雑話221「ターナー展②」
先週に引き続き、「ターナー展」をご紹介いたします。
「ヴァティカンから望むローマ」は、本展の来日作品のなかでもっとも有名なもののひとつでしょう。
J.M.W.ターナー「ヴァティカンから望むローマ」1820年
この作品はルネサンス期を代表する偉大な画家ラファエロを讃えるもので、ヴァチカンの名高い回廊を訪れたのが制作の契機となりました。
サン・ピエトロ広場を見下ろす優雅な回廊は、16世紀にラファエロと弟子たちが装飾を施し、ローマ最大の名所のひとつとされていました。
ターナーは入念に観察し、記録した回廊内部のスケッチを元に、ロンドンのアトリエで最初の3つの柱間の区画を正確に描写し、ヴァティカンから東を望み、サンタンジェロ城からさらに遠くアペニン山脈を見晴らす素晴らしい景観を添えました。
当時、回廊南端の台座にラファエロの胸像が設置されていましたが、ターナーの絵では台座はもぬけの空、その代りラファエロ本人がまるで大理石の彫像から生まれ変わったように、生身の姿で登場しています。
ラファエロの周りに様々な美術品が並んでいるのは、広い分野に才能を発揮した多才ぶりを讃えるものです。
さらに、風景、建築、肖像に歴史画の要素まで採り入れ、名人芸とも呼べるような本作を描くことで、ターナー自身も技を究めた名匠であり、ラファエロの衣鉢を継ぐものであることを世間に示そうとしたのです。
本展には、ターナーの描いた水彩画も多数出品されていますが、その中には小品ながらもとても魅力的な作品がいくつもありました。
「パッシーの市門より望むパリ」もそんな魅力的な水彩画のひとつです。
J.M.W.ターナー「パッシーの市門より望むパリ」1833年
これは彼の版画集「ターナーの年次旅行」の素材として、セーヌ川に沿って旅をしながら描かれたものです。
パリの市内を遠望し、テュイルリー宮殿、ルーヴル宮殿、ノートル・ダム大聖堂を視野に収めるこの作品は、版画集のなかでパリの街を紹介する役割を果たしました。
最後にご紹介するのは、ターナーの晩年の傑作で、人生のもろさを主題としたものです。
「平和-水葬」は19世紀初頭の偉大な風俗画家サー・デイヴィッド・ウィルキーに捧げられました。
J.M.W.ターナー「平和-水葬」1842年
ウィルキーは、ターナーの人気をしのぐほどヨーロッパ全土で知られていた画家です。
1940年にウィルキーは、信仰心を強め、絵の新しい主題を探すというふたつの目的を果たすため、聖地パレスティナへ向かいました。しかしその旅行の帰り道に、彼はジブラルタル沖の船中で急死し、水葬にふされました。
この絵には人影ひとつ見えず、解説がなければそこで何が行われているのかわかりませんが、ターナーはウィルキーの水葬を描くことで、静寂、内省、宿命といったテーマを見事に表現しています。
船と鑑賞者との距離は、人間にはなすすべもない出来事の力を、逆光や黒い影は死を象徴しています。
もう一つ象徴的なのが前景を飛ぶ鳥です。
おそらくはマガモ(mallard)で、ターナーのミドルネーム(Mallord)の洒落になっており、これによってターナー自身が絵の中に入って水葬に立ち会い、死者を悼むことになっています。
ターナー展(神戸展)
2014年1月11日~4月6日
神戸市立博物館






