雑話150「シャルダン展ー静寂の巨匠」
東京出張を利用して、「シャルダン展-静寂の巨匠」にいってきました。
会場である三菱一号館美術館の入り口は、都会のなかの小さなオアシスのような庭園の中にありました。
美術館も古い建物を利用した趣きのあるもので、静寂の巨匠と銘打ったシャルダンの展覧会の会場にふさわしい空間を提供していました。
ジャン・シメオン・シャルダンは18世紀のフランスを代表する巨匠で、静けさで満ちた静物画や風俗画でよく知られています。
それでは、今回も個人的に気になった作品を中心にご紹介していきましょう。
まずはじめに、この展覧会のポスターにもなっている「食前の祈り」を見てみましょう。これは、彼の作品の中でもっとも有名なものの一つです。
ジャン・シメオン・シャルダン「食前の祈り」1744年
シャルダンは、年上の女の子が物欲しそうに皿を見ながらお祈りをしている隣で、男の子が手を合わせて母親をじっと見ている様子を描きました。
こうしてシャルダンは聖と俗を混在させ、視線のトライアングルによって、繊細で静かな日常生活のシーンに、鑑賞している我々を参加させているのです。
次の「病後の食事、別名思いやりのある看護人」もシャルダンらしい、静かで厳かな雰囲気のある作品です。
ジャン・シメオン・シャルダン「病後の食事、(別名)思いやりのある看護人」1747年
繊細に、穏かに描かれてた画面は、丹念に、滑らかに仕上げられていて、この作品の持つ気分が、優しく、内的で、瞑想的なものになっています。
ところで、シャルダンがこうした風俗画を描いた期間は、彼の画業の中の一部でしかありません。彼の風俗画は人気があったにもかかわらず、シャルダンは風俗画を描くのをやめてしまうのです。
当初、静物画で成功したシャルダンでしたが、静物画より高い地位を与えられていた風俗画を描くことは、さらなる収入と成功が期待できました。
結局、不本意な風俗画を描いていた15年間は、シャルダンにとって満足できるものではなかったようで、その後の20年間は、自分の風俗画のレプリカを除いて、好きな静物画の制作に専念したのでした。
「二匹の兎」はシャルダンが静物画に回帰してからの作品です。ここに描かれているのは、狩猟の獲物である2匹の死んだ子兎と獲物袋、火薬入れです。
ジャン・シメオン・シャルダン「二匹の兎」1755年
現代人にとって、動物の死体を描いた絵は悪趣味なものかもしれません。
しかし、シャルダンの柔らかなタッチで描き出された兎たちは、慎みと優しさ、情愛と哀れみに包まれ、残酷で罪のない死を喚起させます。
「木いちごの籠」は、シャルダンの静物画の魅力にあふれた作品です。
ジャン・シメオン・シャルダン「木いちごの籠」1760年
木いちごが作るピラミッドと、その横に並んで置かれた水の入ったコップ、2本のカーネーション、そしてさくらんぼがふたつと桃がひとつ。見た目にはシンプルな構成です。
しかし、よく見ると、グラスの透明さと水の透明さの繊細な表現、そして木いちごの赤とカーネーションの白、茎の緑、そして柳の籠の黄土色の調和などが、とても大胆な表現であることがわかります。
この意表をつく自由さは、瞑想的で内省的で、対象に対する愛情にあふれており、観るものに感動を与えてくれます。
シャルダンの作品を見ると、何の変哲もない家庭の用具も、見て美しいものになりえることに気づかされます。
それはシャルダンの礼讃者たちのいう”シャルダンの魔術”のせいかもしれません。
「シャルダン展-静寂の巨匠」
三菱一号館美術館(東京・丸の内)
2013年1月6日まで







