進学校に1年通って、底辺の順位をウロウロしていた生徒の入塾面談がありました。
ちょうど春休みに入る頃、部活動と補習の日程についてお母様に尋ねました。
「春休みは補習が無くて、部活動は午後からと決まっています」
「もしかして1年で唯一補習が無い時期になるんですかね?」
「そうですね。1年通わせて分かりましたけど、そうだと思います」
「じゃあ来週の午前中は、毎日来て頂けませんか?私が数学を5回指導したいです」
この春休みを逃すと、上昇するタイミングを失ってしまう。
心中にはそんな危惧がありました。
週が明けて月曜日、日に焼けた利発そうな生徒がやってきました。
学校から出された大量の課題を、全く習っていないものとして考え、順番を変えて指導しました。
まずは基本レベルのみできるように繰り返しました。
進学校の生徒だけあって飲みこみの早さは流石でした。
これが1つ下の今から入学する生徒だったら、本当に言うことありません。
彼は1年間勉強から逃走して、部活動と遊びに精を出していたようでした。
20年ほど前に似た高校生がいました。
中3の高校入試を推薦でいち早く終えて、毎日遊びまわり、
入学式の「四当五落」の話を、半ばシラケた気持ちで聞き流し、
部活動は本気で取り組みましたが、勉強は中学の延長線でのみ行いました。
それでもそこそこ行けるだろうと高をくくっていたら、
下位に低迷して高2の時に選抜クラスに入ることができずに一般クラスへ。
中学の同級生からは「え、本当に?」と聞き返される始末。
高2から取り返すものの、志望していた旧帝大には届かなかった生徒です。
急に自伝を書いてしまいました。悪しからず。
したがって彼の気持ちはよく分かる大人の一人ではないかと思います。
「2年かけてしっかり取り返そう」
「焦ることなく一歩一歩毎日積み重ねよう」
「これくらいでいいだろう!とナメ無い方がいい」
そして4月から正式入塾。中根先生にバトンタッチしました。
ただ彼にはもう一つ難題がありました。
それは本当は理系に行きたいのに、文型選択を前年の秋にしてしまったこと。
学校に掛け合っても、理系クラスへの転籍は認められないとの話でした。
「文転はともかく理転は難しいよ。経済系の学部などは数字を用いるので、数学が得意・好きというのを文系分野で発揮してはどうだろうか?物理や数Ⅲを学校の助けなしに習得するのは無理だなあ」
納得はしていないものの止むを得ないという表情でした。
しかし6月くらいでしょうか。
お母様から電話がありました。
「ダメ元で工学系を目指したいと言う話になっています。物理も取りますし数学も増やします。どうかお願いできないでしょうか?」
夏から中根先生の数学を週2回。谷口先生の物理を週2回に増やしました。
特に物理は教科書から購入して、一からの授業です。
当時大学1年生だった谷口先生は、ある意味入試の常識みたいなものに染まっていません。
「そんなに物理をしたいという生徒がいるなら、喜んで担当します!」
舗装された道ではない、細い細い獣道が始まりました。
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