雑話164「ウォーホル②、コミックと映画スター」
初期のウォーホルの第2の主要なテーマは、アメリカのコミックでした。いくつかの例外はありますが、コミックを元にしたほとんどの作品には、同性愛のテーマがこっそり忍ばされていました。
例えば、彼の「ディック・トレーシー」には、トレーシーと彼の相棒である、サム・キャッチェムの横顔が描かれています。
アンディ・ウォーホル「ディック・トレーシー」1961年
原画のシーンと比べてみると、微妙ですが、はっきりとわかる変更が加えられています。
ウォーホルは、キャッチェムの鼻の形を崩し、顎を小さくすることで、ふたりの顔の違いを際立たせています。
チェスター・グールド「ディック・トレーシーと極悪写真家事件、パート1」1961年
理想的な外見のトレーシーに対して、ウォーホル自身がコンプレックスを持っていた、見苦しい鼻のキャッチェム。
トレーシーに性的な魅力を感じていたウォーホルにとって、この作品は顎が立派な男性に対する妬みや憧れを表していると思われます。
つまり、コミックのテーマは、同性愛者であることを悟られることなく、かつて受入れられなかった”美しい男性を描くこと”への興味を具現化する手段を、ウォーホルに提供したのです。
しかし、ウォーホルはリキテンスタインが同じようにコミックをテーマにした作品を制作しており、まもなく個展を開こうとしていることを知って、このテーマの作品制作を断念します。
そこで、今度は男性映画スターの肖像を使って、同性愛への願望を表現することを思いつきます。
アンディ・ウォーホル「エルヴィスⅠ&Ⅱ」1964年
このテーマは、ハリウッドの魅惑とそこに集う人々の名声に対して、ウォーホルが長い間抱き続けた執着心を表現できるという利点もありました。
一般的な鑑賞者は、「エルヴィスⅠ&Ⅱ」のような作品を、そういう視点だけで捉えましたが、ゲイの人々は、エルヴィスのラベンダー色のズボンや厚化粧が示唆するように、エロティックな刺激を一般人の視点と同様に楽しみました。
「エルヴィスⅠ&Ⅱ」(部分)
ウォーホルがこの肖像を選んだのは、カウボーイがバイク乗りやボディビルダーのように、ゲイの官能作品のお決まりの登場人物だったからです。
特に、拳銃にホルスターをもったカウボーイは、見たとおりの象徴的な理由で人気でした。
彼はまた、マリリン・モンローやエリザベス・テイラーのような、当時を代表する女性のセックスシンボルも描きました。
アンディ・ウォーホル「撃たれた青いマリリン」1964年
しかし、ウォーホルが彼女らの性的な魅力に惹かれていなかったことは、彼が選んだ素材のイメージからも分かります。
例えば、モンローの作品のために選ばれたのは、刺激的な態度でカメラを引きつける方法を知っている、曲線美で有名な女性のものではなく、曖昧で静観的な薄笑いを浮かべた顔写真でした。
ウォーホルの作品に使用されたマリリン・モンローの写真
ウォーホルは、2重の意味でマリリンに関心がありました。
ほとんどの人が即座に思いつくように、彼女はウォーホルを含む、20世紀半ばの数えられないくらい多くの一般的なアメリカ人が熱烈に憧れた、名声と魅惑の象徴でした。
しかし、ウォーホルはまた、マリリンを彼のもう一つの執心物である「死」と関連づけていました。
1962年の8月のマリリンの自殺が、ウォーホルに彼女の美しい顔の作品を描こうという考えを思いつかせたのです。
彼のエリザベス・テイラーの肖像にも、同じ2重の関心が含まれていました。
ウォーホルは、彼女がクレオパトラを演じている間に、死に掛けているという噂が流れた1962年、彼女が入院しているときに、制作を始めたのです。





