Electric Avenue エディ・グラント | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

20141121EddyGrant

 ◎Electric Avenue
 ▼エレクトリック・アヴェニュー 
 ☆Eddy Grant
 ★エディ・グラント
 released in 1982 from the album KILLER ON THE RAMPAGE
 2014/11/21

 今日の1曲はレゲェ、エディ・グラント。

 先日の「笑う洋楽展」でこの曲が取り上げられていました。
 その日のお題は「距離の近い客」、スタジオライヴで客に「まみれ」ながら歌うエディ・グラントの姿が写し出されていました。

 この映像はその時のものではなく、公式のビデオクリップです。




 Electric Avenueは1982年にまず英国でリリースされ、最高位2位と大ヒット。
 翌年アメリカでもビルボード誌5週連続2位と続けて大ヒット。

 1位になれなかったのは惜しかったですが、ビルボードではアイリーン・キャラのFlashdance...What A Feelingとザ・ポリスのEvery Breath You Takeに1位を阻まれたもので、敵が強すぎましたかね、運がなかった。

 曲は1981年4月10日11日、英国ロンドン南部で起こった「ブリクストン暴動」をヒントに書かれたとのこと。
 暴動のきっかけは、景気後退に関わる失業問題で、特にこの地区はアフリカ系やカリブ系移民が多く、他よりも失業率が高かったことが不満となり、暴動につながってしまったものでした。
 そして"Electric Avenue"とはその地域の実在する通りの名前。

 曲の歌詞は一見すると暴動に参加しようと訴えかけているようにも思えますが、でも緊迫感がなく、むしろ陽気に歌うこの曲からは、暴動ではない他の方法で世の中を変えられれば、という思いも伝わってきます。

 映像も、人々が何かを訴えてはいるけれどどこかしらユーモアがあり、一方バイクで夜の街をうろつく2人は、ヘルメットで表情が見えないだけ不気味でもあります。

 ただ、エディ・グラントが大写しになって歌うシーンの迫力は、やはり暴動に参加しようと訴える牧師のようにも思えますが。
 
 しかし結局、なんとかなるさ、という楽観性を感じるのは、ジャマイカの人々の気質なのかもしれない。
 少なくとも、観ていて気持ちがネガティヴにはならない、そんなビデオクリップでしょう。



 曲について、これは思い出も思い入れもたくさんあります。

 1983年はビートルズ以外の洋楽を聴き始め、NHK-FMでヒット曲を中心にエアチェックして聴き、気に入ったLPを買うようになっていた時期でした。

 この曲もエアチェックで聴いて知り、好きになりました。
 でも、レコードを買うまでには至らなかった。

 当時の僕は、先ずは大物や大ヒット曲から買う、という感じでした。
 大物であることを僕なりにどのように判断していたかというと、ネットがない当時の世の中で、その時のヒット曲以外の過去のヒット曲がありそれがすぐに分かるかどうかでした。
 ザ・ポリスはテレビでも話題になるほど大物でしたが、エディ・グラントという人はほんとうにこの曲しか情報がなく、曲からだけではどんな人でどういう経歴かがまるで分かりませんでいた。
 ちなみに、エディ・グラントは、今でもこの曲が入ったこのアルバム以外はほとんど知らないままなのですが。

 洋楽聴き始めの中高生には、知らない人のレコードを買うのはかなりの冒険でした。
 それは精神的にも、そしてもちろん財政的にも。

 当時タワーレコード初代札幌店に通うようになっていたのですが、シングル盤はまだ売られていなかったと記憶しています。
 シングルがあれば、これは買っていた可能性が大きいのですが、まあ過去のことを話してもしょうがない。

 高校に入って仲良くなり今でも親交があるさいたまのソウルマニアMが、ある日突然、「エディ・グラントのElectric Avenueいいよな!」と言い、僕以外にもそれが好きな人がいるんだと驚きうれしかった、という思い出もあります。
 まあ、そういう人だから今でも友だちであるのでしょうね。



 この曲はまずもって歌メロがいい。
 童謡みたいに親しみやすくて、洋楽聴き始めの僕が初めて聴いて「嘘だろ」といったくらいに分かりやすかった。
 
 サビのタイトルElectric Avenueを歌う部分、「いれっ(く) とぅりっくあべにゅぅ」と"electric"を一旦切る歌い方がまた印象的でいい。
 よくそれを思いついたなあ、と、英語ネイティヴではない僕は感心します。

 音楽自体も「嘘みたい」にシンプルなのがいい。
 聴く限り、ギター1本、ベース1本、ドラムス、シンセサイザー(キーボード)3台(音色でいえば、音を変えて重ねている可能性もあるでしょうけど)、リードヴォーカル、そしてコーラス、それだけ。
 単純計算でいえば8トラックで録音できますね。

 キーボードのうちひとつが「ピコピコ」鳴り続けていて、ゲーム音楽のようでこれまた面白い。
 当時はまだ家庭用コンピューターゲームはなかったと思うけれど、ゲームが普及して時代がこの曲に追いついたようにすら感じられます。

 キーボードのもうひとつ、歌と歌の間に入るひょこひょこ鳴る音も面白いけれど、今にしてこれはソウルのホーンと同じ役割なのだと思う。

 キーボードの使い方がいかにも80年代と思う一方で、厚くないせいか不思議と古さはあまり感じません。

 ギターの「シャーッ」という感じの音色もいい。
 ギブソンのファイアーバードやエクスプローラー、或いはSGのように思われますが、ぎりぎり歪むか歪まないかの音がきれいに響いています。
 サビに入って「シャーッ」と表で入ってすぐにシンコペーションでまた入るのもいい。

 エディ・グラントの声は英語の発音も含めていかにもレゲェといったもので、メッセージを伝えるという点ではその重さが効果的であり、しかも曲が軽いそのミスマッチ感覚が印象に残ります。

 「ほ~うっ」という掛け声も、"Hey"や"Hi"や"Yeah"ではないのが洋楽に慣れていない僕には新鮮だった。

 この曲はまさに"simple is best"、声も含め、その楽器らしさを追求した結果のシンプルさが化学反応を起こした素晴らしい楽曲、といえるでしょう。

 「笑う」で観て、久しぶりにCDを出してきました。
 
 アルバムは、ユニヴァーサル系のDELUXE EDITIONのCDが出た際に初めて買って聴きました。
 今聴くととてもいい。
 当時そう感じたかどうかは分からないけれど、アルバムとしても素晴らしい。
 表題曲Killer On The Rampageはおそらく当時ラジオで聴いたのでしょう、なぜか覚えていた、というか頭の中の抽斗を開けたような感覚に囚われました。

 レゲェというと日本では夏というイメージが強いですが、真冬に向かう今、暫くまた聴こうと思います。