雑話222「ラファエル前派展①」
現在、東京六本木の森アーツセンターギャラリーで開催中の「ラファエル前派展-英国ヴィクトリア調絵画の夢」に行ってきました。
ラファエル前派は、19世紀のイギリスにおいて、マンネリ化した当時の主流の美術を批判した若手作家たちが、ラファエロの美術以前の初期ルネサンスの美術を理想として取り組んだ芸術運動で、歴史画や風景画を華やかで正確なタッチで描きました。
それでは、早速本展の注目作品をご紹介していきましょう。
最初の作品は、ウィリアム・ホルマン・ハントの「クローディオとイザベラ」です。
ウィリアム・ホルマン・ハント「クローディオとイザベラ」1850-53年
ハントはラファエル前派の3人のリーダーのうちの1人です。この作品は、シェイクスピアの戯曲「尺には尺を」から主題を得ています。
青年貴族クローディオは死刑を免れるために、修道女になったばかりの妹イザベラに、領主代理のアンジェロに純潔をささげるように懇願します。イザベラはその申し出を断り、心穏やかに運命を受け入れるようにクローディオをなだめます。
ここではハントの特色である道徳的象徴主義の世界が展開されており、この時代に盛んになった売春の問題が取り上げられています。
次もラファエル前派のリーダーの1人、ジョン・エヴァレット・ミレイの作品ですが、この「マリアナ」も「尺には尺を」に基づいています。
マリアナは持参金が海の藻屑と消えたため、浅はかな許婚アンジェロに見捨てられ、悲嘆にくれています。
ジョン・エヴァレット・ミレイ「マリアナ」1850-51年
刺繍に長時間打ち込んだ後マリアナが立ち上がって背を反らせると、胴に巻いた艶やかなベルトが下腹に向かってずり落ち、後ろの部分は腰にまとわりついて臀部を強調します。
ここでは官能性もあらわに、自然なポーズで女性の性衝動を素直に表しています。
植物の文様と様々な動物をモティーフにした質感豊かな金色の壁紙に縁取られ、マリアナは、祭壇に安置されたかのような縫いかけの花柄の刺繍を前に、塀に囲われた庭の景色をかいま見せるステンドグラス入りの窓枠で前面を遮られています。
室内に閉じ込められてマリアナの官能的な本性は否定され、信仰も救いをもたらしません。
「マリアナ」はラファエル前派ならではの描写の迫真性があり、時と場所の具体性も十分感じさせるものの、複雑な心理描写が際立っています。
今週最後の作品も、ミレイの作品で、恐らくラファエル前派全体の代表作ともいえる「オフィーリア」です。
ジョン・エヴァレット・ミレイ「オフィーリア」1851-52年
この作品もシェイクスピアの戯曲「ハムレット」から題材を得ています。「オフィーリア」はラファエル前派が初期に主張した方針のすべてに合致しています。
ミレイが創造力豊かに視覚化したハムレットの悲運な恋人の死は、16世紀後半の文学の出典、特別に考案された衣装、そしてオフィーリアの姿そのものを通じて過去を彷彿とさせます。
オフィーリアはゴシックの墓石の彫像のように硬直して仰向けに横たわり、彼女の墓となる水に浮かびつつ身を浸し、鮮やかに花を咲かせる草木に絡まれ、自ら拒んだ生命の素晴らしさを雄弁に語る色とりどりの花々に飾られています。
この作品は、自国の主題をもとに、芝居の一場面をあたかもそれが現実の出来事のように扱うラファエル前派の歴史画の斬新な特徴を後世に伝えるものとなりました。
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