パリオペラ座バレエ最終日「マノン」 | Gwenhwyval(グウェンフウィファル)の舞台日記

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鑑賞は生中心主義。自分の眼でライブで見たことを中心に、語ろうと思います。


2024年2月18日18時30分公演

2024年パリオペラ座バレエ来日公演の最終日は、「マノン」。長きに渡ってオペラ座の看板たるサラブレッド、マチュー・ガニオと、大好きなミリアム・ウルドブラムが踊る。ミリアムは今年定年なのでおそらくオペラ座のエトワールとしては最後の来日だ…。

アべ・プレヴォーの原作を大昔に読んだけど、もうマノンはめちゃくちゃ。相当悪い。いわゆる「ファムファタル」の原型なんだそうですね。椿姫やらスタンダールにも影響与えてるとか。
それをアベ(大僧院長)が書いたなんてフランスさすがというかなんというか…。あ、そうそう、宝塚でやる中村先生の「マノン」に近い。
バレエではそこまで細かいエピソードは省略。人は2人を1人みたいに合体させてるし、マノンは贅沢好きで頭軽いけどなんか憎めない美少女、みたいに描かれてます。オペラもなんでしょうか?

私、オペラのこと全くわからないのですが、このバレエ、ジュール・マスネが作曲者だというのは知ってる。タイスの瞑想曲のひとですね。
…だけどそのマスネの代表作たるオペラ「マノン」の曲とバレエ「マノン」の曲は全く違うらしい。
うーん、ジョン・クランコ版のバレエ「オネーギン」みたいなスタイルなんだろうか? どっちもチャイコフスキーなんだけどオペラとバレエじゃ全然違うという…。
マノン最初のパ・ドゥ・ドゥは「エレジー」という曲(結構繰り返される)、有名な「寝室」は「サンドリヨン」から、「沼地」はオラトリオ「聖母被昇天」から…という具合だとか。
そのために作曲したんじゃないか…曲がこの振付を待ってたんじゃないかというくらい、恐ろしく嵌まってますが…。

私は全部のバレエ作品…というかパート?踊り?の中で一番か二番くらいにこの「寝室のパ・ドゥ・ドゥ」が好きで。何てこの世にはこんなに美しいものがあるんだろう、といつも思う。思って泣く。
「沼地のパ・ドゥ・ドゥ」の方は辛すぎて…心臓に悪いんです。

ミリアムはとても愛らしい容姿に強いテクニックを備えた、当カンパニーらしいダンサーです。
刹那的でほとんどなにも考えてない、欲望と流れのままに生きる「美貌の商売女」の造形が本当にぴったり。
マノンに共感できるところはほぼ皆無なんだけど、彼女みたいなダンサーにそういう風に表現してもらうと「ま、こんな人もいるか」と、しょうことなしに思う。すごい説得力。
風貌はややお姉さんにはなりましたが、相変わらず可愛い。そして上手い。彼女の脚の上げ方が好き❣️
…しかしこないだ、プルミエールになったなーそしてエトワール、嬉しい!…とか思っていたのに、時の奔流には抗えぬ。
彼女のさよなら公演(アデューという)は、例のポール・マルク相手にジゼルを踊るらしくて、ああ、観たいなあ。くすん。
26歳のデ・グリューに42歳のマノンですけど、絶対いいに違いない。

そしてマノンにいいようにしてやられるマチュー(デ・グリュー)はもはや、ダンサーというより俳優。ときどき危ういところがなくもないがパートナーリングはオッケーだし、何より麗しいのでマノンが捨てきれなかったりふらふらもするよな、とも思う。
さすがのパリオペで、敵役たるムッシューGM(フロリモン・ロリュー)も本物のフランス貴族?みたいなクールな美男。

辛くてどきどきの「沼地」が無事?終わり、ミリアムとマチューが2人して出てくるともう、拍手喝采。
カーテンコールは何回繰り返されたことか…。2回目くらいからほぼ、総立ちとなったのは、やはりミリアム・ウルドブラムが最後の来日公演だと皆、知っているからだろう。
愛らしさを喪わぬ、オペラ座の美神が去っていく。

この日は千秋楽でもあり、観客は時間を気にすることなく彼女に最大の賛辞を送り続けたのでした。