Dead or Alive(2) ―新・ゾンビサバイバル 228~237日目― | 小若菜隆の文章工房

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殺し屋っぽい一般民、小若菜隆です。
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何卒宜しゅうお頼申します(●▽●)ノ♪

前回の内容はこちら↓を参照
2017-04-01
Dead or Alive(2) ―新・ゾンビサバイバル 228~237日目―
http://ameblo.jp/h-m-taka5723/entry-12261735278.html


酉の刻・六つ(午後5時)。
私と猫または川嶋に連れられ。
南都奉行所へ。
客間的な部屋の上座へ通され。
川嶋が中心、私は左が座り待つこと暫し。
「御免」
障子越しに声。
「どうぞ」
川嶋が返答。
「失礼仕る」
声とともに障子が開き、数人の男性たちが入ってきた。
武士4人、町人2人。
全員、60代から80代といったところ。
最後に入ってきた町人が障子を閉じた。
「ニャむ?」
定位置である私の左肩に乗っている猫またが小首を傾げる。
「ん? どした?」
私、小声で耳打ち。
「ニャむ……ニャんでもニャいニャ。後でニャ」
猫また、小さく顔を左右に振った。
そんなやりとりを気にする風もなく。
入ってきた6人が私たちの前に座る。
座り位置は2列。
前方中央には、よく時代劇で見かける代官風の着物を着た男。
その左隣には、即座に戦える武士らしい出で立ち。
簡素ながらも生地は良さげな着物を召している。
1列目右と2列目左には与力らしき男が座り、2列目中央と右側には町人風な男性が座した。
全員、座ると同時に深く頭を下げる。
「お待たせして失礼を致した、川嶋殿」
中央の男が詫びる。
「いえいえ、こちらこそ何度も申し訳ありません」
川嶋もお辞儀。
「遅れて到着しました主要戦闘員にも詳しいお話をして頂きたいと考えまして、ご無理を申しました」
「なんの、我らが言葉があやつらを倒すのに役立つのであれば、何度でもお話仕る」
代官風の男が顔を上げた。
それを合図に、他の男たちも面を上げる。
私は口を開いた。
「私は小若菜隆三等陸曹。川嶋の部下です。肩に乗っているコイツは猫また陸士長。猫みたいに見えるが、れっきとした妖怪・猫また。人語を介せる」
「宜しくお願いしますニャ」
「お話は聞いております」
前列左の武士が笑顔で返答。
「それに致しましても、我々が考えていた猫またとは随分と違いますなぁ」
後列左、町人風で好々爺な印象を受ける男性が身を乗り出しつつ猫またを見た。
「ニャむ?」
猫またが小首を傾げる。
「いえ、先ほど三輪さんと話していたんですよ」
後列中央の町人、こちらも80代らしき年配の男性が相好を崩した。
「猫またと言うからには、きっと虎のような牙で獅子のような爪を出しているに違いないと。それがまさか、このように長毛で愛らしい猫とは」
猫好きなのか、目を細める
「ニャははは♪ ありがとニャす♪」
猫またが嬉しそうに猫じゃ猫じゃのポーズ。
「もっとも、戦いとなれば虎のような牙と獅子のような爪で相手を斬り裂くが……そんなことより、皆さんのお名前をまだ聞いておりません」
「おぉ、そうであった。これは御無礼を」
私の言葉に前列中央の男が返答。
「拙者、南都代官の鳥居と申す。こちらは南都奉行の釈」
前列左の男が小さく頭を下げた。
「そしてこちらは南都奉行所筆頭与力の神崎」
前列左、ややハーフっぽい男が小さくお辞儀。
「後列左におりますのは、同じく南都奉行所の支配役を務めております寺本」
こちらもハーフっぽいが、神崎よりもガタイが良い。
「後列中央におりますのが南都町年寄の春日屋、右におりますのが南都近隣の農民たちを監督しております庄屋の三輪でございます」
町人風のふたりが同時に頭を下げた。
「わかりました。それで川嶋さん」
私は隣に座る川嶋へと顔を向けた。
「これほどのオールスターキャストを揃えて、何の説明を?」
「あぁ。黒幕たちが南都を急襲した時の話だ」
「南都を急襲した時の話?」
「川嶋殿、私(わたくし)からご説明を」
釈が口を開いた。
「小若菜殿も猫また殿もご存じとは思いまするが、南都は北都同様、腐肉人たちの攻撃を免れ、人が暮らしております生き残りの都。また、戦闘激しくなり、北都から逃げてきた者も住む町でございます」
「多くの者は既に皆様の世界へ逃げておりますが、それでも南都に残る者も少なからずおりました」
釈の言葉に、神崎が補足説明。
「あぁ、私が助けた者もいる。口中入れ歯師の権蔵とゆみもこっちに来ていたはずだ」
「その者たちであれば我らとともに戦い、生き残っております。また、小若菜殿に屋敷を譲られた細川介茂守近備様も年若いながら腐肉人相手に奮戦、ご無事でございます」
今度は寺本が返答。
「それはよかった。で、いつ頃から黒幕たちの攻撃は始まったんだ?」
私、寺本に答えつつ軽く頷き。
顔を釈へ向けて続きを促す。
「腐肉人どもが最初に攻撃をしかけてきたのは2週間ほど前。大した数ではなく、北都にいる敵方の隊からはぐれてきた者たちかと思ったのですが、その後、少数ではありますが連日のように腐肉人たちが襲ってくるようになりました」
「こちらも応戦致しましたが、何ぶんにも陣容手薄。安城京跡にまで気が回りませんでした」
今回も釈の説明に神崎が補足。
「それで、黒幕たちに安城京跡を乗っ取られた」
「面目次第もございません」
私の言葉に鳥居が頭を下げる。
「なに、過ぎたことをどうこう言うつもりはない。こちらの落ち度でもある」
人数は少ないが自衛官も派遣していた。
守り切れなかった責任は、私たちにもある。
「恐れ入ります。ただ、問題はここからでして……」
釈の眉間に皺が寄る。
「あ奴らが安城京跡を占拠した後、腐肉人の攻撃が地上からだけではなく、地下からも来るようになり申した」
「地下から?」
「左様。安城京跡から地下坑道を作り、南都の町や周辺の村々へと攻撃をしかけだしたのじゃ」
私の言葉を受け、鳥居が返答。
「地上だけであれば対応しきれまするが、地下からとなると、まさに神出鬼没。腐肉人と対峙している背後に穴が開き腐肉人が出現して挟み撃ちにされる、といったこともございました」
寺本がゆっくりと首を振りながら口を挟んだ。
次いで、奈良屋が発言。
「我ら庶民の家も、軒下から腐肉人が現れ、家人を殺されたり、さらわれたり致しました。食糧を奪われた者もおります」
「農民たちの家の下や田畑(でんぱた)からも腐肉人が現れ、同じように人や食糧が盗まれました」
庄屋の三輪も悲しげな顔つきで続いた。
「つまり、黒幕たちは地下作戦に打って出て、新たなゾンビを作り出すための人員や必要な食糧を奪って行った、というわけか」
「ニャんて卑劣ニャ。非戦闘員に手を出すニャんて」
猫また、怒気の籠った声。
「担当自衛官からも同じ報告を受けている。ちなみに、攻めてきたゾンビは侍ゾンビがほとんどで、軍人ゾンビは皆無に近かったそうだ」
川嶋が補足説明。
「なるほど。敵さんから見れば相手は武士か庶民。我々と戦う時に主戦戦闘員となる軍人ゾンビは使わず、侍ゾンビに戦わせたわけか」
「それもある」
私の言葉に川嶋が返答。
「それも?」
私、川嶋の言葉尻に引っかかる。
「あぁ。侍ゾンビでも、飛び道具を持たない武士や刀すら扱えない庶民相手であれば充分に戦える。もし万が一やられても、軍人ゾンビより痛手は少ない。K国からつれて来た軍人は激減している。ひとりでも多く手元に残しておきたかったんだそうだ」
「まるで誰かに聞いてきたみたいな説明っぷりだな。情報源でもあるのか?」
「我々がこちらに来てから、敵方の科学者の助手と名乗る者が投降してきた」
「裏切ってきたのか?」
「恩師だった科学者が統括大佐に殺されたそうだ」
「ニャんと!? ニャんでまた?」
「責任をなすりつけられたそうだ。自軍がここまで追い詰められたのは、出来のいい改造ゾンビを輩出できていないからだ、とな」
「確かに、長池宿で会った改造ゾンビはドクターXやドクターZが製造した改造ゾンビほどのクオリティーはなかったが……自分の落ち度を科学者に責任転嫁したわけか」
「その通り。しかし統括大佐は自分で自軍の首を絞めた」
「どういうことだ?」
「ゾンビ化薬を製造できる人間がいなくなった」
「なに?」
私、思わず眉間に皺。
「殺された科学者は黒幕配下最後の科学者だった」
「ニャんとまぁ。統括大佐もやきが回ったニャすね」
「そうだな。科学者は黒幕に忠誠を誓っていた。殺される前に黒幕への謁見を乞い、以前拠点にしていた洋館にゾンビ化薬の成分表があるから、自分の命を奪うにしても、その成分表を取り戻してゾンビ化が円滑に進むよう進言しようとした。しかしその途中、統括大佐に頭を打ち抜かれた」
「完全に冷静さを失ってるな、統括大佐は」
「切羽詰ってるんだろう。助手だった男によれば、科学者の発言に耳を傾ける様子は微塵もなかったらしい」
「だがそのお蔭で、ゾンビを増やすこともできなくなった。こちらとしてはありがたいな」
「あぁ。残っているゾンビ化薬を使い果たしたら終わり。そしてそのゾンビ化薬は、さほど残ってない。こちらに来て連れ去った者たちをゾンビ化したら、もはやゾンビ化薬は底を突く量しかない」
「勝機はこちらにあり、か。敵陣についての情報は得られたのか?」
「安城京跡内部について聞きだして図面にしてある。あとで見せるが、代官所と奉行所が保有していた地図と照らし合わせてほぼ合致した。文官・武官の執務用建物が碁盤の目状の配置されている」
「黒幕の居場所は?」
「北側にある宮殿だ」
「私たちの世界で言えば大極殿といったところか。坑道については?」
「安城京跡から町中に張り巡らされている。助手だった男も坑道を使って安城京跡から抜け出し、坑道の天井に穴を空けて我々の野営地前に現れた」
「そうか……と言う事は、我々の野営地前あたりから坑道を使って安城京跡へと攻め込める?」
「できなくはないが、相手も馬鹿じゃない。助手の話では、侍ゾンビたちが監視している」
「よくそんななかで助手は投降できたな」
「ゾンビたちの世話を行っていたのは科学者と助手だ。侍ゾンビたちも助手がゾンビの専門家であることを知っている。人目を忍んで坑道まで辿り着き、意識ある侍ゾンビたちに『自分が逃げればお前たちも普通の人間に戻せる』と伝えてて逃げ切った」
「考えたな。侍ゾンビたちも一度は黒幕に従ってゾンビ化したかもしれないが、今となっては人間に戻りたいはずだ。異国から来た敗戦の将に付き従う義理はない。もっとも、自分の手でゾンビにしといて随分卑劣な手段だとは思うが……」
私、腕組みして俯く。
「それもそうだが、自分の命がかかっていたら、致し方ないかもしれんぞ」
「そうだな……」
私、俯いたまま川嶋に返答。
「……どうした? 何か引っかかることでもあったか?」
川嶋が私の顔を覗き込む。
「……いや、ちょっと。代官、質問なんだが」
私は腕組みを解くと顔をあげ、鳥居へと視線を向けた。
「なんなりと」
鳥居が頷く。
「南都の人たちはそのまま町に残っているのか?」
「いえ、我々は皆様へのご説明などがありましたから残っておりますが、数人の武士を残し、あとの庶民などは避難させております」
「避難?」
「はい。皆様が参られてから戦闘激化が必至であると川嶋殿から伝えられ、急ぎ南都から4里ほど離れた柳生の地に退避させております」
「柳生の地? ハンターチャンス的な」
私、真顔のまま。
思いっきりシリアス場面ぶち壊し発言。
「小若菜……」
川嶋が苦笑を浮かべた。
「ボケたつもりだろうが、その通りだ」
「……は?」
私、一拍置いて返答。
「よくぞ柳生藩藩主の名前を御存知ですな」
鳥居が驚いたような声を出す。
続いて釈が口を開いた。
「柳生半田之助広重。齢(よわい)八十を数えまするが衰え知らずの行動派知将として有名でございます。ただ、なぜ異世界の小若菜殿がご存じなので?」
「いや、まぁ、その、なんとなくな……それにしても、柳生の地は無事なのか?」
私、自分で脱線させた会話を本題に戻す。
「はい。柳生までは坑道を作れなかったと思われます。それに、柳生は忍術の使い手がまだ生き残っております」
釈が続けて返答。
「忍術、ニャすか?」
猫またが目をパチクリさせながら聞き返した。
「左様。柳生と言えば忍術を使う忍びの者たち発祥の地。何か不可思議なことでも?」
釈が聞き返す。
「ニャって、僕たちの世界の柳生家は剣術指南役であって忍者じゃなかったニャ」
「えっ!? そうなの?」
川嶋が素で驚く。
「そうニャ。川嶋さんを演じてる真田広○さんも出演していた『柳生一族の陰謀』とかフィクション作品のおかげで『柳生=忍者』にニャってるニャすけど、実際は違ったニャ」
(注意・上記の説は猫またの個人的見解であり、学術的な裏付けはありません)
「本文が注意書きしてるが……ってか『勝手にキャスティング』をここで持ち出すな。話がこじれる」
「柳生って聞いてハンターチャンスって口走る隆に言われたくないニャ」
「そうか……柳生は忍者じゃなかったのか……」
私の突っ込みに猫またが反論し。
川嶋は川嶋で驚愕の真実に慄いている。
「あのぉ……」
鳥居が不思議そうに私たちの顔を見る。
「あぁ、すまんすまん。こっちの話だ」
私、手を顔の前にあげてすまんすまんの動作。
「皆様の世界ではどうか存じませんが、柳生の地は忍者の里でございます。ここにいるものの中にも、元来は柳生に仕えている者もおります」
釈が話を本題に戻した。
「柳生に仕えている者?」
「左様。南都の守りが手薄となりし折に、柳生藩が数人の武士を派遣してくれ申した」
今度は鳥居が補足説明。
「私たちの世界で言えば、人的支援といったところだ」
驚愕の真実から立ち直った川嶋が補足の補足説明。
「そうか……で、誰が元々、柳生藩の人間なんだ?」
「拙者でございます」
神崎が小さく頭を下げる。
「腐肉人たちが跋扈し始め、生き残りの都が北都と南都だけになったおり、御館様からの命を受け参りました。また、現在南都に残っている武士たちも、柳生の者でございます」
「なるほどな……ってことは、あなたも忍者で?」
「はい。以前は忍びもしておりましたが、四十手前で一線を退き武士として生き始めました」
「だったら、爆薬なんかも作れるか?」
「爆薬でございますか?」
神崎が驚いた声。
他の面々も不思議そうな顔になる。
「あぁ。周囲を焼き尽くす種類の爆薬と、大爆発を起こす爆薬だ。どうだ?」
「作れぬことはございませんが……」
神崎が困惑顔で返答。
「小若菜、爆薬を使ってどうするつもりだ?」
横から川嶋が口を挟んだ。
「いや、ちょっと……」
私は再び腕を組み、俯いた。
「相手の地下坑道を利用してやろうかと思って」
「坑道を利用?」
「真夜中に坑道へ火を放てば敵さんも浮足立つ。その隙をついて少数で地上から突っ込む」
「危険だ」
川嶋が即却下。
「夜陰に乗じて侵入する作戦は悪くないが、地下坑道は急ごしらえで強度が強いとは言えない。爆薬で吹き飛ばしたら天井もろとも崩れる。地上から突っ込む部隊が巻き込まれる恐れがある。それにそもそも、どうやって坑道に火を放つつもりだ」
「無人偵察機を使う」
「なに?」
「無人偵察機に爆薬を積む。我々が持ってきている爆弾だったら崩れるものでも、熟練の忍者が火薬量を加減して作ればなんとかなるんじゃないか。それに……」
「それに、なんだ」
「内部に突っ込む者が敵陣に侵入した段階で大爆発を起こしてもらえれば、坑道が崩れ黒幕が逃げ場を失う。以前のように取り逃がしたりはしない」
「それでナパーム弾的な爆薬と大爆発を起こす爆薬ってわけか? ダメだ。無人偵察機が熱に耐えられる保証がない。第2段階の爆発が第1段階の爆発で誤爆する危険もある。何より黒幕の逃げ場だけではなく侵入した部隊の逃げ場もなくなる。そんな危険な作戦は……」
「私が行く」
私は顔を上げ、川嶋へと顔を向けた。
「ニャんと!」
猫またが慄く。
「私と猫またが地上から内部に侵入する。攪乱するから、その上で本隊は八咫烏や姑獲鳥に乗って上空から降下し内部侵入を図る」
「バカな。あまりに無茶すぎる」
川嶋が首を振る。
「冷静になれ小若菜。焦りは禁物だ」
「焦ってもいないし、私は冷静だ」
私、川嶋の言葉に反論。
「敵は地下からやってくる。どこから出てくるかわからない『もぐら叩き』だ。野営地前から顔を出したのが助手だったからよかったものの、もし野営地のテント内にゾンビ兵や侍ゾンビが出てきたら、少なからず被害が出る」
「それはそうだが……」
「だったら、こっちから打って出るしかないだろう」
「言いたいことはわかる。だが、あまりにも作戦が危険すぎると言ってるんだ」
「他に手があるのか? 敵兵がいつ地上に躍り出てくるかわからない状況なんだぞ」
「確かにそうだが、小若菜の作戦にはひとつ大きな欠陥がある」
「欠陥?」
「無人偵察機が侍ゾンビに奪われたら、どうするつもりだ」
「……あ」
私、うっかりな盲点。
「無人偵察機を奪われて爆薬を取り外されれば、作戦失敗なだけではなく敵に新たな武器を渡すことになる」
「それもそうか……」
私、三度目の腕組み。
「いけると思ったんだがな……」
「落ち着け小若菜。焦ってもいい作戦は……」
「その作戦、我らも手伝わせてもらいたい」
廊下から声。
「誰だ」
鳥居が振り向く。
他の面々も声の方へと顔を向けた。
「儂じゃよ、鳥居殿」
言葉と同時に障子が開いた。
「柳生殿!」
「御館様!」
鳥居と神崎が同時に声をあげ、平伏。
他の武士や庶民も深く頭を下げ。
そのままの姿勢で移動。
部屋の中央に道を開けた。
柳生広重がゆっくり歩き。
我々の前に座る。
「『ハンターチャンス』ニャ……」
猫またが唖然。
「まさかホンマもんがご登場とは……」
私も茫然。
「拙者、柳生藩藩主、柳生半田之助広重と申す。南都の守護ならびに安城京跡の奪還を目指される方たちに一度ご挨拶をと思い陣へと赴いたところ、総大将はこちらにいるとお聞きし参上仕った次第」
「そ、それはそれは……私が今回の任務を指揮しております川嶋健三等陸佐です」
川嶋が恐縮気味に頭を下げた。
「私はその部下で小若菜隆三等陸曹。肩に乗るのは猫また陸士長。普通の猫ではなく妖怪・猫またです」
「ニャむ。以後、お見知りおきをニャ」
猫またが平伏。
「左様でございますか……と、堅苦しい挨拶はここまで。川嶋殿、小若菜殿が申された今の策略、なかなかに興味深い。我ら忍びが加われば、首尾よくいけるはず」
「いや、しかし……」
川嶋が反論しかかる。
「まぁ聞いて下され」
柳生が手で制する。
「異世界のからくり装置を使わずとも、我らが坑道に忍び込み爆薬を設置すれば、ことは簡単」
「ニャんとま!」
猫またが声を上げた。
「つ、つまり、事前に柳生の忍者たちが坑道に2種類の爆薬をしかけ、真夜中、時が来たら爆発するようにセットし、そのタイミングで少数の部隊を地上から突っ込ませる、と? 空中からの突入したほうがよいのでは?」
「空からでは逃げ場がありませぬ。我らも忍びの術として大凧を用いることがありまするが、あれは他に手がないときのみ。地上から矢を射ぬかれれば危険が増大致しまする。安城京跡であれば、地上から侵入できぬわけではありますまい」
「確かに、八咫烏や姑獲鳥からの降下中に敵兵から乱射されれば危険ですが……」
「ならば、まずは地上軍から敵陣に突入。敵方が地上軍との戦いに意識が向いたところで空中から主力部隊を投入する、というのはいかがかな?」
「それは……しかし小若菜だけ地上からというのは……」
「はっはっは! 無論、それは無理がござろう」
柳生が私の顔を見て快活に笑う。
「なれど、彼の心意気は買うべきではござらんか、総大将として」
「いや、まぁ、総大将ですが……」
川嶋が珍しくタジタジ。
「小若菜殿、それに猫また氏(うじ)とともに突っ込む腕利きを選定し、爆破と同時に敵陣へと走らせる。その後、頃合いを見計らい本隊を上空より突入させる。差し出がましいかもしれませぬが、敵は地下から神出鬼没に現れる。時間が経てばたつほど、こちらの被害も甚大になる恐れあり。ならば、小若菜殿が仰るように早めの攻撃が肝要かと」
深く皺が刻まれた目元。
細い瞳。
しかし、鋭い視線で。
柳生が川嶋を見た。
「我ら忍びも、この地を守るため、命を張りましょうぞ」
「……わかりました」
川嶋の顔つきが変わった。
「柳生一族には縁があります。その御館様からそこまで言われては、私も否とは申せません。ただし」
川嶋が言葉を区切った。
「我々は自軍で死者を出す気がございません。部下を死なせるわけにも、皆さま方を死なせるわけにも参りません。そのためにも、一度戻り、作戦を組み立てます。それまではどうか、お待ちください」
「左様か! いや、わかりもうした」
柳生が嬉しそうに頷く。
「しかし川嶋さん、いつ何時、敵兵が来るとも限らない。爆薬を作ってもらうのであれば早々にしてもらったほうがいいんじゃないか?」
「そうだな……確かに爆薬は必要になる。ただ、どの程度必要になるかが読めないうちは……」
私の提案に、川嶋が手を顎に当てながら返答。
「それならば、今から作れるだけ作り、保持している分も合わせて今宵お持ち致しましょう。川嶋殿が作戦を立てられ、不足あらば、また作り持参致します」
「そ、そこまでして頂けるとは……」
川嶋、恐縮。
「至極当然のこと。周囲を焼き尽くす火力は強く爆発力は弱いものと、爆発力の強いものでしたな。神崎、すぐに出立致せ」
柳生が神崎へと視線を移した。
「ははっ! では、城へ戻ります!」
言うが早いか寺本が立ち上がると。
部屋を飛び出していった。
「すぐに戻るって言っても、ここから4里。16kmはあるぞ」
「それくらいの距離、寺本でも小半刻あらばたどり着けまする」
柳生が事も無げに言う。
「え”? 16kmを30分?」
「四里を小半時とは……やはり、忍びは違いまするな」
私に続いて、鳥居も驚愕の声。
「はっはっ! 若い者はもっと速い。拙者はもう老い耄れにて馬で失礼仕るが、寺本くらいの歳であれば、それくらいは当然のこと」
「ニャんとまぁ……僕たちの世界の忍者より凄いニャ」
「それだけ素早く動けるんだったら、爆薬も順調にセッティングできるかもしれないな」
「そう願いたい。承諾したとはいえ、危険な作戦には変わりない」
「……てなことを言っといて、川嶋さん、どーせ自分も『腕利き』のひとりになるつもりでしょ?」
私、川嶋の顔を覗き込む。
「そ、そういうことは正解するんじゃない」
川嶋が顔を逸らした。
「ニャんとま。図星ニャ」
猫またが目を丸くする。
「ほほぅ、なかなかに気骨ある総大将殿ですな」
「まったく」
柳生と鳥居が笑いながら言葉を交わし。
他の面々にも、ようやく笑顔が浮かんだ。



「……もう、行ったかな」
焼けたように切られた大木の切株から。
満腹が立ち上がった。
着地した場所からは数メートル離れている。
「ふん。手の目こそ、自衛官の匍匐前進を甘く見過ぎてるよ」
満腹、ひとりごちつつ。
迷彩服についた土を手で払った。
「着地後すぐに第五匍匐で移動するなんて、僕たちには朝飯前だよね、寺田陸曹」
満腹の言葉に。
寺田がヨロヨロと立ち上がる。
こちらも着地点よりも数メートル離れた場所。
切株の後ろ。
「え、えぇ……」
汚れもひどいが、木の枝に引っかかったのか、所々、迷彩服が破けている。
「あ、ありがとう満腹陸曹。あなたのおかげで助かりました」
「なぁに、これでも部隊の連中は俺のことをこう呼ぶんだ。なんだかんだ無敵、ってな」
「満腹さん、キャラ変わってます……って、そんなことより!」
寺田が迷彩服の汚れも気にせず。
足をもつれさせながら、残骸になった片輪車へと駆け寄った。
その傍らには。
ひとりの女性。
「ん……」
着物が破れ、肩や腹部、足から血を流し、倒れている。
「片輪車さん!!」
寺田が傍らに膝をつき、抱き上げた。
「な、なんてひどい……」
「ん……寺田……さん……」
片輪車が目を覚ました。
「ごめん……なさい……私……」
「大丈夫。しゃべらないで。すぐに手当てを……」
「人間の……手当は……無意味…です……それより……手の目が……」
「それこそ大丈夫。僕が無線で基地に伝達を……」
満腹が寺田の横に立ち。
迷彩服のポケットから小型無線機を取り出した。
「……あれぇ?」
満腹がまじまじと無線機を見る。
「……壊れてる」
寺田が呟いた。
満腹が回転しながら目光線を避けていた際。
その重みに耐えられなかったのか。
無線機が潰れてしまっている。
「そ、そんな……あ、でも、片輪車さんが手の目を乗せてここまで来てる段階でバックベアードが気づいて……」
「無理……よ……」
寺田の言葉に、片輪車が力なく首を横に振った。
「手の目の奴……西方面から……移動しろって……言ってきて……」
「西方面?」
「西方面は……倩兮女がいたけど……彼女じゃ……ケラちゃんじゃ……全域……守れてなくて……ベアードにも……限界があって……手の目の奴……妖力を使って……カバーが手薄なところ……姿消して……通過して……」
「それで、遠回りして南都街道に入り、私たちを見つけたから先回りして、ここで待ち伏せさせた。その時に、あなたまでも手にかけた」
寺田の言葉に。
片輪車が首を縦に振った。
「なんてひどい奴だ。プンプン!」
さすがの満腹も胸の前で腕を組み、憤りの表情。
「殺さない…程度に……攻撃…してきて……最期は…あなた…たちと……一緒に……私も消そうとした……だけど……私…人に…化けて……車から…降りて……伏せてた、から……目光線……避けられた……」
「ん、賢明な判断だったね」
満腹が、やや上から目線で片輪車に声をかける。
片車輪が言葉を続けた。
「車輪は……壊されたけど……時間が経てば……妖力で…直せる……私も……治る……私なんかに……かまわないで……」
「で、でも……」
「いいから……基地へ……速く……」
「その必要はないよ」
満腹が首を振った。
「片輪車がいなくなり、しかも手の目もいなくなったと知れれば、きっと北都でも大騒ぎになっているはず。ベアードが基地まで来るだろうから……」
「不確定…すぎるわ……」
片輪車が首を振った。
「私と……輪入道は……昼夜を……問わず……北都を…巡回する役目……南都での…作戦終了までは……奉行所にも戻らない……」
「それじゃあ、片車輪さんがいなくなったって、気がついてもらえない」
寺田の発言に、片車輪が小さく頷く。
「それに……手の目のこと…だから……自分の身代わり……灰にしてきて……ベアードに……気がつかれないように……してる……」
「わかった。わかったわ。満腹陸曹、基地に戻りましょう。片車輪さん、こちらには救援隊を寄こします。それまで、どうか……」
「大丈夫……手の目の奴……私の…ことも……甘く……見てたわ……」
「え?」
寺田が小首を傾げた。
「私…だって……弱くないわ……あいつが…止めを刺さなかった……それが……あいつの…失敗……お願い……あいつを……倒して……ちゃんと…待ってるから……」
「わかりました。必ず、迎えに来ます。身体を休めていてください」
寺田が大きく頷き、片車輪を地面に寝かせると、立ち上がった。
「行きましょう、満腹陸曹」
踵を返し、南都街道へと歩き出す。
「うん」
満腹が頷き、後に続いた。
片車輪が安堵の微笑みを浮かべながら、ふたりの背中を見つつ。
「ぜったい……倒してね……」
小さく呟くと。
ゆっくり、目を閉じた。


(「Dead or Alive(2) ―新・ゾンビサバイバル 228~237日目―」へ続く)


(あとがき)
うん、かなり無茶な作戦ですよね(苦笑)
書いてる本人も思いますが。
最後の最後もド派手な危ない戦いを想定してみました。
そういえば、無茶な作戦以外で戦ったことなんてなかったですもん(笑)
最後までやり散らかします。
ってか。
この時の作戦通りに行くはずもないんですけどね(爆笑)
てなわけで、最後にどんな戦いが待っているのか。
それはまた次回のお楽しみ。
痛快成り行きゾンビサバイバル小説。
ここからも、ながーい目で。
ひろーい心で。
どうぞ、お付き合いくださいませ!

さ、今日はもう寝よう。
小若菜隆でした。

追記
それにしても。
まさか本当の柳生一族を登場させるかね、私(笑)
ハンターチャンス!!