モータウンのトートバッグ:Smokey Robinson & The Miracles | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-October25SmokeyMOTOWN


◎MAKE IT HAPPEN

▼涙のクラウン

☆Smokey Robinson & The Miracles

★スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ

released in 1967

CD-0447 2013/10/25


 スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズのアルバムを久しぶりに取り上げます。


 

 この秋、USMジャパンからMOTOWN R&B BEST COLLECTIONが出ました。

 モータウン55周年を記念したものでもあり、最新のリマスターが施されたオリジナルアルバムが1枚1000円。

 昨年、ワーナー・ミュージック・ジャパンからAtlanticR&Bシリーズが1000円で出て僕も何枚か記事にしましたが、いわばそれに対抗したものといえるでしょう。

 音楽ファンとしては、どんどん対抗してほしいですね(笑)。


 AtlanticR&Bシリーズをタワーレコードで5枚同時に買うと、タワレコ限定オリジナルのトートバッグがもらえました。

 今回のMOTOWNでも同様に5枚で限定のトートバッグがもらえます。

 写真に写っているものがそれ。

 白地に黒のロゴ、きわめてシンプルなデザイン、いいですね。


 僕も出てすぐに10枚買い、トートバッグを2つもらいました。

 ひとつは使うため、ひとつは保存するため。

 僕は音楽のトートバッグを集めているのです。

 でも、もう1つくらいもらおうかと(笑)。

 もちろん、ただトートバッグをもらうためではなく、聴きたいアルバムがたくさん出ているから。



 その時に買った10枚のうちの1枚がこのアルバム。

 

 スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズのこれは、ちょっとしたいわくつきのアルバム。

 

 最初は1967年にこのタイトルでリリースされ、シングルカットされたThe Love I Saw In You Was Just A Mirageが20位、More Loveが23位と(いずれもビルボード誌レギュラーチャート)、スマッシュヒットを記録、アルバムも28位を記録します。


 ところが、アルバムが出て3年も経った1970年に、The Tears Of A Clownがシングルカットされ、なんとこれがNo.1を記録してしまう。

 意外にもそれがスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズというグループにとって初めてのNo.1ヒットとなったのでした。

 僕がソウルの中でいちばん好きな曲The Tracks Of My Tearも、ビートルズで有名なYou've Really Got A Hold On Meもなし得なかったNo.1ヒット。


 このアルバムの、そのヒットをきっかけにTHE TEARS OF A CLOWNとして1970年に出直されています。


 何が起きたのか。

 ここは『ビルボード・ナンバー・1・ヒット(上)(1955-1970)』から引用して紹介します。

 なお、引用者は適宜表記を変え、改行を施しています、ご了承ください。

 

***

 

 ミラクルズは1960年12月、2枚目のシングルShop Aroundが2位に上がるほどの活躍を示していた。

 それからちょうど10年後の1970年12月、「涙のクラウン」The Tears Of A Clownが晴れて1位となった。

 

 彼らは「涙のクラウン」を1967年のアルバムMAKE IT HAPPENでレコーディングしていた。

 スティーヴィー・ワンダーとヘンリー・コスビーがインストゥロメンタルの部分を作曲したが、彼らは自分たちがつけた歌詞が気に入らなかった。

 彼らはスモーキーにこの曲を頼んだのだ。

 スティーム・オルガンの音でスモーキーが連想したのは、道化師パリアッチだった(注1)。

 これをテーマに彼は新しい曲に作り変えたのだった。


 3年後、ブリティッシュ・モータウンの重役であるジョン・マーシャルが「ほほを流れる涙」(注2)の再リリースに続く曲を探していて、同じ"Tears"(涙)をタイトルに持つこの曲にめぐりあったのだ。

 「涙のクラウン」はシングルとしてイギリスでのみリリースされたが、驚いたことにチャートのトップを飾った。

 もちろん、ミラクルズとしては初めてのことだ。

 

 イギリスで1位になって1カ月、モータウンはミラクルズのために新しいシングルを準備していたが、結局イギリスと同じものをアメリカでも出すことになった。

 アメリカ本土で100万枚、イギリスでも90万枚売ったが、彼ら自身はもともとあまり気に入っていた曲ではなかった。


 (中略)


 1970年にはスモーキー・ロビンソンはツアーに疲れ、家族のことを考えてグループを去ろうとしていたが、思わぬヒットであと2年ほど留まらざるを得なくなった。

 

 (注1)「パリアッチ」はレオンカヴァッロの歌劇「道化師」 I Pagliacciのこと。

     ちなみにこの本には「パグリアッチ」と書いてあります、念のためというか。

     余談ですが、クイーンのIt's A Hard Lifeの歌い出しはこのオペラのアリアから旋律をいただいている。

 (注2)「ほほを流れる涙」は彼らのThe Tracks Of My Tearsのことと思われる。


***


 引用してからこういうのもなんですが、この本からだけでは、「ではなぜそもそも「ほほを流れる涙」を再リリースする必要があったか」が分からないので、そうかなるほど、とはならない、そういうことがあったのかくらいにしか思わないかなあ、申し訳ない。

 

 ただ、それでひとつ思い出したことを余談として書きます。

 ピーター・バラカンさんはまだ10代の頃にラジオから流れてきたオーティス・レディングのMy Girlを聴きなじんだため、暫くの間はそれがテンプテーションズがオリジナルであるとは知らなかったのだという。

 ちなみにMy Girlはスモーキー・ロビンソンの曲ですね。

 で何を思ったかというと、1960年代中頃はモータウンは英国ではあまり売れていなかった、広く知られていなかったのではないか、それでシングルの再リリースなどということをしたのかな、というのが僕の推測。


 いずれにせよ、3年も放っておかれた後にNo.1になるというのは、ちょっと珍しい事例ですね。

 しかも、本人があまり気に入っていないというのも。

 

 ここでまたまた余談、今日は余談とちなみにばかりですが(笑)。

 The Tears Of A Clownの次にNo.1になった曲がジョージ・ハリスンのMy Sweet Lordであり、それはジョージのソロ初のNo.1ヒットであり、1970年の最後のNo.1ヒット曲でもありましたが、そのジョージ・ハリスンが後にスモーキー・ロビンソンに捧げたPure Smokeyという曲を作っているというのはいい偶然ですね。


 アルバムですが、全体的に落ち着いた雰囲気で、初期の骨太R&Bの流れではない、いわゆる「ソウル」っぽい音作りになっています。


 その中で、まるで天使の子どもがじゃれ合うような軽やかな音に囲まれた「涙のクラウン」は、毛色がまるで違います。

 本人が気に入っていなかったというのは、曲自体というよりもアルバムの流れの中でということかもしれない。

 ただ、引用文にあった、スティーヴィー・ワンダーが書いたものの歌詞が気に入らなくてスモーキーに頼んだというのは、さすがはボブ・ディランもジョン・レノンも一目置いている「詩人」スモーキーですね。


 今回は全曲を短めに。


 1曲目The Soulful Shack

 小気味よいリズムのアップテンポの明るい曲をスモーキーがさらりと楽しげに歌う、1曲目にふさわしい曲


 2曲目The Love I Saw In You Was Just A Mirage

 落ち着いた、というよりはどことなく落ち込んだ気持ちのスロウな曲。

 それにしてもタイトルが長い(笑)。


 3曲目My Love For You

 正調ソウルバラード、スモーキーならではの雰囲気。


 4曲目I'm On The Outside (Looking In)

 さらにテンポを落としゆったりとした曲は、まるで気持ちを細かく切り刻んだよう。 

 でも途中で入るそこだけ早口のコーラスとの絡みが面白い。

 リトル・アンソニー&ジ・インペリアルズのカヴァー、スモーキーもカヴァーを歌うんだなあ。


 5曲目Don't Think It's Me

 スロウな曲が続く、でもこれは楽器の低音の使い方ががっしりとした響き。


 6曲目Mo Love Is Your Love (Forever)

 ミディアムテンポで、軽やかなようで何かを引きずるような、スモーキーが歌うとその辺の微妙な気持ちがよく出ていて、タイトルの言葉はどちらかといえば願望に近いのかなと思わせる。


 7曲目More Love

 僕はスモーキーはスモーキーとして聴いてしまっているのですが、スモーキーはいかにもモータウンという感じに受け止められているのかな、そこがどうも分からなくなっている。

 で、この曲はいかにもモータウンという響きで、マーヴィン・ゲイが歌っても歌手時代のマーヴィンらしくなるような気はする。

 ベスト盤に入っていて強く印象に残った曲で、1小節だけ転調したように挿入されている歌メロがそうさせたのだと。


 8曲目After You Put Back The Pieces (I'll Still Have A Broken Heart)

 おお、これまたタイトルが長い(笑)。

 思うに、なんとなくだけど、スモーキーは詩人として言葉にこだわるので、逆にどうしても短くできない時があるのではないかと。

 ミディアムスロウのこの曲は、どことなく自嘲的、そうかスモーキーのこの声は自嘲的な響きを出すにはいいんだな。


 9曲目It's A Good Feeling

 あまりかげりがない真っ直ぐに明るい曲だけど、でも、「あまり」とつくのが前の曲で書いたようなスモーキーらしさ。

 そしてこれもいかにもモータウンかな、他の人でも合うという意味で。


 10曲目You Must Be Love

 とろけるスモーキー、今回はこの曲がいちばんとろけているかな。

 それにしても12曲中5曲に"Love"と入っているのは、さすがビートルズがAll You Need Is Loveを歌った年、なんてこじつけ、ちなみにビートルズのほうがこのアルバムよりひと月早い。


 11曲目Dansing's Alright

 マーチングドラムスで始まりピアノが盛り上げ打楽器が鳴り続ける、タイトル通りダンス志向のホップした明るい曲。

 これだけ声が違って聴こえる、他の人が歌っているのか、スモーキーが地声なのか、申し訳ない、調べがつきませんでした。

 

 12曲目The Tears Of A Clown

 そしてこの曲が最後にあるけれど、繰り返し、11曲までの落ち着いた雰囲気からすると、これだけ大きく毛色が違う。

 アルバムに入れるなら最後しかない、そこは納得。

 でもやっぱり、ポップソングとしてどこか突き抜けたものはある、No.1になったのも頷けます。

 「無邪気」という言葉を音で表せばこうなる、といった響きで、どこまでスモーキーが関わる前の要素が残っているか分からないけれど、スティーヴィー・ワンダーのいい意味での子どもっぽさ、天賦の才能が表れています。

 スティーヴィー・ワンダーが歌ったヴァージョンがあると面白そう。

 イントロの旋律も、ついつい口ずさんだり口笛を吹いてしまう。

 今の僕が楽しい気分になりたいと思ったら聴く曲がこれですね。

 ああ、やっぱりスモーキーが好きでよかった(笑)。



 さて、最後はトートバッグの話に戻ります。

 タワーレコードでこれを買った時、レジで対応した若い女性店員が、「このトートバッグはデザインがいいですね」と言いました。

 僕はタワーレコードに通うようになってもう30年以上になりますが、初めて、店員さんから個人的な気持ちを言葉として聞き、なんだかうれしくなりました。


 女性店員さんは、大学生のアルバイトといった感じ。

 僕は、この人はモータウンというものを知らなくて、そこで初めてこのロゴを見たのではないかと。

 そういうのは店員としてどうなのだと言われるかもですが、でも僕は素直にうれしかった。

 こうして若い人にもモータウンが聴き継がれてゆけばいいな、と。



 この秋はモータウン、いかがですか!