死刑評決 読了。
↓死刑評決
先日読んだ 大門剛明さんの、完全無罪 に続く、弁護士・松岡千沙 シリーズ第2弾です。
↓完全無罪
弁護士:松岡千沙は、伊東文乃という女子高生から、小杉優心という青年の弁護について相談を受ける。
小杉は8年前、高松駅前で爆弾事件を起こしており、子供が一人、命を落としていた。
高松地裁での裁判員裁判。 裁判員の意見は割れた。
評議を尽くしても意見の全員一致が得られなかったとき、評決は多数決により行われる。
ただし、たとえ多数でも、裁判員だけによる意見では被告人を死刑とすることはできず、裁判官一人以上が賛成していることが必要だ。
結果は……4人の裁判員と一人の裁判官が、死刑に賛成。
判決は死刑となった。
しかし、小杉は動機などについて自分の言葉で何も語っていない。
同じ養護施設で育ち、小杉を兄のように慕っていた文乃は、せめて彼の言葉で、その心の内を語って欲しいと望んでいた。
小杉に接見した千沙は、彼の態度から、心を開いてくれるのではないかという感触を得、正式に量刑不服の再審請求を起こそう、と、文乃と同意する。
が、正にその矢先、小杉の死刑は執行されてしまう。
そして、この死刑執行こそが、新たな事件の幕開けであった。
当時の高松地裁裁判長(現・岡山地裁第一刑事部長)・日下部陶子の元へ、新田と名乗る男からの接触。
日下部こそ、当時、死刑に賛成票を投じた裁判官であった。
そして新田は、当時検察も手に入れていなかった、事件前後の現場の様子を撮影した動画を日下部に見せる。
それは、小杉が爆弾から人を遠ざけようと、犠牲者を出さないようにしようとしている様子であった。
小杉は、おそらくはちょっとした騒ぎを起こすだけのつもりだったのだが、爆弾の威力が思ったより強力であったこと、人払いが上手くいかなかったことで、一人の犠牲者を出してしまったのだ。
無罪でこそないが、流石にこれは、死刑に値する罪ではない。
しかし、犠牲者を出してしまったことを深く後悔した小杉は、何も語らず、死刑判決を受け入れ、死んでいったのであろう。
動画を公開されたくなければ、と、新田は日下部に現金を要求。
動画が公開されれば、日下部は、死刑に値しない者を死に追いやったという烙印を押され、その人生は崩壊する。
小杉の死刑が執行されてしまった今となっては、もう、取り返しがつかない。
なんとか動画を取り返そうと もみ合いになった結果、日下部は新田を殺してしまう。
新田は、日下部だけでなく、当時死刑に賛成した裁判員を突き止めており、彼等も脅迫していた。
そのため、新田と口論しているところを目撃されていた当時の裁判員:村上が、
新田殺害の犯人として誤認逮捕され、起訴されてしまう。
しかもその裁判の裁判長は、犯人である日下部。
村上を弁護することになった千沙は、調査の結果、日下部こそが新田殺害の真犯人であると推理するが、証拠は無い。
法廷で対決することとなる千沙と日下部。
そして、新田には共犯者がいた。
その共犯者は、日下部が新田を殺害する場面も目撃しており、新たな脅迫者として、日下部の前に現れる。
追いつめられた日下部は、アリバイトリックを用いた上で、新たな脅迫者を亡き者にしようと……。
雪煙 および 完全無罪 を読んだ時にも感じたのだけれども、社会派 のとしてのテーマ性の強さよりも、純粋に 娯楽小説 としての魅力こそが感じられる作品、というのが、私の感想です。
いや、取り扱っているテーマは、社会派らしいし、メッセージ性も感じるのですが、それ以上に、
こういったテーマを取り扱うことで作品に深みを与えた娯楽小説として作品を完成させよう
という、作者の意志を感じるのです。
てっきり、
小杉の心の闇を解き明かし、彼の死刑判決をひっくり返す、というストーリーかと
裁判員裁判……人が人を裁くという難しさに挑む、というテーマの作品かと
思って読んでいたら、前半でいきなりの死刑執行という意表を突く展開。
そして
脅迫犯登場
~ 小杉は実は犠牲者を救おうとしていたという事実の判明
~ 裁判官が犯してしまう殺人
~ 無実の当時の裁判員が逮捕され、その裁判の裁判長が真犯人
~ 新たな脅迫者の出現
~ 真犯人(裁判長)との対決
~ 主人公:千沙が最後に放つ逆転の一手=意外な真相
と、とにかく、読者を飽きさせない展開。
新田殺害犯が日下部であることは読者に最初から明かされているので、倒叙ミステリー的な趣もあります。
新たな脅迫者の出現と、アリバイトリックを使っての殺害計画シーンなどと、日下部を主人公としたパートと、 裁判長である日下部こそが真犯人と推理し、彼女と対決する千沙を主人公としたシーンが交互に展開されるという構成。
クライマックス、圧倒的に不利だった状況から、千沙が逆転の一手を放つ=意外な真相を解き明かすシーンには、興奮しました。
惜しむらくは、主人公の千沙が、日下部こそが真犯人であると推理する過程:その推理の材料となる動画の入手、等が、なんか出来過ぎというか、さらさらと進んでしまい、全然盛り上がらない。
クライマックスの対決に作者が注力した結果、中盤が少々物足りない印象なのです。
出来れば、千沙が日下部=新田殺害犯という推理に至るまでの描写も、もっとねちっこく盛り上げて欲しかったと思います。
全体としては大変面白かったです。
まだこの 弁護士・松岡千沙 シリーズ は2作しかないようですが、今後、シリーズが続くのであれば、是非読んでみたいと思います。