雑話128「芸術とスポーツ」
ロンドンオリンピックをこの夏に控え、代表選考などのオリンピック競技に関する話題が多くなってきました。
そこで、今週はスポーツを題材とした芸術について、取り上げてみたいと思います。
スポーツを表現した最も有名な芸術作品としては、まさにオリンピック発祥の地でもある古代ギリシャの彫刻でしょう。
「ディスコボロス(円盤を投げる人)」紀元前450年頃
アテネの彫刻家ミュロンが原作とされる「ディスコボロス(円盤を投げる人)」は、実はローマ時代に多く作られたコピーの一つです。それでも原作の素晴らしさは十分伝わってきます。
ここでは若い競技者が今まさに重い円盤を投げようとする瞬間が表現されています。その姿勢があまりにもみごとに決まっているので、現代の選手がこれを手本にして、ギリシャ式の円盤の投げ方を学ぼうとしたほどです。
しかし、これは芸術作品であり、スポーツフィルムのひとコマではありません。ミュロンはみごとな運動感を表現するために、身体の各部分をそれぞれの特徴が最も良く見て取れる視点からとらえ、それを組み合わせて人間の像を作り出しました。だから、この像が円盤を投げるのにもっとも適した動きを示しているかは問題ではないのです。
さて、これ以降でスポーツを表現した有名な作品となると、印象派の時代まで待たねばなりません。以前にも書きましたが、18世紀半ばまで作品の題材は注文主が決めるものであり、芸術家は注文主の意向を反映した作品さえつくっていればよかったからでしょう。
印象派の画家たちは当時の華やかな都市生活を描きました。その中のひとつが競馬です。1857年にロンシャンの競馬場が開かれて以来、競馬場は貴族を気どる新興の富裕なブルジョアたちの重要な社交場でした。
エドゥアール・マネ「ロンシャンの競馬」1864年
マネはロンシャンをテーマに数点の作品を描いています。競馬のレース自体を独特の視点から劇的な効果のうちにとらえながらも、観客席の着飾った人々にも同等に目を向けています。
マネ以上に競馬場をテーマにした作品を多く手がけたのがバレリーナの絵で有名なドガです。バレリーナの動きと同様に、ドガは馬の動きを正確にとらえようとする一方、観客の姿も時折画面の中に取り込んでいます。
エドガー・ドガ「競馬場-アマチュア騎手たち」1876-87年
ボート遊びも当時のパリ郊外で流行した余暇の過ごし方の一つでしたが、ボートをスポーツとして自ら熱中したカイユボットは男たちのボート漕ぎをしばしば作品の題材に取り上げました。
ギュスターヴ・カイユボット「イエール河でボートを漕ぐ人」1877年
彼はドガの絵に見られるような、画面の片側に消失点をおいた極端な遠近法表現を、モネやルノワールに倣った印象派の色彩効果に取り入れ、ボートと岸、櫂(かい)と人物を巧みに組み合わせています。
印象派がスポーツを取り上げた以後も、スポーツを題材とした芸術作品はあまり制作されず、唯一有名なものとしてはデュフィの競馬を描いたものがある程度です。
ラウル・デュフィ「アスコットのレース」1938年
スポーツは芸術作品として表現するには、どうやら難しい題材のようです。




