別れた。
「白雲荘」の旭岳温泉は格別だった。
心満ち足りて9時頃就寝した。