雑話168「モディリアニ、近代のマニエリスト」
今年2月のロンドンの印象派オークションでは、サザビーズとクリスティーズそれぞれで40億円前後の作品が1点ずつ落札されました。
今週は、そのうちの1点であるモディリアニの「(帽子をかぶった)ジャンヌ・エビュテルヌ」を取り上げてみたいと思います。
アメデオ・モディリアニ「(帽子をかぶった)ジャンヌ・エビュテルヌ」1919年
※£26,921,250(約39億3000万円)で落札
ジャンヌ・エビュテルヌは、モディリアニが亡くなる直前まで一緒だった内縁の妻で、ふたりの間には娘も1人いました。
彼女の写真と比べてみると、画中の女性像とは随分違いますが、モディリアニの肖像画は単にモデルをそっくりに描こうとしたものではないからです。
ジャンヌ・エビュテルヌの肖像
モディリアニは、肖像画をモデルに似せることと同様に、その内面のイメージ、人間性の理想化された一面を探求する手段として使っていました。
このジャンヌの像には、宗教的ともいえるような優雅さが漂っています。これは彼女がモディリアニの生活の中で果たした役割を反映したものかもしれません。
大抵はうまくいきませんでしたが、ジャンヌはモディリアニを麻薬や飲酒といった最悪の誘惑から救い出しました。彼女は彼にとっての安定の要素であり、徐々に健康を害していったモディリアニを癒すこともできました。
生活の中でのジャンヌの救済は、この絵の中で彼女がとっている聖職者のようなジェスチャーなどに、詩的な捉え方で体現されていて、それは聖母マリアに似ています。
また、この絵を満たす並外れた静けさの感覚は、モディリアニが心を奪われた仏教美術を反映したものです。
さて、そんな彼女が右腕でとっているジェスチャーは、何を意味しているのでしょう?
「(帽子をかぶった)ジャンヌ・エビュテルヌ」(右腕の部分)
礼拝しているようでもなく、誰かを拒絶しているようにも見えない不思議なジェスチャーは、ほとんど宗教的です。
その腕は観者の視点をリードすると同時に、絵の構図をよりダイナミックなものにしています。
この時期に描いたジャンヌの肖像の多くは、曲線を強調されています。ここでも、ジャンヌの首のしなやかなカーブや彼女の身体の緩やかなうねりは、キャンバスを曲がりくねって流れ落ちていて、作品にアクセントを与えています。
こうした特徴から、モディリアニの晩年の作品は、引き伸ばされた人体が特徴の16世紀のマニエリスムのスタイルであるともいわれます。
パルミジャニーノ「長い首の聖母」1534-40年
※マニエリスムの代表的な画家
古典的な要素を取り入れたモディリアニの理想の女性像は、自らの恋人の肖像を超えて近代美術の聖母像となったのです。



