雑話217「シャヴァンヌ展①」
現在、東京、渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催中の「シャヴァンヌ展 水辺のアルカディア」に行ってきました。
Bunkamura ザ・ミュージアム入口
ピエール・ビュヴィス・ド・シャヴァンヌは、19世紀フランスを代表する壁画家で、リヨン美術館やパリ市庁舎など、フランスの主要建造物の記念碑的な壁画装飾を手がけました。
彼はその一連の壁画装飾のなかで、古代ローマの詩人ウェルギリウスの謳った、自然と人間の調和するアルカディア(理想郷)を基に、独自の絵画世界を創り上げました。
それでは、さっそく展覧会の注目作品をご紹介していきましょう。
最初にご紹介するのは、「労働」と「休息」という対の作品です。
ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ「労働」1867年頃
これらは、フランス北部にあるピカルディ美術館にある同名の壁画の縮小版で、1867年の万国博覧会に展示するために制作されました。
「労働」に描かれているのは、産業化される前のユートピア的集落に住む人々が、共通の利益のために、自らすすんで、満足そうに、勤勉に働いている様子です。
きこりたち、母になったばかりの女性、農夫が、中央で輪になって鉄を打つ男たちを囲んでいます。
一方、対の「休息」では、「労働」にあった鉄床が放棄され、道具類は脇に置かれ、木に掛っています。
ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ「休息」1867年頃
画面中央にはホメロスと思われる年老いた語り部が座っており、その周りで若者たちが彼の話を熱心に聞き入っています。
これは、当時の休息の主なテーマが、知識や情報の継続と伝達であり、社会の強い要求としての秩序や伝統性を強めながら、或る世代から次の世代へと受け継がれていくことを反映しています。
これらの作品は、シャヴァンヌらしいとは言え、原画である壁画の縮小版であり、壁画特有のダイナミックさに欠けるのは否めません。
そんな物足りなさを解消してくれるのが、間違いなく展覧会の前半のクライマックスである「幻想」です。
ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ「幻想」1866年
高い崖を背景にした森のなかで、腰かけた裸のニンフがペガサスを捕えようと葡萄の蔓を投げ、その近くでは子どもがリースを作っています。
この作品は、牧歌的な雰囲気を作り出し、古代の神話へといざなうシャヴァンヌの力を示す典型的なものであり、1866年のサロンではすぐさま注目を浴びました。
最も顕著だったのがその色遣いで、想像上の世界の雰囲気を見事に生み出しています。
高さが263.5cmもある巨大な作品ですが、その分細かく描き込まれているわけではありません。
しかし、近づいてよく見ると、大きいだけの単調な色面に見えた人物の肌面は、ソフトなタッチで表現された微妙な肌のニュアンスによって、物足りなさを感じることはありません。
むしろ、こうした表現が大きな壁画をうまく描くための秘訣の一つではないかと思われました。
<<次週に続く>>






