「あの娘におせっかい」 ウィングス | 自然と音楽の森

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20141105ListenTo1


 ◎Listen To What The Man Said

 ▼「あの娘におせっかい」

 ☆(Paul McCartney &) Wings
 ★(ポール・マッカートニー&)ウィングス

 released in 1975 from the album VENUS AND MARS

 2014/11/5


 今日はポール・マッカートニーの名曲の話です。



 ポールの最新リマスター盤が2点、この11月に出ました!!

 今日取り上げられた曲が収録されたVENUS AND MARSと次のWINGS AT THE SPEED OF SOUNDです。


 僕は当然、今回も2点とも豪華限定盤を買いました。
 今日届いたばかりでまだ開けてもいないのですが、今回はそれを記念してこの曲の話題にしたというしだいです。


 Listen To What The Man Said、邦題「あの娘におせっかい」は、ポール・マッカートニーのビートルズ以降としては6枚目、1975年のVENUS AND MARSからのシングルカット曲としてリリースされ、ポールにとってソロ以降で4枚目のNo.1を記録。


 ソロのスタートがもたついていた感があったポールですが、前作BAND ON THE RUNでアーティストとしての評価を固め、再び「世界一の人気者」に返り咲いたのがこのアルバム。


 VENUS...は今でもポールのソロ以降でいちばん好きなアルバムに挙げる人が多いように、いい意味でのはったり十分のポールが戻ってきた、充実したアルバムとなりました。
 アルバムについては近いうちに記事を上げるとして、曲の話を。

 ちなみにアルバムのアートワークは、ポールにしては珍しくあのヒプノシスが手がけています。



 僕がこの曲を初めて聴いたのは、もうおなじみ(笑)、1981年、中2、ビートルズを聴き始め、「FMファン」で彼らのソロ曲を見つける度にエアチェックをして聴いていた、その頃です。


 もう1発でなんて素晴らしい曲!!! と感動し、引き込まれました。

 

 写真のドーナツ盤は、それからすぐに中古で買いました。
 いつも言いますが、1980年代前半はまだビートルズやメンバーのドーナツ盤が中古に大量に安く出回っており、これも札幌の「レコーズ・レコーズ」4丁目プラザ店に250円でありました。



 おなじみ『ビルボード・ナンバー・ワン・ヒッツ』(下)から曲について引用します。
 なお、引用者は適宜、改行や表記変更及び補足をしています。


***


 ニール・セダカは、自分の曲「愛ある限り」が、ポール・マッカートニー&ウィングスの「あの娘におせっかい」に1位を奪われたが、この曲をほめたたえた。
 「ポップスのヒットは帽子をかける鉤が必要なんだ。
 鉤はメロディでも詩でもいいけど、詩とメロディがうまく結びついてくるのがいちばんいいんだ。
 マッカートニーは、そいつをやってのけた。
 あの曲は、素晴らしいよ」
 と、セダカは「タイム」誌で言っている。
 大衆も同意見だった。


 このシングルは、1974年5月31日、65位でHOT100入りし、7週後の7月19日、マッカートニーの、ビートルズ後4枚目の1位となった。
 これは、グループがキャピトル・レーベルで初めて出したシングルである。
 この前のJunior's Farm / Sally G.が、マッカートニーのアップル最後のシングルになった。


 「あの娘におせっかい」のクレジットはただの「ウィングス」になっている。
 「困っちゃうよ。
 ポール・マッカートニー&ビートルズじゃなかったし、ポール・マッカートニー&クオリーメンでも、ポール・マッカートニー&ムーンドッグスだったこともない。
 ウィングスの方が短くて言いやすいし、どっちだとしても、みんなぼくがグループの中にいるって知ってるんだから」
 とポールは言っている。


 「あの娘におせっかい」を吹き込んだのは、ウィングス・マーク・ファイヴの面々である。
 前作の際にトリオになったウィングスは、ポールがナッシュヴィルに行って自分の曲を吹き込んだり、ペギー・リーのアルバムLET'S LOVEをプロデュースした際、またふくれあがった。

 ポールは21歳のギタリスト、ジミー・マカロックに、アメリカに来てレコーディングに参加するように言った。
 彼の力は、ポールの弟マイク・マクギアのアルバムを作った時、証明済みだった。
 スコットランドのグラスゴー生まれの彼は、13歳の時からプロとして演奏していて、ジョン・メイオールズ・ブルースブレイカーズなどに名を連ねていた。

 ポールはドラマーを探してロンドンでオーディションをした。
 50人の中から勝ち抜いたのは、ジェフ・ブリットンであるが、彼はVENUS AND MARSの3曲に参加しただけだった。
 ポールは代わりに、ニューヨーク州ロチェスター生まれのジョー・イングリッシュを呼んだ。
 ロサンゼルスで最後のミキシングを行っている時、ポールはジョーをウィングスのメンバーとして正式に招いた。
 この曲はこのメンバーで、ニューオーリンズにて録音された。


***


 先ずは補足で、「鉤」とは"hook"のことでしょうけど、今ではそのまま「フック」が音楽用語として日本でも使われていますね。

 「ウィングス」の名前の部分はポールお得意のジョークです、はい。


 そして「マーク・ファイヴ」は要は5人で録音したということでしょう。
 彼らはメンバーの入れ替わりが激しく、ジェフ・ブリットンを含めてもこの時のメンバーが第5期という意味かと思いましたが、調べてみると第4期でした。
 ただ、厳密にいえば、辞めた2人が同時に去ったわけではなく、4人だったことも短期間あるので、それを数えると第5期ではあります。
 なんて、この辺はマニア的な話で失礼しました。


 曲の話。


 まさにその通り!!!!!!!!!

 ニール・セダカが言うように、ポールは「やってのけた」のです!
 音楽評などを読んで、これほど自分が感じて思って考えていたこととぴったり同じという文章には、滅多にお目にかかれるものではない。
 さすが、評論家ではなく歌手の言葉ですね。

 この歌はどの部分を歌っても気持ちがいい!

♪ Any time, any day, you can hear the people say
 


 歌い出しからもう最高にいい。
 dayまでは言葉をゆったりと発音し、you以降は急くように歌う。

♪ Oh yes, indeed we know that people find the way to go
 No matter what tha man said
 Love will find for all we know, all we know our love will grow
 That's what the man said
 So won't you listen to what the man said...(he said)


 サビのタイトルの言葉が出てくる辺りも、緩急というか、早口で歌う部分とゆっくり歌う部分の対比が素晴らしい。

 ポール・マッカートニーの歌の魅力は、旋律とリズムと言葉の絡み、言葉を音に乗せてゆく感覚、もうそれに尽きると思うのですが、だから歌った時の語感が素晴らしい歌ばかり。
 この曲はその点ではポールの真骨頂、最高傑作ではないか。

 もちろんそれ以前に、純粋に、単純に、歌メロがいいのだけれど。

 偶然か意図的か、曲名のListen To What The Man SaidのListen "to"が入っているのが語感として効いています。
 「間」(ま)、というか。
 文法的に"to"を省けないのだから仕方ない、というか、英語圏の人は"to"を省こうとははなから思わないのでしょうけど、それがあることで余計に曲の旋律への言葉の乗りがよくなっていると感じます。
 

 ただ、英語圏の人間ではない僕は、歌を覚えた頃は逆に、"to"があるから言いにくい、と思ったものですが(笑)。
 最初の頃は「りっすん と(ぅ) わっとざ」としか歌えなかった。
 ポールは「りす(ん) とぅ わっとざ」と歌っています、念のため。

 傑作、といっても、どちらかというと「できてしまったもの」。
 作為的な面がなく、ほんとうに、才能と「天使の言葉」だけの歌。
 この曲は、一度口ずさみ始めるともうずっと歌ってしまいますね。

 さらにこの曲は、ポール自身もそう感じたのでしょう、後半は同じ部分を何度も何度も繰り返して歌いますが、そこを歌うことこそがこの曲の楽しさである、ということでしょうね。

♪ The wonder of it all baby...
 さらに、コーダの部分になってそれまで出てこなかった歌詞と旋律が入る、やはりポールは曲の終わらせ方が上手い。
 音楽の面でも、ポールの最高傑作のひとつといえるでしょうね。


 ところでこの曲、なぜか、どこか寂しい、と最初に聴いた時に感じました。
 曲調も明るいし、ポールも陽気に歌っているのだけど。
 最後のオーケストラの盛り上がりは、その小さな思いがひとつの大きな音となって表されたものといえるのでしょう。
 そして最後に、ポールが陽気に歌っているのは、どこか寂しい君を元気つけるように歌っているのだと分かります。
 ヴォーカリストとしての面でもポールの最高の部類ではないかと。

 ちなみに、シングルミックスではオーケストラの音がフェイドアウトしていますが、アルバムではそのまま次の曲Treat Her Gently / Lonely Old Peopleにつながります。
 これがまた、音も内容も、気持ちが続いていいですね。


 そうそう、余談というか、この曲はLPのB面5曲目に入っています。
 昔は僕はLPをカセットテープに録音して聴いていましたが、寝る前にかけると、A面が終わらないうちに一度意識が落ち、オートリヴァースではないのでテープが止まる音で目が覚め、半分眠りながらテープをひっくり返してかけてまたすぐ寝ていました。
 そして最後にカセットが止まる音ではもう目が覚めない。
 もちろん最後まで聴くことも多かったですが、B面5曲目というのはだいたい、そこまでたどり着くことなく寝てしまっていましたね。
 シングル大ヒット曲がそれほど後ろに入っているのは、後から見ても、あまり多くない事例ではないかと思います。


 ところで、"The Man"て誰のことだろうと最初は思いました。
 "the"がついているので一般的なものではない誰かなのだろうけど「君」と彼女を(逆でもいいけど)両方知っている男性のことかな、など。
 でもずっと歌っていくうちに、これは誰か特定の人ではないと。
 世の中の多くの人は、男女の仲がうまく行くようにと見守っているものだという意味ではないかな、と今は思います。
 または、この歌を歌っているポール自身のことでしょう。
 でも、ポールもその誰かを代表したひとりにすぎない、ということ。

 なんて考え過ぎ。

 ポールは音に言葉を乗せる天才だから、意味があるようでない、そして響きが歌にちょうどいい言葉として"The Man"が思い浮かんだ、ということなのでしょうね。


 この曲の音楽面で特筆すべきは、デイヴ・メイソンの参加です。
 僕はこの曲を最初に聴いた時から、リズムギターがいいと思いました。
 多分意図的なのでしょうけど、エアチェックしたテープを聴いていても、リズムギターの音が周りに埋もれずしっかりと聴こえてきました。

 それがデイヴ・メイソンのプレイだと知ったのはずっと後のことでしたが、ポールもデイヴを迎えるにあたって最大限敬意を表したのでしょう。
 ギターソロもないし、ずっとバッキングプレイに徹していますが、
だからこそのデイヴ・メイソンらしいギターの味わいがありますね。それとやっぱりベースラインがいいですね。
 

 よく動くメロディアスなポールらしいベースですが、でもレコードでは控えめにミックスされています。
 そもそも録音の音が厚くて、ヘッドフォンで聴くと、隙間隙間に音が配されていて、アレンジが充実しています。

 ただ、だから、WINGS OVER AMERICAのライヴヴァージョンは、管楽器隊はいるものの、演奏が薄く感じられますね。
 特に間奏のところは「ジャッジャッ」という感じに切れて隙間だらけ。

 まあそれはライヴの魅力ということにもなるのでしょうけど。


 ♪ Soldier boy kisses a girl ,leave bihind a tragic world
 But he won't mind, he's in love and he says love is fine

 アレンジといえば、この"kisses"の部分で「チュッ」とキッスの擬音が入るのはきっとリンダさんでしょうね。

 ポールはどうしてもそれが入れたかったのかな、なんて(笑)。



 忘れもしない、2013年11月21日。
 ポール・マッカートニー東京ドーム公演最終日。


 この曲のイントロが流れてきた瞬間、大きな拍手が起こりました。
 僕の感覚では、ビートルズ以外の曲でいちばん拍手が大きかった。
 いや、ビートルズの曲でも幾つかはこれより拍手の音が低かった。
 やっぱりこの曲は人気があるんだなと実感しました。


 なぜか。
 言うまでもない、この曲はビートルズっぽいからです。
 ソロ以降のポールの曲でも最もビートルズっぽい。

 当たり前じゃないか、と言われそうですが、さにあらず。
 ビートルズ「解散」後のポールは、ビートルズから離れたくて、ビートルズの人というレッテルをはがしたくて、そしてビートルズ時代にやりたかった小さなライヴ活動を通して、自らの像を築こうとしていました。

 しかし、それはいわば無駄な努力だった。
 いや、人生無駄なんてないはずで、ポールのそういう姿勢が、後々の音楽の幅を広げ、70歳になっても素晴らしいアルバムを作れる人の基礎を成したとはいえるでしょう。


 しかっし。
 ポールがビートルズの人じゃないなんて、誰が思う?
 数年の活動の後、ポールはそれを素直に受け入れることにした。
 そしてできたのがこの曲だったのでしょう。
 つまり、ファンもポールも望む姿が幸せな姿が、一つの曲となって結実したのでした。

 コンサートは僕より年上のリアルタイム世代の人が多かったですが、そういう人には、ずっと追ってきたポールがやっと自分が望んだポールになってくれた、という思いもあったのかもしれません。


 でも、この曲、78年に発売されたウィングス初のベスト盤WINGS GREATESTにはなぜか収録されていません。
 あまりにも有名な曲だから別に入れなくてもみんな知ってるよね、と、良い意味で捉えるとポールの自負といえるのかもしれない。
 でも、悪い意味で捉えると、一度は元ビートルズの人という称号を甘受したものの、やっぱり僕は違うとまたへそを曲げ始めたのか・・・
 この曲が好きだった当時の人はショックだったでしょうね。
 実際問題としてはレコードの収録時間の関係でしょうけど、でも、何もこれを落とさなくても、と。
 まあ、今は別のベスト盤があって当然そこには収められていますが。



  「あの娘におせっかい」という邦題もユーモアがあっていいですよね。
 いかにも洋楽の時代といった味わいもあるし。
 おせっかいをするのは、もちろんポールということで。
 「娘」を「こ」と読ませるのはここで初めて知りました。


 今日はこの記事を書くと朝から決めていたので、ほんと、朝から晩までずっとこの曲をくちずさんでいたし、他の曲は一切口ずさみませんでした。

 この曲の良さは、歌ってみると100%分かります!