Centerfold J・ガイルズ・バンド | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

20130328JGeilsBand

 ◎Centerfold
 ▼堕ちた天使
 ☆The J. Geils Band
 ★J・ガイルズ・バンド
 released in 1981
 2014-03-28

 今回は、当時10年選手だったJ・ガイルズ・バンドに初の全米No.1をもたらした曲。

 本題の前に、先日、僕は、本家BLOGで、「ハミングが印象的な曲を集めてみた」という記事を上げました。
 その記事はこちらです、ご興味があるかたはぜひご覧ください。
 今回はその中から1曲独立してこちらで記事にしました。

 また、この曲が収められたアルバムFREEZE-FRAMEは既に記事にしていますので、やはりご興味があるかたはこちらからご覧ください。



 今回のこの曲は、僕の洋楽人生の中でも特に思い出も思い入れも深いものです。
 中3の夏、僕が、ビートルズとそのメンバー以外で初めて買ったLPレコードが、この曲が入ったアルバムでした。
 写真のCDは国内盤紙ジャケット仕様です。

 僕は中2の8月25日から中3の7月いっぱいくらいまで、ほんとうに100%、ビートルズとそのメンバーの音楽しか聴いていませんでした。
 しかし、ビートルズがきっかけで洋楽全般に関心を寄せ、父が購読していた「FMファン」を見るようになり、ビルボートのヒットチャートに興味を持ちました。

 夏休みだった7月終わりから8月頭くらいの頃に、NHK-FMでエアチェックをしてカセットテープで音楽を聴くようになりました。
 エアチェック、懐かしい、僕はLPを録音して聴くのはSONYのテープを、エアチェックにはTDKをと使い分けていました。
 最初のテープに入っていた曲は、ジャクソン・ブラウンのSomebody's Baby、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのYou Got Lucky、アメリカのYou Can Do Magic、ダリル・ホール&ジョン・オーツのDid It In A Minute、ザ・フーのAthenaなど。
 
 その中に今回のこの曲もありました、邦題「堕ちた天使」、これは一発で気に入りました。
 しかしこの曲は当時はもうヒットした後で、新曲としてではなく別の番組で録音しました。
 「FMファン」では、チャートに関する豆知識がタイムテーブルの下の欄外に記されていましたが、その中でJ・ガイルズ・バンドの「堕ちた天使」が取り上げられたことがあり、デビューしてからNo.1を獲得するのに年月がかかったアーティストという話題でした。
 そうかこの人たちは苦労人なんだ、と思うとなぜか親近感がわき、この曲を聴いてみたいと思うようになりました。

 当時はもちろんインターネットはなく、レンタルレコードも始まっていたかもしれないけれど一般的ではなかったし、ラジオにリクエストを出すという方法はありましたが、確実に聴くにはレコードを買うか、持っている人に借りるしかありませんでした。
 でも、J・ガイルズ・バンドを持っているような人は周りにはいませんでした。
 だから、「FMファン」のタイムテーブルにこの曲の名前を見つけた時はうれしかった。

 録音して聴くと、自分で思ってもみなかったほど、一発で大好きになりました。
 想像と違ったところがひとつあって、1位になるような曲だからもっとしっとりとした歌だと思ったら、能天気ともいえる明るく楽しいアップテンポの曲でした。
 でも、こういう曲が売れるのがアメリカなんだ、と思ったものです。

 あまりにも気に入ったので、LPを買うことにしました。
 当時のタワーレコード札幌店は雑居ビルの2階で、15坪もなかったんじゃないかな、狭い店でしたが、その少し前にその存在を知って最初はビートルズの国内盤が出ていないLPを買っていました。
 今の人からすれば意外かもしれないですが、当時はほんとうに輸入盤しか売っていなかったのです、そもそも外資系でしたから。

 アルバムFREEZE-FRAMEは捨て曲なし、すべて気に入りました、素晴らしい。
 ただ、困ったのが、僕は最初によっぽどいい出会いをしてしまったようで、この後に買ったアルバムはだいたい2曲くらい気に入らない曲があったことでした。
 
 まあ、その方向に話すと余計に長くなるのでこの曲に戻すと、幸いなことに、このLPはインナースリーヴに歌詞が印刷されていました。
 これも後に、輸入盤には歌詞カードがないものもあることが分かって困ったのですが、それもまた別の機会に。

 曲を聴きながらその歌詞を読んで、僕は唖然としました。

 1番の歌詞を書き出し、僕の訳詩も書いてみます。

***

①Does she walk, does she talk, does she come complete
 My homeroom homeroom angel always pulled me from my seat
 She was pure like snowflakes, no one could ever stain
 The memories of my angel never caused me pain

②Years go by I'm looking through a girly magazine
 There's my homeroom angel on the pages in between

③My blood runs cold, my memory has just been sold
 Angel is the centerfold, angel is the centerfold
 My blood runs cold, my memory has just been sold
 Angel is the centerfold

***

 そうだ、訳詩を書く前に、"centerfold"とは、「プレイボーイ」などの男性誌の真ん中の見開きページの女性のヌード写真やグラビア写真のことで、「真ん中で折りたたまれている」ことから来ている言葉です。

 さて訳詩

***

①彼女って歩くの? 喋ったりするの? ほんとうにやって来るのかな?
 ホームルーム・エンジェル、彼女のせいで俺は席についていられなかったんだよなあ
 彼女は雪のように清らかで、誰にも穢されていない
 俺のエンジェルにはいい思い出ばかりだね

②何年かして、俺は男性雑誌をぱらぱらと見ていた
 その中に、えっ、俺のホームルーム・エンジェルがいたんだ  

③なんてこったい、思い出なんてもう消え去っちまったぜ
 俺のエンジェルが今はグラビアアイドルか! 
 血の気も失せたね、もうどうでもいいって感じだよ
 エンジェルがセンターフォールドだなんて!!

***

 いくつか気になったところを。

 ①のヴァースは1行目だけ現在形なのは、クォーテーションはないけれど、そこだけ直接話法の代わりなのだと思います。
 つまり、当時思ったことを当時の言葉として表したもの。 
 
 "Does she come complete"は素知らぬ顔して「やって来る」などと書きましたが、そうですね、この場合は日本語で言うところの「来る」の反対を表しているのだと思います。
 なんだか奥歯に物が挟まったような言い方ですが・・・
 
 "She was pure like snowflakes"、こんな手垢がついたような常套句を入れているのが逆に彼女の清らかさが伝わってきて面白い。
 
 「グラビアアイドル」はソフトな表現を使いつつ今風に書きましたが、まあこんな感じです。

 「堕ちた天使」というのは分かりやすい邦題だと思います。
 そうですよね、「見開き」じゃ意味が分からないし・・・

◇ 

 僕はビートルズとそのメンバーばかり聴いてきたと書きましたが、こんな他愛のない、下世話な内容の歌詞の曲はなかったので驚きました。
 エッチな歌詞はあるにはあるけれど婉曲的なものだったし。
 ポール・マッカートニーが1990年代のインタビューで、ビートルズの音楽はどうして世代を超えて今でも人気があるのかと質問され、「僕らの音楽は良心に基づいているからだよ」と答えたのを見て、僕は真っ先にこの曲を思い出しました。

 ただ、僕はその後たくさんの曲を聴いて歌詞を読んできましたが、やっぱり、これほど他愛のない歌詞の曲はないですね。
 最初の出会いが悪かったか(笑)。

 しかもこの男、2番以降がもっとひどい。

 長くなるので概要だけ書きます。

 ホームルーム・エンジェルは高校時代は触れることすら許されないくらい清らかな人だと信じており、手を出すなんてとんでもない憧れの存在だったのに、まさか、こんなところに出てくるような人だったのかと、この男は裏切られたような感覚に陥る。
 なんだ、そうであるなら今からでも、と、妄想の中で彼女とデートして、服を脱がせて・・・と話が続くわけです。
 
 書いていてこっ恥ずかしくなってきました、なんて、カマトトぶってますが(笑)。
 あ、カマトトはもう死語かな・・・



 この曲のビデオクリップを見たのは、その年の年末頃かな、もうちょっと後かな、とにかくLPを買ってすぐではなく、少し時間が経っていました。
 先述のようにこれはもうヒットが終わった曲だったので、当時見始めた「ベストヒットUSA」でも流れていなかったし、他にビデオクリップを放送する番組はあるにはありましたが、英国系がメインの番組でこれは対象外だったようで。

 ビデオクリップを見てさらに驚きました。
 まったくもってイメージ通り!
 
 高校の教室にメンバーが集い、ピーター・ウルフが机の間を踊って歩きながら歌う。
 動きのノリと切れがいい、でも表情はあまり変えない、クールな人ですね。
 サビになると、艶めかしいいでたちのホームルーム・エンジェルが列をなして踊りながら出てくる。
 多分、男性であれば、僕はこの人が好み、などと言いながら見るのでしょう(笑)。
 ただしここでひとつ時代を感じるのは、女性がほぼすべて白人であること。
 曲が最後のリフレインに入るところで映像も乱痴気騒ぎ寸前に盛り上がって終わる。
 
 いやあ、まったく困ったものです。

 まあ、でもあくまでも歌の中の世界ということで。



 でも、人間、真面目なことばかり考えていてもかえってうまくゆかないから、時々息抜きが必要、ということをこの曲は身を持って表しているのでしょう。
 
 先日You-Tubeの話で書き込みが盛り上がりました。
 参加していただいた皆様、ありがとうございます。

 そこで思ったことがあります。

 他愛のない話、要らない情報って、ほんとうに要らないのだろうか!?

 You-Tubeで音楽を聴く人の多くは自分が聴きたいものを探して聴く、それはそれでもちろんいいと思う。

 でも一方で、ヒットチャート番組やMTVなどで音楽を聴く場合、中には嫌いなアーティストや曲が誰にでもあるはず。
 そういう曲に接することで、逆に好きな曲がどうして好きなのかが分かる。
 或いは、最初は嫌いでも後に好きになる、そんな例は枚挙にいとまがありません。
 知らなかったら嫌いになりようがないし(食わず嫌いはあるけれど)、嫌いから好きになりようがありません。
 
 音楽以外でも、要らないと思われた情報も人とのコミュニケーションには役立つこともあるし、他愛のない話だって息抜きとして意味を持つこともある。
 「無用の用」という言葉があるけれど、知ってしまったそういう情報って、無駄ではないと僕は思っています。
 心の中に遊びの部分が出来ていいのではないかと。

 話はだいぶ飛躍しましたが、昨日の今日、You-Tubeから話が続いているので書いてみました。



 曲の話もしなくちゃ。

 やっぱりこの曲は「な~な~なな~なっな~」というハミングの部分がいいですよね。
 間奏がない代わりにハミングのコーラスが8小節入るのは印象に残りやすい。

 0'13"、マジック・ディックがブルーズハープを演奏するシーン、イントロではブルーズハープが奏でるこのメロディがあるだけでもうこの曲は勝ったも同然。
 しかも最後、それが口笛で奏でられて終わる。
 音を奏でて表すことの楽しさに満ちた曲です。

 その上これ、ヴァースの部分のピーター・ウルフの歌はラップに近いんだけど、それでもそこを口ずさむと気持ちがいい、つまり歌メロがいいラップ、そこがまたいい。
 まあ、ネイティヴではないのでピーターと同じには口ずさめないのですが(笑)。

 0'55"、前の節で"Angel is the centerfold"と歌う1回目がここでは歌の代わりにJ・ガイルズのギターに置き換わるのが最高にいい。
 僕はこのように、曲のちょっとしたアイディアが異様に好きで、この曲に最初から引かれたのはこれも大きかった。
 1'37"、2番ではJ・ガイルズが椅子に座ってサングラスをしてストラトでこのフレーズを弾くのがたまらなくいい。
 わざわざ写しているのだから、バンド自身としてもこの部分はいいアイディアと思ったのでしょうね。
 
 J・ガイルズのギター、3番の男女の仲が進んでいくところで、ちょっと助平っぽいフレーズがバックに流れるようになるのは芸が細かい。

 2'07"、黒板にチョークで車の絵を描くピーター、その後どこに行くの?

 2'21"、ピーターが手をくるくる回すのは真似をしたけれど、あんなに速く回せない。

 2'48"、曲がコーダに入る前に強烈なスネア連打が入るけれど、映像ではスネアに牛乳が入っていて飛び散る、そういう細かいアイディアも楽しいですね。
 ところで今ふと思った、これは、諺の「覆水盆に返らず」にあたる英語の慣用句が"It is no use crying over spilt milk"、「こぼれた牛乳を嘆いてもしょうがない」、つまり過去は取り返せないということを言いたかったのかな、と。

 などと映像で表されていますが、これはあくまでも妄想なのです、お間違いのないように。


 
 とまあ、これが、ビートルズ関係以外で初めて買ったレコードの話でした。
 
 記事を打ちながらプレビューでずっとかけて聴いていたけれど、気が付くと打つ手が止まってしまうほど僕はこの曲が大好きであることがあらためて分かりました。
 人生の10曲に入るだろうなあ、あ、これもビートルズ関係は一応除いて。


 で、そうです、息抜きも必要なのです(笑)。