雑話93「ミロ・・・不思議な記号の世界」
先週のダリに引き続き、今週もシュールレアリストのホアン・ミロをご紹介しましょう。
ミロの絵に描かれる奇妙な形。それはでたらめに描かれた子どもの落書きのようであり、何かの形を表しているようでもあります。
ホアン・ミロ「青空の黄金」1967年
多くの場合、それらの形は具体的なものを象徴した記号なのです。
ミロの初期の作品である「農園」を見れば、彼がなにをどのように簡略化したかが良く分かるでしょう。
ホアン・ミロ「農園」1921-22年
この簡略化を発展させた作品が「耕地」です。ここにも「農園」で描かれたトカゲやカタツムリなどがいますが、作品にリズムが出るようにその数を限定し、背景もさらに簡略化しています。
ホアン・ミロ「耕地」1923-24年
これらの図像を良く見ると、現実にはありえない姿に変えられており、シュールレアリスムの影響が見られます。
「アルルカンのカーニバル」になると、図像の簡略化がさらに進み、描かれている対象が何か分かりづらくなっています。
ホアン・ミロ「アルルカンのカーニバル」1924-25年
ミロのアトリエが舞台と思われますが、「農園」では実際にある風景を元に描かれていたのに対して、ここではミロの幻影をもとに描かれています。
1925年から27年にかけて、ミロは現実と夢の世界の境界線を取り払い、自らの芸術において一つの大きな統合を果たしました。
彼の作品は次第に抽象的なものとなり、非合理な刺激や入眠時のビジョンをもとにした表現などが見られるようになりました。
ホアン・ミロ「月に吠える犬」1926年
上の作品は描かれているものの外観ではなく、そこに含まれる深い意味が理解できるかどうか、鑑賞者の力が試される作品です。
ここに登場する「地上と天球を結びつけるはしご」は、無意識の未知なる領域に到達することのできる逃亡へのドアだと言われています。
このはしごは1940年から制作された有名な「星座」シリーズに多く登場しますが、それは第2次世界大戦が近づくのを感じたミロが直面する厳しい現実を乗り越えるために描いたのではないでしょうか?
この「星座」シリーズは、いずれもクラシック音楽のように美しくリズミカルな作品で、青みがかった背景が色あざやかで流麗な唐草模様のような文様を引き立たせています。
ホアン・ミロ「恋人たちに未知の世界を明かす美しい鳥」1941年
様式化された図像は音符を思わせ官能的なリズムが画面いっぱいに広がっていますが、クラシック音楽に惹かれたミロが視覚的なメロディーを作曲したかのようです。
「星座」シリーズを完成させたあと、ミロはよりすばやく思いのままに絵を描くようになりました。そして、最初に任意に描いた点や線をもとに、なりゆき任せで制作を始めるというスタイルをとるようになりました。
それらは図像を極度に単純化し、明るい背景に純色で描いた目や星、鳥、太陽をバランスよく配置したもので、この作風が現在もっとも一般的なミロの作品のイメージでしょう。
こうして確立されたミロのスタイルは一見難解のようですが、単純化された図像や純色を小気味良く配置した彼の作品は、たとえ何も知らなくても見ているだけで様々な精神的刺激を与えてくれます。






