ギターダー製オペアンプ

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前に録画しておいた「クレイジー・ジャーニー」をやっと観て知ったのですが、個人で時計を作る独立時計師という職人さんが世界に数十人いて、菊野昌宏さんもその一人です。
 
菊野さんが作る腕時計は全て一点物で部品もネジ1本から自分で作るんです。
「自分で一から作りたい。」という気持ちが強いらしく、私なんぞ足下にも及びませんのでこんなこと言うのもおこがましいのですが、話を聞けば聞くほど、まさに私のエフェクターに対する考え方と同じなのでシンパシーを感じてしまうと同時に、自分ももっと本腰を入れなくてはと思いました。


私はネジは作りませんが、エフェクターを設計・製作すると同時に、エフェクターに使うオペアンプ(ICです)も自分で設計しています。
いわゆるディスクリート・オペアンプです。

新しいオペアンプを設計すると、エフェクターとして回路の中に入れる前にオペアンプとして形にして動作確認をします。
未発表のものや、既にエフェクターの回路の中に採用しているものもあります。


これはギターダー製オペアンプの中でも、小型化を意識せずに妥協することなくこだわって設計した GTD4558 の基板。
下の汎用オペアンプと比べると大きいです。

しかも汎用オペアンプの4558は2回路入りですが、この基板はこれで1回路分です。


もっと実用的に小型にしたのがこれ。
これも1回路分ですが機能は市販の汎用オペアンプと同じです。

小型化だけが目的であれば余裕でもっと小型化は出来るのですが、エフェクターとしての性能も保持したいし「動作確認モデル」ということで昔ながらの基板の見た目にしてあります。


そして、今回はこれの2回路入り版を製作しました。
市販の2回路入り汎用オペアンプとピン配置も同じです。


先日組んだオペアンプ・バッファのオペアンプと互換性がありますので


そのままオペアンプと差し替えて使えます。


市販のオペアンプの波形。


今回製作したギターダー製ディスクリート・オペアンプの波形。

高性能で優秀なオペアンプというのはかなり高周波特性が良いわけですが、この波形はギターとしての音の中でも重要な周波数帯ということで1kHzという低周波を使用しているので、一般的にはこれだけでオペアンプとして優秀だということにはなりません。

ですが、歪みもなく綺麗な正弦波が出力されていて、ギターを鳴らして確認してもJRCの4558DDと比べて全く遜色なく使えます。


4558以外のオペアンプとも比べてみます。

これはTAIWAN製のDS-1の中でも日本で再販売が開始された時に搭載されていたM5223ALです。


廃番品でレアです。



同じように使えます。


M5223ALの波形。


エフェクター用途であれば、今回製作したディスクリート・オペアンプがこれら市販のオペアンプと肩を並べられる完成度を有していると言えます。


もちろん、MarshallのLead12に搭載されているMC1458CP1もギターダー製ディスクリート・オペアンプに差し替えられます。


で、高性能オペアンプを作ることが目的ではないので、ギターに必要の無い周波数特性などはあまり重要ではないのです。
ギターを鳴らしてどういう音になるかの方が大事なのです。

実際にエフェクターの世界では今どきの高性能オペアンプよりも、性能面ではるかに劣る何十年も前の、しかもローノイズではないタイプのオペアンプの方が好まれていたりします。

独立時計師の菊野さんもおっしゃってましたが、高性能を求めるなら、今は100円ショップでも精度の高い時計はいくらでもあるわけです。

オペアンプも同じで、高性能オペアンプなんていくらでも安く手に入ります。

それをあえて自分の手で作りあげて、独自の回路とエフェクターとしての機能を追求することに意義を感じるのですが、それと同じ考え方の独立時計師の菊野さんがいて活躍されているということが嬉しくもあり、憧れでもあり、なんか励みになったような気がします。