今日は5月3日の憲法記念日だが、憲法記念日に相応しい特集を組んでいるのは朝日で、読売などは通り一遍の憲法改正議論を展開しているだけで殆ど読むところがない。
私たちは、どうも錯覚していたようだ。
権利と言うから、何かとてつもなくいいことのように思って、その権利を自分も行使したい、権利があるのに行使できないのだったらそれは権利がないのと同じことになるのではないか、という論者が現われたのではなかろうか。
あれはそもそも権利ではなく、国際的な約束事や取り決めに基づく義務の履行でしかないのではないのか。
これまでの集団的自衛権論議を根底から引っくり返すような問題提起だが、私は集団的自衛権問題を「国家の権利」の問題として捉えることに消極である。
集団的自衛権論議が対象としているのは、もっぱら他国の防衛のための措置、より具体的には日本と同盟関係にあるアメリカの防衛のための措置であって、直接的には日本の防衛のための措置が問題になっているのではない。
「権利」の問題として考えるから問題がややこしくなる。
権利性の外装を取り除いて、単なる「事実上の措置」だと思って議論する方がいい。
自国に対する直接の攻撃がなくとも、自国の安全保障のために自国と密接な関係にある国に対する攻撃を自国に対する攻撃と見做して反撃する、あるいは具体的攻撃が行われる前に必要な防御的措置を講じる、というのが集団的自衛問題の本質だろう。
国連憲章の書きぶりから、国連加盟国がこういう場合に集団的自衛の措置を講じても国際法的には何らの法的責任を問われることもない、ということは明らかである。
国際法的にはこういう場合に集団的自衛の措置を講じても何らの法的責任を問われることもない、という事態を称して、「権利」だ、「権利」だと騒ぐのは理解できなくもないが、どうも本来の権利概念からは外れている。
あれは権利ではなく、同盟国ないしこれに準ずる国家間の国際約束に基づく防衛的措置実施義務の履行の問題だ、とスパッと割り切って考えるのがいい。
これが、私の基本的理解である。
「集団的自衛の措置を講じても国際法的には何らの法的責任を問われることはないという法的地位なり法的利益を日本も享受しているが、しかし憲法9条の規定があるから現実にはこのような集団的自衛の措置を日本が実施することは出来ない」ということから、「集団的自衛権は保持しているが、憲法上の制約があるから日本はこれを行使することが出来ない」という物言いになるのだと思う。
「権利」というからおかしなことになる。
「集団的自衛権」というからおかしなことになる。
国家を統治する立場にある者の視点で考えれば、使えるものは全部使え、利用できるものは全部利用できるようにしたい、ということになるのは、自然の流れである。
「集団的自衛権があるのなら、これを自由に使えるようにしたい。」
為政者の立場になれば、そういう思いが強くなるのは自然である。
まして永らく政権の座に座ってきて、国家を統治する立場から物事を考える習慣が根付いてしまっている人からすれば、何をするにも制約が付き纏うのは不便で煩わしいことに映る。
自民党が自主憲法の制定を主唱してきたことの根底には、自民党が常に為政者の立場、国家統治者の立ち場にいたことと無関係ではない。
安倍総理が憲法96条の先行改正を訴え、さらには解釈改憲の方向性を打ち出し、ついに集団的自衛権の行使容認に踏み切った根底には一貫して統治者側の論理がある。
しかし、被統治者の立場にある者からすれば、そんな融通無碍なことを言ってもらっては困る、ということになるだろう。
物には限度と言うものがある。
自分たちの存在を危機に晒すような、無謀で危険なことは絶対にやらないで欲しい。
そういう悲鳴が上がるはずである。
今朝の朝日は、現在の集団的自衛権論議の背景にあるものを見事に浮き彫りにしただろうと思っている。
憲法9条の解釈として集団的自衛権の行使は許されない、とこれまで歴代政府が答弁してきたのは、それまでの政府が基本的に立憲主義の立場に立っていたからだと思う。
安倍内閣において限定的であっても集団的自衛権の行使を容認するという基本方針を明記することにする、というのは、安倍内閣がもっぱら為政者の立場に立って、これまでの立憲主義をかなぐり捨てることを表明することと同じではないだろうか。
立憲主義の中身も人それぞれだろうが、私は憲法13条の国民の幸福追求権規定こそが憲法の根底にある基本理念である、という観点から、安倍内閣が立憲主義を放擲しようとしているのであればこれに反対していかざるを得ない。
護憲的改憲主義者の私であるが、今の政治状況からすると私は単なる護憲派に分類されてしまうかも知れない。
くれぐれも安倍内閣が暴走しませんように。
憲法記念日の今日私が祈るのは、この一事である。
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