Sexual Healing マーヴィン・ゲイ | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

20140331MarvinGaye

 ◎Sexual Healing
 ▼セクシャル・ヒーリング
 ☆Marvin Gaye
 ★マーヴィン・ゲイ
 released in 1982
 2014/3/31


 4月1日はマーヴィン・ゲイことMarvin Penz Gay,Jr.の命日。
 1984年に亡くなっているから、今年でちょうど30年。

 早いなあ、と感じるのは、自分がそれを実体験として知っているからであり、その後の自分の人生が早いと感じているからでしょうか。
 でも一方、今の中学生が、30年前に亡くなった人の音楽を聴くなんて、よほど強く心を動かされないとなかなかできないのではないかと。
 だって、僕がビートルズを聴き始めた頃は、まだデビューして20年も経っていなかったのだから、それを考えると30年というのは長いとも思います。

 このところ80年代のYou-Tube映像の曲を続けて上げ、僕の気持ちも80年代に戻っていたところなので、もうひとつ続けてみようと。
 80年代ともう一つ、「エッチな」曲が続いてしまったのですが・・・
 断っておきますがこれは偶然で、今後こういう路線で進むというわけではありません、念のため。



 僕がマーヴィン・ゲイを知ったのは、もうお決まりの「ベストヒットUSA」、中3の年。
 「スター・オブ・ザ・ウィーク」でマーヴィン・ゲイの新曲が流れたのですが(確か)、小林克也さんがいつもと違ってなんだか興奮気味で、いかにすごい人であるかを力説していました。
 僕は、何がどうすごいかまるで分からず、小林克也さんどうしちゃったんだろうって。
 そこで流れたのがSexual Healingでした。
 最初に見た感想。
 助平なおっさん。
 両親がもう寝ていてよかった、と(笑)。

 でも、なぜか不思議と印象に残り、それからもずっと気になっていました。
 まあ、そういうことに興味が高くなる年齢だったというのはあるでしょうけど、でも純粋に曲が印象に残りました。
 少しして「FMファン」の番組表でこの曲を見つけ、録音して聴き、大好きな曲になりました。



 今回はビデオクリップの話を先に。

 いきなりコーラスの女性が2人、ささやくように歌いながらひとりずつ大写しで始まる。
 マーヴィン・ゲイといえば女性、ですからね。
 
 ほの暗いクラブのような場所で歌い始めるマーヴィン。
 いいですね、今なら行ってみたいと思う、当時はまだ「大人の世界」だったのだろうけど。
 このビデオクリップの撮影に客として参加した人は幸せだなあ。
 
 1コーラス目はいかにも気持ちよさそうに歌うマーヴィンのシーン、これがいい。
 マーヴィンの手の仕草、振り、アクションがスマートでクール。
 女性が見るとセクシーと感じるのかな、柔らかな手つきに表現力が溢れています。

 特に、0'47"のところ、両手を角度を変えて上げながらフィンガーティップスをするシーンが僕はたまらなく好き。
 この直後が「おおびっくり」と空耳に聞こえるんだ、と、例のさいたまのソウルマニア友だちM君に言われました。

 ところが、と敢えて言いますが、1'10"のところで古いテレビ画面が写り、中でドラマが始まる。
 それを見ているのはリムジンに乗ったゴージャスないでたちの女性、車の中でテレビを見ているんだ。
 この部分で入るメロウな音色のギターの響きがなんとなく助平っぽいのが面白い。
 
 ドラマが始まる、つまりこれは、クラブ、車、ドラマと視点が3か所あるビデオクリップで、随所にそれらが少しずつ入り込む。

 ドラマの主人公はもちろんマーヴィン。
 何か悩み事があって訪れた病院、先生は女性。
 「眼鏡美人」って概念は向こうにもあるのかな。
 先生に悩みを打ち明け、まずは血圧を測る。
 先生の足を見たマーヴィンの血圧が跳ね上がるというコテコテの展開に。
 ああ、やってるよ、と・・・

 真面目に曲の話をすると、1'50"から、"Get up, get up, get up, get up""Wake up, wake up, wake up, wake up"と4回ずつ歌う部分。
 ここ、レコードではマーヴィンがささやき声で歌っているのだけど、ビデオクリップでは普通の声で歌っています。
 僕はヴァージョン(テイク)違いに敏感なので、ビデオクリップのヴァージョンもCDで聴きたいのですが、今のところそれには出会っていません、未CD化かな。
 なお、2回目のその部分は、ビデオクリップでもささやき声で歌っています。

 その後で「素」の部分、クラブでマーヴィンが歌うシーンが写るとなぜかほっとする(笑)。
 
 しかしその後、2'11"から、マーヴィンは4人の女性を従えて歌う。
 踊りながら歌う女性を侍らせてるというのはある意味エンターティメントのお決まりなのでしょう。
 
 2'31"からまたマーヴィンの小芝居が始まる。
 今度は心電図を取っているようですが、女医さんの白衣越しのヒップを見てまた針が不自然に大きく振れる。
 先生は、これは打つ手なしとばかりに棚を開けて"Mignight Love Potion"という薬を出してマーヴィンに飲ませる。
 
 ところが3'07"で予想外の展開が。
 マーヴィンがその薬をさじで飲んだ後、先生がなんとそれをガブ飲み、眼鏡を外してマーヴィンに近寄る。
 そしてすぐに2人は恋に落ちるのであった。
 ああ、やっぱりそうなるのか。
 "You're my medicene"という歌詞があるけれど、まさにその通りの展開でした。

 3'20"のところで、車の中の女性はテレビを消す、嫉妬したのでしょう。

 3'30"、最後の"Get up, get up, get up, get up"の後、マーヴィンは胸の前で手を合わせ、お辞儀をしてその場を去る。
 外に出ると、リムジンの女性が迎えに来ていて、車に乗り込んで親愛の情を示しながら車は夜の街に吸い込まれてゆく。

 分かりやすいビデオクリップですね。
 マーヴィンのことはこの後でもっといろいろと知ることになったのですが、特に女性関係など、だいたい最初に見たこの映像のイメージ通りでした。
 ということは、このビデオクリップは、マーヴィン・ゲイという人となりをうまく表したものであり、僕のような若い世代にもそれが伝わった、よいビデオクリップということになるのでしょう。



 僕は、マーヴィン・ゲイが特別に好きだという友だちに2人ほど出会いました。
 ひとりは例のさいたまのソウルマニア友だちM君。
 アースの話の続きですが、彼がマーヴィンが大好きだと最初に話した時に、僕はまた「ああSexual Healingの人ね」と言うと、彼はまたバカにしていると思ったようでした。
 でも、それしか知らなかったのだからしょうがない、当時はかのWhat's Going Onですら知らなかったのだから。

 もうひとりは大学生の頃に出会ったH氏。
 一度家に遊びに行った時に、マーヴィンのビデオを見せてくれて、とろっとした目つきで歌うマーヴィンを見て「この怪しさがたまらない」と話してくれたことを今でもよく思い出します。



 この曲が入ったアルバム、MIDNIGHT LOVEは20代になってCDで買いましたが、アルバムとしても素晴らしくいいですね。

 でも、この曲はとてもじゃないけど歌えない。
 内容が、というのではなく、マーヴィンの歌はもう孤高の存在で、真似をしたところで真似できないし、かといって僕は歌手ではないので自分の解釈で歌うなんてことは到底できない。
 やっぱりこれは聴く曲ですね。
 "Baby"と、たった一言に、どれだけの感情があふれていることか。
 マーヴィン・ゲイが不世出の歌手であることがよく分かる曲です。

 むしろ僕は、頻繁に出てくる「デデデデデッ」というベースラインをよく口ずさむかもしれない。
 ベースが目立つ曲は好きなのです。



 マーヴィン・ゲイの死を僕は修学旅行先の京都で知りました。
 高校1年と2年の間の春休みに修学旅行がありましたが、時差があるので4月2日、3泊目の宿のテレビで夜のニュースを見ていたところ、マーヴィン・ゲイが射殺されたと。
 
 友だちM君はその時は風呂に行っていたか何かで部屋にいなくて、戻ってきた時にその話をしたところ、ウソだろ、と言ったっきり黙ってしまいました。
 修学旅行には小さなモノラルのカセットテレコと洋楽が入った90分テープを持って行っていたのですが、そのカセットの中に、Sexual Healingが入っていて、その前の日に聴いていました。
 好きなアーティストの死の報に接した時のことは割とよく覚えているのですが、僕の中でも、いちばん強く覚えているのがマーヴィンの死でした。

 あれから30年。
 気がつくと、僕も、永遠に止まったマーヴィンの年齢よりも上になっていたんだ。

 なんだか命日にはふさわしくない選曲であり記事であり書き方かもしれない。
 でも、僕は僕なりにマーヴィン・ゲイが大好きであり、思い入れが強いことは伝えたかった。
 そうなるとやっぱり、出会いの話になるのでした。


 あらためて、マーヴィン・ゲイに乾杯。