雑話240「ピカソの『貧しき食事』」
下の図はピカソの「貧しき食事」と題された版画作品です。
パブロ・ピカソ「貧しき食事」1904年
「これがピカソ?」とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、「貧しき食事」は恐らくピカソの制作した中で最も有名な版画といってもいいでしょう。
このエッチング作品は、「青の時代」と呼ばれるピカソの初期の時代のものです。
1901年から1904年の間、ピカソはまるで自分と世界と間にフィルターを置いたかのようにすべてを青くみていました。
パブロ・ピカソ「盲人の食事」1903年
※当時ピカソは盲人のテーマに憑りつかれていました。
このテーマによって、ピカソは真実の視覚とは心の目で見ることだといっています。
この「青」はある決まった特別な感情を表現しており、夜の色、海の色、空の色、深く冷たい悲観と不幸の色、絶望の色を表していました。
ここでは、パンとワインのみの粗末な食事を前にして、盲目の男性がそばにいる伴侶に慰めを求めています。
「貧しき食事」の盲人とその伴侶
このような人間描写は「青の時代」の典型的なものですが、ピカソの驚異的なエッチングとクロスハッチングの技術によって、真の名作と呼ばれるにふさわしい作品なっています。
さて、この作品、先月の23日にロンドンのオークションで落札されました。その額なんと120万2500ポンド、日本円にして約2億1千万円です。
ピカソのもっとも有名な版画とはいえ、この数字はちょっと異常です。
事実、これは数年前の20倍近くも高いもので、ピカソの市場が恐るべき勢いで高騰しているのかと驚きました。しかし、よくよく調べてみると、本当の理由は別にありました。
この「貧しき食事」、普通のヴァージョンとは違い、ごく限られた数だけ摺られた希少なものだったのです。
パリに出てきたばかりの若い頃のピカソ
ピカソがこの作品の原版を制作したとき、彼は金銭的な問題から、あまり品質の良い銅版を使いませんでした。ピカソはこの原版で、少量の数の版画を摺りました。その数は30部とも言われています。
その後、この原版はピカソの作品を扱っていた画商であるヴォラールに売却されました。原版を入手したヴォラールは更なる印刷に耐えられるように、原版に薄い鉄の被膜をコーティングする補強を施しました。
作品を吟味するヴォラール
この補強によって、この原版は多くの印刷に耐えられるようになりましたが、彫りが浅くなったため、版画の摺りが弱々しくなりました。
補強前に摺られた作品で現存しているものの数は非常に少なく、ほとんどが公的な美術館に所蔵されています。
しかも、これらの最初に摺られた作品には、ピカソが元々意図したグラフィックの効果やニュアンス、3次元性などをはっきりと見ることができ、その後に摺られたものとは比較にならないほど高い評価をされているのです。
この作品は特別ですが、ピカソの市場は21世紀に入ってからずっと強いですね。普通のヴァージョンの「貧しき食事」もこの数年で倍になっています。この傾向はまだしばらくは続くと思います。




