宣言前の最後の舞台「MOZART!」 | Gwenhwyval(グウェンフウィファル)の舞台日記

Gwenhwyval(グウェンフウィファル)の舞台日記

鑑賞は生中心主義。自分の眼でライブで見たことを中心に、語ろうと思います。

 

2021年4月26日17時45分公演
 
何回も観ているこの作品ですが、運よく帝劇が閉まる前のチケットを持っていたので、拝見できました。
 
最初に観たのはいつなんだろう…。
映画「アマデウス」の印象が大きかったので、なるほどなーこういう解釈ね、サリエリは出てこないんだなーとかそっちの方で感心した記憶があります。
確か、主演は井上さん。コンスタンツェは誰だったのか。松さんかなぁ。
 
大好きな歌があります。
「星から降る金」そして「ダンスはやめられない」。たいていの人はそうですよね。

2014年のは見ている…ヴァルトシュテッテン男爵夫人はおそらく春野さん。彼女をナルシスティック歌唱という人もいるけれども、私は彼女の声が好きでたまりません。艶があるだけではなく、音階をなぞるときの微妙な声の揺らぎに、まるで空間がここちよく歪むような錯覚を覚えます。上手い人はいくらでもいるけど、声質は天性のもの。夜空の星から降る金の贈り物です。私はその持ち主を愛します。
この声に揺さぶられてヴォルフガングはウィーンに行きたいと願う。だから、この歌は魔性を秘めていなくては説得力がないと思う。
彼女は森に棲む「憧れの精」かもしれないし、その声は家族を崩壊に導く魔女の声だったのかもしれない。
でも私は信じてる。男爵夫人は彼が後世にその名を轟かす才能の持ち主だと確信していて、他の何を犠牲にしても世に出さねばと。それが自分の義務だと感じていたのだと。
 
「ダンスはやめられない」はそれ以上に有名な歌だと思います。
私が好きなのは最後の節、「インスピレーション、あたえなくては…」です。
自由に踊りにいけるコンスタンツェなのに、結局「芸術家たる夫のきらめきの源泉にならないといけない」という呪縛の虜。
家事を放り出して踊りに行くのに、結局従属物。
私、思うのですが、人に何かをしてもらうよりも自分でやった方が早くないですか?
…そんな葛藤を吐露した、ドラマティックな歌。
 
この日の男爵夫人は香寿たつきさん。コンスタンツェは木下晴香さんでした。
 
話、すこしだけ横ずれしますが、このシーズン、「エリザベートガラコンサート」を何度か見る機会に恵まれ、お芝居に気をとられず「音楽」も聴くことができました。
そして、「エリザベート」はその時のシーンに合わせて様々な手法(リズムや楽器など)を用いているんだなと改めて感銘しました。
何十回もみてるのにほんとごめんなさい。
「パパみたいに」はギターで田園風に、「不幸の始まり」はオルガンで教会の宗教曲風に。ロックテイストの曲あり、ヴィンテッシュのテーマは現代的な不協和音で狂気を表し…不安をそそる。

それに比べると、この「モーツァルト!」は、やや分かりやすいバリエーションは少ないんだなーと…。いやしかし上記の2曲は名曲だし、「僕こそミュージック」や「自分のこころに(正式な題名しらずですみません)」もあるし、エンタメとしては何の不満もなく楽しませていただきました。
演出もだいぶ変わったかな?小池先生の盆使いは相変わらず天才。

ヴォルフガンク役は山崎育三郎さん。この日がいきなりの千秋楽となり大熱演でした。
レオポルドは市村さん(もはや彼の他に誰がこれをやるのだ?)、コロレド大司教は山口さんというスター揃い。

誰とも話さず、飲まず食わず、感動を分かち合える友もないままま、家路に着く。
これからしばらく劇場にも行けないのね…。

才能ある人たちの渾身の舞台を観るということは、なんと贅沢なことなんだろう。
どんなにそこから力をもらっていたことか。
どうか1日も早くまた幕が上がりますように。