BLACK COFFEE アル・クーパー | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-October16AlKooperBC


◎BLACK COFFEE

▼ブラック・コーヒー

☆Al Kooper

★アル・クーパー

released in 2005

CD-0446 2013/10/16


 アル・クーパーを今回は取り上げます。


 今いちばんよく聴いているCDです。

 と書いたのは数日前、2日前から「いちばんよく」はポール・マッカートニーの新譜に代わりましたが、それでもやっぱりほぼ毎日聴いています。

 

 なお、ポールの新譜は、なんとかリリースの1週間後には上げられたらと思います、もう少しお待ちください。


 アル・クーパーといえば、ボブ・ディランのLike A Rolling Stoneでオルガンを弾いている人、自由の女神のジャケットの人、ブラッド・スウェット&ティアーズを創設した人、レイナード・スキナードの1st(記事はこちら )をプロデュースした人、Jolieが日本で(なぜか)「渋谷系」として話題になった人・・・


 僕にとって、アル・クーパーといえばこのアルバムです。


 僕も、このアルバムを買うまでは、だいたいそのようなイメージを持っていました。

 でも、僕はそれまで、アル・クーパー自身のアルバムは聴いたことがなかった。

 自由の女神のアルバム、I STAND ALONEは大学時代に首っ引きで読んでいた渋谷陽一のロックの名盤の文庫で紹介されていたけれど、聴かないまま、このアルバムの後で漸く聴きました。


 聴いたことがない人のCDを見た瞬間、時々、脳に電気が走ることがありますよね。

 これはいいに違いない、と、予感以上の確信めいたことを思う。

 実際に聴くと、予感から来る期待以上に素晴らしくよかった、ということが。

 不思議ですよね。


 アル・クーパーのこのアルバムがまさにそれ。


 もちろん、外れることも結構(よく!?)あるので、予感なんて基本はあてにならないものかもしれない。

 でも、予感してその通りかそれ以上だった時のうれしさは、音楽を聴き冥利につきる。

 意味もなく自分に自信を持ったりもしますね(笑)、もちろん過信ですが。

 外れてもそれはそれで勉強になるし、趣味としてお金をかけているので、出費が無駄だったとも思わないけれど。


 その予感はどこから来るのか。

 なんとなく、だけど、そのなんとなくを誘発するのはやはりタイトルとアートワークでしょうね。

 というか、聴いたことがない人の場合、基本は知らないのだし、それくらいしか情報はないけれど。

 ただ、アル・クーパーくらい長い人だと、なんとなくのイメージは持っていて、それがいい方に加味したということもあるでしょうね。

 

 とまあ、アル・クーパーを離れて総括的なことを話しましたが、要は、僕の中でもいわゆる「ジャケット買い」をした中で最大の当たりとしてエイミー・マンと双璧をなすくらいに大好きなアルバムです。



 音楽をひとことでいうと、「ブルー・アイド・ソウル」とはなんぞやという音楽会の積年の課題に百点満点の回答を示した、といったところ。

 

 アル・クーパーは、頭ではなく心と体で音楽をよく知っている人だと思う。

 このアルバムでは、それがにじみ出ています

 ギターやベースのフレーズ、リフといってもいい、どこかで聴いたことがあるようなものばかり。

 それは、似ている、という意味ではなく、例えばR&Bとはこんなスタイルだと多くの人がイメージを抱く音を、基本に忠実に真っ直ぐ出してくる、という意味。

 もちろんカヴァー曲であれば実際に聴いたことがあるものもあるけれど。


 どこかで聴いたことがあるという感覚だから、聴くとすぐに心の深い部分にまで音楽が響いてきます。

 

 そして、「ブルー・アイド・ソウル」という音楽はこのことだったんだ、と分かります。

 「ブルー・アイド・ソウル」、白人のソウル(を真似た)音楽の、洋楽を普通に聴く人であればある程度以上意識している言葉への回答を示し、「ブルー・アイド・ソウル」を総括したのがこのアルバム。

 長年に渡り音楽活動を続けてきたアル・クーパーにして成し得たものであり、だからこそ信頼できるアルバムでしょう。


 しかし本人はそんなことは考えてもいなかったかもしれない

 「ブラック・コーヒー」というタイトルから示唆されるように、苦み走った、シニカルな視点を忘れない。

 まだまだ現役、これから先に進むという意志も感じられます。

 だから、総括だなんていうとアル・クーパーは怒るかな、いかにもすぐに怒りそうな人だからなあ・・・(笑)・・・


 そして最も重要かつ当然のこととして、すべての曲の歌メロが最高にいい。

 気がつくと口ずさんでしまっているものばかり。


 アルバムの過半の曲は、The Funky Faluctyと名乗るバンドにより録音されています。

 メンバーは、アル・クーパー、ボブ・ドーゼマ(Gt)、トム・スタイン(Bs)、ラリー・フィン(Ds)、ジェフ・スタウト(Hrn)、ダリル・ロウリー(Hrn)。

 さらにはBlack Coffee Background Vocalistsとしてカーティス・キング、ジミー・ヴィヴィーノ、シェリル・マーシャル、キャサリン・ラッセル、そしてアル・クーパー。

 彼らはみな、ブックレットに写真付きで紹介されていて、バンドとしてのグルーヴ感、一体感、雰囲気のよさが伝わってきます。


 

 1曲目My Hands Are Tied

 イントロの♪ ソッラードッドレミー というホーンの旋律、いきなり、どこかで聴いたことがある感が。

 ホーンのイントロは都合12小節続く、引っ張る、もったいぶる。

 漸くアルが歌い始める直前に入る「カラカララッ」という高音のギターのカッティング、よくこんな音が思いついたなあと、歌が始まる前にすでに感動(笑)。

 ミディアムスロウテンポの明るい曲だけど、いきなり「俺の手は縛られている」、ちょっとMな人なのかな(笑)。

 女声コーラスの入り方はつぼを決して外さないし、ギターソロはどこかで聴いたことがある感覚に満ちています。

 音楽クリエイターとしてのアル・クーパーのすごさが1曲目から全開で伝わってきます。


 2曲目Am I Wrong

 アコースティックギターの軽快なリフから始まる正調カントリー・ブルーズ風の曲。

 最初はレッド・ツェッペリンの3枚目のフォーク路線に通じるものがあると思いながら聴いていましたが、そのギターリフすら口ずさんでしまうほど。

 作曲者はケヴィン・ムーア、あれ、どこかで聞いた名前・・・ケヴ・モーだ!

 そう思ってケヴ・モーのCDを調べると、あったあった、そのものKEB' MOに入っていました。

 実は、リリース当時はそのことは知らず、ケヴ・モーを聴くようなったのは一昨年のことだし、今回記事を書くにあたって初めて知りました。

 この曲は昔から大好きだったけれど、これでますます大好きになりました。

 これは、薄くエレクトリックギターが入ったりするけれど、アルがすべての楽器を演奏しています。

 

 3曲目How My Ever Gonna Get Over You

 都会派ソウル、ブラコンの名残のような雰囲気たっぷりのバラード。

 まあ、よくある、男性が女性を口説き落とす時にかけるといった曲。

 静かに鳴るオルガンが、こぼれ落ちる感情を拾い上げてひとつにまとめています。

 これは「ブラックコーヒー」じゃないね、ハニーミルクラテかな(笑)。

 まあそれも大きなユーモアということで。


 4曲目Going, Going, Gone

 アルとダン・ペンの共作、ということはスワンプつながりかな。

 間の抜けたようなバラードをいかにもたるそうに歌うアル、タイトルの言葉を言うところでは声が引っくり返って揺れているのが面白い。

 アル・クーパーのヴォーカルは、程度はひどくないけれど酒で潰した系の声で、こういう声の人は上手いのかどうなのか分かりにくいのですが(笑)、少なくとも雰囲気はとってもいい、いや最高。

 歌の間のブラスが、やっぱりそれを口ずさんでしまう。


 5曲目Keep It To Yourself

 一転、暗雲がたれこめてきたような押し黙った雰囲気。

 オルガンがここでは心のヴェールになっている。

 聴いていると、視界が「紫のけむり」に覆われたような感覚になる。

 だから車の運転中には向かないかな(笑)。

 ジャケットの裏でアルが、背景が真っ暗な部屋にあるラヴェンダー色のソファにサングラスをかけて座る写真があるけれど、まさにそんなイメージの響き。


 6曲目Get Ready

 そうです、テンプテーションズのあの曲、作曲者はスモーキー・ロビンソン。

 ドラムスのフィルインが、まるで機械操作を忘れていたかのように急にフェイドインしてきてせわしなく歌い始める、どきりとさせられる。

 この曲は逆に、オリジナルにある、ローリング・ストーンズがBitchでパクったあの有名なベースのフレーズが入っておらず、別のギターリフが設けられているのは、単なるカヴァーでは終わらせないというプロデューサーとしてのセンスの鋭さを感じます。

 高い声でまるでよたったように歌うのも、オリジナルのファルセットとは違うアルのイメージ。

 有名な曲のカヴァーとしては最上の部類じゃないかな。


 7曲目Imaginary Lover

 アルがファルセットで歌う感傷的なバラード。

 途中に入るブラスが劇的なスパイスを曲に与え、アルバムの白眉ともいえる感動的な盛り上がりを見せます。

 サンディ・スチュワートとの共作でコーラスにも参加していますが、Wikipediaで調べると、フリートウッド・マックのSeven Wondersをスティーヴィー・ニックスと共作した人なのかな、今一つ確信が持てませんでした。


 8曲目Green Onions (Live!)

 ああっ! 

 ブッカーT・&・ジMGズの大ヒット曲で、今はそうだと分かりますが、実は僕はオリジナルをこれより後に聴いて、あれっ、どこかで聴いたことがあるぞ、と思ったけれどそれがどこかは思い出せなかったんです。

 そうか、ここだったのか!

 ううん、音楽はやはりどこかでつながっているんだな。

 ちなみにオリジナルの記事はこちら です。

 これは2001年にノルウェイで収録されたライヴテイクですが、わざわざ(Live!)とエクスクラメーションまでつけているだけあって、グルーヴ感に満ち溢れ、凄みがある熟練の技を堪能できます。

 

 9曲目Another Man's Prize

 これまたフレーズの途中から録音を始めたようなギターから急に始まるような曲。

 ミドルテンポの曲を切なげに細い声で歌っているのがたまらない。

 でも時々ドスを効かせて歌ってもいる、さすがは苦み走った男。

 Aメロがいい、もちろんだけど、Bメロに進んだところで気持ちが少しだけ盛り上がるような旋律がまたいい。

 ほんとうにこのアルバムはすべての曲が素晴らしい、と、まだ半ばだけど、最初に聴いた時もこの辺りでそれを確信しました。


 10曲目Childish Love

 ♪ ミソラッ ドラソッ ラーッ というイントロの低音のリフ、やはりどこかで聴いたことがある雰囲気。

 ちなみに、僕は絶対音感はないので、ここに書いているフレーズの音はギターで拾っています。

 ミドルテンポのほの暗い曲に「子どもっぽい愛」とは、なんだか怪しい雰囲気すら漂う。

 そうですね、このアルバムは曲自体や演奏以上に雰囲気を楽しめる曲が揃っていますね。


 11曲目Got My Ion Hue

 作曲者のハル・リンズは1980年代前半にダイア・ストレイツに在籍していたギタリスト兼作曲家。

 そのことは今ブックレットを見て調べて知ったのですが、なるほど、この曲にはほのかに1980年代英国勢のソウル焼き直しの雰囲気を感じていたのでした。

 それをうんと筋を通してどっしりと構えた、とオノマトペ満載で書いてますが(笑)、そこが本格派。

 スタッカートを効かせたホーンが目立つように、どことなく跳ねた感じが全体を覆っている。

 ギターのアルペジオに続いて入るイントロのホーンの音、これは確かに何かに似ているとすぐに思いついた、クイーンのWas It All Worth Itのイントロに入るギターの旋律と同じだ。 

 これはたまたま似ただけだと思う一方で、クイーンのそれを初めて聴いた時も、どこかで聴いたようなフレーズだと思ったものでした。

 ところでこれ、歌では"Got my eye on you"に聞こえるんだけど、タイトルは「イオン・ヒュー」とはこれいかに?

 "ion"はあのイオンで、"hue"は色合い、という意味、辞書を引いてみましたが。

 ううん、このコーヒーはかなり苦いぞ。


 12曲目Just For A Thrill

 あらあらまた雰囲気たっぷりの「口説き系」バラードが。

 こういうのが好きなのかな、そして、そういうところが「渋谷系」をはじめとした日本人には受けたのかな。

 スタンダードの雰囲気、それもそのはず、古い曲を歌ったもの。

 しかし、スタンダードを歌わせてもやっぱり上手いし、音楽自体が重みを持って響いてきます。


 13曲目Comin' Back In A Cadillac (Live!)

 ファンク・ファカルティとのライヴがもう1曲、でもこちらにもエクスクラメーションが入っており、Green Onionsはそれだけを強調したいわけでもなかったようで。

 これがねぇ、もうたまらなくいい。

 やはりどこかで聴いたことがあるフレーズのホーンで始まり、アルが歌い始めると、歌とホーンがコール&レスポンスになって進んでいく、このスタイルがたまらなく好き。

 間奏ではホーンとギターがC&Rになっている。

 サビで声が引っくり返るのは得意技なんだな、それがまたいい。

 演奏が静かになり、アルが聴衆に拍手を求めるなど語りかけているのがライヴらしいスリル。

 歌もホーンも口ずさみながら行進したくなる、そんな楽しい曲。

 14曲目(I Want You To) Tell Me The Truth

 最後は、このアルバムを作ったことを自分自身で語り掛ける、独白するような雰囲気の曲。

 その独白は、痛々しいようで、愉快なようで、だけどやっぱりアルバムの最後もM的なタイトル、か。

 ソウルというかスワンプ風のバラードだけど、そこに都会的なセンスを加えて土臭くないのがアル・クーパーという人。

 ホーンの音使いが、目立ちすぎず引きすぎず、でも確かに印象に残る、そこがこのアルバムのポイントでもあります。

 そして最後、何かが爆発して突然終わる、やっぱりこのコーヒーはかなり苦いぞ。



 このアルバムで、もうひとつ直感が大当たりしたことが。

 CDの盤面に、アル・クーパーとおそらく彼の犬が一緒に写っているのです。

 犬好きとしてもうれしく、その点でもこのアルバムが予想と期待をはるかに超えて素晴らしいと思ったところでした。

 

 僕は常々、1990年代、2000年代で好きなアルバム10枚という記事をそれぞれ上げようと考えていて、このアルバムは2000年代の10枚には確実に入ります。

 入るので、その記事で触れるためにCDを「買いました」。


 実は、このCD、家庭内行方不明になっていた、いや、いるのです。

 紙ジャケット盤であるため、リリース直後に買って聴いていた頃は、ディスクを出して空いた普通のCDケースに入れてプレイヤーの横に置いていましたが、25枚連装プレイヤーの中に入りっ放しで実質ケースは要らなかった。

 暫く聴いて、聴かなくなってプレイヤーから出した時に、元の紙ジャケットに戻さず、空ケースに入れて置いておきました。

 その後で、540枚収納の大きなラックを買ってCDプレイヤーの周りを改装した際に、先ずはディスクがどこかに行ってしまいました。

 空ケースだったので、最悪、よく見ずに捨ててしまったのかもしれない・・・

 さらには、改装の際に動かした棚に入っていたはずの紙ジャケットまでも、その後行方不明に。

 いつか出てくるだろうと思いながらも年月が経ち、でもやっぱり出てこない。

 ついに先月、買い直すことに。

 Amazonで探すと、新品未開封が送料込みで1200円くらいで買えました。


 だから、聴くのはもう6年振りくらいじゃないかな。

 その間にソウルを真面目に聴くようになり、さらにはブルーズも普通に聴けるようになって、自分自身が少し変わった。

 

 ソウルやブルーズが分かった上であらためて聴くと、このアルバムの奥深さがよく分かりました。

 そして、このアルバムがますます大好きになりました。

 

 もうひとつ、やっぱり僕はそもそもソウルが大好きだったんだな、とあらためて気づかされました。

 なんというか、勇気がなくて、本格的に聴くようになったのは遅かったのですが。


 でも、僕は苦み走った男ではない、と断言できる(笑)。

 コーヒーはカフェオレが好きですし。

 だけど、このブラックコーヒーの味わいが分かるようにはなりました。


 ただしかし、これは音使いがセンスが良くて楽しいし、何より歌メロがいい歌ばかりなので、音楽が好きな人なら理屈抜きに楽しめるの1枚ではないかな、と思います。