RHYTHM & BLUES バディ・ガイ | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-August26BuddyGuyNew


◎RHYTHM & BLUES

▼リズム&ブルーズ

☆Buddy Guy

★バディ・ガイ

released in 2013

CD-0436 2013/8/26


 バディ・ガイの新譜です。


 7月に出てそろそろひと月、2枚組だけどほぼ毎日聴いている、今いちばんのお気に入りです。

 もっと早くに記事にしたかったのだけど。


 はじめに言います。

 今回はちょっとひどい口のききかたをするかもしれないですが、それはすべて愛情表現からくるものだとご理解くださるようお願いいたします。


 バディ・ガイ、1936年7月30日生まれ、御年77歳。

 なんとまあとんでもない爺さんなんだ!!!

 

 僕もロックを聴いて30年が過ぎ、60歳を過ぎたアーティストの新譜を聴くことも多くなってきました。

 ほとんどすべての人は齢を重ね、よくも悪くも丸くなっています。

 それをどうとらえるかは聴く人次第ですが、ひとまず、60歳を過ぎても元気にアルバムを作り続けてくれるのはうれしい限り。


 ところが、このお爺さん、丸くなっていない。

 丸くなることをかたくなに拒み続けている。

 若者に対して、お前らまだまだ幼い、ほんとうの若さというものを俺が教えてやる、という姿勢。

 驚きました。

 

 2枚組のアルバムであることは事前に知っていたのですが、そしてこのタイトル、僕はてっきり、バディ・ガイも自らのキャリアをまとめて振り返るようなアルバムを作ってくるのかな、と想像していました。

 誕生日にリリースされたというのも、そういう意味合いがありそうだと。

 

 とんでもない。


 バディ・ガイという人は、アルバムを出すたびに若くなってやろうと意気込んでいるに違いない。

 

 僕がバディ・ガイを聴くようになってまだ3年目で、そんな僕が偉そうなこと言えないかもですが、でも90年代以降のはすべて買い揃えて聴いてきたので、その流れはつかんでいるつもり。

 その上でこの新譜を聴いて、そう感じました。


 遠慮も何もない、ただやりたい音楽をやり抜くだけ。

 しかも、生半可な知識と経験がある以上、ただただとんがっただけの若者よりもタチが悪い。


 どうしてこんなに若くいられるのだろう。

 大げさに言えば、これは現段階における人類の謎のひとつですよ。

 若さの源は、やっぱり、音楽への情熱なのでしょうね。

 そうとしか考えられない。


 ジャケット写真、水玉模様の服に水玉模様のストラトキャスター。

 77歳でそうきたか、と、感動や驚きを通り越して呆然唖然としてしまう。

 ちなみに、そのギターは彼の名が冠されたモデルで、BG '89 Fender Custom Strat、が正式名称。


 こんな77歳の人が周りにいると、きっと恐いだろうなあ、いろんな意味で。

 ほんとうに、歌のようにまだまだ心が「揺れ動いて」いるんだろうなあ、そうとしか思えない。

 

 音楽的なことについて触れると、先ずは、オーソドックスなブルーズという音楽ではありません。

 タイトルが示すように、ブルーズからロックやソウルに向かって進み始めた辺りの音であり、60年代ブルーズブームにおけるブルーズを志したロックという音楽を、ブルーズ側から反転して見たといった感じ。

 つまりが、ブルージーでハードなロック、という音になっています。

 そこをやられたか、というのが、ハードロックからハードなロック辺りがデフォルトの僕としては、昨日のボクシングの試合、村田諒太選手に初回から強力なパンチを浴びた佐々木選手のような気分。

 

 音の強さ、大きさ、尋常ではない。

 もちろん、物理的に強く大きくするのは今は機械でいかようにもなるだろうけど、やっぱり心が若くないと自分でその音についてゆけなくなるんじゃないかな。

 バディ・ガイは、少なくともその音よりも強くて大きい心の持ち主。


 2枚組のアルバムは、Disc1を"RHYTHM"、Disc2を"BLUES"と銘打っていますが、Disc1はブルーズから少し進んだ新しい感覚のちょっとポップな曲が、Disc2はセンスはモダンだけど本格的ブルーズ、と色分けされていて、通して聴くとバディ・ガイという人が感じられます。



 Disc1

 1曲目Best In Town

 ファンキーなギターで軽やかに始まったかと思うと、バンドがフル演奏になった途端に強くて重たい音に襲われる。

 その上さらにブラスがマスル・ショールズときたもんだ。

 歌詞の中にChicago BoundやHoochie Koochie Manと出てくるあたり、シカゴブルーズの系譜を受け継いで発展させているという自負がうかがえます。

 この"Town"はシカゴを、さらにはその中の彼のお店がある地区のことを指しているのでしょう、というか僕はそれしか思い浮かばなかった。

 それにしてもギターソロがやっぱりすごい。

 ワウペダル(だと思う僕はエフェクターあまり詳しくないので)でギターを鳴かせ、いや泣かせまくり、ギターがかわいそうとすら(笑)。

 

 2曲目Justifyin'

 ギターリフがバッド・カンパニーのRock Steadyに似ている。

 ヴァースの部分ではそのリフとオルガンを基調に全体が薄い音の中でBGのヴォーカルが浮かび上がっていたかと思うと、サビに入るとギターが怒り出し、女性コーラスが絡んできてパワー全開。

 後半のほうでちょっとだけ、ジミ・ヘンドリックスのHey Joeを意識したと思われるベースラインが出てきて思わずにやり。

 

 3曲目I Go By Feel

 ソウルバラード風のおとなしい曲。

 いや、バラードにしてはおとなしくないか(笑)。

 ミディアムスロウテンポの雰囲気があるバラードの流れにある曲。

 歌詞の中では"Mississippi"に下っていて、ブルーズの心の巡礼の歌と捉えると気持ちが伝わってきます。


 4曲目Messin' With The Kid (featuring Kid Rock)

 前の曲が静かにフェイドアウトして、終わりきったかきらないうちに"One, Two, You know what to do!"とかけ声で始まる。

 このかけ声が、なんでそんなこと言うのと、最初に聴いた時は笑ってしまった。

 ギターでいたずらするようなちょこまかと音が動くギターリフに乗って歌は暴力的とまでいえる力強さに。

 キッド・ロックをゲストに迎え、「キッドと一緒にしでかしたる」と歌うこのおかた、もう手がつけられない。

 なんとかしてあげてぇ、と思うけど、そんなことしたら、余計なお世話だとストラトで殴られるだろうなあ。

 キッド・ロックはシェリル・クロウなど僕が聴く人に客演したものは幾つかあるけれど、その人自体はまだ聴いたことがないので、そろそろ、重い腰を上げて聴いてみるかな。


 5曲目What's Up With That Woman

 すぐにミディアムスロウに落とし、マスル・ショールズが追って来る。

 途中で「デデデデデデッ」といかにもブルーズというフレーズが入るのがいいし、その後でギターの低音弦を擦った音を出すのにははっとさせられる(すいませんそういうテクニックあるはずですが名前を覚えていないので)。

 しかしこの曲で何といっても面白いのは、タイトルの言葉を早口で喋るように歌うというか言うことで、それが呪文のように聴こえてしまう。

  

 6曲目One Day Away (featuring Keith Urban)

 スロウテンポで音に温かみがあるバラードといっていい曲で、漸くここで落ち着いた感じ。

 ゲストはカントリー界からキース・アーバン、どうりで曲自体がカントリーっぽい。 

 思い出すのはレイ・チャールズのI Can't Stop Loving You、カントリーとソウルとさらにはブルーズの間という場所があることを示してくれた曲。

 ブルーズとカントリーは大昔にはつながっていたというか、曲だけを取ると同じというか、それもよく分かります。

 キース・アーバンは甘いようで強いようで、いい声してますね。

 やはり、客演したものを幾つか聴いたことがあるけれどその人自体はまだ聴いたことがない。

 ああ、こうなったら重い腰を2回上げないといけないかな(笑)。


 7曲目Well I Done Got Over It

 これはスタイルとしては古臭いブルーズ、でもやっぱり感覚は新しい。

 ヴァースの部分で歌を追いかけてブルーズらしいフレーズが入る、そのスタイルやっぱりいいなあ。

 そのフレーズが音的に字余りっぽいのが、タイトルのなんとなく引っかかる語感を受け継いでいる感じ。

 これは本物のブルーズを聴いたなあという感慨に浸れます。


 8曲目What You Gonna Do About Me (featuring Beth Hart)

 僕の拙いブルーズの知識でいえば、ゲイリー・ムーアのOh Pretty Womanに似た雰囲気。

 BGはあまり力まず、自然に力がこもるいつもの歌い方で1番を歌う。

 2番でいきなりベス・ハートが歌い出す声が迫力があって切れ味鋭く、まさにはち切れた、そんな感じ。

 すごい声だなあ。

 ベス・ハートは名前を聞いたことがあるくらいだけど、これまた要注目となりました。


 9曲目The Devil's Daughter

 キーボードが静かにフェイドインしてくるイントロ、BGとしては変わっている。

 ギターが2本入ってきて、BGにしてはおっとりとした曲が始まる。

 アルバムはこの辺りでミディアムスロウの曲を集めた流れに。

 途中でヴォーカルが破裂する部分はあって、でもそこまでの静かさが異様でなんとなく恐くもある。

 なお、このアルバムはだいたいBGがどのギターを使っているかブックレットに明記されていて、この曲ではGibson Custom 335とのこと。

 最後のほうのギターソロは、鋭さよりは芳醇さを感じる、なるほどそういうことか。


 10曲目Whiskey Ghost

 やっぱりブルーズに酒はつきものか。

 そしてまだまだこの年でウィスキーのお化けに悩まされているのか。

 "Might be Jack Black, or might be Jim Beam"という歌詞もあって、ウィスキーのお化けがリアルなんだけど。

 しかしこれを聴くと、この人はお酒とのいい付き合いをしてきたんだなあと感じられるから不思議。

 シャッフルだけどもの悲しい曲で沈んだ歌い方なんですけどね、でもなんだかほっとするものがある。

 ところで、以前ヴァン・モリソンの記事でも書きましたが、「ウィスキー」は、"whiskey"と綴るとアイルランドとアメリカで作られたもの、"whisky"は英国とカナダで作られたもの、と辞書に載っています。

 そう言われるまでもなく、なんとなくBGにはジョニー・ウォーカーやホワイトホースは似合わなそうですが(笑)。


 11曲目Rhythm Inner Groove

 1枚目の最後はギターが小躍りする何かの予告編のような響きの1分強のインストゥロメンタル曲。

 


 Disc2

 1曲目Meet Me In Chicago

 1枚目の最後の曲をイントロに持ってきてうまくつながっています。

 シカゴで俺と会おうぜ、そうですね、いつかシカゴのBGのお店"The Legend"に行ってみたい。

 先ほど僕は、このアルバムは彼の人生をまとめたようなものにはなっていないと書いたけれど、1曲目とこれは自らの人生を反映させていることは分かります。

 ただ、まとめているのではない、これまではこれまで、これからはこれからという強い意思表示と感じられます。

 ドラムスがどことなくアメリカン・ネイティヴのリズムに近い感覚。

 ギターリフもいいし、歌も分かりやすい、このアルバムから1曲だけ誰かに紹介するとすればこれを選ぶかな。


 2曲目Too Damn Bad

 いやですね、77歳の人がまだこんなこと言って嘆いているなんて。

 心を引っ掻き回すギターソロがまさしく"too damn bad"、あまりにもひどすぎる(笑)。

 いい意味で言ってますからね、もちろん、この"bad"はほめ言葉。


 3曲目Evil Twin (featuring Steven Tylor, Joe Perry & Brad Whitford)

 この曲はゲストから話さないと。

 スティーヴン・タイラー、ジョー・ペリーそしてブラッド・ウィットフォード、エアロスミスの3人、作曲も共同で行っています。

 はっきりいって大物ですよね。

 でも、BGのもとにくると、まだまだ甘い、と思わされる(笑)。

 スティーヴンの歌とジョー&ブラッドのギターがいかにしてBGに勝てるか、3対1の変則タッグマッチとして聴くとわくわくしてきてたまらない。

 スティーヴンは2番で歌い始める、その最初のヴォーカルのはち切れ具合は、エアロスミス本体ではなかなかないような、これまたすごい。

 彼の歌は全体的にネバネバしていますね、自分で"never, never,never"と歌っているだけあって(笑)。

 曲自体はオールドスタイルのブルーズもしくは50年代に流行ったR&Bのスタイルで、曲が真っ直ぐなだけ余計に各人の個人技に集中できる。

 ところで、ジョー・ペリーは多分ソロも弾いているでしょうけど、ブラッド・ウィットフォードはバッキングギターだけなのかな。

 僕はエアロスミスの演奏は詳しくなくて、ブラッドがソロを弾くこともあるかどうかも分からないんだけど、でもわざわざ名前が出ているのだから弾いているのかな、と短絡的だけど思いました。

 僕としてはこのアルバムの目玉と捉えていて、エアロだって60代、こんなおじさんたちが楽しそうにやっているのを聴くだけでも幸せになれそう(笑)。

 なんといっても彼らは「邪悪な双子」ですからね。

 

 4曲目I Could Die Happy

 若い若いと書いていて本人もそう感じているとしても、やっぱり、死について考えるんだな。

 当たり前かもしれないけれど、聴く側の人間としては、このタイトルにはなにがしかのショックを受けますね。

 音楽という夢の世界から、一瞬だけ現実に引き戻される。

 曲自体は、アコースティックギターを基調とした穏やかなカントリーブルーズで、途中からエレクトリックギターが被さり、ピアノが入ってきて、小さなクラブで聴くとよさそう。

 この響き、なぜか妙にほっとするものを感じる。

 穏やかに受け入れる心構えはできているのかな。

 いや、もっと長く生きたいからかえって「死」に触れているのかもしれない。

 だって、いいことを"Bad"という人だから(笑)。

 もちろん、まだまだずっと長く音楽を聴かせてほしい、という意味を、ファンとしてはこの曲に込めたい。


 5曲目Never Gonna Change

 「死」について考えた直後、絶対に変わらないと宣言。

 シャッフルの曲はそもそも元気が出るけれど、ここではその効果絶大。

 ところで、バディ・ガイが若いと感じさせるもうひとつの大きな要素を書き忘れていました。

 声が若い。

 艶も張りもあり高音も自然と出るこの声は、ほとんど奇跡といっていい。

 BGの声は、ブルーズのイメージでよく頭にうかべる酒で潰したしゃがれ声ではないだけ余計にそう感じますが、でもだから余計に声の維持が大変だったのではないかと。

 もっとも、そんなこと本人に質問すると、「酒を飲んでただけだ」と一蹴されそうですが(笑)。


 6曲目All That Makes Me Happy Is The Blues

 この曲は自明ですね、まさにその通り。

 そう歌う曲がいちばんブルーズらしい雰囲気を持った曲であるのも納得。

 ただ、マイナー調でほの暗くて、"happy"というイメージとは違う。

 いや、それでいい、繰り返し言うけど、いいことを"bad"という人だから。

 マスル・ショールズも本領発揮、腰を据えて聴きたい曲。


 7曲目My Mama Loved Me

 "BLUES"サイドだけあって、ブルーズを畳み掛けてくる。

 曲としてはオーソドックスなものだけど、やっぱり、BGのセンスはモダンというか、語弊があるかもしれないけれど垢抜けている、そんな感じがします。

 それにしてもブルーズって不思議ですね。

 同じコード進行で同じような曲のはずなのに、演奏者によってまったく違って聴こえる。


 8曲目Blues Don't Care (featuring Gary Clark Jr.)

 あら、でも、ブルーズってそんなもんなの!?

 ゲストは若手ブルーズ・ギタリストであり歌い手であるゲイリー・クラーク・ジュニア。

 この人も、そろそろ聴いてみたい、聴かなくては、と今ここで思った。

 アップテンポの軽快な曲に不似合いなほどBGの声には力が入り、その分、ゲイリーの声が優しくて落ち着く、というか。

 ところでBGは、ここまで、彼から見ると若手がたくさん参加しているけれど、若手に対してこうしなさい、といった感じでは決して接していないように感じます。

 俺は俺、お前はお前、というか。

 だから、妙な先輩風は吹かせていない。

 そうですよね、だって気持ち的にはそれら若手よりも自分の方が若いのだから(笑)。


 9曲目I Came Up Hard

 やっぱりところどころ人生を振り返ったようなことを言ってますね。

 「俺ぁハードにやってきたもんさ」、なんて言ってしまう。

 ハードロックの元祖は俺なんだ、とは言っていないだろうけど、その一貫したハードさ、ここまで続けてこられたのはやっぱり神がかり的な業。

 いや、人間の可能性を見せてくれているのでしょう。


 10曲目Poison Ivy

 最後はショーの終わりのような華やかなアレンジのジャンプナンバー。

 もっと分かりやすくいうとブライアン・セッツァーにつながる曲。

 アルバムの最後が最後らしい曲であるのは、聴いている間に気持ちの区切りがつけやすくていい。

 好き勝手なことをやってきていたようで、やっぱり、ショービジネスの中で生きてきた人であることは自覚していて、予定調和的にアルバムが終わるのは、こちらもほっとしますね。

 

 80分以上のアルバムが終わりました。

 聴き通すと、体力的にちょっと疲れるかもしれない(笑)。
 それくらい、とにかくすごいんですよ。

 60歳以上のアーティストに対する考え方を根本から覆されます。


 先に触れましたが、77歳になってもこれほどまでに元気な人がいるというのは、社会にとっても素晴らしいことでしょう。

 願わくば、健康に生きている高齢の人が、自分がやりたいことをやりやすい世の中になれば、とすら思いました。

 もちろん、道は外さないで(笑)。

 バディ・ガイの"bad"には、反面教師的な意味があるのかもしれない。
 もちろん歌は仮想、現実の生活は現実で分かっているけれど、仮想の世界で徹底して悪になることで、現実の生活へのエネルギーが蓄えられるのかもしれません。


 僕も、元気で気持ちが若い77歳になりたい。

 ただ、それまで生きられるか分からないけれど・・・

 なんて書く時点で、僕は失格ですかね(笑)。


 ともあれ、今年の新譜では最も力強いアルバム、と、まだ4か月を残していますが、宣言しておきます。