◎WEAVER OF DREAMS
▼ウィーヴァー・オヴ・ドリームス
☆Kenny Burrell
★ケニー・バレル
released in 1961
CD-0459 2013/4/17
今回、久しぶりにアルバム記事を上げます。
ボブ・ディラン札幌公演が終わりましたが、その記事を長い間上げていると、そんなことしないで前に進めとボブに怒られるかもしれない。
だから早めに上げました。
しかも、得意の(?)ロックではなく、敢えてジャズに挑みます。
挑むは大げさだな(笑)。
ケニー・バレル。
ジャズをかじった人であれば、ギターの名盤としてMIDNIGHT BLUEのアルバムとケニー・バレルという名前には早いうちに接するのではないかと思います。
僕もそうでした。
実際にジャズを聴き始めて割とすぐにそのアルバムを買い、今でも時々聴く愛聴盤となりました。
しかし、それ1枚しか聴いたことがなかった。
2月のこと、HMVのサイトで、主にWarner系の再発レーベルWounded Bird Recordsから出ているアルバムを検索していました。
このレーベルのものは出荷数が少ないのか、モノによっては出て2年もしないうちに在庫なしになってしまい、欲しかったものが出ていたことを知らない間に入手困難になることがよくあり、だから時々そうして検索しています。
その中に、ケニー・バレルのこのアルバムを見つけて買いました。
これはジャズのスタンダードを中心としたアルバム。
MIDNIGHT BLUEはヴォーカルのないアルバムでしたが、このアルバムは自ら歌っているという。
知らなかった、ギターだけの人かと。
元々歌っていた人はともかくとして、ギタリストが歌うというのは、いささか不安を覚えませんか。
例えばJ.B.氏のように・・・
このCDも、正直、家に届くまでは不安でした。
実際に聞くと、普通に上手い。
むしろいい声であり、地元の小さなクラブでこの歌とギターを聴くことができれば最高にいい、というくらい。
伸びやかでふくよかな響き、温かさ、人柄の良さを感じる声です。
でも、一方で、ケニー・バレルがギターに専念したのも、なんとなく分かる気がしました。
専念と書きましたが、僕はケニー・バレルはまだこの2枚しか聴いたことがないので分からず、時々歌っているのかもしれないですが、しかし少なくともヴォーカリストとしてはあまり知られていないのは確かなようでそう書きました。
ヴォーカリストとして世の中でやってゆくには押しが足りない。
例えばボブ・ディランのように(やっぱりその話をするのか)、美声とは言えなくてもアクの強さで押し切ってしまうヴォーカリストは世の中にざらですが、ケニー・バレルは押しが足りない。
だから、ギターをメインでやってゆくことにしたのかな、と想像します。
きっと人柄がよすぎるのでしょう。
琴欧洲関が人柄がよすぎて横綱になれずに引退したようなものかな・・・
だがしかし、売れるかどうかは、本来、音楽そのものの良さと直結するものではない。
ましてや、世の中に出てから半世紀以上経っているアルバムであり、定評があって残っているものだから、売れたかどうかは関係ない。
そもそも出た当時は僕も生まれていなくて知らないし。
純粋に音楽として接すると、やっぱりこの声は素晴らしい。
上品でいいのですよ。
聴いていると、あたかも自分自身も上品な人になったような気分になります(笑)。
邪念が一切ない、純粋な気持ちを感じることができます。
なお、今回はほとんど知らない人であり曲であるため、Wikipediaで調べたことも引用して記してゆきます。
先ずは参加メンバー。
Kenny Burrell - guitar, vocals
Bobby Jaspar - tenor saxophone
Tommy Flanagan - piano
Joe Benjamin, Wendell Marshall - bass
Bill English, Bobby Donaldson - drums
トミー・フラナガンだけ知っています、よくは知らないのですが。
他の人も、探せば僕が聴いたアルバムにも参加しているのだと思います。
ちなみに僕は、ジャズは、かじった、よりは少し進んで、飲み込んだけど胸焼けがしている、くらいの段階だと思います(笑)。
作曲者はそれぞれの曲名の下に併記してゆきます。
1曲目 I Buy You A Star
(Dorothy Fields, Arthur Schwartz)
スウィングするイントロのパーカッションとギターの絡みと間がよくて、歌が始まるまでの短い間のイントロだけでも期待が高まる。
ケニー・バレルのヴォーカルは低音も高音もなめらかに出ていて、ビブラートも効かせた素直な声に気持ちがすっと入ってゆきます。
「君に星を買う」といいながら、最後は月を買うという「オチ」で終わる、心温まる歌。
2曲目 Weaver Of Dreams
(Jack Elliott, Victor Young)
アルバムタイトル曲は遅すぎるくらいゆったりとしたバラード。
「夢を紡ぐ人」という意味で、この緩やかさは子守唄と解釈してもいい。
いや、寝ないで聴いていたいかもしれないけれど・・・
ところで、ジョン・レノンのGodの歌詞に"I was a dream weaver, but now I'm reborn"というくだりが最後のほうにあって、僕はどうしてもそれを意識してしまう。
もちろんジョンのほうが後ですが、この言い方は慣用表現として一般的なのかな。
そしてジョンは夢を紡ぐのをやめたんですね。
3曲目 The More I See You
(Harry Warren, Mack Gordon)
同じようなテンポの曲が続いているけれど、きっと夢の中で歌っているのではないかな。
目が覚めるとまた君に会える。
多くの人が寝ている時間に聴きたい曲。
4曲目 I'm Just A Lucky So-and-So
(Duke Ellington, Mack David)
ケニー・バレルはデューク・エリントンを敬愛しているそうで、それは今後CDを買って聴き込んでから感じてゆきたい。
Bメロに入ったところでサックスが歌とは違う旋律を奏で始めて音の幅が広がるのがいい。
さらにトミー・フラナガンのこぼれ落ちるようなピアノソロもいい。
5曲目 A Fine Romance
(Jerome Kern, Dorothy Fields)
軽快にスウィングするこの曲は、ギターの高音がうまく声を受け止めながら進んでいます。
サックスのソロを受けてギターソロも入るけれど、そういえばここで漸くギターが目立ってきた感が。
6曲目 Until The Real Thing Comes Along
(Mann Holiner, Alberta Nichols, Sammy Cahn, Saul Chaplin, L.E. Freeman)
ふたたびラヴバラード。
あなたに夢中であることを冷静に歌っているけれど、そういえば熱くないですね、だから上品に感じるのでしょう。
7曲目 The Blues Is Awful Mean
(Kenny Burrell)
自作の曲で、タイトルのごとくオールドブルーズ風の曲。
ブルーズから離れたいのに離れられない、といったところかな。
2拍目に2つと4拍目に1つスネアが入るドラムスのリズムが面白い。
8曲目 That Old Feeling
(Sammy Fain, Lew Brown)
この曲で使われている、何だろう、管楽器が鳥の鳴き声のようでいい響き。
「あの古臭い感じがいまだに僕の心に流れている」、その古臭い感じが鳥とつながるように感じられて、素直に伝わってきます。
9曲目 If I Had You
(Jimmy Campbell, Reg Connelly, Ted Shapiro)
これは、1928年に発表された曲で、ジャズのスタンダードとしておなじみの曲、ということですが僕は知りませんでした(覚えていないというか)。
テンポはゆっくりだけど、ここまでの曲の中では少し焦っているような響きに感じます。
10曲目 Hootchie-Koo
(Kenny Burrell)
インストゥロメンタル曲に、ケニー・バレルのギターが本領発揮。
彼のギターの音色には人間の声に近い響きがありますね。
スウィングのリズムに対してののりも最高にいい。
歌でいうコーラスの部分ではサックスとハモっているのが気持ちいい。
また、「うぉーん」という、多分弦を2本か3本を指1本で押さえてグリッサンドする弾き方だと思うんだけど、それも彼のギタープレイの特徴で、「あ、きたきた」とそれが出てくるたびに思います。
ナチュラルなギターの音色を存分に楽しむことができる曲です。
11曲目 Afternoon In Paris
(John Lewis)
インストゥロメンタル曲が続きます。
前の曲はノリ重視でしたが、こちらのギターは旋律を気持ちよく奏でていて、ちょうど今頃、春の日差しを浴びて散歩する気持ちよさが感じられます。
パリには行ったことはないけれど、どこでもその気持ちは同じのはず。
こういう曲を聴くと、僕もこんな弾き方が出来れば、と思いますね(笑)。
歌ものもいいけれど、このインストゥロメンタル2曲がさらにいい、聴きどころ。
12曲目 "Like Someone In Love
(Johnny Burke, Jimmy Van Heusen)
最後もゆったりと、静かに気持ちを込めながら歌う。
歌も短く、あっさりと終わってしまうんだけど、そこがさらに上品さを感じる部分ですね。
ジャズというと夜がつきものですが、このアルバムは朝にもいいのですよ。
いい夢を見て起きた朝、その心象風景を綴ったアルバムといった趣きがあります。
或いは、夢ではなく、夢のような出来事の後、かもしれないけれど。
パン、牛乳、スクランブルドエッグ、レタスにトマト、そんな風景も目に浮かびます。
人柄がよさそうな声だと書きましたが、僕はこのアルバムを聴いて、今年のスーパーボウルのチャンピオンになったシアトル・シーホークスのQBラッセル・ウィルソンが歌うとこんな感じかな、と想像します。
買ったのがちょうどSBの後だっただけに、僕の中ではそういう結びつきになってしまいました。
ウィルソンはダルビッシュの「チームメイト」にもなったので、日本でももう少し注目されるかと思ったのですが、今年は他の日本人投手の話題で持ち切りでしたね。
まあ、ダルちゃん自身も、ウィルソンが練習に来た時に「NFLの有名な人が来た」とツイッターで書いたそうだから、無理もないか。
実は、このアルバムを聴くちょっとした「裏ワザ」がありまして。
ベンモント・テンチのYOU SHOULD BE SO LUCKYに続けてこれを聴くと、気持ちが穏やかになり、豊かになったように感じられるんです。
だから、家の連装CDプレイヤーに、この2枚は絶対にその順で入れています。
すっかり愛聴盤になりました。
ところで、今回のYou-Tube映像は、探して見つけたおそらくテレビ番組のライヴ映像を選びました。
僕は以前、見たことがあるもののみ貼り付けると書きましたが、よく考えると自分もよく知らない今回のような例はあるわけで、そこは柔軟に、探したものを貼り付けてゆくことにします。
ケニー・バレルは1931年生まれ、今年で83歳。
古い音楽の記事を書くのに調べることがよくありますが、今でもご存命であることが分かるとなんだかほっとするし、うれしいですね。
長生きしていただきたいですね。