Uptown Girl ビリー・ジョエル | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

20140420BillyJoel

 ◎Uptown Girl
 ▼アップタウン・ガール
 ☆Billy Joel
 ★ビリー・ジョエル
 from the album AN INNOCENT MAN
 released in 1983
 2014/4/21

 1週置きましたが、「笑う洋楽展」からの選曲です。

 2014年4月19日深夜(暦日20日)の回のお題
 「ビリー頑張る」
 取り上げられたのは以下の5曲。

・ビリー・アイドル Rebel Yell
・ビリー・オーシャン Caribbean Queen (No More Love On The Run)
・ビリー・ジョエル Uptown Girl
・ビリー・レイ・サイラス Achy Breaky Heart → 最優秀作品
・ビリー・ハフセイ Maniac

 前週テーマを知って、ビリー・ジョエル、ビリー・アイドルそしてビリー・オーシャンは取り上げられるだろうと予想してその通りで、さらにビリー・ジョエルはきっとこの曲に違いないと、確信めいたものがありました。

 というのも、このビデオクリップこそ、高校時代に初めて観た時に「なんだか可笑しかった」から。
 お決まりの「ベスト・ヒットUSA」が初めてでしたが、翌日、高校の朝礼前の「音楽談義」で「ビリーが踊ってるぞ!」、と早速槍玉に。
 微笑ましい、いやどこか可笑しい、みんなそんなニュアンスで話していたのを覚えています。
 AN INNOCENT MANからの2枚目のシングルで、僕はそのLPを3、4人に貸していて曲は知られていたので、余計に反応が大きかったのだと。



 ビデオクリップは物語風になっていて、"downtown"にある自動車整備工場兼ガソリンスタンドがその舞台。
 ビリーはそこに勤めていて、仲間と一緒に陽気に楽しく仕事をこなす毎日を送っていた。
 或る日、そのスタンドに黒人が運転士を務めるロールスロイスがやって来る。
 車の中にはスーパーモデルが。
 ビリーは彼女を店先で口説き落とし、自らのバイクの後ろに彼女を乗せて夜のデートに出ていく、というあらすじ。
 あ、口説き落とし、は言い過ぎかもしれない(笑)。
 番組では、みうらじゅん氏がビリーを「工場長」と呼んで話を進めてゆくのが大爆笑でした。

 このビデオクリップは、交際していたスーパーモデルクリスティ・ブリンクリーをビデオクリップに登場させたと説明していました。
 僕はその時まで、逆で、このビデオクリップに出たことがきっかけで交際を始めやがて結婚したのだと覚えていました。
 つまりビリーは「顔見世興行」を行ったわけですね。

 本題の前に、"uptown""downtown"というと日本語では「山の手」「下町」と言われますが、実際のところ、"downtown"は「繁華街」というのがほんとうの意味だそうで。
 一方の"uptown"は日本でいえば田園調布のような住宅街を指すのでしょう。
 浅草はまごうことなく「下町」であり"downtown"でもあるけれど、でも上野は、エリアとしては「下町」と言われていても、山の上はむしろ"uptown"なのだろうな、と思います。
 逆に、渋谷を「下町」とは普通日本では言わないけれど、でも、英語の捉え方で考えてみれば、渋谷こそ"downtown"らしい街だと思います。

 だからこの曲の"uptown"と"downtown"の対比は、日本人には伝わっているようで微妙に違うのかもしれない。
 まあ、ビリーは親日家だからあまり気にしない、というか、日本流の解釈はそれはそれでいいと思うでしょうけど。
 それ以前に、ロックは基本的には聴く人がどうにでも解釈していいものだから。
 なお、この曲の歌詞では、"backstreet guy"という言葉がおそらく「庶民」という意味で使われていると思われます。

 0'13"、メカの人たちがジャッキアップされた車の下に入り、曲のリズムに合わせてレンチを右に左に回す。
 仕事になってないですね・・・

 0'20"、「工場長」ビリーが髪を整えながら登場。
 その後ろにはクリスティさんと思しき女性の大きな水着ポスターが。
 ペイルオレンジ(昔は肌色と言った)と黒のタテの太いストライプの水着を、なんだか変な色、と僕は当時思った記憶が。

 0'35"、棚から雑誌を取り出した「工場長」にメカの人たちが絡んでステップを踏み始める。
 仕事はどうしたの・・・
 メカのひとりは後ろでレンチのジャグリングをしているし。
 と思ったら0'47"でレンチのひとつを投げ、受け取った「工場長」はそれをマイク代わりに歌いながら体を揺する。

 0'49"、店の外では子どもたちが消火栓を開けて水を出して遊んでいるのか、道路が水浸し。 
 夏なんだ。
 映画やドラマでそのようなシーンを度々見ますが、向こうでは許されているのかな、或いは黙認かもしれないけれど、このクリップがそれを見た確か初めてでちょっとばかり驚いたものです。

 そこへロールスロイス登場、店に入って来ました。

 1'05"から「工場長」とメカたちはフォーメーションを組んでロールスロイスに近づき、品定めするように車をなでまわす。
 むやみに人の車に触らないほうが、というのは日本人的感覚なのかな。

 1'36"、後席のクリスティさんは自分で窓を開けて笑顔を振りまく。
 耳飾りが重そう、でもさすがはきれい、ビリーもなかなかやるなあ(笑)。

 そのあと、リズムに乗りながら4人で車にフルサービス。
 映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の過去の場面で、ガソリンスタンドに車が来ると店員が何人も出てきてガソリンを入れたり窓を拭いたりするシーンがアメリカでは大爆笑だった、という話を思い出します。
 当時はアメリカはガソリンはセルフばかりで、フルサービスは昔のもの、ということで笑いが起こったのでしょうけど、一方で日本は当時はセルフはなかったんじゃないかな。
 今はセルフも普通になりましたが、フルサービスもまだまだ健在ですよね。
 それはともかく、窓を自分で開けることも含め、アルバムのコンセプト同様、ノスタルジーの世界。

 1'42"、クリスティさんは車を降り、「工場長」とメカたちは列をなしてカルガモの雛のように彼女の後をついて歩く。

 1'55"、黒人の運転手が呆れた顔で眺める。
 あれ、『ドライビング・ミス・デイジー』ってこれより後だったよな。
 今見るとその映画を思い出しますね。

 
 1'59"、「工場長」は、タイヤのエアを補充する機械かな、何だろう、それが乗った台車に乗り、メカ3人が押しながら彼女の後をつける。
 風紀の問題はともかく、社員は仲がいいようで。

 2'11"、当時流行り始めていたブレイクダンスをする黒人少年2人は、今見ると、とってつけた感がないでもない。

 2'12、クリスティさんはストッキングを直す、そんなことここでしてはいかんだろ・・・
 後ろのバイクの2人組も彼女を虎視眈々と狙っている。

 2'18"、ここからのビリーの「独演会」が、当時はいちばん笑いましたね。
 上体と手の動かし方がロボットみたいに不自然で。
 自分の背中を掴んで、猫のように引っ張り上げられる仕草は面白い。

 2'40"、クリスティさんを中心にみんなで踊る、そうかこれはミュージカルだったのか。
 きれいな女性がガソリンスタンドに行くシーンといえば僕は、『シェルブールの雨傘』のカトリーヌ・ドヌーヴを思い出します。
 やはり映像があると、曲だけでは連想しないものが次々と浮かんできますね。  

 大団円を迎え、3'10"でビリーはバイクの後ろにクリスティさんを乗せて夜のドライブに出発。
 あれ、工場長、仕事はどうしたの、それにそのバイクは誰の・・・
 でも、周りのみんなに祝福されている、楽しい物語なのでした。
 小道具の使い方が上手いビデオクリップですね。


 
 当時の僕は、ビリー・ジョエルは「バラードシンガー」ではなく「ロックンローラー」であると、本人が望むように思っていたので、アップテンポの曲で踊ること自体には違和感はありませんでした。
 でも、高校のクラスメートには、「バラードシンガー」がコミカルに踊る、ということに驚いていた人もいました。

 ただ、ビリー、踊りは決してうまくないですよね。
 ぎこちないというか、要は慣れていない。
 ただ、クリップの中では照れ笑いなどは決して見せずに、自信を持って踊っているのがむしろクールでかっこいい。
 ロックの魅力のひとつに、照れてしまうようなことでも、決して照れ笑いをしないでやり通す、というのがあると考えていますが、このビリーはまさにそうですね。
 まあでも、ビリー・ジョエルはそもそもあまり笑う印象がないかな、笑う時は笑うけど、普通の仕草の中ではあまり笑わない。

 ビリーがボクサーだった話を番組では紹介していましたが、アメリカではビリーは決して美男子、ハンサム、今の言葉ではあまり言いたくないけれど敢えて言うと「イケメン」ではないそうですね。
 日本ではルックスもいいと言われていたと記憶しているのだけど、ビリーは顔のことにはコンプレックスを持っていたようで。
 このビデオクリップのクリスティさんと結婚する時も、ビリー自身が「僕のようなハンサムではない男でもやればできるんだ」ということを言っていたのを何かで読むか聞きました。
 番組内でも、みうらじゅん氏が、ビリーよりも周りの若者のほうがかっこいいよね、とも言っていました。

 そのことをふまえて見ると、ビデオクリップでは決して笑ってはいけない、堂々とこなさなければいけないのは、自分自身を表したものでもあり、かつ、見ている人、特に若い男性へのメッセージでもあるのでしょう。
 曲の歌詞でも、「アップタウンの女性はダウンタウンの男性を求めている、それは僕のことさ」と歌っているので、彼女と出会ってビリーは当時は自信がある男だったのでしょうね。

 でも、しかし、そうだと分かってはいても、やっぱりこのビデオクリップのビリーはどこか「可笑しい」んですよね。
 もうひとつのメッセージとして、人に笑われるようなことでも時にはやってみるべきだ、というものがあるのかもしれない。

 バイクに乗るシーン、ビリーはバイクが大好きですが、この数年前にバイクで大けがをしていたのが、もうバイクは恐くない、大丈夫と言いたかったのかもしれないですね。

 話は変わって、番組でひとつ意外だったことが。
 ビリー・ジョエルに対するみうらじゅん氏と安斎さんの反応がいまいちだったこと。
 僕が洋楽を聴き始めた頃はもうビリーはスーパースターでしたが、70年代をリアルタイムで経験した2人であるなら、「ビリーといえばもう」という反応を示すと予想していたので、少々驚きました。
 まあ、それはまったくもって僕の先入観によるものですが、お2人がそれほど好きではなさそうであると感じました。



 最後に曲自体について、僕が思うところを少し話します。

 Uptown Girlは、今までの人生で、リアルでもネットでも、音楽の話をした中でこの曲を知っている人は、ひとりの例外もなくみんないい曲だ、好きだ、といった曲です。
 そういうのがたまにあるんですよね、例えばイーグルスのNew Kid In Town、ロッド・スチュワートのSome Guys Have All The Luckなど。

 僕が初めて行った洋楽のコンサートは、大学1年の1987年、ビリー・ジョエルの代々木オリンピックプールのコンサートでした。
 高校が同じで大学は別だけど東京に来ていた「音楽談義」仲間の友だちとコンサートに行ったものですが、その時は、この曲を演奏しかどうか、まったく記憶にありません。
 この次のアルバムのツアーだから演奏しなかったかもしれない。

 2008年の東京ドーム公演では演奏しませんでした。
 クリスティさん別れ、この頃はその次の奥さんがいた頃でした(ウィキで調べると、さらにその人ともその翌年に離婚したようですが)。

 一方で87年の代々木では、Just The Way You Are「素顔のままで」は演奏しなかった。
 最初の奥さんに捧げた曲だからやらないかもしれないという、風の噂のようなものが当時はあったのだけど、実際にやらなくてほんとがっかり。
 ただ、Just...は、2008年の今のところ最後の日本公演では「前の前の奥さんに捧げた曲」と嘲笑混じりに紹介して歌っていました。
 もう吹っ切れたのかな、それとも大好きな日本へのサービスか。

 この曲、このアルバムにまつわるもうひとつの思い出。
 先述のコンサートに一緒に行った高校時代のクラスメートにLPを貸したのですが、戻ってきた時に彼はこう言いました。
 「この曲はビートルズみたいだね」
 僕には意外でした。
 というのも、ビリーはこの前作THE NYLON CURTAINがビートルズっぽいと呼ばれていて、それとはまったく違う音楽という固定概念が頭から離れなかったのです。
 でも、考えてみれば、このアルバムはビリーが幼少時代に聴いた主に黒人のポップス=R&Bへのオマージュとして作られたものであり、ビートルズも同様にアメリカのR&Bに憧れて音楽を始めたのだから、同じ辺りに収束するわけですよね。
 僕も現金なもので(笑)、友だちにそう言われてから聴いてみると、ビートルズの2枚目がかなり近い響きだと思うようになりました。
 NYLON...はビートルズの後期、そしてこちらは前期の音楽の雰囲気といえば分かりやすいかもしれない。

 この曲は直接的にはフォーシーズンズの影響があると、ビリー自身がLPのライナーノーツで語っています。
 フォーシーズンズといえば僕はナントカの一つ覚えで、♪ しぇ~ええ~ええ~え~え~りぃべぇいえいえいぶと、フランキー・ヴァリが頭の中で歌い始めてしまいます・・・
 でも、「君の瞳に恋してる」もそうですね。

 ビルボード最高3位、ゴールドディスク獲得。

 テレビで観て、その瞬間から夜中にも拘わらず大声で歌っていたし、翌日も何回口ずさんだことか。
 今、も記事を書きながらエンドレス。
 Bメロの"She'll see I'm not so tough, just becaus I'm in love"の部分は、オケなしでは音が掴みにくいのは昔から変わってません。



 「笑う洋楽展」は、僕がまさに昔からビデオクリップを見て笑って楽しんでいたことを番組にしてくれたようなものであり、その視点が楽しいし親近感を覚えます。
 
 ビリー・ジョエルのUptown Girlのビデオクリップは、やっぱり、冷静に見ると可笑しいんだ、と確認できました。

 昔はテレビを見ながらひとりで思っていたことを、みうらじゅん氏と安斎さんが喋ってくれるのは、或る意味、視聴者参加型番組といえるかもしれない。

 「笑う洋楽展」、ぜひ観て笑って、楽しんで、洋楽の素晴らしさに触れてください!