諸君、ご壮健かな。
さて、前回の続き。
静かだ。
気味悪いほど。
(もしかして…。)
私の中で要らぬ心配が頭を、巨神兵のようにもたげはじめる。
まさか、急病だろうか。
でも、やはり要らぬ心配だった。
山ちゃんはドアノブをもう一回回す。
ガチャ。
控えめだ。
今はなき大和撫子のように。
そのとき。
バーン!!
突然、扉が開いた。
「ひゃひ…。」
山ちゃんは、言葉にならない声をあげる。
降臨したのだ!
あのあらぶる神が!
ズイ…。
象のごとき屈強な右足が姿を表す。
足をついた瞬間、床がジュウ、と音をたてて煙をあげそうだ。
そして全体像が現れた。
嗚呼、時が見える!
「あんた!しつこいわよ!!!」
波動を伴う咆哮に。
山ちゃんは直立不動。
失禁するのではないか。
私は心配でならない。
パンパース…じゃないよな。
アテント、なのか?
私はひどく下らないジョークが頭に浮かぶが。
時はまってくれない。
「入ってるのわかんでしょうよおおお!」
店内に響く。
聞けよ、凡人たちよ。
これが神の声だ!
神はふたたび「あ゛」の顔をし山ちゃんを見つめると。
誰も目をあわせようとしない店内を闊歩していく。
昔のひとは、天皇陛下を見ることすら。
不敬にあたり、顔を伏せたという。
一人残された山ちゃん。
私は彼が気になる。
彼はつれもいない。
心を癒してくれるひとがいない孤独。
傷心の彼が、思い詰めないか不安でしょうがない。
山ちゃんは振り返り。
数歩歩くと。
席にもどった。
おーい、山ちゃん!
魔物は去ったぞ!
大丈夫だぞ!
本当に漏らしちゃうぞ!
そんな声も届くはずもない。
私はカフェを飲む。
その目には。
うっすらと涙が浮かんでいた。
おかしすぎて。
(おしまい)