トイレット戦争は仁義なき戦いです③ 恋人たち 編 | シャアに恋して ~デスラー総統のロマン航路~
※この記事は過去記事の再構成です


諸君、ご壮健かな。


さて、前回の続き。


静かだ。
気味悪いほど。

(もしかして…。)


私の中で要らぬ心配が頭を、巨神兵のようにもたげはじめる。
まさか、急病だろうか。

でも、やはり要らぬ心配だった。


山ちゃんはドアノブをもう一回回す。

ガチャ。

控えめだ。
今はなき大和撫子のように。

そのとき。


バーン!!

突然、扉が開いた。


「ひゃひ…。」

山ちゃんは、言葉にならない声をあげる。


降臨したのだ!
あのあらぶる神が!

ズイ…。

のごとき屈強な右足が姿を表す。
足をついた瞬間、床がジュウ、と音をたてて煙をあげそうだ。

そして全体像が現れた。

嗚呼、時が見える!


「あんた!しつこいわよ!!!」

波動を伴う咆哮に。
山ちゃんは直立不動。

失禁するのではないか。
私は心配でならない。


パンパース…じゃないよな。
アテント、なのか?

私はひどく下らないジョークが頭に浮かぶが。
時はまってくれない。


「入ってるのわかんでしょうよおおお!」

店内に響く。


聞けよ、凡人たちよ。
これが神の声だ!


神はふたたび「あ゛」の顔をし山ちゃんを見つめると。
誰も目をあわせようとしない店内を闊歩していく。

昔のひとは、天皇陛下を見ることすら。
不敬にあたり、顔を伏せたという。



一人残された山ちゃん。
私は彼が気になる。

彼はつれもいない。
心を癒してくれるひとがいない孤独。

傷心の彼が、思い詰めないか不安でしょうがない。


山ちゃんは振り返り。
数歩歩くと。

席にもどった。


おーい、山ちゃん!
魔物は去ったぞ!

大丈夫だぞ!
本当に漏らしちゃうぞ!

そんな声も届くはずもない。


私はカフェを飲む。

その目には。
うっすらと涙が浮かんでいた。



おかしすぎて。







(おしまい)