GIRL ファレル・ウィリアムス | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

 20140611PharrellWilliams


 ◎GIRL
 ▼ガール
 ☆Pharrell Williams
 ★ファレル・ウィリアムス
 released in 2014
 CD-0462 2014/6/11

 ファレル・ウィリアムスのアルバムがいい!

 日本でも、受けているのか、売れているのか、話題になっているそうで、洋楽好きとしてはうれしい。

 ファレルを僕は、ダフト・パンクのGet Luckyで知り、ほぼ同時期に大ヒットしたロビン・シックの「今夜はHEY!HEY!HEY!」もといBlurred Lineも気に入って両者のCDを買いました。
 ダフト・パンクがグラミーを受賞し、その勢いに乗って出たのがこのソロアルバム、という流れ。

 ファレルはその前から作曲やプロデュースで活躍していたことは聴き始めてから知りました。
 「笑う洋楽展」の「へそ出し」の回で取り上げられたグウェン・ステファーニのHollaback Girlもファレルの曲でNo.1ヒットとなったものだと分かり、そのことを実感しました。
 そういえば「笑う」で、安斎さんが日本人のミュージシャンかタレントか誰かと仲がいい人誰だっけ、と言って口に出した名前がファレルで、どうやらファレルは日本でも人気があるらしいとも分かりました。

 僕は、知ったきっかけがそうだったので、ファレルという人を、主役ではなく脇でしっかりと締めて全体を盛り上げるタイプの人かな、とイメージしました。
 だから、ソロアルバムが出たと聞き、大げさにいえば「大丈夫なんだろうか」と不安になりました。

 実際に聴くと、彼は「俺が俺が」というタイプの人間ではない、というだけの話で、音楽としてはしっかりとした手応えがあり、売れて当然と思いました。
 カリスマ性というよりは親しみを覚える人で、昔と違って、そういう人でも大スターになれるのが今なのでしょうね。
 しかしそれは、昔ながらのソウルが好きな人には、パンチ力に欠けるととられるかもしれないですが。
 
 そしてこのアルバムの魅力は、そんな彼の声にあります。

 最初に聴いて、どこかもの悲しい、寂しい、よく言えばノスタルジーを刺激する声だなと。
 あまりにも寂しい響きなので、3日間くらい、これでいいのだろうかと悩みながら聴いていました。

 リンクを貼った大ヒット曲Happyを聴けばそれがすぐに分かります。
 ハッピーというのにどこか寂しい曲であり歌であって、いろいろなことに耐えながら生きてゆく中で漸く小さなハッピーを味わえた、といった趣き。

 アルバム全体を通してもそうで、他の人が歌うと底抜けに明るいような曲でも、どこか寂しげに聞こえてくる。

 この声から醸し出される雰囲気が、もしかして日本人の気質に合うのかもしれない。 
 押しつけがましくがなく、つつましやかさがあって、感情に流されることなく理知的、そしてノスタルジック。
 きれいにまとまり過ぎているということと裏腹ですが、ファレルの音楽は安心して聴けるものだと思います。

 音楽的な面でいえば、リズムに粘つき感がなく音がさっぱりしていて、そこも聴きやすい点だと感じました。

 もちろん、いつもの大前提で曲が粒揃い、口ずさみやすく聴きやすいのは言うまでもないですが。


 1曲目 Marylin Monroe
 「ガール」というからには、もっと弾けて明るい、まさにロビン・シックのあれのような曲を想像しましたが、ふたを開けてみれば、マイナー調の落ち着いた曲でびっくり。
 ただし、女性3人とサングラスにバスタブ姿というジャケット写真の雰囲気から、何かうしろめたいような、秘密の部分があるようなことは察知していたので、聴いてすぐに、なるほどとも思いました。
 サビの部分で"girl"と4回繰り返すので実質的な表題曲と見ていいのでしょうけど、タイトルがマリリン・モンローというのは、アメリカ人はいつになっても理想の女性として彼女を思い描くのかな、と考えさせられました。

 2曲目 Brand New (duet with Justin Timberlake)
 サンバのリズムの明るい曲、だけど、ファレルの声がやはりというか、明るい曲調だけ余計に寂しさを含んで聴こえる。
 多分ファレル自身の「とぅとぅ~とっ」というキーボードの旋律に合わせたコーラスの声が最後まで流れていて効果的。
 その声も、聴きようによっては楽しく、または寂しく聴こえてきます。
サビに入るキーボードとユニゾンのブラスも音色やタイミングがよくて、つぼはしっかりと押さえた人だと実感。
 この曲調で"brand new"という感覚は分かりやすくていい。
 ジャスティン・ティンバーレイクをゲストに招いていますが、ゲストが多彩なのも今の時代だなと。

 3曲目 Hunter
 この曲は大枠はシャッフルだけど1拍目と3泊目を省略したみたいな真っ直ぐさがあります。
 ギターがざくざくと切ってゆき、ベースが印象的なフレーズを繰り返す小気味よい曲。
 ファレルは前半はファルセットで歌い、後半は喋りを交えて気持ちよさそうに歌っていますが、もちろんどこか寂しい。

 4曲目 Gush
 これは僕がよく言う80年代ブラコン風の曲。
 いかにもファンクらしいカラカラと鳴るギターに特にそれを感じます。
 中間の静かになったところでストリングスが入りそれが自然に感じられるところは、音楽クリエイターとしていい意味でそつのなさを感じます。
 ところで、"gush"という単語は知らなかったのですが、「勢いよく流れ出る」という動詞だそうで、でもその割にはやはりどこか引いた感覚のある曲であるのは同じです。

 5曲目 Happy (from DISPICABLE ME 2)
 貼り付けたYou-Tube映像は再生回数が2億8千万回を超えていて、大ヒットしていることがあらためてよく分かります。
 小さなハッピー、いいですよね。
 庭の薔薇が気がつくと咲いていたり、目の前にアオバトが飛んで来たり、たまたま入ったランチのお店がおいしかったり、誰かが自分のことを好きかもしれないと思ったり。
 ファレルの歌い方は、世の中、数多の人のそうしたハッピーの積み重ねで成り立っていることを感じさせます。
 いろいろな人がちょっとずつ踊るこのクリップも、それをうまく視覚化して表していると。
 この曲は、よくないことがあって落ち込んだから気分転換したい、というよりは、日々小さなハッピーが続いているからこそ聴いてしみてくる曲だと思います。
 なお、副題があるように映画のサウンドトラックとして使われている曲ですが、映画については僕もまだ情報不足でよく分かっていません、ご了承ください。

 6曲目 Come Get It Bae
 軽快なギターに続いてハンドクラップが勢いをつけ、ファレルがファルセットで歌う曲。
 リズムに重きを置いた曲というのは、僕が最近聴いた今のR&B系の人には必ず1曲は入っていて、これはそういう点で納得しました。

 7曲目 Gust Of Wind
 重たいビートに続き、どこまで続くのだろうと不安を掻き立てるようなストリングス。
 マーヴィン・ゲイの重たい曲をちょっとだけ彷彿とさせるミディアムスロウの曲。
 サビでいわゆる「ボコーダー」を使って声を変えているのは80年代前半の雰囲気。 

 8曲目 Lost Queen 
 アフリカを遠くに感じる。
 聖歌隊風の静かなコーラスと打楽器の落ち着いた響き、そして煽るようなコーラス。
 ファレルの歌も優しさに満ちていて、朝に教会で独白するような雰囲気。
 僕としては世代的にポール・サイモンのGRACELANDを思い出しました。

 曲が終わったかと思うと、トラック番号が変わらずに波の音が入り、後半の別の曲が始まります。
 僕はずっと次の曲だと思っていたのですが、違いました。
 後半はファルセットで歌う1980年代風のバラード。
 曲名をつけるとすれば"The Outer Space"かな、その通り、宇宙で浮いているような感触がたまらなくいい。
 あ、宇宙で浮いたことは僕はないですが(笑)、イメージとして。
 
 9曲目 Know Who You Are (duet with Alicia Keys)
 性急に歌い始める割と本格的なレゲェ。
 ヴァースの部分の動くベースが特に本格的と感じさせる。
 聴く方も気持ちが入りやすい曲をいかにも気持ちよさそうに歌うファレル。
 Bメロになると少し陰の部分が出てくる、歌としてはそれがまた効果的。
 1コーラス目が終わる頃、女性の"yeah!"という声が新たに入ってくる。
 その女性はアリシア・キーズ。
 ごめんなさい、僕はこれで、アリシアの声に惚れ直してしまいました(笑)。
 艶やかですこしハスキー、いや、女性ヴォーカリストとしても最高に好きな声のタイプです。
 これを聴いて、昨年11月の来日公演、あらためて行きたかったなあと。
 ポール・マッカートニーと同じ日でしたが、その日は僕が行かない回だったので、行こうと思えば行けたんだけどなあ・・・
 それはともかく、僕としてはうれしい曲。

 10曲目 It Girl
 最後に"girl"と入った曲がありますが、今までのフラッシュバックのようなまとめの曲。
 特に後半の煽るようなギターで盛り上げるところは、映画でいえば次々とシーンが切り替わって映し出されるようなイメージ。
 ファレルも気持ちを目いっぱい高揚させたように高音で歌う部分があります。
 ただ、「アルバム聴き」としての僕から見ると、最後の曲という感じがあまりしなくて、唐突に終わってしまう感があり、特に聴き始めの頃はほんとうに終わりなのかと戸惑った、ということも書いておきます。
 しかし面白いもので、途中で終わってしまうような感覚があるからこそ、すぐにまた聴きたくもなります。
 まあ、それが、プロデューサーとしての狙いなのでしょうけどね。
 

 
 タイプでいえば、さらっと聴けて実は奥が深い、という音楽ですね。
 
 特に大ヒット曲Happyで感じましたことで、今のポップスのど真ん中といった響きですが、それは今がロックの時代ではなくR&Bの時代なんだなと実感します。
 R&Bにしては粘つき感、ねとっとしたところがないのがファレルの個性であり、それが時代に受け入れられているのでしょうね。

 ともあれ、25枚連装CDプレイヤーに当然入りっ放しで、今はほぼ毎日聴いています。

 最後にどうでもいい話。
 Pharrellとは変わった、少なくとも僕は初めて聞く名前ですが、ファラオからの連想か、エジプトを思い出してしまいます(笑)。