冤罪事件を生んでしまうのには、私たち弁護士にも責任がある | 早川忠孝の一念発起・日々新たなり 通称「早川学校」

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弁護士・元衆議院議員としてあらゆる社会事象について思いの丈を披歴しております。若い方々の羅針盤の一つにでもなればいいと思っておりましたが、もう一歩踏み出すことにしました。新しい世界を作るために、若い人たちとの競争に参加します。猪突猛進、暴走ゴメン。

如何にも悪いのは捜査当局と裁判所だ、などと大見得を切るのは少々憚られる。

冤罪事件を生み出すのは捜査当局と裁判所で、弁護士は関係ない、と弁護士会を代表するう立場では言いたいところだが、そうでもない。
個々の弁護士の弁護が適切であったか、という問題もあるが、弁護士の能力云々を問う以前に重要な問題がある。

果たして冤罪にあたるかどうかは現時点では何とも言えない、ということをお断りしたうえで、先日の日本の司法を正す会で、高知白バイ警官死亡事故で業務上過失致死罪に問われた片岡さんからお聞きした話をご紹介しておく。

「無実だと訴えているのに、高知の弁護士さんは誰一人として弁護を引き受けてくれなかった。」
「警察と争っても勝てない、とみんな逃げてしまった。」
「事件を引き受けてくれたのは、よその弁護士さんだった。行政処分は争っても仕方がないだろうと争わなかったら、結局それが自分の業務上過失事件の裁判で自分が前方不注意を認めていた、と認定される根拠にされてしまった。」

片岡さんが本当にすべての高知の弁護士のところに相談に行かれたのかどうかは分からないが、片岡さんの話を聞いてくれる弁護士が身近にいなかったことだけは間違いないようだ。
刑事事件に強い弁護士へのアクセスが出来なかった、というところに問題がある。
どこの地区にもそれなりに刑事事件を得意にしている弁護士はいるのだが、相手が警察ということになるとほとんどの弁護士が話を聞いてくれなくなる、という実態が垣間見えてくる。
常に権力とは一定の距離を置いている権力対峙型弁護士が地方では少なそうだ、という状況がなんとなく伝わってくる。

地方では、弁護士会と裁判所、地方検察庁との間では様々な交流の機会があり、お互い顔なじみになっている。
多分、弁護士と警察の間でもそれなりの交流があるはずだ。
弁護士が警察や検察に迎合したり、警察や検察と癒着しているとまではいかなくても、様々な事件を通じて相当親密な関係になっている可能性もある。

地方の有力者になればなるほどそういう関係が出来てしまう。

片岡さんの弁護を引き受けてくれる適切な弁護士が早い段階に現れなかったために、適切な証拠保全や証拠収集が行われず、結果的に本来なら業務上過失とまでは認定されなかったはずの事件が有罪になったのだとしたら、私たち弁護士の方にも責任の一端はある、ということになるのではなかろうか。

片岡さんは、現場に駆け付けた同僚の白バイ警察官に取り囲まれて、いきなりその場で現行犯逮捕され、パトカーに乗せられて現場から連れ去られたという。
実況見分は、片岡さんの立ち合いがないままに行われ、実況見分が済んだ後で片岡さんは事故現場に連れてこられ、パトカーの中から位置関係の特定のための指示を求められた、ということである。

何故片岡さんにパトカーを降りて現場を確認させなかったのか、何故実況見分の際に警察側の関係者だけの指示に基づいて実況見分調書を作成したのか、何故実況見分に片岡さんを立ち会わせなかったのか、などなどの不審が残る捜査だったようだ。

弁護人が付いていたとしてもどうしようもなかったかもしれないが、それでも弁護士が付いていれば、もう少し丁寧な捜査になっていたはずである。

再審請求は昨年却下され、現在即時抗告中だという。
無罪の判決が言い渡されているわけではないから、高知白バイ事件を冤罪だと断定するわけにはいかないが、今日の事態を招いている原因の一つに弁護士会側の問題もありそうだ、ぐらいなことは言っておいてもよさそうである。