建設現場でアスベスト(石綿)を吸って健康被害を受けた元建設作業員と遺族が国などに損害賠償を求めた訴訟の上告審判決が最高裁判所であった。(最判令和3.5.17)

 

判決は、国と建材メーカーの賠償責任を認めた。

この判決で注目すべきことは、共同不法行為責任(民法719条1項後段)に関してである。

 

まず、民法719条1項後段は、因果関係以外の不法行為の要件を備えた複数の加害者が、いずれも、それのみで他人の権利または法律上保護される利益を侵害する結果を惹起し得る行為を行ったが、いずれの行為によって損害が発生したか不明である場合に、

 

「因果関係の立証責任を加害者に転換して、加害者が自らの行為と損害との間に因果関係を証明しない限り、加害者らに連帯して損害賠償責任を負わせる趣旨の規定であると解される。」

 

このように、同項後段が因果関係の立証責任を転換し、これを規定する規定を設けたのは、被害者の権利または法律上保護される利益の侵害を発生させる具体的な危険を惹起する行為をした者がある場合、経験則上それだけで行為と損害との間の因果関係を推定し得るにもかかわらず、たまたま他の同等の危険を生じさせる加害行為をした者がいる場合には、

 

相互に因果関係の推定が妨げ合い、いずれについても被害者がする因果関係の証明が不十分となり得る事態が生じることから、被害者を救済する必要があるとともに、加害者側にも権利または法律上保護される利益を侵害する具体的な危険を惹起したという事情が備わるため、推定を認めても必ずしも責任主義に反することとならないからであると解される。

 

そうすると、「同項後段が適用されるためには、各加害者の行為が、経験則上、それのみで生じた損害との間の因果関係を推定し得る程度に具体的な危険を惹起するものであることを主張立証する必要があると解される。」としている。

 

第719条(共同不法行為者の責任)

 

1.数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。

 

共同不法行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。

 

2.行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

 

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