2022年 長澤まさみ主演
演出 大根仁(モテキ、SUNNY、トリック)
脚本 渡辺あや(カーネーション、ジョゼと虎と魚たち、天然コケッコー)
プロデューサー 佐野亜裕美(99.9、カルテット、この世界の片隅に、大豆田とわ子と三人の元夫、17才の帝国)
あらすじ
大洋テレビの女子アナウンサー浅川恵那は、週刊誌に路上キス写真を撮られたことがきっかけで、深夜の情報バラエティ番組『フライデーボンボン』のコーナーMCを担当することになる。そんな中、新米ディレクター・岸本拓朗から、12年前(2006年)に発生した10代の女性を狙った連続殺人事件の犯人とされる死刑囚・松本良夫が、実は冤罪かもしれないと相談される。
最初感想は
佐野PDがすでにパンドラ
佐野PDをドラマ化したら?というくらい、苦節6年かけて生み出したドラマ。
最初はラブコメで、と、TBSで働いていた佐野PDが、脚本家の渡辺あやと相談しても一向に弾まず。
法学部だったこともあり、冤罪事件でドラマ化しようと企画を出すも、ハードルが高すぎてボツ(あの政治家やあの政治家も出てくるし、冤罪事件だから検察や警察を敵にまわすと)それでも3話まで脚本を書いてもらうが(長澤まさみは脚本読んで快諾)、
社内政治に負け海外事業部へ飛ばされて(カルテットでめちゃ成功したのに)、カンテレに転職。
6年かけて作ったドラマなのだという。
まずは月10で「大豆田とわ子」を成功させる。いきなり世に出さないで、他作品ヒットさせて実績を作るのですね〜。
この枠で「アバランチ」など骨太ドラマを制作したカンテレ。
「エルピス」は日本放映前にカンヌ国際映像コンテンツ見本市で世界初上映された。
経過を知ると、そこまで権力怖いんだね、日本
韓国エンタメどっぷりだと、自虐も自虐、不正に切り込んでばかりの切込隊長映画&ドラマばかりだから、こんな部分ももはや民主国家じゃなくなった感あり。
映像も価値あり
大根監督のインタビューが興味深い。
ドラマの映像ルックを上げたかった、と。
佐野PDの要望は、社会派な内容だけどNHKやWOWOWみたいなちょっと暗くて硬いシネルックにはしたくないと。とは言え民放ドラマのツルツルなルックにもしたくない。こういう題材だからリッチでポップなルックにしたいと。最近の韓国ドラマでよくある高級なルック作品を目指したい、と。
で、テレビドラマカメラマンではないな、と。重森豊太郎さんというカメラマンに依頼する事になったという。
(V6「僕らはまだ」のMV、なんと35ミリフィルムとか!、「マチネの終わりに」、「クボタ」CM、「au三太郎」CMなど撮影)
最高級のレンズで撮影してます!
レンズって、本当高いんだよ〜。
人間の多面性
肝心のドラマ感想は…
ベテラン浅川と、チャラい岸本の相棒が、冤罪事件の真相を追う…そんな単純な話でもなく。
犯人を捕まえる話じゃありません。
一度干された浅川(女子アナの鮮度やら、ペラペラなバラエティでお飾りみたいな若いタレントや、PDのセクハラなどたっぷりと映し出されます)が、奮起を起こすも、また看板ニュースキャスターに返り咲くと「えいやっ、何糞!おかしな事はおかしい!」の気持ちが日々忙殺されまた忘れていき…。
主役交代!
ペラペラ坊ちゃんだった岸本が、過去の自分の贖罪を抱えて冤罪事件に立ち向かうけと1人で大変な目にもあい。
最初はセクハラジジイだった村井さんも、封印していた社会正義が沸々と思い出され、9話では大暴れ
副総理が悪事を秘書であり婿に証言され、その婿が自殺(に見せかけて多分他殺)。それに憤り、古巣『ニュース8』のスタジオに来てパイプ椅子振り回して、正義なんてクソ喰らえだーっ!と暴れまくる。(放送終わってから)
「村井さーーん!ヤッチャレヤッチャレ!」はい、マイディアミスターと同じく、叫びましたね。
セクハラ村井も、頼れる先輩だった村井も、拒食で吐く浅川も、冤罪許さない気持ちも、恋人に絆されちゃう浅川も、いじめを見て見ぬふりした岸本も、被害者が風俗で働いていたとわかると風向き変わる世間も、全部人間の一面で。
組織のおかしさを呑み込んでしまう人。抗おうとする人。その善悪、人はどちらも持っています。
浅川、岸本、村井、ずっと正義感を通す立派な人間ではない。そこがリアルでした。
証言する議員秘書が自殺をする展開などは、ゾクっとしましたね。これこそ!何千回と韓ドラ刑事検事弁護士もので見る展開だけど、このドラマは実に日常にスルンと怖い事が、入ってくるんですよー。韓ドラだとまた死んだ!と慣れているのに、エルピスはちょっと違いました。怖かったです。
人を信じる事が希望
くっついたり離れたり。
恋愛関係にはない、もう同じ部署にもいない浅川と岸本。
冤罪事件を追い、脇道に逸れて、また合流して。
岸本のスクープの裏にあった事件を知り、また奮起する浅川。
副総理が絡む事件に発展している状況に、今度は岸本が諦めかけて…。
岸本「だめですよ、殺されますよ」
浅川「何で殺されんのよ?自分の仕事をちゃんとやりたいだけじゃん。当たり前の普通の人間の願いが、なんでこんな風に押し潰されなきゃなんないのよ」
希望は目の前にいる岸本君だったー、君は凄いよ、ありがとう!と泣く浅川に、泣いたわ〜
メインキャスターを務める『ニュース8』で上には黙ってスクープを報道することに決めた浅川。テロみたいなやり方で政界がひっくり返るのか?
もうこれが最後までドキドキ展開でした。
別れてもエロな人、斎藤(鈴木亮平)がスタジオに乗り込んできて、浅川を阻止しようと熱弁をふるうのよ。
もー、体制側の、糞オブ糞!な言い訳です。
(でもエロいから、危うくわたしは絆されるところだった…あぶねー)
ラストは牛丼屋。
村井さんが、後から合流したであろう、そんな終わり方。映らないで終わるのー胸熱!
ビハインド出てたわ、良かったわ。
最初は水しか飲めない死んだ目をした浅川、
途中廃人になりかけた岸本も、大盛り頼んでいた!
どんどん生気を取り戻していく2人の目に光が戻ってくるの。
冤罪事件弁護士も、妹を連続殺人犯に殺された遺族も、夫の証言は嘘と暴露してくれた証言者も、ニュース8を見て「あいつらやりやがったな」と。何度も潰されてきたから、みんな胸熱。
浅川→岸本→村井さんと、主役が交代していく感じにも見えて、異色なドラマでもありました。
最後は死刑囚だった松本さんが出所してチェリーちゃんとカレー、ショートケーキを食べてて…。
もう一つの事件は世に出ないというこれまた現実を突きつけられつつの、この事件きっかけに暴かれるようにと祈らざるをえない!
(たくさんの参考文献があり、実際には残念ながら死刑になっている)
とは言え、斎藤が電話していると、最後まで浅川が体制側に殺さないかヒヤヒヤするのでした。
眞栄田郷敦が、とにかく素晴らしかったです。長澤まさみ、鈴木亮平、岡部まもるのベテラン勢に負けず劣らず、あの目力で軽い若者から熱い報道人になるまで完璧でした。最後坂を駆ける岸本も良かったよ。