Dead or Alive(1) ―新・ゾンビサバイバル 228~237日目― | 小若菜隆の文章工房

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殺し屋っぽい一般民、小若菜隆です。
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前回の内容はこちら↓を参照
2016-11-03
道中(2・トラブルソルジャー) ―新・ゾンビサバイバル 225~227日目―
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長池の宿を出た私と猫または、73式小型トラック、通称・小トラに乗り、南都街道を南下していた。
「車だと速いニャ」
猫またがダッシュボードに乗り、前を見据えて呟く。
「あぁ」
私も短く返答。
「……仇をとるニャ」
猫またにしては珍しく、血生臭い言葉を、小さく、しかし力強く口にした。
「あぁ」
私は再度、短く返答し、続けた。
「『Dead or Alive』さ」
普段の猫またなら嫌うような言葉。
だが。
「ニャむ」
猫またが、小さく頷いた。
当然だろう。
仲間が、目の前で殺された。
長い時間一緒にいたわけでもない。
お調子者ではなかったが、厄介なタイプで。
ずっと一緒にいれば、どっと疲れる男。
だが、仲間は仲間。
目の前で殺されて、許せるわけもない。
「南都まではもう少しかかる」
私たちの世界とは、道路事情が違う。
いかに陸上自衛隊仕様のジープとはいえ。
恐らく、到着するのは夕刻。
「現着したら、川嶋陸佐と田中陸曹に満腹の最期についての伝達。それから、今後の作戦について詳しいところを確認する」
「了解ニャ」
猫またが振り向き、頷く。
既に涙は乾いている。
戦いに向け、心の準備はできている。
「少し飛ばすぞ」
私は表情を変えず、猫またに伝え。
小トラのアクセルを踏み込んだ。
時刻、未の刻・八つ半(午後2時)。
猫またが無言で頷き、再び前を向いた。
車内に言葉がなくなり。
周囲の風景とは似つかわしくないエンジン音だけが響き始めた。


申の刻・七つ半(午後4時)。
二条城、天守閣。
その最上階。
将軍・豊徳家悦が部屋の奥に設えられている壇の最上段に座っている。
普段通りの座り位置。
しかし、その出で立ちは普段通りではない。
兜こそ背後の小姓が持ち、控えているものの。
鎧姿で床几に腰を下ろしている。
家悦の正面、左右に座す幕閣たちも、1人を除いて鎧を身に着けていた。
ピンと張りつめた空気。
そこへ、廊下を走る音。
「申し上げます!」
走り込みんできた2人の武士――見島と斉藤が部屋の前で膝をついた。
「許す! いかがいたした!」
見島の言葉に、幕閣の上座に座る老中・岩橋堅吾が返答。
斉藤、腹からの声。
「はっ! 北都内の守護、すべて配置が整いました!」
「あいわかった」
岩橋ではなく家悦自らが、大仰に頷きながら答える。
「大義であった。そなたらも城内守護の配置につけ」
「「ははっ!!」」
見島と斉藤が頭を垂れ、スッと立ち上がると、今来た廊下を走り去っていった。
「これで万万が一、敵方の陽動作戦で北都が攻められたとしても万全でございます」
岩橋が座ったまま、家悦へと身体を向けて進言した。
「万全、か」
家悦が呟く。
やや含みのある言い方。
「何か、気にかかることでも?」
察した岩橋、眉間に浅い皺を寄せた。
「いや、なに。手勢が少なすぎる気がしたのだ」
「恐れながら」
家悦の言葉に、幕閣末席に座る老人が口を開いた。
唯一、鎧を身に着けず、着物姿。
しかも町人風。
ただ、その風格は。
岩橋と同格程度。
その場に居合わせる生き残りの幕閣とは比較にならないほどの存在感。
「構わぬ、ぬらりひょん。申してみよ」
家悦が発言を許可。
「は。武士の方々を束ねるは大下殿。奉行直々の配下、それに伊北殿などの腕利きも数人は南都に向かわず、北都に残っております。相手は拳銃……飛び道具を使用するとはいえ、そう易々と打ちのめされるとは思いませんし、負傷した者あらば、滝野原、浅井、ひさえ、佃車、島といった名医も奉行所に詰めております」
「それはわかっておる」
「加えて」
家悦の言葉をやんわりと遮るように頷きながら、ぬらりひょんが続ける。
「我ら妖怪も加勢しております。東には祇園の七歩蛇、南には伏見・深草の毛羽毛現、西には嵐山の倩兮女、そして北には宝ヶ池の青亀と配下の河童たち。それぞれが担当地域を守護しております」
「それは心強いが……」
「また、小若菜の屋敷に鉄鼠、城内には私がおり、それらの伝達係件広域守備隊として輪入道と片輪車が北都を巡回。上空からも北都全体をバックベアードが見守っております」
「ほぅ、あの目玉の妖怪か」
「はい。あのものの妖力は並大抵ではございません。その全妖力を使い、北都の街を監視、急変有れば自ら攻撃を加えながら、こちらまで伝達してくる手筈になっております」
「……なるほど。ならば、少しは安心できようもの」
「少しは?」
家悦の言葉に、ぬらりひょんがやや不服げ。
「悪く思うな、ぬらりひょん。そなたらの力、存分に理解しておる。心強い限りじゃ。だがの」
家悦が少し微笑む。
「戦は、慢心した方が負けじゃ」
「……は」
何かに気がついたように、ぬらりひょんが小さく声を出した。
家悦が続ける。
「これで大丈夫。これで万全。そう思った方が負けるのじゃ。用心に用心を重ね、万全に万全を期し、それでも尚且つ、相手が撃ち破ってきた時にはどうするか、常に考えておく。それが、将の長たる儂の役目。気に障ったかもしれぬが、そなたたちを軽んじてのことではない。許せ」
「勿体なきお言葉」
ぬらりひょんが平伏。
「将軍様より何倍も長く生きておりながら、浅はかな態度。御無礼をお許し下され」
「なに、構わぬ。誰とて身内を軽く見られたと思えば不服なものよ。頭をあげよ、ぬらりひょん」
「ははぁ!」
家悦の言葉に、ぬらりひょんは頭をさらに低く下げた。
「しかし、ぬらりひょんの言いたいこともわかります」
岩橋が口を開いた。
「洛内の守護は無論のこと、伏見や藤森は庶民ながら腕の立つ者がおりまする」
「んん。伏見の相撲部屋の面々に、藤森の旅館の親子だな」
「加えて、御所の守りも手抜かりございません。芦出が守護の者たちを束ね、内部には登之坂中納言もおられます。天功帝の伝達官も腕が立つと聞いておりますし、万万が一の事態にも対応できるかと」
「そうか……そうじゃな」
家悦が、ひとり納得したかのように2回、頷いた。
「慢心もいかんが、あまり臆病風に吹かれても指揮に関わる。あいわかった。そなたらをますます信頼致そう」
家悦が快活に笑った。
もちろん、内心では完全に安心などしていない。
だが、こうでも言わなければ、家悦本人が言う通り、指揮が下がる。
そこを危惧した岩橋が水を向けたことを、家悦も感づいた。
自分以上に心配性の岩橋が、ここまで万全と言ってきている。
感づかないわけがない。
「ありがたきお言葉!」
岩橋も心得ている。
中腰気味に腰を浮かせ、幕閣の面々を見た。
「良いか皆の者、殿の言葉を胸に、今まで以上に心して警護に当たられよ!」
「「「「「「おぅ!」」」」」」
岩橋の鼓舞に、幕閣が答えた。
武士たちの声が、天守閣から北都の街に響き渡った。


「何か聞こえませんでした?」
まといが外へと顔を向けた。
障子越しに、やや橙になりつつある日の光。
「んん、城の方角からじゃのぅ」
部屋の上座に座る芦出鼓玩が脇息に身体を預けながら、こちらも視線を外へ。
「何かあったのでしょうか?」
部屋の下座、まといと蒋宇稔から少し離れた場所に座る小間物屋八兵衛が不安げに芦出へと質問。
「いや、あれは猛者たちの声」
今は料理人だが、元は明国の参謀だった蒋宇稔が冷静に答える。
「戦い前、気持ち、高めているのでは?」
「そうじゃな」
鼓玩が頷く。
「北都の守りを固める幕閣が声を揃え鬨の声をあげたのじゃろう。儂もこの地にいるからには、いざと言う時に戦わねばならん」
「はい。覚悟はできております」
八兵衛が懐に目を落とす。
38口径エンフィールド・リボルバーが入っている。
「いやいや、庶民には戦わせん」
鼓玩が首を振る。
「年老いていても、儂は武士じゃ。庶民に戦わせるわけには……」
「でもお父様、前に八兵衛さんに助けられたのと違いますか?」
まといが口を挟む。
「ん、まぁ、そうじゃが……」
鼓玩が一本取られたように、頭をかく。
「今は武家だ庶民だと言うてる場合ではありません。私たちも戦います」
まといの出で立ちは、いつもの着物をたすき掛けにしており。
蒋は蒋で、参謀時代に使っていたのであろう苗刀を傍らに置いている。
「いざという時、私も戦う。お義父さん、守ります」
「左様か」
鼓玩が苦笑を浮かべた。
ありがたくもあるが、年寄り扱いされたくはない。
身体が思ったように動かずとも、そこは武士。
意地がある。
「まぁ、儂を守らずとも、御所で異変があれば昌太郎に加勢してやってくれ。儂もともに参る」
「わかりました」
気持ちを察してか、蒋が頷いた。
「昌太郎様も、今頃は御所の守護で合議でもされているのでしょうか?」
八兵衛が御所のある方向へと顔を向けた。
「かもしれん。暗くなる前に、手薄になっている北都における陣営の最終確認でもしておろう」
鼓玩が返答した。
「昌太郎……」
まといが不安げな表情。
姉の顔。
「大丈夫。昌太郎様、何があっても守り抜く」
蒋がうっすらと笑顔を浮かべた。
まといの心を少しでも軽くしたい。
夫としての顔。
その様子を見ていた鼓玩が笑って口を開いた。
「そうじゃ。ましてや、敵の本体は南都。陽動作戦でもない限り、こちらには来ない。心配し過ぎは禁物じゃ」
「た、確かに」
笑顔の鼓玩に対し、八兵衛が小さく頷いた。
「もっとも……」
鼓玩が何かを言いかける。
「もっとも、なんですか?」
蒋が聞き返した。
「……いや、そういった思いから、隙ができるものじゃがな」
鼓玩が顔を引き締め、御所の方角へと顔を向けた。


「だからこそ、隙ができるでおじゃる」
御所の一室。
上座に立つ登之坂中納言が芦出昌太郎と天功帝の伝達官を交互に見た。
「心得ております。慢心や安心は危険でございます。なにしろ、敵方は地下を使うことに長けております」
元はK国特殊諜報部隊の少佐だった伝達官が平伏したまま返答。
同じく平伏している昌太郎が後を受ける。
「火盗改めの大下様も北都をくまなく探り出し、1か所、大規模な地下建造物を見つけ出したとのこと。我らも既に御所内を探索し、域内には異常がないと確認致しております」
「それは重畳。なれど、夜陰に乗じて敵方が奇襲をしかけてこないとも限らないでおじゃる」
「ごもっともでございます。普段にも増して灯りを灯し、警戒を強めます」
「そうしてたもれ。我も警戒を怠らぬ」
「はは」
「かしこまりましてございます」
昌太郎、そして伝達官が更に深く頭を下げた。


「ただ今戻りました」
竜野と伊北が北都奉行所へと戻り。
いつも大下が控えいてる部屋の前にある庭へ入ってきた。
後ろからひさえとおゆうが続く。
「おぉ、待っておったぞ。伊北、足は大事ないか?」
既に情報が入っていたのだろう。
庭で床几に座り待っていた大下が立ち上がった。
火事装束に陣笠。
手には十手。
「はい、面目次第もございません」
伊北が頭を下げた。
「こちらへ来る前に手当てを終えております。もう大丈夫でございましょう」
ひさえが伊北の言葉に続き。
おゆうも口を開く。
「滝野原先生と浅井先生にも検査頂いていますが、恐らく問題ないと」
「左様か。それはよかった。して、もう動けるのか?」
「はい。何事かありましたか?」
大下の問いに、伊北の顔つきが変わった。
「んん、西の抑えが若干手薄なのだ」
「西? 嵐山に倩兮女もいるはず。何か不備でも?」
竜野が疑問を口にする。
「その倩兮女だ。彼女は実力者ではあるが、他の妖怪に比べると、やや劣る」
大下が返答。
「なるほど。七歩蛇、毛羽毛現、青亀と河童……確かに力不足」
竜野が納得し、視線を落としつつ頷いた。
「バックベアードからの伝達では、彼女の力では嵐山近辺を守るのが精いっぱい。山沿いから回り込まれれば抑えきれるかどうか不安が残る。ベアードの妖力とて無限ではない。現状でもかなりの無理をしている。そこで、伊北を西へ配置しようかと思ったのだが、行けるか?」
大下がいたわりの眼差し。
「はい。もう問題ございません。参ります」
伊北が力強く頷いた。
「よし、ならば奉行所の馬を使え。まだ日が暮れるには時間がある。夜陰に乗じて手薄なところに奇襲を仕掛けてくるとも限らん。すぐに出立してくれ」
「心得ました。死に場所と思い、何が起こりましても死守致します! では!」
伊北が小走りに庭から厩に向かって行った。
一同、伊北の背中を見送る。
一拍の間。
伊北が庭から姿を消した。
「もしあやつが無理であれば、ここを竜野殿に任せて儂がいくところであったが」
大下が、伊北が出ていった咆哮を見ながら呟く。
「それはなりません。ここで指揮をとってもらわねば。して、私は如何致しましょう」
竜野が聞く。
「竜野殿は残って頂きたい。どの地域も手薄だが、一番の手薄はこの奉行所。研究者や医師もおる。滝野原は武道の心得があると聞いておるし、須藤もそれなりに戦えるとは聞いておるが、万一の時にどこまで応戦できるかわからん。我々で守らねばなるまい」
「承知した。お任せを」
竜野が笑みを浮かべながら頷いた。
それとほぼ同時に。
六つ(午後5時)の鐘。
「……小僧たち、そろそろ着く頃か」
顔を引き締め、竜野が呟いた。
「えぇ。無事に帰ってこられれば宜しいのですが……」
ひさえが、やや不安げに返答。
「なぁーに、小僧は悪運だけは強い。大丈夫」
竜野が笑って答えた。
「猫またもついておる。心配ない……と、思いたいな」
大下が、自分に言い聞かせるように言うと、竜野とひさえ、それにおゆうを見た。
「さて、さすがに疲れた。中に入るぞ。今宵は滝野原先生の夕餉じゃ。うまいものが食えるであろう」
「おぉ、これはありがたい! 彼女の薬膳鍋は絶品だ」
竜野が心底嬉しそうな笑顔を見せた。
「そうですね。まだ夜は冷えますし、今宵は身体をしっかり温めて、ゆっくり休めて下さいませ」
ひさえも笑顔で頷く。
「そうじゃな。老体に戦場(いくさば)の最前線は応える」
竜野が腰を曲げ、拳骨を作って叩いた。
「ぷっ……竜野様、わざとらしい」
おゆうが思わず突っ込む。
「ははははは! おゆうには敵わんな。さぁさぁ、早く入るぞ」
大下が快活に笑い、部屋へと歩き出した。


「もう六つか」
縁台に座る鉄鼠が、中庭を見ながら呟いた。
「そうですね」
横に座るラウラが頷く。
「隆さんと猫またさん、南都に着いてるでしょうか?」
ラウラの横に座るななみが、ふたりの顔を見た。
「だろうのぅ。隆殿の足ならば、そろそろ到着している頃合いだ」
私と猫またが小トラに乗っているとは知らされていない。
仲間が殺された、と思い込んでいることも。
「無事に帰ってこれると良いのですが……」
ななみが俯く。
「そうじゃのぅ……猫またもついておるから、大丈夫だとは思うが……」
「そうですよ。きっと大丈夫」
ラウラが真っ直ぐな視線で庭木の一点を見つめながら断言した。
「きっと、大丈夫」
今までも、切り抜けてきた。
敵の大将格を倒してきた。
今回も、きっと大丈夫。
そう信じていた。
そう信じたかった。
「ラウラさんは心配じゃないんですか?」
ななみが顔をあげ、再びラウラを見る。
「心配だけど……」
今度はラウラが一瞬、視線を落とした。
だが、すぐに視線を上げた。
「仲間だから。信じないと」
笑みを浮かべ、力強い口調で返した。
「そ、そうですよね」
やや気押されたななみが返答。
「そうじゃ。信じて待とうぞ」
鉄鼠も続く。
「それにしても、今宵はそなたたち、手持無沙汰じゃな」
鉄鼠が話題を変えた。
「はい。修さんとおまささんが作って下さるって」
「嬉しいですよねぇ♪ おふたりの料理、本当に美味しいから♪」
ななみ、ラウラが返答。
「きっと隆殿も猫またも帰ってきたら悔しがるぞ。居酒屋真修を自宅で楽しむなんて、ずるいとな」
「ずるいって、仕方ないですよねぇ」
ラウラが笑って答える。
「そ、そうですよ。帰ってきたら、ちゃーんとご馳走を用意します」
ななみにも笑顔が戻った。
「そうじゃな。その言葉、ふたりに聞かせてやりたいものじゃな」
鉄鼠も笑って返した。
「きっと、ご馳走を食べに帰って来るであろう。それまで、我らはここで待つのみ」
「何かあったら、ななみちゃんを守る」
鉄鼠の言葉に、ラウラが続けた。
「左様。それぞれ自分の持ち場で、自分の為すべきことをするだけじゃ。そのためには、まずは腹ごしらえと」
鉄鼠が立ち上がった。
「どれ、客人に作らせてばかりも忍びない。手伝いに行こうか……」
「その必要はありませんぜ」
言いかけた鉄鼠の背後から、声。
3人が振り向く。
修が前掛けで手を拭きながら笑顔で近づいてきた。
後ろからおまさも続く。
「お待たせしました。夕餉の支度が整いましたよ」
「おぉ、待っておりましたぞ」
おまさの言葉に、鉄鼠が相好を崩した。
「今夜はなんですか?」
ラウラも立ち上がり、修へと歩み寄る。
「春になったとはいえ、まだ冷えますから。春の山菜を使った鍋にしやした」
「いいですねぇ♪ お鍋、大好きです♪」
ななみも嬉しそうに立ち上がった。
「それはよかった。じゃ、早速お部屋へ」
おまさが半身の姿勢になり、皆を促す。
「「はーい♪」」
ラウラとななみが嬉しそうに声を揃えて。
食事の間へと小走りに向かった。
「ははは、ご両人が来ているからか、今日はいつもより浮かれとるわい」
鉄鼠が目を細めて、ラウラとななみを見た。
カラ元気なのは、わかっている。
だが、それでも。
ふたりの健気な姿に。
鉄鼠は安堵していた。
「きっと、隆さんと猫またのことが心配なんでしょうが、立派なもんですねぇ、あのふたりは」
修が腕を組み、ラウラとななみの背中を見る。
「んん。とくにななみは、成長著しい。あとはこれで、能力を完全に覚醒してくれれば……」
「そうですね。すべてが終わるんですね」
おまさが鉄鼠の言葉を受ける。
「そうじゃ。万事、終いだ」
鉄鼠の表情が変わった。
真剣な眼差し。
「それまでは、ななみを守らねばなるまい。おふたり、何卒宜しゅうお頼み申します」
「えぇ、任せておくんなせぇ」
小さく頭を下げた鉄鼠に対し。
修が大きく頷いた。
おまさも続く。
「これが最後のお役目。終わったら、こっちの世界も少しは良くなる。そう信じて、頑張りますよ……と、そろそろ私たちも行かないと。お鍋が冷めちまいます」
「おぉ、そうだ。行きましょう、鉄鼠僧正」
「おぅ! 今もっとも大事なのは鍋じゃな」
鉄鼠がまたも相好を崩し。
足早に食事の間へと向かい始めた。


安城京跡前。
南都を東西に走る二条大路。
約300メートルの道幅がある。
その二条大路を挟み、安城京跡の対面にある野営地に到着した私たちは。
自衛官の指示に従い小トラを所定の位置に駐車し。
作戦指示を行なうテントへ入った。
「遅くなった」
中には、川嶋・乱堂・小林・田中・樫本・オーチュン。
周辺地図を広げた机を囲うように立っている。
「おぉ、待ってたぞ」
私と猫またを見て、川嶋が顔を上げる。
「申し訳ない……」
私、川嶋へと近づく。
「思ったより遅かったな。何かあったのか?」
普段と違う私と猫またの態度に違和感を感じたんだろう。
樫本が聞いてきた。
「……満腹三等陸曹がやられた」
「なに!」
川嶋が驚く。
「長池の宿で敵が潜ましていたゾンビにやられたニャ」
猫またが怒りを押し殺し、悔しげで悲しげな表情を浮かべる。
「そうか……大きなナイフにでも一突きされたか」
猫またの報告に、川嶋が返答。
「あぁ。申し訳ない、私の不覚だ。相手の気配をもっと早く感じていたら……」
「そうだな。常に冷静さを持て。メンテム時代に叩き込んだはずだぞ」
樫本が険しい顔。
「面目ない。満腹が相手を倒した時点で安心してしま……ちょっと待て」
私、会話の違和感に気付く。
「なんだ」
川嶋が表情を崩さず答える。
ただし。
オーチュンが若干、ニヤついている。
「なんで満腹を殺った相手を知ってる?」
「お、よく気がついたな、ボーズ」
樫本も、ニヤリと笑う。
「モット早ク気ガツクカトオモッタゼ。ヤッパリ動揺シテルナ、コワカナ」
オーチュンも笑い出した。
「どういうことだ?」
「満腹は死んでない、ということです」
満腹の直属の上司である田中が口を開いた。
「満腹から無線連絡がありました。自分が死んだと勘違いして小若菜陸曹と猫また陸士長が小トラでそちらに向かったと」
「ニャんと! 生きてたニャすか!?」
猫また、驚きを隠せない。
「ちゃんと生死の確認くらいしろ、ボーズ。常に冷静さを持て。メンテム時代に叩き込んだはずだ」
樫本が笑いながら、同じ言葉を繰り返した。
「ニャんとまぁ……でも、ニャんで死んだふりニャんて……」
「満腹曰く、ちょっとボケてみたんだそうだ」
猫またの疑問に川嶋が返答。
「ボケてみたぁ!?」
私、声が裏返る。
「大変申し訳ない。あの男はそういったところがありまして……」
田中が申し訳なさそうに頭を下げる。
「実力的には三等陸尉クラスなんだがな、下らない冗談をかますから、いまだに三等陸曹なんだ」
川嶋も諦めのため息をつく。
「じゃあ、満腹さんは無傷ニャのかニャ?」
「ピンピンシテルサ! キット今ゴロ、hamburgerデモ食ベテルゼ!」
オーチュンが爆笑している。
「ったく、お騒がせな野郎だな。やっぱり、精神的に疲れる奴だ」
私、わざとらしくため息をついた。
「もっとも、兄貴の言う通り、味方の生死をしっかり確認しなかった私たちの落ち度でもあるが」
「でも、人騒がせにもほどがあるニャ!o (#=●ㇸ●=)o!」
猫また、若干のプンスカモード。
からの。
「……でもでも、生きててよかったニャ……」
ホッとした様子。
「忙しい奴だな。怒ったり安心したり」
「だって、まさか生きてるニャんて思わないニャ」
「確かに……ってか、無線機あったんだな。しかも長池宿からここまで電波の届く」
設備面の関係上、ここまで携帯電話やトランシーバーと言った無線機能をまったく使ってこなかった。
「今回の戦いにあたり、インカムレベルの無線機を複数用意しました。また、高性能無線機を1台、準備致しました」
私の疑問に田中返答。
「なるほど、貴重な1台ってわけか。それを満腹に持たせた」
「はい。小若菜陸曹を迎えに行かせる人員が彼しかいませんでしたのでひとりで行かせましたが、単独行動は危険ですので、有事の際にすぐ連絡できるように持たせました」
「そうか。だったら今からでも満腹を北都に向かわせて連絡を取り合えるように……」
「それは不可能です」
今度は乱堂が返答。
「高性能ではありますが北都からでは電波が届きません。また、簡易基地などを設置することも検討しましたが、どこに敵が潜んでいるか不明な状態で我々の機材を放置するわけにもいきません」
「監視の部隊をつけても、それを凌駕する人員で攻撃されたら人命にかかわる危険性もある、か」
私、乱堂の返答に納得。
「おっしゃる通りです」
乱堂が頷いた。
「で、満腹の迎えには誰か行かせたのか?」
私、別の疑問を口にした。
「寺田陸曹に行かせている。さすがの拝金主義も彼女だけには弱いらしい」
今度は川嶋が返答。
「ん? どういう意味です?」
「彼女に対しては金を振りかざして言う事を聞かせようとはしないんだ」
「その点は他の男子自衛官と同じだな」
私、思わずニヤリと笑い。
すぐにシリアス顔へ。
「で、どうやら作戦会議の途中らしいが、私たちにも詳しく教えてほしい」
「そうだな……」
川嶋が思案顔。
「ん? なにか問題でも?」
「いや、問題と言うわけではないんだが……まだ攻撃する段取りはできていない。ただ、今の状況を知ってもらうために会わせたい人たちがいる」
「会わせたい人たち?」
「南都を守ってきた面々だ」
「守ってきた面々?」
「そうだ。小林、説明を」
「南都代官と南都奉行、南都奉行所筆頭与力、与力支配役、それに庶民を束ねてきた町年寄と庄屋です。その者たちの話を聞いたうえで今後の対応や作戦内容をお伝えした方がわかりやすいかと思われます」
川嶋の指示で小林が説明。
「そういうことだ。ここにいる面々は全員、説明を受けている。小若菜と猫またも代官たちのところへ行くぞ」
「それはかまわないが……ここで川嶋さんから聞いても一緒じゃないか?」
「なに、本人たちの口から聞いた方が齟齬なく敵さんの行動がわかるからな」
「敵の行動?」
「まぁ、ついてくればわかる」
「そうか。わかった」
私、ようやく頷く。
「それでは、総員自身の野営地に。いつ、敵が攻撃をしかけてくるかわからない。いつでも連絡をとれるようにインカムを所持しておくように」
「「「「はっ!」」」」「Yes, sir!」
川嶋の言葉に。
乱堂・小林・田中・樫本・オーチュンが返礼(オーチュンのみ英語対応)。
テントを出て行った。
「じゃ、小若菜、猫また、行くぞ」
やや表情を崩した川嶋がテントの出口へと歩き始める。
「了解」
「ニャい∠(=`●ω●´=)←敬礼」
私たちも後に続いた。


「まったく、おっちょこちょいも甚だしいよね、あのふたり」
満腹が小トラの助手席に乗り、呆れ顔でハンバーガーを食べている。
「何言ってるんですか。きっと小若菜陸曹と猫また陸士長、今頃カンカンですよ」
小トラを運転する寺田が満腹を窘めた。
土の道。
両サイドには鬱蒼とした雑木林。
暮れ六つ(午後5時)という時間帯のせいもあってか、周囲は薄暗い。
ライトをつけての走行。
「えぇ~、僕が悪いって言うんですかぁ?」
やや間延びしたような独特な口調で、満腹が反論。
「そうです。だいたい、なんで死んだ真似なんかしたんです?」
「ちょっとボケてみただけですよぉ。それより、僕が死んでいるかどうか、ちゃんと確認しないほうが悪いんじゃないですか?」
「死んだふりして笑いを取りに行く方が悪いです」
寺田、満腹の反論をピシャリと否定。
「ぶ……ブヒ……ブヒ……」
他の男子自衛官同様、寺田に恋心を抱いている満腹。
二の句が継げず。
「いいですか、基地に戻ったら小若菜陸曹と猫また陸士長に謝ってください」
「ブヒ……いくら愛しの寺田さんとはいえ、僕と同じ階級なのに命令って……」
「上官からの命令です」
「田中さん?」
「川嶋三等陸佐です」
「ひーーーー! さ、三等陸佐から!!」
いくらふざけていても。
そこは、自衛官。
陸佐から謝罪するよう命令されたとあれば。
あとでどれだけ咎められるか。
「ぶ……ブヒ、ブヒ……」
満腹、顔を青ざめさせ、鳴き声的口癖を呟く。
「ブヒブヒ言うくらいなら、もうそんなふざけた真似は……危ない!!」
寺田が慌ててハンドルを切る。
「ブヒィィ!」
満腹も声を上げた。
小トラが進行方向に向かって斜めに停車。
「ど、どうしたの!」
満腹が叫ぶ。
口調は変わらないが、緊迫した表情。
「木陰から急に老人が出てきて!」
寺田が小トラから降りる。
満腹も続く。
小トラの前に老人が倒れている。
ボロボロの着物。
頭髪はない。
うつ伏せになっており顔は見えないが。
皮膚の感じから年配者だとわかる。
「夕方の運転は気をつけないとダメだよ。僕もこっちの世界のお金は持ってないから、寺田さんを庇いきれるかどうかわからないし」
「何を訳の分からないことを! 私の立場なんてどうでもいいですから、まずは手当てを!」
寺田が満腹に言いつつ、老人へと駆け寄った。
「満腹陸曹は本部へ連絡。私たちは老人を奉行所へ運び手当させると伝達を」
「はいはい、わかりましたよ」
満腹が小トラへ戻りかけた。
刹那。
「その必要はないぜ」
くぐもった声。
「え?」
「ブヒ?」
寺田と満腹が周囲へと視線を走らせた。
人影はない。
「俺だよ」
寺田と満腹、声のする方向を見た。
その瞬間。
老人が伏せたまま、手を挙げた。
「寺田陸曹!」
満腹が叫び。
寺田へと走った。
体型や普段の言動からは考えられないほど速い。
「えっ!?」
寺田が満腹へと振り向く。
老人の手のひらが開いた。
大きな目玉。
「喰らえ!」
目光線。
その先には寺田。
「させないぞ!」
満腹が寺田へ飛ぶ。
抱きかかえ、地面へ。
寺田がいた場所を目光線が通過。
「ちっ。意外といい動きをしやがるじゃねぇか」
老人が立ちあがった。
手のひらを寺田と満腹へと向ける。
「貴様は手の目! どうしてここに! どうやって生き返った!」
寺田を庇うように倒れ込んだ満腹が叫びながら9mm拳銃を抜き、銃口を手の目へ向けた。
「けっ。うるせぇなぁ」
手の目が苦々しそうに呟き。
再び目光線を放つ。
満腹、寺田を抱きかかえつつ地面を転がる。
今いた地面が目光線でえぐられた。
「冥途の土産に教えてやるよ。ベアードの奴が俺を甘く見たのさ」
猫がネズミをいたぶるように。
手の目が満腹と寺田がいるギリギリの場所に目光線を放つ。
満腹、転がり。
なんとか避ける。
寺田が悲鳴を上げた。
手の目が言葉を続ける。
「あいつ、全妖力を使って北都の監視を始めやがった。当然、俺を灰にしていられる程度の力は残したつもりだろうが、俺を見くびりやがった」
言っている間も、目光線を放つ。
満腹、地面を転がり続けるも。
道の脇へ。
背後には雑木林。
その奥から、呻き声。
「俺は復活して、北都に出た。お誂え向きに片輪車が巡回してやがったから、ここまで連れて来させたわけさ」
「な、なんてことを……」
満腹に抱きかかえられたままの寺田が呟く。
「さぁて、御遊びはここまでだ。ふたりとも立ちな」
手の目が手のひらの大きな目で、満腹と寺他を促した。
寺田が満腹から離れ。
ふたりがゆっくりと立ち上がる。
満腹が一歩前へ。
寺田を庇うように立つ。
「寺田陸曹。背後へ、左右に飛ぶよ。後、第五」
いつもと違う、落ち着いた口調。
「……はい」
寺田、気にせず返答。
気にしている場合でもない。
「けっ、好きにしな。どっちみち、あの世で再会するんだからな!」
手の目、目光線を放つ。
寺田と満腹が同時に背後へ飛んだ。
可能な限り、左右へとわかれて着地。
その上を目光線が通過。
「こざかしぃ!!」
手の目、ふたりが着地したあたりに目光線を放つ。
木々や葉が吹き飛ぶ。
昼間のような眩しさが雑木林を覆った。
「よーし、こんなもんだろぅ」
手の目が手のひらを閉じる。
目光線によって無理矢理ちぎられたようにボロボロになった大木の切り株と。
大破した片輪車の車輪。
主である、美しい女性の姿はない。
寺田と満腹が着地したあたりは、土がえぐれている。
「これで雑魚は片付いた。コイツは拝借してくぜ」
手の目がニヤリと笑い、小トラに乗り込んだ。
右手でハンドルを握り。
左手で前方を見る。
「待ってろ、小若菜に猫また。お前らを血祭りにあげてやる」
手の目がアクセルを踏み込む。
小トラが急発進で南都街道を南下していった。

(「Dead or Alive(2) ―新・ゾンビサバイバル 228~237日目―」へ続く)

(あとがき)
[壁]●)ソー……
[壁]_●)チラッ
[壁]_●)あ……
[壁]_●;)あけましておめでとうございます(爆)
[壁]_●;;)mものすごーく遅くなりましたが、今年も宜しくお願い申し上げます(滝汗)

そんなわけでして(爆笑)
小若菜隆でございますよ。
どうにかこうにか生きておりますよ(笑)
いや、まぁ、その、フェイスブックとかツイッターとかでは、そこそこ頻繁に近況とか書いてたりするんですけども。
小説がなかなか書ききれなくて。
ブログは放置状態になってしまいました申し訳ございません。

さて、ゾンビサバイバル小説(第1シーズン)が始まってから、本日で3年が経ち。
第2シーズンである今作も、昨年の今頃には選択肢的には終了しているわけですが(滝汗)
今年に入り、時間的&気持ち的な余裕が少しなくなっておりまして(←ありがたいことに仕事が順調で忙しくなっております)。
なかなか書けずにおりました。
ただ、どうにかこうにかちょこっとずつ書き溜めた内容がまとまってきまして。
今日・明日くらいには最終話まで書ききれるかな、というところまで参りました。
うん、エイプリルフールに目処が立つあたり、私らしいですけども(笑)
とにかく、あと数話で今シリーズも終了しそうですので。
最後まで、どうかお付き合いくださいませ。


あ、そうそう。
実は今回のお話について、蛇足的な説明がございましてね。
ただ、この説明。
ちょいとしたネタバレになりますので。
「いやいや、そーゆー説明はいらない。楽しみは最後までとっておきたい」
と仰る方は。
このあと、下↓へとスクロールせず。
別ページに飛んで頂ければと思うのですけども。
もしご興味のある方は。
このまま下↓へとスクロールして下さいませ。




























そろそろ宜しいですかね?
えぇっとですね、大したことじゃないんですけども。
今回の前半部分で。
北都に残った面々が登場しましたよね。
あの面々なんですが。

今回、戦闘シーンは一切ございません!


「えっ!? あんだけ危機感煽っといて!!??」
「じゃあ、なしてあんなに登場させたのさ!」
といった声が聞こえてきそうではございますが。
実を申しますと。

最後に今まで登場したレギュラー・セミレギュラー・特徴あるゲストキャラを再度出したかっただけです。


いやぁ、こんなこと、商業ベースじゃ絶対できないですからね。
好き勝手やらせて頂きました(笑)
なにせ、痛快成り行きゾンビサバイバル小説ですからね(←理由になっていない・笑)
そんなわけでして。
今シリーズも、あと少し。
最後の最後まで、やり散らかせて頂く所存でございますm(●_●)m
どうぞ、お付き合い下さいませ♪
小若菜隆でした!