MR. TAMBOURINE MAN ザ・バーズ | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-August15Byrds1st


◎MR. TAMBOURINE MAN

▼ミスター・タンブリン・マン

☆The Byrds

★ザ・バーズ

released in 1965

CD-0433 2013/8/15


 ザ・バーズのデビュー作、今ほぼ毎日聴いています。


 今回はそのアーティストを初めて取り上げるので、僕なりに思ったところをまとめた概論的なものを中心に話を進めてゆきます。


 ザ・バーズは、12弦ギターを前面に押し出したまろやかなギターサウンドが個性的であり、フォークロックというジャンルを築き、さらにはアメリカンロックなるものの礎を築いた功労者として今でも根強い人気を持っています。  

 僕は当然ビートルズで初めて12弦ギターの音色を聴きましたが、それを特徴とするバンドというのは面白いなと思いました。


 また僕は鳥が好きなだけに、ロックによくあるスペルを1文字変えた"Bird"=鳥であることにも早くから引かれていました。

 ロジャー・マッギンが弾く12弦ギターはかのリッケンバッカー。

 こうして聴いていると、やっぱり欲しくなってしまうギター・・・(笑)・・・


 一応アルバムはすべて持っていますが、聴き始めたのはCD時代にリマスター盤を集めたものであまり早くはなく、まともに聴き込んだとはいえなくて、まったく知らないアルバムもまだ何枚か(も)あります。

 今回のアルバムは、中では割とよく聴いてきたほうだけど、記事にするに当たって初めて真剣に聴き込んだといっても過言ではないくらい。

 僕とバーズは、そんな関係だったかな。


 バーズについて今回は3つほど思いました。


1)ザ・バーズは「ボブ・ディランの翻訳者」である

 バーズにはボブ・ディランのカヴァーが多く、そもそも最初のNo.1ヒット曲がこの表題曲であるMr Tambourine Manですからね。

 この曲、オリジナルのボブ・ディランはNo.1にはなっていないので、チャート上ではカヴァー曲が勝った例のひとつ。


 ボブ・ディランの曲は、例えばビートルズと比べて、ローリング・ストーンズとでも、一般的にいえば分かりにくい部分がありますよね。

 ディランは歌メロを崩して歌う上にだみ声で、誰もが無条件で好きになるものとは少し違う気がする。 

 僕も最初はそうでした。

 高校生の頃に「ベストヒットUSA」で初めてボブ・ディランの新作を見て聴いた時、とてもじゃないけど僕にはついてゆけないや、と思ったものです。

 ただ、大学生の頃から普通に聴けるようになりましたが。

 

 バーズは、そんなディランの曲を一般の人に分かりやすく解釈した。

 歌メロをはっきいとさせ、普通の声で歌い、ユニゾンやハーモニーをつけてポップソングとして聴きやすくしています。

 ディランには共感が多く、難しいディランの曲を優しく教えて広めるのが俺たちの使命感みたいなものがあったかもしれない。

 ディランの人気、というより尊敬の念が高まったのはバーズのヒットのおかげの部分もあったのではないか、と、あくまでも想像ですが。

 もちろんバーズにとってもディランはいい歌を歌わせてくれるので、相互依存のような部分がありますね。

 曲にこだわるものとしては、バーズの依存度のほうが高い、と見えますが。

 

 ただ、彼らの次のNo.1ヒット曲であるTurn, Turn, Turn!はピート・シーガーの曲であるように、ディランのみならずフォークをロックに変換した「フォークの翻訳者」というのがより正しいと思うのですが、でもここはレトリックとして「ディランの翻訳者」とさせていただきました。



2) バーズは仲間意識が強い

 バーズは基本的にハーモニーで歌う。

 聴いていると、仲間意識が強いんだなあ、と感じます。

 実際はデヴィッド・クロスビーがあまりにも天才肌の個性的な人だから、実質的なリーダーであったロジャー・マッギン(当時はジム・マッギンと名乗っていた)も大変だったと思うのですが、そこをやり通してしまうのがプロ、そしてプロだから彼らは売れ、ここまで残っている。

 仲間意識のどこに意味があるかというと、ロックは、1965年の彼らのデビューの頃から、"Love & Peace"思想が広まってゆき、自由の大切さが叫ばれ、フラワー・ムーヴメントが起こり、ヒッピー文化が浸透し、マーティ・ルーサー・キングの暗殺という世の中の大きな動きがあった上でかの「ウッドストック」が行われた。

 バーズのヴォーカルスタイルは、そのようなタイミングでデビューしたことで、仲間意識、仲間の大切さを訴えているものとして聴衆の心に響いたのではないか。

 個の力が強いアメリカであっただけ、余計に大きな響きとなった。

 これについては、リアルタイムを経験していないものの想像に過ぎないのですが、レコードの、いやCDの、もっと正確にいえばCDをかけているステレオのスピーカー(A&D製)の向こうから流れてくるバーズの曲を聴いて、そんなことを考えました。



3) バーズはソフトロックの走りのようなもの?

 仲間意識を感じさせるということは、強さよりは和やかさを伝えたいという思いがあるのでしょう。

 音がソフトですよね。

 実は、僕、バーズを初めて聴いたのは大学生の二十歳の頃でしたが、当時はそのソフトさを素直に受け止めることができなかった・・・

 なんか期待したほどじゃない、と。

 元々ハードロック系が好きな人間だから、その緩さ、ソフトさに戸惑いました。

 漸く普通に聴けるようになったのが、人間がソフトになった30歳を過ぎてから(笑)。

 そうなんです、ハードロックが好きだった反動で、ソフトなロックは若い頃はあまり聴いてこなくて、ボズ・スキャッグスも30歳を過ぎて気に入ったくらいなのです、僕は。

 バーズについては、早くからCDを持ってはいても(ボックスセットを買ったこともあった)、ほんとうにいいと思えるようになったのも30代後半を過ぎてからでした。

 バーズがソフトロックを作ったとはいわないし、いわゆるソフトロックを聴いてしまうとバーズは十分に音が強いのですが、でも、ロックとは音の響きが強いだけの音楽ではないということを示して成功したことで、後進に光を与えた、つまりやりやすくなったのではないかと思います。



 さて、聴いてゆきますか。


 1曲目Mr. Tambourine Man

 デビューシングルとしてNo.1ヒットを記録、幸先がいいスタートを切りましたが、後からそうした事実を見ると、バーズはアメリカに暖かく迎え入れられたんだなあと想像します。

 この原曲は僕がいちばん好きなボブ・ディランの曲で、そうであるだけ余計にバーズのこれを聴いて、なんてふにゃふにゃなんだ、と、二十歳の頃には思いました。

 でも、これこそ、バーズが「ディランの翻訳者」であることを最良の形で表していますね。

 歌い出し、サビともいえますが、タイトルのことばを歌う部分は、今の僕は気がつくと口が勝手に口ずさんでいるくらいにポップなものになっています。

 歌詞が同じである以上メッセージ性は変わらないと考えるのが普通でしょうけど、強く歌うだけがメッセージを伝える方法ではないことを示したのもバーズのいいところでしょう。

 ちなみにこの曲は、『タモリ倶楽部』でタモリが何かをする際にテーマ曲として使われていますが、それは、"Mr. Tambourine"のところが「ミスター・タモリ」の空耳に聞こえるからでしょう。

 僕がよく口ずさむのは、そのせいもあるんでしょうけどね(笑)。


 余談ですが、ボブ・ディランには、自身が歌った曲としてシングルチャートでNo.1になった曲がありません。

 意外というか、ロック界の七不思議と呼ばれています。

 ついでに、ブルース・スプリングスティーンにもNo.1ヒット曲がありませんが、これで七不思議が2つ。

 ついでのついでに、しかし実はその2人が参加したNo.1シングル曲というものがありまして、それはWe Are The Worldなる曲。

 もひとつついでのついでで、クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルは2位になった曲が5曲もありながらNo.1が1曲もありません。

 これで七不思議の3つを挙げたわけですが、あとの4つは、僕もよく分かりません(笑)。



 2曲目I'll Feel A Whole Lot Better

 今回バーズを聴いているのは、トム・ペティがカヴァーしたこの曲を車でよく聴いているから。

 1989年のトム最初のソロアルバムFULL MOON FEVERに収められているものですが、そうだオリジナルを聴いてみよう、となりました。

 トムのヴァージョンはギターソロも含めてほぼオリジナル通りで、テンポを若干早くしているだけで、仲間意識を感じさせるハーモニーはトムのダブルトラックで表現しています。

 僕は、バーズの曲ではこれが断然いちばん好きです、もちろんトム経由ですが。

 メンバーのジーン・クラークが作曲したオリジナル。

 なぜこの曲が好きかというと、歌メロがいいから、それはもちろんですが、自分で歌っていてとっても気持ちがいいのです。

 誰にでもあると思うのですが、自分の声に合う曲だから。

 断っておきますが、歌が上手いとかそういうレベルではなく、あくまでも歌っていて自分で気持ちがいいし、この曲の時はよく声が出ているな、と感じます。

 歌詞の内容もへそ曲がりの僕には感じ入るところが多くて(笑)、サビの最後の部分はこうです。

 "And I'll probably feel a whole lot better when you're gone, or when your come"

 「きっと君がいなくなると僕は気分がいいと思うよ、いや、違う、君が来てくれると」

 恋愛が少し進んでいろいろな不安を感じるようになった頃でしょうかね(笑)。

 歌メロが素晴らしい軽いロックンロールとして、僕の中では最高の曲です。


 3曲目Spanish Harlem Incident

 これもディランの曲だけど、一瞬聴くとそうは感じないくらい歌メロがよく流れています。
 サビで音が高くなるのはディランが得意だけど、バーズの緩いヴォーカルはいい意味で脱力感があって無理なく歌っている感じがまたいい。


 4曲目You Won't Have To Cry

 これはジーン・クラークとロジャー・マッギンの共作ですが、バーズはポップで耳に残って口ずさみやすいサビを作るのがうまいですね。

 ディランの曲がなくてもバンドとしては人気が出たのではないかと。

 

 5曲目Here Without You

 ジーン・クラークの曲で、僕もはっきりとは意識していなかったけれど、初期はジーン・クラークが作曲の中心だったということなのですね。

 少し暗いこれ、曲だけとると、少し前に記事にしたムーディ・ブルーズやヤードバーズの初期と似た雰囲気。

 でも12弦ギターの音色はそれらと区別化するのにいかに有用であったかが分かります。

 

 6曲目The Bells Of Rhymney

 ピート・シーガーの曲ですが、Wikipediaを見ると今ではこのバーズのものの知名度が高いようですね。

 ということは、フォークをロックに変換して広く聴いてもらうというバーズの使命はある程度達成されたということなのでしょう。

 この曲は完全にバーズの色に染まっています。

 ところで、この曲の最後の終わらせ方が、ビートルズのIf I Needed Someoneに、なんとなく、なんとなあく、似ているんですよ。

 If I Needed Someoneは、武道館公演でジョージ・ハリスンが12弦ギターを弾いた曲として知られていますが、ビートルズのほうが後、RUBBER SOULの曲です、念のため。


 7曲目All I Really Want To Do

 ボブ・ディランの曲が3曲目。

 オリジナルはサビを歌う部分の"want to do"のところでヨーデルのように声が引っくり返るのが印象的ですが、ポップロックアーティストであるバーズはもちろんそんな冒険はしません。


 8曲目I Knew I'd Want You

 5曲目の続きのような少し引いた暗い曲で、ワルツですが、これもジーン・クラークの曲。

 暗い曲がそれほど深刻に聴こえないというのも、バーズのスタイルのいいところなのでしょう。

 つまり、聴いて落ち込むことがない。

 もちろん、カタルシス的なものを求める人には不満なのでしょうけど。


 9曲目It's No Use

 歌い出しがほの暗いんだけど、Bメロに移るところでクリス・ヒルマンのベースが唸りを上げて疾走する曲の流れがいい。

 途中に少しだけ入るギターソロ、テクニック的に上手いというものではないけれど、ビートルズと同じく曲の流れの中の音としては印象的。

 これまたジーン・クラークとロジャー・マッギンの共作。


 10曲目Don't Doubt Yourself, Babe

 フォークっぽい曲、Bメロでボ・ディドリーのリズムになるところが面白い。

 60年代に活躍した女性歌手ジャッキー・デシャノンがオリジナル。


 11曲目Chimes Of Freedom

 ボブ・ディランの曲、4曲目。

 ディランのメッセージを広めたいという思いが強かったことはこの選曲でも分かります。

 ところで僕、この曲は割とよく聴きますが、これが入ったオリジナルアルバムのANOTHER SIDE OF BOB DYLANは今まであまり聴いてこなかった、次はこれにしようか、と思案中(笑)。


 12曲目We'll Meet Again 

 オリジナルアルバム最後の曲。

 そうだ、そうか、バーズはロマンティックでもありますね。

 もう七夕は過ぎたけれど(こちらは旧暦だから先週だった)、なんとなく、織姫と彦星のテーマ曲のような感じの、楽しいようで切ないようで、なんともいえな味わいがあります。

 オリジナルは1939年の英国のヴェラ・リンという人の曲だそうですが、そういう古さは感じません。

 ただ、今はボーナストラックがあるからいいけれど、アルバムの最後としてはなんとなく急に終わってしまうのが残念ではあります。


 僕が今聴いているのはボーナストラックが6曲入ったリマスター盤で、6曲中4曲がアルバム収録曲の別テイクすが、I'll Feel A Whole Lot Betterの別テイクが入っていて、つまりこの曲が2回聴けるのがうれしい。

 他、13曲目She Has A Wayはジーン・クラークのいかにもバーズらしい曲。

 18曲目You And Meはデヴィッド・クロスビーが作曲に名を連ねたインストゥロメンタル曲ですが、西部劇の挿入曲のような雰囲気で、そこはさすがはアメリカ人というところかな。

 冒頭の写真に写っているのは、アルバムのモノーラルとステレオの両ヴァージョンが入った国内盤紙ジャケットのブルースペック盤です。

 5枚目までがつい最近出たそうで、この際だから買い足しました。

 

 そうそう、たまたま昨日8月14日はデヴィッド・クロスビーの誕生日でした、御年72歳。

 そういう偶然で記事が上げられたのはうれしいです、1日遅れてしまったけれど・・・(笑)・・・

 デヴィッドおめでとう!

 

 一昨日の夜ですが、ペルセウス座流星群を見ていました。

 といって、家の玄関先で20分ほど見ていただけですが、それでも3個見えました。

 ただ、空の大半が雲に覆われていて、空いた部分が少なかったのですが、ひとつは薄い雲の向こうにかなり明るく光ったのが見えました。

 

 その時になんとなく口ずさんでいたのが、バーズのTurn! Turn! Turn!でした。

 本文で少し触れましたが、次のアルバムに収められたNo.1ヒット曲。

 In everything turn, turn, turn

 There is a season turn, turn, turn

 すべてが変わる、季節も変わる

 なんとなく、その時の気持ちにぴったりだと思いました。


 だからやっぱり、次はそのまま2枚目に進みますかね(笑)。


 この年にして漸く、バーズがほんとうにほんとうにいいなあと思えるようになりました。

 よかった、鳥好きとしても(笑)。