Rock Me Tonite ビリー・スクワイヤー | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

20140425BillySquier

 ◎Rock Me Tonite
 ▼ロック・ミー・トゥナイト
 ☆Billy Squier
 ★ビリー・スクワイヤー
 from the album SIGNES OF LIFE
 released in 1984
 2014/4/25

 少し間を置きましたが、相変わらず「笑う洋楽展」絡みの選曲を。
 間を置いた結果、放送の前日に記事を上げて宣伝することができたのは、結果としてよかったかもですが。

 4月19日深夜の回の「笑う洋楽展」は「ビリー頑張る」がテーマでした。
 僕は前週にそれを知って、ビリー・ジョエル、ビリー・アイドル、ビリー・オーシャンは出てくるだろうと予想してその通りだったと書きました。
 
 今回のビリー・スクワイヤーも予想したのですが、こちらは残念ながら登場しませんでした。

 なぜ予想したか、先ず今回はビデオを観ていただきましょう。





 アパートの一室、上半身裸で寝ていたビリーが、起き上がり、ジャケットの絵が描かれたシャツやピンクのタンクトップをまとい、何をするかと思いきや、踊り始める。
 時々、今風にいえば「エアギター」や「エアマイク」を取り入れつつ、ただひたすら踊り続ける。

 この踊りが、冷静に観ると可笑しいですよね、それもかなり。
 「ビリー頑張る」で真っ先にこのビデオが思い浮かんだのも納得していただけるかと。
 後半はギターを取り出してバンド演奏をして本領発揮、でもそのギターがピンク色。

 この曲もご多聞に漏れず「ベストヒットUSA」で初めて観て聴きました。
 高2の時ですが、翌日の朝のクラスメートとの「音楽談義」では、このビデオクリップで話が盛り上がりました。 
 ほとんどの人はバカにしていましたね。
 両手を前に出してステップを踏みながら後退する踊りを真似する人までいました。
 僕は、曲がとっても気に入ったので、そんなに可笑しかったかなあ、といった反応を示した記憶がありますが、でもLPを買ったことがない人だったので、自分がバカにされたような感覚にまではなりませんでした。 
 とはいえ、周りの話に乗って笑ってはいましたが。

 ビリー・スクワイヤーはハードロックすれすれのハードでブルージーなロックで、僕が最も好きなタイプのロック。

 なぜ取り上げられなかったかというと、ひとつは80年代前半に固まり過ぎていたのと、もうひとつは取り上げる音楽の幅を広げたかったから、というのが僕の読み。

 でも、Wikipediaのこの曲の記事を読むと、もうひとつ、取り上げなかった理由が思い浮かびました。

 このビデオクリップは、「最悪のビデオクリップ」という話題で今でも必ず取り上げられるのだとか。
 このビデオクリップのおかげでビリー・スクワイヤーの華々しいキャリアが終焉を迎えてしまった、という厳しい見方まであるそうで。

 しかも、ダンスが可笑しい、という程度のものではなく、当時は「ビリー・スクワイヤーはゲイだ」「ビリー・スクワイヤーはクスリをやっている」と噂になったのだとか。
 クスリについては、まあよくはないけどロックにはありふれた話だから、もしそれだけであればそれほどの打撃ではなかったのではないか。

 ゲイだ、と噂されたことがより問題だったのでしょう。
 30年前は、僕の感覚からしても、同性愛についての理解度が今よりうんと低かったのは間違いない。

 そう言われたのは、ピンクのタンクトップが特に問題だったようで。
 それと、映像を見ると、彼の踊り方、上腕部を体にくっつけてやや内股で踊るのは、そうですね、マッチョとか男っぽいというのとは違うと思われたのかな。

 ゲイだというのはほんとうにただの噂だったみたいですが、しかし、風評被害にやられてしまった。
 そういえば、こんなにいい曲を書いて、シングルでは彼の中でもいちばんヒットして15位まで上がったにもかかわらず、その後なんだか急にビリー・スクワイヤーの名前を聞かなくなったっけ、と、当時のことを思い出しました。

 僕は当時、この曲はほんとうに気に入って、タワーレコードの店頭でLPを何度も手に取りましたが、結局買いませんでした。
 でもそれは、ビデオクリップの影響では決してない、と言いたい。
 高校生の身分、ただ単に資金不足、考えている間に他に欲しいレコードが出てきただけのことでした。
 先述のようにどちらかというと僕は可笑しいとは思いつつも擁護していたし、何より僕はあくまでも歌優先で、ビデオクリップの良し悪しは2の次という考えだから。

 僕は、ビデオクリップがいいからレコードやCDを買った、ということは多分ないはず、あっても2、3度まで。
 クリップを観て曲が気に入ると買う、あくまでもそれだけで、クリップの出来不出来や好き嫌いの話はしても、それが曲の良さとは必ずしも結びつきはしません。

 この曲もシングルとしては中ヒットしたのだから、やっぱりそういう人も多かったことは想像に難くない。
 でも一方で、もしビデオクリップが違うものであれば、もっと大ヒットしたのかもしれない、と、15位という順位にはそう思う部分もありますね。

 それにしてもこの踊り、何を言いたいのかな、と思いながら見ると、やるせなさ、募る切なさやフラストレーションを、ひとりぼっちでいる夜には踊りで晴らすくらいしかできない、ということなのでしょう。
 そう考えると、この可笑しい踊りは、可笑しいからこそ意味があるんだと理解できなくもない。
 でもやっぱり、それまで2作続けてプラティナディスクを獲得したギターヒーローのビデオクリップとしてふさわしいかと言われれば、否、でしょう。

 このクリップは可笑しいでは済まされないのでNHKでも却下になったのかな。 
 扱っている問題が微妙で繊細なだけ余計に。

 このビデオクリップに関する話を知ってから、僕は、これを観ると、可笑しいというよりは悲しくなってきました。

 たかがビデオクリップ、されどビデオクリップ。
 「キャリアの終焉」を迎えた話は、今回記事を書くまで知らなくて驚いたのですが、映像の持つ力、恐さを再認識させれれた話でした。
 
 今日は短くこの辺で終わりたいと思います。


 あ、でもやっぱり最後にひとこと。
 
 ビリー・スクワイヤーのアルバムは3年ほど前に初めてCDで何枚かまとめて買って聴きましたが、いいですよ、素晴らしい。
 うち1枚は記事にもしているのですが、この手のロックで未開拓の素晴らしいものがあったのか、と喜んだものです。

 この曲は特に、サビの"Take me in your arms"と歌った後の「ジャッジャーツ ジャッジャジャーン」というハードロック的なギターには痺れますね。
 
 そう、音楽は音楽ですから、あくまでも。