◎TATTOO YOU
▼刺青の男
☆Rolling Stones
★ローリング・ストーンズ
released in 1981
CD-0437 2013/9/1
ローリング・ストーンズの1980年代に入って最初のアルバム。
いつも言いますが、僕がビートルズを聴き始めたのが1981年、その他洋楽は1982年からのこと。
このアルバムのStart Me Upは、洋楽を聴くようになった頃は、ちょっと前に大ヒットした大ベテランのローリング・ストーンズの曲として既にロックファンには膾炙していました。
僕も知ったのは82年になってからで、ほんのちょっとの違いですが、ヒットした当時のことは知らないし覚えていません。
ストーンズ自体は、ビートルズの本を読んでいると名前はよく出てきましたが、1981年の頃はビートルズの「好敵手」であり、むしろ嫌っていて、聴こうとはまるで思わなかった。
ストーンズは僕はこの次のライヴ盤STILL LIFE(記事はこちら )からリアルタイムでLPを買って聴くようになりましたが、過去にさかのぼったのはCDの時代になってからでした。
このアルバムの前にREWINDという、当時ストーンズはアメリカではCBSから出ていましたが、その時代のベスト盤のCDが僕が初めて買ったストーンズの過去のアルバムでした(そのベスト盤はCD用の新しいものですが)。
Start Me Upのこのアルバムのヴァージョンはそこで初めて聴きました。
アルバムはもう二十歳を過ぎてから初めて聴きましたが、これがいい、とてもいい。
ありていにいえば、シンプルなロックンロールの中に年季が入って音楽に深みと厚みがある、そんな音楽。
70年代以降の作品としては2番目か3番目というくらいに大好きなアルバムになりました。
ところが、気に入った後で、このアルバムは没になった作品の寄せ集めだと知りました。
Wikipediaで調べたことを書きます。
このアルバムのための新曲は6、9曲目の2曲だけ。
1、2、4.、5、10曲目は1979年のEMOTIONAL RESQUEの、3、7曲目は1975年のBLACK AND BLUEの、そして8、11曲目.は1972年のGOATS HEAD SOUPのセッションからの没テイク、もしくはそれに手を加えたものということ。
没作品の寄せ集めなのに、これがいいんですね。
僕は困りました。
いいアルバムはそれなりに考えて練られた結果、というアタマがあったからです。
寄せ集めなのにいいなんて、僕には許せないものがあった(笑)。
でも、寄せ集めでも素晴らしいアルバムが世の中には存在する。
いいと思ってしまった自分の気持ちはもうごまかせない。
冷静に考えると、ひとつは、ローリング・ストーンズはそもそもコンセプトはあまり考えないバンドなのでしょうね。
曲と曲のつながり、流れ、勢い、といったことは重視するけれど、文章で言う行間にはあまり意味を持たせない。
逆にコンセプト的なもので失敗したことは、SGT. PEPPER'Sを真似て経験済みですからね(ちなみに僕はそのアルバムは大好きですがそれはまたいつかの話に)。
もうひとつ、当たり前のことかもしれないけれど、どの曲もセンスを生かしながら手を抜かず真面目に作っている。
そりゃそうでしょう、はじめから没になると分かって録音する曲のほうが少ないでしょうから。
このアルバムの曲は一部手直しをしたようですが、
そしてもっと当たり前なこととして、純粋に曲がいい、素晴らしい。
これは、没作品であるが故、逆に選べたからかもしれない。
作ってから間があり、冷却期間があった上で聴くのだから、自分たちが作ったことから少し離れてただ単に曲として聴いて選べた、というわけ。
或いは、熟成期間というか。
僕の場合、突き詰めて考えると結論はいつもひとつ。
ただただ曲がいい。
このアルバムの魅力を言うならば、さすがはストーンズ、それだけで十分ではないでしょうか。
1曲目Start Me Up
骨格が丸見えのロックンロールには無条件で反応してしまう。
初めて聴いたのは、いつどこかは分からないけれどビデオクリップをテレビで観た時で、一発で大好きになりました。
すぐにレコードが欲しくなったけれど、ちょうどその頃にこの曲も入ったライヴ盤STILL LIFEが出たので、それを買いました。
しかし、そのライヴテイクには少々がっかり。
僕はこの曲のリズムと音の「間(ま)」が大好きなんです。
もたっとしたような、粘つくリズム感、その「間」が絶妙、これひとつ。
もうひとつは、ギターとドラムスとベースそして声の間(これは「あいだ」)が音で埋まっていなくて、すかすかな感じがする、その「間」が軽やかで楽しい。
ベース好きの僕としては、歌が始まる直前に入るビル・ワイマンの高鳴るベースフレーズが気持ちよく、それが曲の要所で生かされています。
そのライヴは単に突っ走る直情型ロックンロールになっていて、個性がなくなったようにも感じました。
でも、この曲は僕が2回行ったコンサートの両方で演奏したはずだけど、ライヴでは「間」のないロックンロールになっていたのは、ライヴではその間を表現するのが難しいのかもしれない。
もしくは、客がその「間」ではのりにくいのかな、うん、それはありそうだ。
「お前はいい大人を泣かせるんだぜ」
といい大人が歌う、僕は最初はかっこいいというよりはいと間抜けなり、と思いました。
しかも、ビデオクリップのミック、キースとロンの強面3ショットでそう歌うもんだから、僕にはほとんどコメディのように思えました。
でも、だから、ローリング・ストーンズというバンド及びその人たちが身近に感じられたのだと思う。
それにしても"you"と歌われる女性はどれほど素敵なのだろう。
最後の最後、フェイドアウトが消え入る直前にミックはこう歌う。
"You made a dead man come"
お前は死んだ男を「来させる」
「来させる」は婉曲表現ですからね、念のため(笑)。
この曲は、ストーンズの僕が好きな曲で間違いなく10指に入りますね。
2曲目Hang Fire
この曲は何といっても「とぅ~るるっとぅるっ とぅ~るるっとぅるっ」と冒頭から入るコーラス、この曲の生命線はそれがほぼすべてといっていい。
歌自体は普通だけど、そこが来る度に口ずさんでしまうし、それが楽しみでもある。
つまり、そのメロディが思いついてしまった時点でストーンズの勝ち!
演奏にもちょっとだけ触れると、くすぐられるようなギターソロが面白い。
1950年代後半のロックンロールの雰囲気を再現したかのような曲は、80年代にノスタルジーがブームになったこととつながっているから、ストーンズはやはり時代に敏感な人たちなのでしょう。
3曲目Slave
いい大人が何を言っているんだ、という曲。
多分、直接肉体をいたぶるものではないと思うんだけど・・・
この曲の黒っぽさは、本物の黒っぽさではなく、ストーンズが培ってきた粘つき感から来るもので、ソウルっぽいわけではないのに黒っぽい。
ミックはファルセットで歌っているけれど、ストーンズのファルセットはユーモアから来るものでしょうね。
深刻な、或いは変に誤解してほしくないメッセージを含んだ曲をファルセットで歌うことにより、聴き手もあまり深刻にならず、楽しく、おかしく、聴くことができて音楽だけに集中できる。
低音のギターリフが、重たいのに切れ味鋭い。
4曲目Little T & A
出たぁ~
「しばれるロックンロール!」
あ、この「しばれる」は「縛れる」ではなく、「凍る」「冷え込んで寒い」という意味の北海道の方言の「しばれる」です。
まあ、「縛れる」としていただいてもそれはそれで面白いですが(笑)。
それはともかく、この「しばれるロックンロール」は最初聴いた時に張り手でKOされた気持ちになりましたね。
キースが歌うこの曲、でもキースの声がいつもより鼻に抜けていて妙に高いのがさらにしばれている(笑)。
しかも、「しばれるロックンロール」と歌ったあとで「はははぁ、へい」などとかけ声を入れる、その声が、正直、カッコよくない、ちょっと間抜け。
断っておきますが、先ほどから書いている「間抜け」は100%愛情表現ですからね、誤解なきよう。
ともかく、この曲は最初から最後までしばれて終わってください。
なんてこのままでは悪ふざけで終わってしまうので、それもストーンズらしいとは思うんだけど、一応「しばれるロックンロール」は何と言っているかというと、"She's my little Rock and Roll"です、念のため。
5曲目Black Limousine
この曲はブルーズより新しいR&B、ストーンズがデビュー直後に好んでカヴァーしていたタイプの曲。
ハーモニカも入っているけれどあまり目立たず、なんでもいいから歌ってしまえというミックのヴォーカルと輪をかけてテキトーなキースのコーラスの勢いを楽しもうという曲。
6曲目Neighbours
窓から隣近所に大声で呼びかける曲。
なんだかそれがまた間抜けで、楽しく、基本は何も考えていない人、といったイメージを受ける。
ストーンズのメンバーも当時はもう40くらいだったけど、こんな親父は恐い、と当時は思ったものです
今ならもう少し世の中が寛容かな(笑)。
この曲もシンプルだけど印象に残りやすいけれど、このアルバムはそういう曲がたまたま集まったということなのだろうか。
いや、たまたまではなく、はじかれた元の3枚のアルバムは何かの意味を持たせたかったのだけど、その意味にはシンプルな曲は合わなかったのかもしれない。
キースのコーラスがテキトーだけどかっこいい、どすが効いていて恐い、ともいえるけど(笑)。
タイトルが英国綴りなのはさすがと思った、当たり前なのだろうけど。
そうそう、この曲は、大学生の頃のバイト先にいた、音楽が好きでよく話をするけれどストーンズがあまり好きではないS君が、「このすっこんすっこんいうスネアが俺はダメなんだ」と言っていたことを今でもよく思い出します。
まあ、それはチャーリーのトレードマークでもありますからね。
7曲目Worried About You
前半はファルセットを交えたバラード、後半は男臭く歌うけれど、ストーンズの得意な路線のひとつ。
今は隠れた名曲的に扱われているのではないかな、そんな、雰囲気がある曲。
アルバムの中で聴くと、この後に控える大きなものへの予告編といえなくもない。
ギターソロの音が刺さり込んでくるけれど、そういえばこのアルバムは音が妙に硬いですね。
いや、それにしてもシングルでも何でもない曲でもやっぱりこのアルバムはいい。
8曲目Tops
ミックが、やはり間の抜けたような声で語り、バックにファルセットが覆いかぶさる。
スロウでメロウな曲を2つ続けてきましたが、やはり流れはしっかりと考えて曲を並べていると感じます。
9曲目Heaven
テンポは上がったけどここで初めてほの暗い曲が出てきました。
チャーリーのラテンっぽいリズム感に、ファルセットも含めてミックが幾重にも声を重ねて歌う、この曲はなんだかしみてきますね。
ただの恐い親父軍団ではない、芸が細かい、ストーンズがそんなバンドだとよく分かります。
この曲は新たに録音された2曲のひとつですが、他の素材に合わせて録音したのか、それともアルバムを作るつもりで録音を始めたのがうまく進まなかったその途中の過程の曲なのか。
なんであれ、ほんとうにこのアルバムは曲が充実している。
10曲目No Use Crying
ごめんなさい。
僕はCDで初めて聴いたのですが、このアルバムは7曲目からがB面であることに今気づきました。
つまり、A面はアップ、B面はスロウという構成であり、話としては単純なのでした。
なんとなく、勝手に、NeighboursがB面最初だと思い込んでいたのでした。
この曲はさらに重たくなり、嘆きのような、憐れみのような、訴えかけてくるものがある。
そして最後の曲が待っている、そこへ向かってゆくこの流れがいいですね、いつ聴いてもわくわくゾクゾクしてしまう。
コンセプトも何もいらない、ストーンズはただいい音楽を聴かせる術だけを知っている。
11曲目Waiting On A Friend
この曲はストーンズの僕が好きな曲の5指に入る、バラード、なのかな、穏やかな曲。
これはベスト盤で最初に聴きましたが、ストーンズってこんなに「きれいな」曲が書けるんだって、それはそれは驚いたものです。
「美しい」じゃない、「清らか」という意味を含んだ「きれいな」曲。
「俺は女性を待っているんじゃない、ただ友だちを待っているだけさ」
「友だち」にはいろいろな意味が含まれる、だから、「友だち」を待っていると言われてもどうせ隠語だろ、と、へそ曲がりなロックファンの僕は最初は思った。
でも、この清らかさは、ほんとうに大切な友だちを待っているとしか考えられない、ということに、聴いてゆくうちに気づいた。
映画でも、友情ものは、結構ほろっときますよね。
ストーンズを聴いてほろっとするなんて、まだストーンズも洋楽もろくに知らなかった頃には想像すらできなかった。
ギターの自然な音色がきれいさをさらに響かせてくれる。
イントロのギターを受けて入るピアノも琴線に触れてくる、これがまたいい、ニッキー・ホプキンスの仕事だという。
やはり適当のようで気持ちごと歌に覆いかぶさっているコーラスがいい。
そしてなんといっても、ソニー・ロリンズのサックス、素晴らしいなんてもんじゃない。
僕はソニー・ロリンズは「サキコロ」くらいしか聴いたことがないので何かを言えるものではないけれど、曲の心情に添う抒情的な演奏という点では、一世一代の名演かもしれない、とすら思う。
少なくとも、ロックのフィールドにおけるサックスソロとしては最高のものでしょう、それは間違いない、比べるものがないといっていい。
そのサックスですら口ずさむもんなあ、僕は。
もちろん、歌の旋律が最高にいい。
気持ちが弱い時はこの曲、鼻歌でも歌えません。
ほんとうに素晴らしい、素敵な、きれいな曲でアルバムが終わる。
だから、余韻残しまくり、このアルバムは評価が高い、というより好きな人が多いのでしょうね。
ああ、ストーンズ聴いた、って余計なことを思わず素直に楽しめて浸れて余韻が残る、そんなアルバムでしょう。
当時は20年を迎えるというキャリアをひとくくりしてまとめた、という意味もこのアルバムにはあるのでしょうね。
でも、そうか、僕の中学時代は、ストーンズがまだデビューして20年経っていなかったんだ。
そんなストーンズが今でも続けているなんて、なんだか不思議な気がしないでもない。
僕個人の思いを言えば、ストーンズはこれ以降これよりいいアルバムを作っていないわけで、そういう点でも愛着がわく、そんなアルバムでもあります。
ところで。
我が家ではこのアルバムのことを「サシアオ」と呼んでいます。
「刺青」の読みを変えたものですね。
先ほど大学時代のバイト先の話が出ましたが、そこはさる事情で漢字が極めてよく出てくる職場で、なんてもったいぶらないで言えば書店でしたが、そのバイト仲間では、漢字をわざと間違えて読むことが流行っていました。
例えば、「刺青の男」という本の注文があったとすれば、「はいサシアオ1冊」みたいに。
頭の体操にもなるし、読みが違うと響きが面白かったり、本のイメージとあまりにもかけ離れたものになるのが楽しかった。
しかし、そんなバイトを見た当時の主任さんは言いました。
「お前たち、ここでそうやって遊ぶのはいいけど、知らない人の前でやるとバカだと思われるぞ」
仰せの通り・・・
でも、当時は楽しかった、そんなことも思い出しました。