ファイル共有ソフト「ビットトレント」を使用してインターネット上に動画を公開することが著作権侵害にあたるとして、プロバイダ責任制限法に基づき発信者情報の開示を求めた訴訟の控訴審判決が知的財産高等裁判所であった。(知財高裁令和6.5.16)

 

判決は、一審判決と同様に著作権侵害を認めた。

この判決で注目すべこことは、ハンドシェークの通信に含まれる情報もプロバイダ責任制限法5条1項の権利侵害に係る発信者情報に該当するかである。

 

まず、ビットトレントによりファイルの共有は、対象ファイルに対応したビットトレントネットワークを形成し、これに参加した各ピアが、細分化された対象ファイルのピアを互いに送受信して徐々に行われるから、その送受信に係る通信の数は膨大に及ぶことが推認できる。

 

しかるところ、ピースを現実に送受信した通信に係るものではなくては「権利の侵害に係る発信者情報」にあたらないとすると、

 

ビットトレントネットワークにおいては著作物を無許諾で共有された著作権者が侵害の実情に即した権利行使をするためには、ネットワークを逐一確認する多大な負担を強いられることとなり、

 

前記のとおり法5条が加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることとした趣旨や、著作権法23条1項が自動公衆送信の前段階というべき送信可能化につき権利行使を可能にした趣旨にもとることになりかねない。

 

他方、ハンドシェークの通信は、その通信に含まれる情報自体が権利侵害を構成するものではないが、

 

専ら特定のファイルを共有する目的で形成されたビットトレントネットワークに自ら参加したユーザーの端末がピアとなって、他のピアとの間で、自らがピアとして稼動したピースを保有していることを確認、応答するための通信であり、通常はその後にピースの送受信を行うものである。

 

そうすると、ハンドシェークの通信は、これが行われた日時までに、当該ピアのユーザーが特定のファイルの少なくとも一部を送信可能化したことを示すものであって、送信可能化に係る情報の送信と同一人物によりされた蓋然性が認められる上、

 

当該ファイルが他人の著作物の複製物であり権利者の許諾がないときは、ログイン時の送信に代表される侵害関連通信と比べても、権利侵害行為との結びつきはより強いということができ、

 

発信者のプライバシー及び表現の自由、通信の秘密の保護を図る必要性を考慮しても、侵害情報そのものの送信に係る特定電気通信に係る発信者情報と同等の要件によりその開示を認めることが許容されると解される。

 

以上によると、「本件各発信者情報は、法5条1項にいう『当該権利の侵害に係る発信者情報』にあたると解するのが相当である。」とした。

 

一審判決についてはこちらで

 

 

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