雑話225「謎だらけ『アルノルフィニ夫妻の肖像』」
先々週のブログに、絵の中の鏡のしかけの一例として、ファン・エイクの「アルノルフィニ夫妻の肖像」をご紹介しました。
ヤン・ファン・エイク「アルノルフィニ夫妻の肖像」1434年
しかし、その絵自体については何も説明もしませんでしたので、今週はその有名な絵をご紹介することにします。
作者のヤン・ファン・エイクは、15世紀のベルギーの古都ブリュージュで活躍した画家で、油絵の技法を確立した人物だとされています。
ファン・エイクは、その精緻な写実力で当時の風俗や社会の要素を克明に描き出しました。
「アルノルフィニ夫妻の肖像」もそうした傑作のひとつで、当時の結婚式を描いたものです。この絵はまた、謎だらけの絵としても有名で、絵の中にはさまざまな仕掛けがほどこされています。
この結婚式の絵で、まず目に付くのが、妊婦のような大きなおなかに手を添える新婦です。実は、彼女は妊娠しているわけではありません。
「アルノルフィニ夫妻の肖像」の新婦
当時のヨーロッパでは、妊婦のような体形が究極の女性美を表すと考えられていたため、女性たちは腹のまわりに詰め物をして美しさを競っていたのです。
実は、その頃のヨーロッパ全土で、ペストが猛威をふるい人口が激減しました。そうした死の恐怖の裏返しで、新しい生命を求める風潮が強まると、その象徴的なスタイルとして女性の妊娠したスタイルが流行したのでした。
さて、先々週のブログで例にあげた仕掛けの鏡は、新郎新婦の間に描かれています。鏡の中にはよく見ると、新郎新婦と彼らに向かい合っている青い服の人物が描かれています。
中央の鏡のアップ
この青い服の人物は、この絵の作者であるファン・エイクその人です。彼は、結婚立会人としてここにいたのです。
この鏡の上の壁には、ラテン語で画家のサインが書いてあります。
絵の中の壁に記された画家のサイン
絵の真ん中に画家のサインがあるのは、不自然な感じがしますが、実はこれも単なる作者としてのサインというだけではありません。
絵の中の壁の署名は、画家が確かに結婚に立ち会ったことを証明するもので、この作品は結婚証明書の役割も果たしているのです。
この絵が描かれた当時では、身分の違う男女が結婚する場合は、立会人が必要とされていたからです。それは、新郎新婦のポーズにも表れています。
通常は握手するように右手で右手をとるのですが、ここでは男性の左手で女性の右手をとっています。これは、身分か家柄が違う結婚を示しているのです。
他にも仕掛けが色々ありますが、それはまた別の機会にご紹介しましょう。この場面に不似合いな小道具が、どんな意味があるのかを想像してみるのも面白いかもしれませんね。




