紅碧 瑠璃色 空色 藍色 新橋色 高麗納戸 湊鼠 青碧 『すべて青』 -3ページ目

紅碧 瑠璃色 空色 藍色 新橋色 高麗納戸 湊鼠 青碧 『すべて青』

初めまして。
日々小説やブログ、詩を更新しています。
こちらで出逢えたのも何かの縁、一読いただければ幸いです。
今後とも、宜しくお願いいたします。

水瓶座のO型より。

彼女の事でこんなに悩んでいる亮平を見るのは初めてかもしれない。

中学時代から二人で悪い事を散々してきたが…今の亮平にはその影すら見えない。

一週間前の夜、ついに美穂の友達である沙紀ちゃんを彼女にしたという吉報は聞いた、しかしそのすぐ後でクリスマスも大晦日も一緒には過ごせない事や「好きになれなかったら」すぐに別れると言った事を電話で言われたと聞いた。

教室で休み時間になると寝続けているのも、そのせいなのかも知れない。

「おい、昼休みだぞ、沙紀ちゃん誘って四人で飯食べに行くべ。」

「ん、でも断られたらどうしよう。」

「乙女かお前は、いいからいくぞ。」

沙紀ちゃんが編入してきた時から亮平がひとめぼれしたのは知っていた。

何度か彼氏が出来ていたようだが、すぐに別れていた事もあって亮平は沙紀ちゃんのことを諦めていなかった。

やっと念願が叶ったのに、これじゃあセミの抜け殻だ。

「美穂、沙紀ちゃん、一緒に屋上で飯食べに行こうぜ。」

購買に昼ご飯は買いに行ったあとのようだ、すでに開封済みの袋が机に出ている。

「いいよ、ほら沙紀も行くよ。」

この子は本当に甘いものが好きなのだな、今も手に持っているのは「チョコぎっしり」が売りの菓子パンだ、俺もかなり好きだけど。

「沙紀、これ。」

お、なんだ、悩んでいた割にはサプライズのプレゼントか。

「えっ、なに、ありがとう。」

掌に収まるくらいの包みの中には、白と青で彩られた写真立てが入っていた。

両脇には雲を象ったレリーフが装飾され、写真立てを縦に置くとレリーフが夕焼けに変わった。

「すごい、綺麗。」

「なに、亮平君、沙紀が空を好きなだって事を知っていたの。」

照れたように俯いた親友は本当に「乙女」のようだった。

昔二股は文化だ、と言っていた男は何処に消えたのだ、少しだけ寂しいが大人になったのか。

「ほら、付き合って一週間だし、あと沙紀に誕生日とかお祝い出来なかったから。」

「マメだね、翔もこういう人だったらいいのに。」

こんな乙女と一緒にされたくないが、確かにこういう記念日とかのお祝いをしたことはない。

「じゃあ、今月の記念日を明日にして…。」

「もういいよ、今日が記念日だってことも覚えていないなら嬉しくないです。」

これはおかしい、親友の恋より俺の恋のほうがお先真っ暗になりかけて、いる。

屋上に上がると、美穂と沙紀ちゃんはすぐに寝転がった。

亮平は沙紀ちゃんの横で弁当を開いている、俺は美穂の横に行こうとしたが無言の壁を感じたため少し離れた処に腰を降ろす。

「今沙紀のお母さんって帰国しているのだっけ。」

「そうだよ、今日は空が近いね、寒いけど。」

「あれ、沙紀のお母さんって…。」

卵焼きを口に運びながら亮平は会話に入っていく。

「うん、海外にいることが多いのだけど、年末まではいてくれることになったの。お父さんもクリスマスには帰ってきてくれるって。」

そうか、だから…。

「じゃあ年末に近づくにつれて楽しみが増えていくね。」

ギリギリ会話に入れただろうか、沙紀ちゃんは満面の笑みだ。

「お前たちはどこか出掛けるの。」

「ああ、これから決めるつもり、な、美穂。」

返事はない、が頷いてくれた。

何にしても沙紀ちゃんが年末を過ごせない理由が解って、亮平も少しは安心しただろうか。

俺も付き合い方を考えなきゃいけないかもしれないな。

そんな事を独り、考えていた。

窓を開けて耳を澄まし目を瞑ってみる。

僅かに風の音が聞こえるが、布の擦れ合うような音は聞こえてこない。

今度は、目を瞑ったまま頭の中で空をイメージしてみる。

ゆっくりと、青が広がっていく。

雲はない、空には何匹か鳥が飛んでいるようだが囀りは聞こえない。

青が広がるときに、「色」が「音」に変わった。

そうか、見るのではなくて感じたときの音なのだ、彼が書いてきたメッセージは。

すごい感性をもっている、私は感動した。

想いつきで送った問いかけにここまで深い返答をしてくれるなんて。

私は亮平に貰った写真立てを眺める。

亮平は私が「空」を好きだと思ってこれをくれた、その気持ちは勿論嬉しいのだ。

しかし、私がなぜ「空」を好きなのか、その事には興味がないようだった。

翔くんから亮平くんの事を聞いた。

ずっと好きだった事、念願が叶ったということ、でもそれは私には関係ない。

しかし、私と亮平くんは今二人で一つなのだ、一人の感情を優先していいわけがない。

…もう少し、歩み寄ってみよう。

一階では兄とお母さんが何やら笑い合っている。

ゲーム好きの二人だ、きっと何かやらかしているのだろう。

私はパソコンを立ち上げると彼に送るメッセージを入力し始めた。

たった数カ月で見違えるほど隆は「お兄さん」になったようだ。

私が帰宅する事を知って、自宅の寝室は綺麗に片づけてあったし、夕飯の食材の他に軽食が冷蔵庫に用意されていた。

なかでも一番びっくりしたのは家計簿が欠かさず付けられていた事だ。

私でもここまでしっかりは付けないのに、毎日の食費から月の光熱費まできちんとノートに収められていた。

久しぶりに子供たちと囲む食卓は賑やかだった。

沙紀のマシンガントークは留まる事を知らないし、隆もこれからのことをしっかりと考えているようだった。

「あんたたちが元気そうで良かったわ。」

沙紀が作った野菜オムライスは、今すぐにでもお嫁に行けるほどだ。

「さっきの絵だけど、あれお父さんも話していたけど凄く綺麗だね。」

「そうでしょ、あっ、あれはお母さん持って帰るからね。」

家に飾るために持って来たものじゃないの、と沙紀。

「違うよ、お父さんと見せてあげたいけどこっちに飾るって話しをしたの。」

「何それ、きっと絵もびっくりだね、まさか蜻蛉帰りになるとは。」

繊細な絵なのだ、バザーで見てひとめぼれしたと言っても過言ではない。

眺めていると、波の音や風の音が聞こえてきそうな青の配色はゴッホやピカソも驚くだろう。

「菜穂ちゃんとはどうなの。」

一瞬箸を止めたので、地雷を踏んだかと思ったが隆は、笑って応えた。

「相変わらずだよ、この前も沙紀へ誕生日プレゼントまでくれて。」

そう言って、棚にある紅と紺のグラスを指差した。

成程、江戸切子か、確かに彼女が選びそうな「上品」な品物だ。

「お礼はちゃんとしたの、あれ高級なのよ。」

「したよ、貰ったこっちがびっくりしたよな。」

沙紀は無言のまま頷いている。

そうだろう、普通の高校生が一つ数万するグラスを誕生日に貰ったら当然、驚く。

「沙紀はどうなの、さっき少し聞いたけれどまだあの首の長い子と続いているの。」

「もう別れたよ、今は違う人とさっき付き合ったばかり。」

お味噌汁を噴き出したのは隆だった、葱が顔に付いている。

「えっ、断ったって言っていなかった。」

「うん、でもさっきまた電話がきてあんまりしつこいから一応、ね。」

それに、と言って箸を置いた。

「付き合ってみて考えるっていう考え方を一度くらい経験してみてもいいかなって。」

話しの筋はよく見えないが、不潔な男じゃなければいい。

「ちゃんとお風呂には入っているよね、その子。」

今度お味噌汁を噴き出したのは沙紀だ、どうして素のままでコントのような仕草が出来るのか。

「そこなの、お母さん。」

当たり前だ、お風呂は日本の文化だ、向こうで入りたくても大抵シャワーなのだから。

その文化を守らないような男はお断りだ。

「あとで聞いておくよ、本当にお母さんも元気そうで良かった。」

夕食のあとに沙紀が二階に上がったのもあって隆から近況を聞いたが、大きな問題はなさそうだった。

沙紀の進路についても、やはり渡米する気はないようで受験勉強を始める準備を進めているらしい。

「あんたにも苦労かけて悪いね。」

「そんなことはいいけど、お父さんもお母さんも向こうで体調崩さないようにして。」

まったく誰に似てこんなにいい子に育ったのか、きっと私か。

「沙紀にお風呂入ろうって言われたけど、あんたも入る。」

皿洗いをしていた隆は手を止める事もなく大丈夫と応えた。

「クリスマスから二日間だけお父さんも帰国するけど、あんたたち家にいる。」

今度は皿洗いの手を止めた隆は、どうして先にそれを言わないのかと怒ったようだ。

「忘れていてね、沙紀にもあとで言うけどパーティでもしようかと思ってね、なんなら菜穂ちゃんも呼べばいいじゃない。」

キッチンから出て来た隆は、解ったと言うと携帯を弄り始めた。

お年頃ってやつかしら、それでもこうやって「私たち」を迎えてくれる子供たちが愛おしく思った。

初めのころは隆も私に少し気を使って接しているようだった。

その関係が続く事を恐れたが、その心配は隆と家族になって三年目の母の日に終わった。

「お母さん、いつもありがとう。」

そう言って渡された花束のメッセージカードには「お義母さん」ではなく「お母さん」と書いてあったのだ。

勿論会話のなかで「お義母さん」と呼ばれていた訳ではない、しかし言葉を文字にして表現してくれた隆の優しさが嬉しかった。

沙紀も同じだった、父親を亡くしたのが早かったため、男の大人の人に対して抵抗がないと思っていたが自然と迎えてくれていた。

本当に子供は知らない間に大人になっていくものだ。

「沙紀、入るよ。」

浴槽に蹲っていた沙紀は顔を上げるなり毒づいた。

「そのお腹さ、お父さんは何も言わない訳。」

「あんたね、このお腹の魅力が解らないの。」

解りたくない、そう言って沙紀は鼻まで湯船に沈めた。

沙紀にお父さんが帰国することを告げると隆と同じ反応をした。

知らずのうちに本当の兄妹のようだ、そして何故か私は怒られる。

「開けとくからさ、一緒にケーキ作ろうよ。」

沙紀と料理をするのは今日が久しぶりだったが、その機敏な手つきは私に似て無駄がなくなっていた。

「っていうか、お母さんが入った後さ、お湯が殆どないのだけど。」

沙紀は湯船を見ながらまた文句を言っている。

ふと、沙紀の肩甲骨のあたりに目をやる…まだ、傷は残っていた。

医者にも一生残るかもしれないと言われたが、ここまで消えないとは思わなかった。

「どうしたの、逆上せちゃった。」

「ん、平気だよ、でもそろそろ上がろうか。」

二人同時に脱衣所に出ると、すぐに湯気で鑑は曇ってしまった。

沙紀は覚えていないだろう、だから今日も喫茶店で知り合いはいないといったのだ。

今では年に数回に減ってしまったが、あの時に沙紀を助けてくれた夫人とは手紙のやり取りをしている。

そう言えば、あの夫人が連れていた二人の男の子も思えば隆と同い年位になるのか、機会が合ったら沙紀を連れて尋ねてみようか、確かいま私が住んでいる地区からそう離れていないはずだ。

しかし、沙紀が忘れているのならあまり思い出して欲しくはない、女性として。

夫人もそのことに配慮をしてくれたため、警察沙汰には至っていない。

それでもいつかは話さなくてはいけない、そのことだけは解っている。

浮かれている街を見ると、亮平との付き合いを断った事を少しだけ後悔したが、無理に誰かと付き合うよりは友達や家族と過ごす方がいい。

断りの理由を聞きに来る亮平に魅力を感じないと言ったのは言い過ぎだったのだろうか。

美穂も翔くんも笑っていたが、本人は大層傷ついたような顔をしていた。

横浜駅の西口を抜けた辺りには彩られた巨大なツリーが立てられている。

多くは恋人を待つ人だが、私が待っているのはお母さんだ。

先週電話があって、今日の夕方には成田に着くと言う。

本当は空港まで迎えに行きたかったが、学校もあるのだから駄目だと兄に言われた。

だから、兄の言いつけ通りに学校には四限目まできちんと出席し、早退してきたのだ。

これなら文句はあるまい。

平日の夕方でも横浜はかなりの人が街を歩いている、誰もがあと一週間後に控えた冬の大イベントに向けてホクホクしているように見える。

その空は雪でも降るのだろか、雲が目立ち始めている。

…横浜駅の改札出たよ、高島屋の前でいいのよね。

母親からのメールに返信をする、逢うのは四か月ぶりだ。

友人と逢わない四カ月と、両親と逢わない四カ月は根本的に寂しさが違う。

だから、嬉しい、それが正直な気持ちだった。

彼にも今日のことはちゃんと伝えてある、伝えたかったのだ。

have a nice week from morning till night、これが彼からの返信だった。

彼とのメッセージでのやり取りでいつの間にか美穂の手助けなしでも多少の英文なら理解できるようになってきていた、まだ辞書は手放せないが。

素敵な週末を、彼からのメッセージは相変わらず飾り気がなく直球だ。

今読み返せば最初のメッセージは恋人、いや親友にならないか、だったのだ。

全てなに一つ知らない相手への告白は、恋とは別の愛情を感じさせた。

下心を抱きようもなく、ただ心に描いた言葉を直球で、それは可笑しくもあり不思議でもあった。

「沙紀、元気そうね。」

肩を後ろから叩かれて驚いたが、その安心感のある声は母親だ。

「勿論、お母さんも相変わらず大きいね。」

元気そうで何より嬉しい、お父さんよりも大きい肩幅は向こうのお肉を食べていたお陰か以前よりもふっくらとしている。

「そこの喫茶店で少し休もうよ、疲れているでしょ。」

母親の荷物を持ちあげると、大きなツリーを背にして歩き始める。

「あんた、そう言えば学校は。」

「昼休みまでちゃんといたよ、後はお兄ちゃんが出席しているから平気。」

「あんたたち学年違うでしょ。」

そう言って母親は笑ってくれた、昔は学校をサボろうものなら怒られたがこういう日は少しだけ特別だ。

「席に着いていて、買っていくから。」

「至れり尽くせりね、じゃあお言葉に甘えて。」

そう言うと母親はカウンターから離れて席に歩いて行った。

後ろ姿はトトロのようだ、あそこまで丸くはないが決してドラえもんではない。

飲み物とガレットを買って席に向かうと、母親は何やら鞄から一枚の額を取り出していた。

「なにもここで広げなくても…。」

母親が差しだした額の中には一枚の絵が収められていた。

二百ピース程のパズルと同じくらいの大きさのグレーの額に収められた絵は、その中心から青が幾重にも塗り重ねられていた。

まるで海面から深海に向かって降り注ぐ太陽の光を細い線にしたような青だ、もしくは空の青だと感じた。

「これは、どうしたの。」

買って来たばかりの紅茶を一息で飲み干すと…私は自分がこの人の娘だと実感した、話し始めた。

「お父さんと、先週末にバザーに出掛けたのだけど、そこで見つけてね、思わず。」

綺麗でしょ、そう言って母親は中心から見て斜め上の青を指差した。

「この青は、Blue Turquoise,日本では浅葱色っていうのだけど見ていると落ち着くのよ。」

母親はそこからその絵に使われている「青」を話し続けた。

紅碧、瑠璃色、空色、藍色、新橋色、高麗納戸、湊鼠、青碧、その色に合わせて指を動かしていく母親はとても楽しそうだった。

そしてどの「青」も確かに色合いが違うのだ。

「あんた、私と一緒で空を眺めるのが好きじゃない、こういう色を考えて見上げる空はまた一味違うわよ。」

確かに、空は好きだ。

でも母親の言う好きとは違う、私が空を見上げるのはどこまでも続いているからだ。

母親も見上げている空、それを見ている間だけは心が落ち着くのだ。

「そうかもしれないね、それでその絵は誰が書いたものなの。」

「確か、養護学校の学生さんだったわ、そこにサインが書いてあるでしょ。」

言われてみれば絵の右隅、額縁に隠れてしまうくらいの部分に「JOHN」と書いてある。

えっ、「JOHN」ってまさか。

心臓の鼓動が速くなるのは抑えられそうにない。

「お母さん、この絵を売っていた人って男の人だった。」

「こっちは水がタダだからいいわね、どうだったかしら、人が多かったからあまり覚えていないけど…。」

水も一気に飲み干すと絵を私の手から取り、もう一度鞄にしまい込んだ。

「確か女の人だったわ、私と同い年くらいの綺麗な人ね。」

女の人か、それもそうか、急速に鼓動も脈拍も落ち着いて行く。

同じアメリカに住んでいると言っても国土は日本の何十倍もある。

そんな偶然がある訳がないし、それにこの絵を描いたのは養護学校の生徒さんらしいのだ、私の連絡を取り合っている「JOHN」は今機械工学系の勉強をしていると書いていた。

「あんた、知り合いなの。」

「まさか、アメリカに知り合いなんていないよ。」

あら、という風に母親は首を傾げたがすぐにいつもの表情に戻った。

「そうよね、さてそろそろ家に帰るわよ、お父さんにも電話してあげなくちゃ。」

母親は席を立つと、グラスが乗ったトレーを返却口に運び出口に向かった。

店の外は、もう暗くなり始めていたがその暗さの分だけ巨大なツリーはその存在感を高めているようだった。

私はさっきの母親の一瞬の表情を問い掛けようかと迷ったが、止めておいた。

詰まらない事かも知れないし、今はそれよりも母親に最近起きた様々なことを話したい気持ちの方が強かった。

しかし、彼の事だけはまだ話したくはなかった。

話してしまうと、魔法が解けてしまいそうなそんな複雑な気持ちになるからだ。

電車に乗り込むと、母親の大きな鞄は、その体の大きさも手伝って三人分の幅を取っていた。

こんにちわ。


このお店のアイスコーヒーが好きな私です。



昔見た映画に影響されて、飲み始めたコーヒーですがいまでは一日五杯以上は飲んでしまいます。



無糖がかっこいいと思っていたあのころ、いまでも馬鹿なんで思っています。



最初は苦いだけだったんですけど独特の渋みが…と、私のコーヒー談義は置いておいて。



たまにはこういった普通のブログを更新していきます。



★がタイトルに付けられているのは小説ですが、タイトルが謎のものはこういうブログです。



みなさんも、何かに影響されて好きになった飲み物はありますか。



それでは、読んでいただきありがとうございます。

「そっちはどうだ、ちゃんとご飯は食べているだろうな。」

数万キロ離れた処からでもこんなに鮮明な声が聞こえるなんて、人の作りだした文明は素晴らしい。

「大丈夫だよ、沙紀もちゃんと学校に行っているしね。」

「そうか、母さんが来月そっちに帰国するから、また日取りが解ったら連絡する。」

時差の関係でどうしても深夜になる両親との電話にはもう慣れたが、どうしても電話代のことを気にしてしまうのは俺が主夫になり掛けているからなのか。

「解った、そっちはどうなの。」

「親の心配はしなくていい、そう言えばこの前駅前のバザーで…。」

父親の世間話はおそらく母親よりも長いだろう、気が付けば一時間聞き続けている事などざらにある。

「それで、その人がどうしたのさ。」

「いや、その彼が書いた絵が素晴らしくて、同じ青でもこうまで違うものなのかと驚いたよ。」

こっちの時計ではもう十一時過ぎだ、眠くはないが眠りたくなる時間だとは思う。

「父さん、もうすぐ出勤する時間じゃないの。」

「おお、そうだな、じゃあ行ってくる、沙紀にも宜しく伝えてくれ。」

マイペースな人だ、地下鉄に乗り遅れなければいいが。

階段を見上げると、沙紀がこちらを見下ろしていた、正直に言うと少し怖かった。

「お父さんからだったよ、ちゃんとご飯食べているかと言われちゃったよ。」

「相変わらずだね、お母さんは。」

こういう時に、少しだけ血縁のことを想像してしまう。

家族の中でそんな壁を感じる事はないが、沙紀にしてみれば唯一の本当の肉親だ、やっぱり一番逢いたいと思うのだろう。

「来月に帰国するって、また連絡がくるよ。」

そっか、と言って沙紀は階段から頭を引っ込めた。

最近の沙紀は少しだが、以前のサバサバした感じが取れて女性らしくなった気がする。

好きな人でも出来たのだろうか、だったら…と、これではまるで父親だ。

リビングのソファに腰を降ろすと煙草に火を付ける。

昔もらった父親からのお土産だが、一向に減ることがない。

そもそも未成年の息子に煙草のお土産を買ってくるのが、如何なものかとも思うが父親は笑って「あれだ、息抜きだ、たまにはいいだろう。」と話していた。

よくはない、法律違反だ、だがそんな事は俺も家族も気にしない。

沙紀には、何故かどこで買ったのか簪を買ってきていた。

「向こうじゃ、これを髪に刺しているだけでセンスアップだ。」

そういってまた笑っていたが、ゲームのやり過ぎだと思った。

吸えない煙草で遊んでいると、沙紀がリビングに入ってきた。

「あっ、無理して吸わなきゃいいのに。」

「だよな、どうした、寝たのかと思ったよ。」

煙草を灰皿に押し付ける、紫煙がゆっくりと立ち上っていく。

「ねえ、お兄ちゃんは菜穂さんの何処が好きなの。」

「ん、唐突だな。」

紫煙は歪な形を作っていく、火種が消えていないようだ。

「何処か、って言われると困るな。」

「じゃあ何で付き合っているの。」

「例えば素敵な景色を見て、感動するとするだろ。」

沙紀は頷く。

「その景色を見せてあげたいと思う相手が菜穂だったって答が正解かな。」

「キザだね。」

紫煙は天井まで立ち上り消えていった、火種は僅かな熱をまだ残している。

キッチンに向かった沙紀は冷蔵庫からビールを取り出した。

父親宛のお中元だが、これまた一向に減らない、それを二缶取り出すとグラスに移した。

「美穂の彼氏の友達から付き合ってほしいって言われたのだけど、私の何が良くてそういうことを言ってくるのか解らなくて。」

どうして、こういう部分は子供のままなのだろうか、片手に持っているのはビールなのに。

「好きじゃないなら、付き合わなければいいだけだろ。」

「付き合っていく内に好きになるかもしれないって美穂は言うの。」

片方の、お気に入りの猫と鼠がプリントされたグラスを俺の前に置く。

「沙紀が聞きたい事はなに。」

沙紀はグイッと一息でビールを飲み干す、いつの間にこいつそんな技を身に付けた。

「まずい、お父さんの味覚はおかしい。」

俺はビール飲まないだけで好きだけどな、という言葉は呑み込む。

「私だって今まで彼氏はいたけど、深いことは考えていなかった、この人の感性がいいとか、言葉選びが綺麗とかそういうレベルだったの、外見も気にしないしね。」

でも、といって沙紀はまたビールを注いだ。

「私の感覚や性格も知らないで、好きだって言える男の人の考え方が解らなくて。」

正直に言えば、返す言葉はない。

全ての男と言えば語弊があるかもしれないが、大部分の男は下心なしで女性と向きあっていないと思っている、自分の経験からもそうだ。

しかし、だからと言って男を否定する気はない、男だからだ。

「どんなに男が優しい言葉を掛けてきても、疑え、とは言わない。」

妹に負けていられない、ビールを一気に飲み干した。

途端に炭酸が喉元から胃に駆け抜けて一瞬呼吸が苦しくなる。

「その中で沙紀の感性が、少し話しを聞いてみようと思うならその男に付き合ってみるのもいいじゃないか、逆に言えば沙紀にもその男の事は解らないのだし。」

「そうか、結局は自分ってことだよね。」

納得したのか二杯目のビールも勢い飲み干すと、「ありがと。」とだけ言い自室に戻っていった。

血は繋がっていなくても、酒に強いところは父親似だなと俺は思った。

読み上げられる音声はとても単調で、機械的にメッセージを解読していく。

もう少し、例えば語気を強めたり弱めたりしてくれたら楽しいかもしれない。

…をどう思いますか…。

彼女から初めての問いかけは僕にとってのある意味で苦手な分野だった。

視覚を無くしてから、色を求めていた僕はある日小さな葉のざわめきを聞いた。

緑の、と言ってももう薄いグレーしか掛っていない僕の目だったが、小さな葉が擦れる音、それは目で見ていた時よりも鮮やかに僕の前に姿を現した。

それからだった、今まで見て来たものが鮮烈に鮮明に、僕の耳に色が音として聞こえるようになったのは。

どれでも、というわけではないが大抵のものは「音」となって僕の視覚を刺激する。

彼女からの問いかけにどう答えたらいいのだろう。

ふわりとした布を幾枚も地面に落としたような音、聞こえないくらいに僅かに重なり合う音、それが僕にとっての「空」の音だった。

音の無い音、でも確かに存在する音。

そのまま応えてもいのだが、彼女には解らないかもしれない。

「考えなくてもいいと思うわ、あなたが感じた音はあなただけのものではないのよ。」

今日の講義でケリーはそう話していた、彼女は健常者であり僕の母親代わりだ。

誰の音でもない、ならばこの音が誰かには聞こえるのかもしれない。

僕は少しだけ慣れて来たキーボードに手を置くとゆっくりとボタンを押し始めた。

財布を取り出そうとすると、廊下から別の声が聞こえた。

「おい、今日弁当一緒に食べるって言わなかったっけ。」

「だから、買ったら行くからここら辺にいて。」

美穂の彼氏だ、隣のクラスの…名前は覚えていない。

「さ、行こう、あとで翔もくるけれどいいかな。」

そうだ翔という名前だ、相変わらず名字は思い出せないけれど…。

いつの間にか付き合っていた二人だが恋多き美穂の事だ、厭味ではなくてそんなに続かないのが目に見えている、付き合って三日目で既に面倒くさそうだ。

どうして好きでもないのに付き合うのかが解らない。

…付き合っていく過程で好きになることもあるでしょ、味見だけじゃ本当の料理の美味しさは解らないからね、と話していたが理解出来なくてもいい。

「うん、平気。」

横に廻り込んでいた美穂の右手が鳴った、これは要注意だ。

「愛しの彼とはその後どうなの。」

やっぱりきた、痴呆症に掛ったお婆ちゃんのように口を開けばこの話題だ。

美穂には話しも聞いてもほしいがこの頻度は見合い写真以上だった。

「昨日メッセージを送ったよ、好きな食べ物はハンバーグとコーラだって。」

「それって、デブの象徴じゃない。」

からかうように笑う美穂だが、たぶん本気でそう思っているのだろう。

「別にいいの、それになんか不思議なの。」

なにが、そう言って美穂は購買のパンを漁っている。

私のお目当てのメロンチョコパンは売り切れだった。

そしてそれ以外のパンはどうやらお腹一杯系ばかりのようだので、仕方なく焼そばパンとハムエッグを購入する。

「で、何が不思議なの。」

無糖珈琲を自動販売機で買い終えた美穂が近づいてくる。

私は、彼のメッセージに表現されている「音」について話し始めた。

授業が退屈なのは今に始まった事ではなかったけれど、特に今日は息が詰まりそうだった。

気になって仕方がないのだ、メッセージの返信が。

携帯からアクセスすることも出来るけれど、受信量の関係でパソコンからしかメッセージの全文を見ることが出来ないのだ。

あれから、自分でも不思議な程に彼にのめり込んでいる事が解った。

交わしたメッセージはまだ三回程度だが、彼には不思議な魅力があるのだ。

なんていうのだろう、言葉の表現が「音」に満ちている。

普通の人なら聞き逃してしまうような些細な音がメッセージには表現されている。

窓の外には、大きな冬の空が広がっている、この空を音にしたらどなるのだろう。

見える「空」は青やオレンジ、雲が混じれば水色になるけれど「音」の空はどう聞こえるのだろう。

後ろから背中を突かれる、同じクラスの神埼沙穂だった。

「前、先生。」

耳打ちされた言葉に前を向くと、とても「優しい顔」で先生が私を見つめていた。

「はい、こっちにも夢中になってね。」

そう言って、先日行った小テストの答案を配っていった。

「すみません、っていうかなんで。」

「よく見て、一問目から回答がずれているわよ。」

答を全部一つずつずらして書いてしまったとは、それにしても先生も解っているなら少しくらいおまけしてくれてもいいのに。

「やっちゃったね。」

後ろからまた沙穂が話しかけてくる。

「本当最悪、これ確か再テストないやつだよね、もうやだ。」

「でも大丈夫だよ、ほら、下に書いてあるよ。」

…一応合格点にしておきます、以後気をつけるように。

やるな、あの先生、今度は見つからないように空を見よう。

「そういえば沙紀さ、来週の交流会って参加する?」

「しないよ、屋上で寝ている予定。」

「そっか、じゃあ私も休んじゃおうかな。」

この学校では、年に二回姉妹校である養護学校との交流会がある。

交流会といっても、アイマスクをしたり足に重りを付けたりして障害者の人たちの日常を体験したりするのだ。

私は編入してから一度だけ参加したが、見える事、聞く事、話す事、そのそれぞれの機能が正常に動く以上、そういった機能が不完全な人達と接するのは「必要な時」以外に持ちたくないと思ったのだ。

別に差別をしているのではない、ただ、そういった人達に関わっている時に酷く不安になるのだ、もしも突然目や耳や、声が不自由になったら…と。

だからではないが、街中などで困っている人がいれば私はすぐに手を貸す事にしている。

拒絶される事もあるが、交流会でアイマスクをして歩いた廊下や、耳栓をして過ごした一時間はどこか遠い闇の中に置いてきぼりにされたように感じた、だから何か力になりたい。

「沙紀、昼ご飯どうするの。」

美穂だった、既に財布を片手に購買に行く気満々な様子だ。

「今行く。」

パソコンの立ち上げ音だけが部屋に響く。

もうここまでは手慣れたものだ、ケリーの手助けがなくてもここまでの画面の状態は認識できる。

キーボードに指を添わせると同時に、ステレオから新着メッセージを告げる音が聞こえた。

「まさか。」

すぐに、正確には時間はかかったが両親が設定してくれたメッセージ読み上げ機能の電源を入れる。

携帯電話のメール読み上げ機能を応用したそのシステムには、多少の翻訳機能が備わっているが果たしてどこまで忠実な再現がされているのかは曖昧だった。

…初めまして、私は「空」と言います。メッセージを読ませて…。

「ケリー、来てくれ。」

間違いなかった、彼女からのメッセージだ。

「どうしたの、そんなに大声出して。」

後ろのドアから足音が聞こえる、彼女はいつも歩くときに右足を少し引きずるように歩く癖があるからすぐに解る。

「聞いてくれ、これは合っているのか。」

…私はあなたの思う様な人ではないかもしれません、それでも宜しかったら…。

机を指先で叩いているのだろうか、一定のリズムで音が聞こえる。

「あら、随分綺麗な英語で書かれているのね。」

「彼女は日本人だろう。」

リズムが止まった、すると今度はステレオから音楽が流れ出した。

「これ、メッセージに付いていた音楽ね、どうやら彼女はこういう音が好きみたい。」

静かな、波が打っては返すような涼やかな音が部屋に反響する。

昔行った海を思い出す、あの海は確かにこんな音を生み出していた。

「友達に手伝ってもらったみたいね、何はともあれよかったじゃない。」

そう、彼女からのメッセージそれだけでも嬉しいのにこんな素敵な音楽まで。

「ありがとう、ケリー。」

「返事、書くのでしょ。」

すぐに返事を出したら、待っていましたと言っているようで気が引ける気もしたが耳に流れ込んでくる音楽は自然と心を動かした。

「お願いしてもいいかな、まだ巧く打てなくて。」

解ったわ、そう言ってケリーは僕の手を取るとそっとキーボードの上に乗せた。

「だから言ったでしょ、夕飯の前がいいって。」

美穂と夜を楽しく過ごすためのお菓子を買いに行った帰り道だった。

とはいっても、から党の美穂が買うものは、スルメにチーズ、かきの種とおよそ高校生が好んで選ぶものとは思えないものばかりだ。

私は、相変わらず砂糖がたっぷりと使われた甘いお菓子で、美穂からすれば同年代にも関わらず若気の至りだというものだ。

「だって、あんなサプライズがあるとは思いもしなかったから。」

「そうだけどさ、とにかく家に帰ったら返信するからね。」

Letter of lovers.

突然に届いた電子メール、きっと何かの間違いで私に届いたのだろう。

仮に必然で私に送ったのだとしても、例えば彼が抱いている幻想のなかの私と現実のなかの私にはきっと落差がある、だから、あのメールに書かれていた優しさや愛情は必ず消えてしまうに決まっている。

何を期待している訳ではない、それでも何かを期待してしまうような今の環境がいやで仕方がないのだ。

家に着いた私たちは、兄と菜穂さんに頼まれていた飲み物を渡して自室に戻った。

兄が準備してくれたのだろう、部屋には既に美穂の分の布団が敷いてあった。

「気が利いて、かっこよくて、そして優しいなんて最高のお兄さんだね。」

パソコンの主電源を入れながら美穂が話す。

「本当にさ、変な意味じゃないけど私だったら恋しちゃいそうだもん。」

「それは、義理でも兄妹になった時点でそういう主観はなくなるよ。」

一人っ子の美穂にはその感覚が解らないのだろう、怪訝な顔のままサイトにアクセスする。

受信ボックスには新着のメッセージが三通届いていたが、どれもがあのメッセージの送り主からではなかった。

三通のどのメッセージにも顔写真が送付され、自分が如何に暇であり、優しいかが丁寧に説明されていた。

そしてきっとこのメッセージに返信したらこう返ってくるのだ。

…君の顔写真も送ってほしい。

「この人だよね、趣味が…Correspondence, or read the historical novel of Japan.か。」

美穂は英語で書かれた自己紹介欄を難なく読み解いていく。

まるで日本語の自己紹介欄を解説してくれているようだったが、次第に美穂の呼吸が荒くなっていくのが解った。

回転式の椅子に座ったままで、体だけをこちらにくるりと向ける。

「本音を言えば私が連絡したい位だけど、これは沙紀に来たメールだからね。」

私のためにメモ書きしてくれた和訳版の自己紹介欄を渡す。

名前はジョンと書いてある、私よりも二つ年上のケネディ州の大学に通う学生で、二度来日したことがある、その時に見た京都の街並みに心を打たれた…。

趣味は、成程、だから美穂は…。

「美穂、あなたが連絡すればいいじゃない。」

不貞腐れた一人っ子ほど面倒なものはない、自分がそうだったから解るのだ。

スルメを噛みながらコーラを一気に飲み干す姿は十年後の美穂を容易に想像させた、きっとコーラがビールや日本酒になっているのだろう。

「どうして。」

「だって、この趣味なんて美穂とだから繋がるものじゃない。」

スルメを口の中に入れたまま美穂は、話す。

「確かに沙紀のプロフィール書いたのは私だけど、その彼が言っているのは共通の趣味の他にも理由があるもん。」

そう言って、美穂はメッセージが和訳された紙の一番下の部分を指さした。

…表情が解らないからこそ、きっと僕はこの手紙を君に送ったのだ。

「沙紀よく話していたじゃない、結局誰もが外見だけでしか判断していないって。」

確かにそう思っているが、この彼だって同じかもしれない。

「彼はそういう沙紀だからこそ連絡してきたのよ。」

「どういうことなの。」

美穂はいつの間にか食べ終わっていたスルメのゴミを丸めると、ゴミ箱に放り投げた。

「昔はね、御簾越しにしか女性を見る事が出来なかったの。」

「それって得意の源氏物語のことだよね。」

そう、と言って美穂はチーズに手を伸ばした。

そのまま開封すると、裂けるチーズを裂かないで口に放り込んだ。

「だから、手紙によって、つまり恋文ね、恋歌っていうのだけどその一通一通をやり取りして相手の事を思い描いていったの。」

きっとこの子はストレスをため込んだら太るタイプだな、そんな事を私は考えていた。

「このメッセージはまさにそれなのよ、今そんな気長な事を出来る人はなかなかいないわ、出会おうと思えば、そう、出会う前に写真を見る事も声を聞く事も出来る、それに、昔と違って出会いの幅が広がり過ぎているの。」

「美穂を見ていれば、解るわ。」

「でも、沙紀はそういう出会いは好まないでしょう、ある意味で古風なのよ。」

下の階から、兄と菜穂さんの笑い声が聞こえてくる。

如何わしい事をしないでくれると、妹としては嬉しいが介入するつもりはない。

「ちゃんと、聞いている。」

見透かされたようで、反射的に「はい。」と返事をしてしまう。

「だからね、そういう沙紀の言っていた事を書いておいたのよ、プロフィールに、それを見て連絡をくれたの、彼は。」

急に下の階が静かになった、この話しが聞こえていないといいが。

「つまり、私と彼は御簾を潜ろうとすれば出来るのにしない、そんな恋愛観が合っているということね。」

「そう、今は御簾が国境だったり、人種の違いだったりするのかもしれないけど、別にすぐに恋愛対象とする必要もないと思うけれど、連絡してみるのも有りじゃないかな。」

よく聞いていれば、こんなに熱く物事を語る美穂は久しぶりにみた気がする。

最後に美穂は、源氏物語のことならいつでも教えるからと言ってまたチーズに手を伸ばした。

親友がここまでいってくれて、私はどうするのだろう。

しかし、気が付けば私は美穂の変わり回転椅子に座り直し、キーボードに手を置いていた。

「さ、英語の授業をお願いします、先生。」

これからの夜は少しだけ熱くなりそうな気がした。