朝から変な夢にうなされて起きた。
何の夢だったのかは覚えていないが、汗でぐっしょりだった。
目覚めたものの頭が重く、何ともスッキリしない。
まだ夢の中にいるようだ。
僕はとりあえずコンビニへ行ってお弁当を買うことにした。
「580円でございます。」
1000円札を取り出して、レジの店員さんに渡した。
「・・・・お客様、これは?」
店員さんが不審そうな表情で僕の顔を眺めている。
「え?いや・・・1000円ですけど」
「これ・・・マグロですよね?」
「はあ?!マグロ?何言ってるんですか?どう見ても1000円札じゃないですか。」
「お客様、1000円札はこれですよ。」
そう言ってレジの中から店員さんが取り出したのは・・・
マグロの刺身だった。
「はあ?あんたバカにしてんのか?それがマグロじゃないか!ちょっと冗談はよしてくれよ!」
「お客様の方こそ冗談はよしてください。これがお金なんですよ。知ってますか?」
そう言って店員さんが開けたレジの中にはマグロの刺身がギッシリと詰まっていた。
「・・・・・何これ?」
僕は頭が混乱して、言葉を失った。
「ほら、隣のレジのお客さんを見てくださいよ。」
隣でお金を支払っているお客さんが渡していたのは、確かにマグロの刺身だった。
そういえば、このコンビニに入った時に何だか生臭いにおいがしたと思っていた。
原因はマグロだったのか・・・。
ダメだ、ここは何だかおかしい。僕はとりあえずこのコンビニを出ることにした。
「すいません、お弁当いいです・・・。」
何なんだこのコンビニは、バカにしてるのか?他の客にまであんなことをさせて冗談にも程がある。
でも、気になった僕はスーパーへ行ってみることにした。
えーっと、マグロマグロと・・・。
「あっ!」
僕はそれを見た瞬間、開いた口がふさがらなかった。
何とマグロの刺身と表示されたパックに入っていたのは・・・お札だった。
・・・・こんなことって・・・
「今日はマグロ丼にしましょううか?」
「わーい!」
母親と子供が嬉しそうにお金が入ったパックを買い物かごに入れて行った。
レジに行くとみんなが財布からマグロの刺身を取り出して、それで支払っている。
何なんだ、この世界は・・・?
僕は目まいがしてきた。
あり得ない・・・お金とマグロが入れ替わっている・・・。
銀行へ行ってみた。
ATMでみんながマグロの刺身を引き出している。
隣にいた人にさりげなく聞いてみた。
「あのお金はどこで作ってるんでしょうね?」
不審そうな面持ちで、その人は答えた。
「造幣局に決まってるじゃないですか。」
ぞ、造幣局でマグロの刺身を作っているのか?どうやって?
みんながマグロを解体して、さばいているとでもいうのか?
じゃあ、今僕が手に持っているお金はどうなる?
この世界の人達がマグロと呼ぶこの紙切れは、海に泳いでいるとでも言うのか?!
わからない・・・僕はますます頭が混乱して、とうとうその場に気を失って倒れてしまった。
目覚めたのは病院のベッドだった。
「大丈夫ですか?」
目を開けた僕に気付いた看護婦さんが、声をかけてくれた。
「え、ええ・・・。何だかひどい夢を見ていたような気がします・・・」
「きっと疲れておられたのでしょう。」
「そうかもしれません。何てったってマグロがお金に変わるという世界に入り込んでしまう夢でしたから・・・」
「何だかおもしろそうな夢ですね。」
「いやいや、地獄でした。もう二度と戻りたくはないです。」
「そういえば、しっかりと手に握られてましたよ。テーブルの上に置いておきましたから。」
「あ、ありがとうございます・・・」
テーブルの上を見ると、僕が倒れた時に握りしめていたクシャクシャになった1000円札があった。
「でも、どうしてそんなもの握られてたんですか?マグロなんか。」
「え?マ、マグロ?!」
僕はまた目の前が真っ白になってしまった。
しばらくすると、僕は精神科の先生のところにいた。
「で、目覚めたら突然、お金がマグロに変わっていた、というわけですか?」
「え、ええ・・・」
「あなたが言うお金は、これですよね?」
先生は、僕のクシャクシャの千円札を指差した。
「あ、はい・・・」
「では、これは何ですか?」
先生は、今度は自分の財布からマグロの刺身を取り出して僕に見せた。
「そ、それは・・・マグロです。」
先生は、首をかしげた。
「一種の記憶障害のようなものかもしれませんね。」
「き、記憶障害・・・ですか?」
「ええ。今まで白と思っていたものが突然、黒に見えたり、父親と思っていた人が母親に見えたり。そういったことが稀にあるんですよ。」
「ど、どうすればいいんでしょうか?」
「これはしばらく様子を見てみるしかないでしょうね。残念ながら治療法というものは今のところありません。」
「治療法が・・・ない?」
「ええ。ですから、しばらくしても戻らない場合は、この環境に慣れていくしかないのです。」
「そ、そんな・・・」
「ショックでしょうが、受け入れてください。あなたがマグロと思っているものはお金で、お金と思っているものはマグロなんです。お金は人類が何世紀もの間をかけて創り上げてきた世界共通のシステムなのです。」
「マグロがお金だなんて・・・やっぱり信じられない。どう考えてもおかしいじゃないですか?じゃあ皆さんはマグロをせっせせっせと溜めこんでいるんですか?こんな刺身を?」
「そうです。あなたが言うところのマグロを溜めることを貯金というのです。あなたは貯金されていないんですか?」
「もちろんしてますよ。あなたがたがマグロと呼ぶこの紙切れをたくさん貯め込んでいますよ。」
「それって腐るんじゃないですか?」
「それはこっちのセリフですよ!あなたがたがいうお金こそ腐るものです。私はそんなものを大量に保存しておくなんて理解できません。食べたい時に、食べたい分だけあればいいものでしょう?」
「そう思いたい気持ちもわかりますが、ここは慣れるしかありません。一緒にがんばりましょう。」
「は、はい・・・・」
最初は、絶対慣れるわけなどないと思っていたが、人間の順応性の高さに自分でも驚いた。
ほんの数カ月もすれば、もう以前の僕にとってのマグロはお金に変わり、お金だと思っていたものはマグロに変わった。
今、思えば僕は大量のマグロを溜めこんでいたのだと思うと、吐き気すら覚えた。
金庫にしまってあった大量のマグロは、予想通り悪臭を放っていた。
僕は、手持ちの財産のマグロすべてを焼却した。
スッキリした僕は、改めて財布を開けて中身を見た。
以前の僕にとっての赤身のマグロが詰まっている。
うん・・・もう違和感は感じられない。
僕にとってのお金は、これだ。
考えてみれば、これの方が手触りも柔らかくて気持ちがいい。
ベタベタすることもあるけれど、逆にそれが質感があってお金のありがたみを感じられるってもんだ。
「よくがんばりましたね。もう通院は結構ですよ。」
先生がそう言って僕の完治を喜んでくれた。
「ありがとうございます!」
僕はようやくこの世界の住人になれた気がした。
次の日、僕は清々しい気分で目が覚めた。
よし、今日から新しい人生の始まりだ。
お腹が減っていた僕はとりあえずコンビニへ行ってお弁当を買うことにした。
「580円でございます。」
財布から1000円を取り出して、店員さんに差し出した。
・・・あれ?どうしたんだろう・・・
店員さんがずっと難しい顔をして僕が差し出した1000円を見つめている。
そして、ゆっくりと顔を上げた店員さんは、僕を見てこう言った。
「これ・・・マグロですよね?」
「・・・・・」
言葉を失った僕の頭の中は、水族館のマグロのようにぐるぐると回り続けていた。
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僕たちが貯め込んでいるお金という名のマグロ。
マグロは、すぐに腐ってしまう。
だから僕たちは必要な分だけを所有して、消費する。
お金も同じように実はすぐに腐ってしまうものなのかもしれない。
たくさん貯め込めば貯め込むほど、それらは新鮮さを失い、悪臭を放っていくものなのかもしれない。
だから、必要な分だけ少しあればいい。
僕たちは無限だ。
豊かさも無限に存在している。
あえて、お金を貯め込む必要なんてきっとないのだろう。
必要なお金は、必要な分だけ与えられるのだから。
貯金をすればするほど、僕たちは自分に必要な豊かさは得られないという世界を体現していくことになる。
そんな恐れはこれからの世界には必要ない。
僕たちはお金に対する恐れからも解放されて、無限の豊かさをこれから体現していこうとしているのだから。
さあ、今から貯金を全額下ろしに行こう。
そんなに大量のマグロなんて持っていても仕方ない。
腐らせてしまうのがオチだ。
そんな恐れの象徴は、さっさと処分してしまおう。
そうだ!その通りだ!
と僕に賛同してくださった皆さん。
皆さんにお手間は取らせません。
面倒な処分は僕の方で一括して、しかも無料でさせていただきますので、
必要ないお金はぜひこちらまでお送りください(笑)。
僕がお刺身としていただきます。
←ここを押していただくことで、真の豊かさに気付いた人々から多くのマグロという名のお金が僕の元へと送られてきます。ご協力を。
次回イベントのお知らせ
12月18日(土)大阪中央公会堂にて、ぐるぐる&よっつによるグループセッションを行います。
詳細はまた決まり次第お知らせいたします。