雑話272「死人となった自画像」
ゴッホやレンブラントなど、自画像は多くの芸術家に好んで描かれてきました。
今週のブログでは、そんな自画像の中でも一風変わった作品をご紹介しましょう。
「セルフ」の展覧会場、テートコンテンポラリー美術館
上の写真は、自画像ばかりを集めた「セルフ」という展覧会の会場です。
よく見ると、展示場の床に人が倒れています。これが今回ご紹介する自画像です。
作者のジェレミー・ミラーと「溺死者としての自画像」
ジェレミー・ミラーというイギリス人作家の「溺死者としての自画像」という作品です。
作家本人にそっくりに型取りされた作品には、無数の穴があけられ、ひどく傷つけられた姿でうつぶせに寝かされています。
「溺死者としての自画像」の頭部
この作品には、2つの参照作品の要素が融合されています。
アルジャーノン・ブラックウッドのホラー小説である「ドナウ河のヤナギ原」と、イポリット・バヤールの1840年作の写真作品で、自殺した姿の自分を写した「溺死者に扮した自写像」です。
イポリット・バヤール「溺死者に扮した自写像」1840年
ミラーは死人となった自分の姿を見た経験を次のように語っています。
”自分をこんな風に表現することに含まれる暗示を、十分意識していなかった。
人が決して見ることのない死者としての自分を見ることは恐怖だ。
今は少し慣れてきたが、最初に見たときはどうしようもなく動揺した。
私の亡骸が目の前にあるということは、それを見ている’私’とは誰なのかハッキリしなくなることを意味し、自分は死んでいるに違いないと本当に思った。
それは恐ろしいことだった。”
ミラーはまた、芸術家が自画像を作る理由のひとつに、そこに演じる余地があるからだとしています。
そして、それは我々が自撮りに見出すのと共通の楽しみ、つまり自分でないものになることができるということではないかと述べています。
最近はやりの自撮りにそんな要素が含まれていたとは知りませんでしたが、ミラーのように死者になりたい人は少ないのではないでしょうか?



