彼女の事でこんなに悩んでいる亮平を見るのは初めてかもしれない。
中学時代から二人で悪い事を散々してきたが…今の亮平にはその影すら見えない。
一週間前の夜、ついに美穂の友達である沙紀ちゃんを彼女にしたという吉報は聞いた、しかしそのすぐ後でクリスマスも大晦日も一緒には過ごせない事や「好きになれなかったら」すぐに別れると言った事を電話で言われたと聞いた。
教室で休み時間になると寝続けているのも、そのせいなのかも知れない。
「おい、昼休みだぞ、沙紀ちゃん誘って四人で飯食べに行くべ。」
「ん、でも断られたらどうしよう。」
「乙女かお前は、いいからいくぞ。」
沙紀ちゃんが編入してきた時から亮平がひとめぼれしたのは知っていた。
何度か彼氏が出来ていたようだが、すぐに別れていた事もあって亮平は沙紀ちゃんのことを諦めていなかった。
やっと念願が叶ったのに、これじゃあセミの抜け殻だ。
「美穂、沙紀ちゃん、一緒に屋上で飯食べに行こうぜ。」
購買に昼ご飯は買いに行ったあとのようだ、すでに開封済みの袋が机に出ている。
「いいよ、ほら沙紀も行くよ。」
この子は本当に甘いものが好きなのだな、今も手に持っているのは「チョコぎっしり」が売りの菓子パンだ、俺もかなり好きだけど。
「沙紀、これ。」
お、なんだ、悩んでいた割にはサプライズのプレゼントか。
「えっ、なに、ありがとう。」
掌に収まるくらいの包みの中には、白と青で彩られた写真立てが入っていた。
両脇には雲を象ったレリーフが装飾され、写真立てを縦に置くとレリーフが夕焼けに変わった。
「すごい、綺麗。」
「なに、亮平君、沙紀が空を好きなだって事を知っていたの。」
照れたように俯いた親友は本当に「乙女」のようだった。
昔二股は文化だ、と言っていた男は何処に消えたのだ、少しだけ寂しいが大人になったのか。
「ほら、付き合って一週間だし、あと沙紀に誕生日とかお祝い出来なかったから。」
「マメだね、翔もこういう人だったらいいのに。」
こんな乙女と一緒にされたくないが、確かにこういう記念日とかのお祝いをしたことはない。
「じゃあ、今月の記念日を明日にして…。」
「もういいよ、今日が記念日だってことも覚えていないなら嬉しくないです。」
これはおかしい、親友の恋より俺の恋のほうがお先真っ暗になりかけて、いる。
屋上に上がると、美穂と沙紀ちゃんはすぐに寝転がった。
亮平は沙紀ちゃんの横で弁当を開いている、俺は美穂の横に行こうとしたが無言の壁を感じたため少し離れた処に腰を降ろす。
「今沙紀のお母さんって帰国しているのだっけ。」
「そうだよ、今日は空が近いね、寒いけど。」
「あれ、沙紀のお母さんって…。」
卵焼きを口に運びながら亮平は会話に入っていく。
「うん、海外にいることが多いのだけど、年末まではいてくれることになったの。お父さんもクリスマスには帰ってきてくれるって。」
そうか、だから…。
「じゃあ年末に近づくにつれて楽しみが増えていくね。」
ギリギリ会話に入れただろうか、沙紀ちゃんは満面の笑みだ。
「お前たちはどこか出掛けるの。」
「ああ、これから決めるつもり、な、美穂。」
返事はない、が頷いてくれた。
何にしても沙紀ちゃんが年末を過ごせない理由が解って、亮平も少しは安心しただろうか。
俺も付き合い方を考えなきゃいけないかもしれないな。
そんな事を独り、考えていた。
窓を開けて耳を澄まし目を瞑ってみる。
僅かに風の音が聞こえるが、布の擦れ合うような音は聞こえてこない。
今度は、目を瞑ったまま頭の中で空をイメージしてみる。
ゆっくりと、青が広がっていく。
雲はない、空には何匹か鳥が飛んでいるようだが囀りは聞こえない。
青が広がるときに、「色」が「音」に変わった。
そうか、見るのではなくて感じたときの音なのだ、彼が書いてきたメッセージは。
すごい感性をもっている、私は感動した。
想いつきで送った問いかけにここまで深い返答をしてくれるなんて。
私は亮平に貰った写真立てを眺める。
亮平は私が「空」を好きだと思ってこれをくれた、その気持ちは勿論嬉しいのだ。
しかし、私がなぜ「空」を好きなのか、その事には興味がないようだった。
翔くんから亮平くんの事を聞いた。
ずっと好きだった事、念願が叶ったということ、でもそれは私には関係ない。
しかし、私と亮平くんは今二人で一つなのだ、一人の感情を優先していいわけがない。
…もう少し、歩み寄ってみよう。
一階では兄とお母さんが何やら笑い合っている。
ゲーム好きの二人だ、きっと何かやらかしているのだろう。
私はパソコンを立ち上げると彼に送るメッセージを入力し始めた。