ある日、僕は夢の中で神様会った。
「よう、久しぶり、元気にしてたかい？」
「あ、神様。ええ、まあ・・・」
「あれ？あまり元気がないようだね？」
「実は夫婦喧嘩で妻がまた家を出て行ってしまったんです・・・」
「それは大変だね。」
「怒りっぽいところがなかなか直らないんですよね、僕。」
「ほう」
「神様、僕のこの欠点は何とかならないんでしょうか？」
「どれどれ、なるほど。君には確かに大らかな部分が欠けているようだね。」
「どうしてなんですか？」
「私がそう創ったからだよ。」
「えっ？どうしてそんなふうに僕を創ったんですか？」
「いや～ノリかな・・・」
「ノリ？ノリってどういうことですか？こっちはそれで苦労してるんですよ！」
「いやね、各星から発注ってものがあるわけ。」
「星からの発注？」
「そう。
この星にはこういう人が必要だから創ってほしいという依頼が私のところに来て、私は人を創るんだ。
発注は大抵どの星も同じ種類の人はいらないっていうコンセプトだからさ。
とりあえず違う種類の人をたくさんと創らないといけないわけ。
もともと君達はまん丸な存在なの。
まん丸で光輝く存在なんだ。
それを彫刻みたいに私が削って人というかたちにするんだよ。
そして削られた部分が君の場合はたまたま「大らかさ」という部分だったんだろうね。
そいういや君の時は確かベビーラッシュの時だったから大変だったなぁ。」
「いやいや、そんな思い出話はいいんですよ。そんな適当に削られて
僕は怒りっぽくなってしまったというんですか？」
「ま、そういうことだね。じゃあ」
「いやいやいやいや、何消えようとしてるんですか。
僕はどうしたらいいんですか？」
「どうもしなくていいんだよ。君はそれで地球の発注どおりなんだから。
大らかにならなくてもいいんだよ。」
「そんなはずないでしょう？
だってすべてを受け入れて許せることが究極の愛とか言うじゃないですか？」
「すべてを受け入れて許す？ダメダメそんなことしちゃ。
削られた部分を元にもどそうとするのは神に対する冒涜だよ。」
「冒涜？ノリで削ったくせに？」
「ま、まあ・・・ノリというのは語弊があるな・・・
実際にはi-podを聴きながら、
左右に揺れながら、その動きを利用して削ったというのが真実だ。」
「まさにノリじゃないですか！それ。
たまたまその音楽のリズムに合わせていたら削れたってことですか？
まったく・・・ちなみに何聴いてたんですか？」
「確かチェッカーズの・・・神様ヘルプ・・・だったかな？」
「神様ヘルプ？何、神頼みしてるんですか！神様のくせに・・・いらないでしょ、その発想。
もう腹立つなぁ・・・」
「ま、そうやって怒るのも無理はない。君には大らかさという部分が欠けているのだからね。」
「何開き直ってるんですか！えらそうに。
だから僕はもっと丸い性格になりたいんですよ。何とかしてくださいよ。」
「だから何度も言っているだろう。その必要はないと。
君が削られた部分をどんどん取り戻して元の丸い性格に戻ったとする。
そうなると地球からクレームが来てしまうのだよ。
発注した品物と違うじゃないか、とね。」
「別にいいじゃないですか、丸い性格の人が増えると、もっと平和で穏やかな星になるんじゃないですか？」
「いやダメなんだ。地球は、まだそれを望んではいないんだ。」
「どうしてですか？平和で安全な星になれば地球自身も喜ぶはずですよ。」
「いや、そんなことはないんだ。丸い性格な人が増えると地球は困ってしまう。」
「なぜなんですか？どうして地球が困ってしまうんですか？教えてくださいよ、神様。」
「それはね・・・かぶってしまうからだ。」
「かぶる？何がですか？」
「形がだよ。」
「形？」
「そう、丸い性格というのは地球の形のマルとかぶってしまうからだよ。」
「ちっちゃ！どんだけ器ちっちゃいんですか、地球は・・・」
「発注元だからね、私も何とも言えないんだが・・・自分とかぶる人が出てくると
存在が脅かされるというか、抜かれるんじゃないかみたいな恐れがあるんだろうね。
今は第一線でレギュラーとかバンバン出てるけど、芸風が自分とかぶる若手が出てくるとね、
いいとものレギュラーもいつ降ろされるんだろう・・・みたいなね。
明日にでもタモリから花束渡されて、観客には愛想でえーっ、とか言われながら、
卒業という名の、クビを宣告されるんじゃないだろうか？みたいなね。
やっぱり大御所にもなれば、守りに入ってしまってそうなってしまうんじゃないの？」
「なに芸人に例えてるんですか。
本当ですかそれ？本当に地球がかぶりたくないから丸い性格を必要としていないんですか？」
「じゃあ、少し想像してごらん。
お年寄りは、年を重ねるごとに性格が丸くなっていく人が多いだろう？
ってことは、地球とかぶってしまうわけだ。
そうなると地球としては、もういてほしくなくなる。その結果として・・・」
「寿命が来る？本当ですか、それ？」
「信じるか信じないかは・・・・・あなた次第！」
「何、都市伝説風に言ってるんですか！そんなことありえるわけないじゃないですか。
信じませんよ、僕は。」
「ま、とりあえず君はそのままでいいんじゃない？
欠点を直そう、なくそうとすれば苦しいけど、
欠点こそが自分の存在理由だ、この削られた部分があってこその自分なんだと思えれば
何だか生きやすくなるじゃない？
彫刻と同じでさ、削った部分がなければ単なる丸太で何が何だかわからないじゃない？
削られた部分は欠点じゃなくて、個性だよ個性。」
「まあ、確かにそう言われてみればそうですけど。」
「じゃ、そういうことで、私はそろそろ行くよ。またどこかで会おう。」
「あ、ちょっと！神様。」
そう言って神様は、帰っていった。
そして僕は目覚めた。
何だか変な夢だったな・・・。
欠点こそ、削られた部分こそが、存在理由か・・・。
ま、怒りっぽいところは直そうと思っても直らないし、このままでも別にいいか。
そう思って自分の怒りっぽさを受け入れたその日以来、僕は不思議と怒らなくなっていった。
そしてしばらくしたある日、僕はまた夢で神様に出会った。
「やあ、久しぶりだね。その後どうだい？」
「あ、神様。それがもう怒りっぽくなくなってきたんです。」
「それはそれは、よかったじゃないか。」
「いったいどうしてなんでしょうか？」
「それは君がその形を自分だと認識したからさ。
丸い形を前提に自分を見た時、君は不完全だ。しかし、その形で良いと思えた時、君は完全だ。
君が完全になった時、不必要な部分はなくなる。」
「なるほど。だから怒りっぽくなくなったというわけですね。」
「そういうことだ。じゃあ、またな。奥さんによろしく。」
そう言って神様は去っていった。
奥さんによろしく？
目が覚めると、妻が実家から帰って来ていた。
さすが神様。何でもお見通しだな。
でも久しぶりに見る妻は前よりも一段と太くなったような気がする。
さては実家で大分楽させてもらったな、こいつ・・・。
「ちょっとあんた！なにブツブツ言っているのよ。早く朝ごはん作ってよ！」
また始まった・・・。
自分のことは受け入れられても彼女のことをすべて受け入れて完璧だと思えるまでには
まだまだ時間がかかりそうだ。
そうだ、今度神様に会ったら聞いてみよう。
心じゃなくて体が丸くなりすぎた場合も地球と形がかぶることにはならないのかを。
もし神様が「その通り、地球は体が丸い人も必要としていないんだ。」なんて言ったとしたら・・・
僕は喜んで毎日食べきれないほどの料理を作れる気がする・・・。
「ちょっと、ぐずぐずしないで早く作りなさいって！」
「は、はい・・・」
神様・・・あなたが削ってしまった僕の「大らかさ」という部分を、どうか彼女に分け与えたまえ・・・
頭の中では、ずっとチェッカーズの「神様ヘルプ」が流れていた。
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