脳死は人の死ではないのに、何故脳死者からの臓器移植は認められるのか | 早川忠孝の一念発起・日々新たなり 通称「早川学校」

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弁護士・元衆議院議員としてあらゆる社会事象について思いの丈を披歴しております。若い方々の羅針盤の一つにでもなればいいと思っておりましたが、もう一歩踏み出すことにしました。新しい世界を作るために、若い人たちとの競争に参加します。猪突猛進、暴走ゴメン。

皆さんに新しい問題を提示したい。

皆さんは、今国会で臓器移植法の改正案が審議されていることを、どの程度ご存知だろうか。


昭和33年に角膜移植に関する法律が成立し、昭和54年これが角膜及び腎臓の移植に関する法律に改正され、平成9年に現在の臓器移植法が成立している。


臓器移植法を簡単に説明すると、次のとおりである。


1 基本的理念

  臓器提供に関する本人意思の尊重

  臓器提供の任意性の確保

  移植機会の公平性

2 対象となる臓器

  心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球

3 臓器の摘出に関する事項

  本人が臓器提供の意思を書面により表示し、遺族が拒まないとき、移植のため、死体(脳死した者の身体)から臓器の摘出が可能。

  臓器の摘出に係る脳死の判定は、本人が脳死判定に従う意思を書面により表示し、家族が拒まないときに可能。

  心停止下の腎臓・眼球の摘出については、これまでどおり遺族の承諾により摘出可能

4 その他

  臓器売買等の禁止

  臓器のあっせんの許可制

  法施行3年後(平成12年10月)を目途とした見直し


この法律が出来上がるまでには大変な議論がなされてきた。

脳死は人の死か。

それが最大の論点だった。


私は脳死は決して人の死ではない、と思っている。


そうすると、なぜ死んでもいない人から心臓移植のために心臓を摘出することが許されるのか、それは殺人ではないか、という議論になる。

医療行為だから許されるのか、という難しい議論になる。


だから、いっそ脳死は人の死だと認めよ、という議論が出てくる。


諸外国では心臓移植がどんどん行われているのに、日本では行われていない。

心臓移植を待ち望んでいる多くの患者を救済するための法律を何故日本の国会議員は作らないのか、ということになる。


現在の臓器移植法は、国会議員の間に死生観や宗教観、あるいは哲学の相違があることを踏まえ、党議拘束を外し一人一人の国会議員の判断に基づき多数決で成立させたものである。

妥協の産物といって良い。

しかし、妥協の産物だから、現行法はほどほどの内容になっている、と私は思っている。


その法律の改正が今、検討されているのである。


外科学会はじめ医療に従事している関係者や臓器移植を待っている患者の家族会などは、強く法改正を要望している。

しかし、幼児の脳死については児童虐待のケースが多く含まれているのではないか、との懸念を持っている小児学会に所属する医師等からは、法改正に慎重であるべき、との意見が出されている。

私は基本的にその意見に賛同している。

実は、国会議員の中では、脳死をそのまま人の死として認めて、臓器移植が実施しやすくするための改正を進めるべきである、という意見の方が多い。


諸外国ではそうしているではないか。

日本で臓器移植が進まないから、わざわざ外国に行って高い費用を負担して臓器移植をしてもらっているのは異常だ。

日本の国内で必要な移植が出来るようにすべきだ。


基本的には、そんな発想だ。


こういう発想の下で、現在衆議院の厚生労働委員会で審議されているのが、いわゆるA案と言われるものである。

中山案とも言われるが、今回の改正提案をリードしたのは河野太郎議員であり、河野案と言っても良いかもしれない。


このA案では、絶対に困る。

私はそう思っている。


なんとか対案を出しておかなければ、十分の審議もされないま、ま数の力でA案が可決されてしまう、ということで出したのがB案である。

そのB案の提出者が公明党では斉藤政調会長、自民党では私と、日本看護協会の副会長を務めたことがあるあべ俊子衆議院議員の二人。


B案は、マスコミからは斉藤案と言われている。

斉藤案は、現行法で書面による意思表示が出来る年齢がおおむね15歳とされているのを、12歳にしようというものである。

基本的には現行法の枠組みを維持するものである。


私がB案の提案者に名前を連ねているのは、あくまでA案について慎重な審議を求めるためであり、実はA案とB案を折衷する修正案を出すためである。

ということで、「A案の問題点」について私の意見をまとめてみたので、皆さんのご参考に供したい。

これは、B案の提案理由の中に記載された内容と同じである。


なお、私は、なんとかA案とB案を併合して共同修正が実現できないか、と模索している。

残念ながらA案の提案者が頑ななため共同修正が実現しそうにないが、この問題は国会議員の議論だけで決めるような問題ではないと思っている。


私の修正案を末尾に掲載するので、自由にご意見を頂ければ幸いである。

ご意見を頂ければ幸いである。



第一 「A案の問題点とB案を提案する理由」


第1 A案の最大の問題点、<臓器移植の意思表示には厳格な要式性が要求される>


(1)  満20歳未満の者は、結婚した者を除き、単独で完全な法律行為を行う能力がないものとされており、これらの者がした法律行為は未成年者の意思表示として親権者が取り消すことができるものとされている。


 なお、未成年者であっても15歳以上の者がした遺言は有効とされており、その限りで15歳以上の未成年者の単独の意思表示の効力を認めるのが現行法である。

 遺言は自分の財産の処分等に対する意思表示であり、書面をもって行うべきこのとされており、厳格な要式行為性が求められている。


(2)  臓器提供の意思表示は、通常の財産処分の法律行為以上に本人の意思が最大限に尊重されるべき極めて重要な意思表示である。

したがって、遺言の場合よりも、より厳格より厳格な要式行為性が要求されるべきである。  

すなわち、臓器提供という特別の意思表示については、臓器提供の意義等について本人の真正な理解(自由な意思)に基づくものであることを制度的に担保するために、書面によることを必要とすること(厳格な要式行為性を要求)が妥当である。


(3)  A案は、書面によって臓器提供の意思表示ができる者がこれをしなかった場合についても、臓器提供の意思表示があるとみなすのと同然の結果となる。

A案は、本人の書面による臓器提供の意思表示と遺族の承諾によってはじめて臓器提供を是認するという現行の臓器提供に関する法制度を根底から変えるものである。


(4)  精神上の障害により事理を弁識する能力を欠し常況にあるものや(民法7条)、事理を弁識する能力が著しく不十分である者(民法11条)の臓器提供について、A案によれば本人の書面による同意なく、遺族の承諾のみによって臓器提供の道を開くことになるが、その妥当性には大いに疑問がある。
 

(5)  現に移植でしか助からない子どもたちが存在し、97年の法施行後も、約9年の間に33人(10歳未満)が多額の寄付金を募り海外で移植を受けており、わが国では今なお移植を海外に頼っている現状にある。


一方で、移植医療成績の向上により、諸外国でも移植用臓器が不足する傾向にあるなど、外国からの移植患者の受け入れが制限されていることなどから、立法政策上、一定の厳格な要件を定めたうえ満15歳未満の者の臓器提供の道を開く必要性があうことは否めない。


第2 B案が満12歳以上の者の書面による臓器提供の意思表示を有効とすることの相当性について
   
(1) B案は、満12歳以上の者の書面による臓器提供の意思表示を有効としている。                                                  
子どもの意思表示の能力を何才から認めるのが適当であるかについては、議論があるところであるが、諸外国の研究では10歳程度、国内の調査報告からは、おおむね7歳ごろから死の絶対性についての認識は深まり9歳ごろ確立すると考えられているころから、初等教育終了後の満12歳以上の者の書面による臓器提供の意思表示を有効とするのは相当であると考えられる。


第3 B案の修正案を提案する理由


1 立法政策上、満12歳未満の者で不完全ではあるが自己決定能力及び意思表明力を保有するに至っていると認められる者の臓器提供の道を開く必要性について

(1)  疾病を有したり、友人の死に接するなどして「生命」について考える機会を得た小児においては、12歳未満の未成年者であっても、「死」についての正しい理解や臓器を他者に提供することの意義を理解できる子どももいる。


また、就学年齢の満6歳以降は、学校教育という集団の中で「脳死」や「臓器移植」に関する情報を得たり、大人や社会の声を聞く機会が多くなることから、適切な情報提供を行うことにより、意見を表明することができる子どももいると判断される。


そこで、12歳未満であっても、適切な情報提供を行うことにより、自らの状況を正確に理解し、意見を表明することができる子どもが、臓器提供の意思表示をしている場合で、法定代理人である親権者の承諾があるときは、その自己決定を尊重し臓器提供を認めることは、ドナーとなることを希望する小児の意思表明権を尊重し、また移植を待つ子どもたちの利益に資するものである。


(2)  これに対し、乳幼児についてはおよそ臓器提供の意思を表明するに足りる事理弁識能力を認めることはできない上、現状の小児脳死判定基準においては、脳死判定後の長期生存例などが多数報告されているなど、乳幼児の臓器提供についてはより慎重になる必要がある。


また、親による幼児虐待等が多発している現下の社会情勢においては、満6歳未満の子どもについて一律に親権者に子どもの臓器提供の権限を与えることは明かに相当ではない。


(3)  以上の理由から、満12歳未満の者で、不完全ではあるが自己決定能力及び意思表明能力を保有するに至っていると認められる年齢に達したと認めることができる者(一応学齢に達していることがその目安となる。)については、臓器提供の意思があることを書面又はこれに準ずる方法(ビデオ、録音等)により表示している場合で、法定代理人である親権者の承諾があるときは臓器提供を可能とすることとしたい。


(4)  なお、この場合は、子どもが虐待によって脳死になった形跡がないこと、「本人の意思表示」が強制によってではなく自由意思によってなされたものであることを、病院内倫理委員会等が審理する仕組みをあわせてつくることが必要である。


2 満12歳未満の者と、未だ自己決定能力及び意思表明力を得有するに至っているとは認められない者について親権者のみの承諾によって臓器提供を認めることについて


 この場合において親権者のみの承諾によって臓器の摘出を認めるとすることも、立法政策上は可能ではある。

しかし、この点については、多方面から強い反対の意見が表明されており、未だ国民的コンセンサスが形成されているとは言えず、臓器提供の道を開くことは困難である。   
                          

第二 「A案・B案の併合修正案の提案」


 残念ながら現在の状況ではB案が採択される可能性はない。

 そこで、なんとかA案の修正が出来ないかと思って作ったのが、次の修正案である。

 私はこれをA案とB案の併合修正案にしてもらえないかと思っているが、残念ながら発表の機会がない。


 ここで、発表することで、委員会の審議が深まることを期待したい。


(臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(早川案)の概要)


1 基本概念の追加


  臓器の移植は、移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者に対しその生存中に適切な医療が提供されるよう最大限の努力が尽くされる等その生命の保持について最大限の配慮がなされた上で行われなければならない。


2 臓器摘出の要件の改正


  移植術に使用するために臓器を摘出することができる場合を、次の①または②のいずれかの場合とする。

① 本人の書面による臓器提供の意思表示があった場合(当該意思表示が12歳に達した日後においてなされた場合に限る。)であって、遺族がこれを拒まないとき又は遺族がないとき。


② 本人が臓器提供をしない意思表示をしている場合以外の場合(死亡時において12歳未満の場合に限る。)であって、遺族がこれを書面に承諾するとき。


3 臓器摘出に係る脳死判定の要件の改正


  移植に係る脳死判定を行うことができる場合を次の①又は②のいずれかの場合とする。

① 本人が
 A 書面により臓器提供の意思表示をしている場合(当該意思表示が12歳に達した日後においてなされた場合に限る。)であり、かつ、

 B 脳死判定の拒否の意思表示をしている場合以外の場合
であって、家族が脳死判定を拒まないとき又は家族がないとき。

② 本人について
 A 臓器提供をしない意思表示をしている場合以外の場合(死亡時において12歳未満の場合に限る。)であり、かつ、

 B 脳死判定の拒否の判定をしている場合以外の場合
であって、家族が脳死判定を行うことを書面により承諾するとき。


4 6歳未満の者に係る脳死判定の方法


6歳未満の者に係る臓器の摘出に係る脳死判定の方法について定める厚生労働省令は、6歳未満の者の脳の医学的特質を踏まえて定めなければならない。


5 親族への優先提供


  臓器提供の意思表示に併せて、書面により親族への臓器の優先提供の意思を表示することができることとする。


6 普及・啓発


  国及び地方公共団体は、学校、家庭その他の様々な場を通じて移植医療に関する教育の充実を図るとともに、移植術に使用されるための臓器を死亡した後に提供する意思の有無を運転免許証及び医療保険の被保険者証等に記載することができることとする等移植医療に関する啓発及び知識の普及に必要な施策を講ずるものとする。


7 検討


  政府は、虐待を受けた児童が死亡した場合に当該児童から臓器が提供されることのないよう、移植医療に従事する者が児童に対し虐待が行われた疑いがあるかどうかを確認し、及びその疑いがある場合に適切に対応するための方策に関し検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。


                                     以上