HIGH ADVENTURE ケニー・ロギンス | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-August05KennyLoggins

◎HIGH ADVENTURE

▼ハイ・アドヴェンチャー

☆Kenny Loggins

★ケニー・ロギンス

released in 1982

CD-0431 2013/8/5

 

 ケニー・ロギンス4枚目のアルバムを今日は取り上げます。


 少し前にFOOTLOOSEのサントラを取り上げましたが、ちょうどその頃、このアルバムのBlu-Spec 2盤のCDが出るという情報を得て、少し待って買いました。

 僕がケニー・ロギンスのソロのスタジオアルバムを買うのは、意外にもこれがまったく初めてのことでした。

 ロギンス&メッシーナは3枚持っており、ただそれも3年前に初めて買ったもの、『フットルース』と『トップ・ガン』のサントラそしてベスト盤とライヴ盤1枚は持っていましたが。


 このアルバムを買ったのは、中学時代に強烈な思い出があるからであり、ケニー・ロギンスで1番か2番に好きな曲が入っていて、かねてから音質がいいCDで聴いてみたいと思っていたからでした。


 僕がケニー・ロギンスという人を知ったのは、中3の頃、このアルバムに収められたDon't Fight ItをNHK-FMで録音して聴いたことでした。

 ケニー・ロギンスを聴きたかったのではなく、ゲストとして招かれたスティーヴ・ペリーめあてでした。

 

 ジャーニーは当時、ESCAPEとそのツアーでアメリカを席巻し、続いて出たFRONTIERSからの1stシングルであるSeperate Waysがリリース直後から大きな話題となっていて、世界一ビッグなバンドだったと言っていいでしょう。


 一方でケニー・ロギンスは名前すらまったく知らなかった。


 僕の友だちで中2からビートルズを一緒に熱心に聴いていたOがジャーニーに狂い始め、この曲の存在を知って僕に教えてくれて、僕も録音して聴くことにしてみたところ、これが曲としては大変気に入った。

 「サンライズ・パーティー」という英語の邦題がついていましたが、まあなんとなくニュアンスはよく分かる、それなりにいい邦題かな。


 曲のことは曲のところでもう少し詳しく話すとして、僕は、世界一ビッグなバンドのスティーヴ・ペリーをまるで手下のように扱うケニー・ロギンスなる人物は何者なのだ、そんな偉い人なのか、というのが気になったところでした。

 どうやらアメリカのロックでもすごい人らしい、ということまでは分かりましたが、ほんとうにどうすごいのかは当時はまだ分かりませんでした。

 後に、ロギンス&メッシーナという伝説的なロックデュオの一人だったこと、ドゥービー・ブラザースのWhat A Fool Believesをマイケル・マクドナルドと一緒に作曲してグラミーを受賞した人、と輝かしい過去がだんだんと分かってきましたが、でも実はそれは、FOOTLOOSEがヒットした時にまとめて知ったことでした。

 

 つまり、このアルバムの当時は、なんだか分からないけれど偉い人らしい、というところで止まっていて、僕も一応若い頃いは反権威主義みたいな部分があったので、なんだか分からないけれど偉い人というのは、最も忌避すべき人物像であり、というわけでケニー・ロギンスという人には興味は湧きませんでした。

 ただ、FOOTLOOSEの時に、それまでの積み重ねがあっての大ヒットであることは理解できました。


 余談ですが、ロギンス&メッシーナの曲として僕が初めて接したのは、もう大人になっていたけれど、ポイズンがカヴァーして歌ったMama Don't Danceでした。


 まあそのようなわけで、実に31年をかけて初めて買ってアルバムを聴いてみたわけです。


 全体の印象を簡単にいえば、いかにも80年代前半のアメリカのロックといった趣き、音作りで、いいかどうか冷静に判断する前に、心が懐かしさに覆われました。

 なんて相変わらず屁理屈っぽくって簡単じゃないですね(笑)、失礼。

 つまり、かなり気に入りました。


 ケニー・ロギンスはAORやソフトロックと呼ばれているのかどうか分からないけれど、僕が思っていたよりはソフトではなかった。

 ギターの音がエッジが効いて鋭角的に響いてきて突き刺さる感じが、ソフトさとはまるで逆。

 以前、AORの代表のように言われていたボズ・スキャッグスを初めて聴いた時(もう35歳を過ぎていた)、言われたことからの想像よりははるかにがっしりと響いてくるロックだったことに驚いたものですが、これもそんなところ。

 まあ言ってしまえば、何も形容がつかない普通の売れ線ロックということ。

 曲のメッセージ性は感じるのですが、カッコよくて気持ちがいいサウンドを追い求めたロック。

 もちろん、肯定的に、うれしさを抑えながら書いていますよ(笑)、僕はそういうロックで育った人間だから無条件でいい。


 参加メンバーを見てみると、スティーヴ・ペリーの他、もはや朋友ともいえる仲だったマイケル・マクドナルド、トトのスティーヴ・ルカサーとデヴィッド・ペイチ、形容は要らないデヴィッド・フォスター、ソフトロック系の曲をドラマチックに仕立てるサックスのデヴィッド・サンボーン、「娼婦ロック」で一時代を築いたパット・ベネターの夫のニール・ジェラルド(当時はまだ結婚していなかったかもしれない)、キーボード職人ニール・ラーセン、後にエリック・クラプトンの片腕となるネーザン・イースト、後にミスター・ミスターを結成して大ヒットを飛ばすリチャード・ペイジなどなど、実力があって華がある人が多い。

 ケニー・ロギンス本人以外ですべての曲に参加している人はおらず、(ギターのマイク・ハミルトンが1曲だけ不参加)、バンドというよりはスタジオで作り上げたロックとして、当時のアメリカの粋(すい)を集めた最先端といったところでしょう。

 時代は感じるけれど、音の響きに古さは感じません。

 むしろ、今となっては、80年代前半が、ロックの中ではいちばん音が先進的だったんじゃないか、とすら思えます。



 1曲目Don't Fight It

 さてここでは曲について語ります。

 先ずはイントロ、「カッカッ」というギターのカッティングの音がリアルに始まり、すぐに超高音の激しいリフが入って歌が始まる。

 この超高音のリフを当時友だちOと音を拾って真似てみたんだけど、速すぎて弾けなかった。

 普通に上手い人なら普通に弾けると思うのですが、僕には無理。

 今回CDを買ったところでこのギターはニール・ジェラルドのものだと分かったのですが、ギターの演奏テクニックって、曲に対して適切で最高の色を与える人がほんとうにうまいんだろうな、そしてそういう上手さというのは数多のスタジオワークを重ねることを通して得られるものなのだろうな、と思いました。

 別にギタリストとして名をはせている人を非難するつもりはまるでないけれど、上手いというのはそういうことだと。

 ケニー・ロギンスとスティーヴ・ペリーの歌に、昔からいろいろと思うところがあります。

 その前に、ケニー・ロギンスの声をこれで初めて聴いたわけですが、ハイトーンで切れが鋭くて、昔流行った言い方をすれば、コクがあるのに切れがある、と感じました。

 一方でスティーヴ・ペリー、もちろん上手いというかとっても味わいがあるヴォーカリストだけど、この曲を聴くと、アップテンポで早く歌う場合は言葉と言葉の間がスパッと切れなくて音がつながっていくような感じを受けました。

 一緒に歌うケニーの切れ味が鋭いので、ともすればもたっているような感じにも。

 これはしかし個性の範囲内で、そういえばジャーニーやペリーのソロの曲は、Seperate Waysがそうですが、テンポは速くても歌メロは早くなくて悠然と歌う感じの曲ばかりですよね。

 ケニー・ロギンスはずるい、と思う。

 そういうペリーの特性を知って、敢えてこんな速く歌う曲に呼んだのではないか、と(笑)。

 まあそういう意図ではないでしょうけど、1980年代は大物のデュエットが大流行りだった時代で(90年代はそれが普通のことになったけれど)、そういう流れにも乗った曲だった、いかにも80年代的な曲といえるでしょう。

 歌メロは最高にいいし、ハンドクラップで盛り上げるサビは気持ちが高揚する。

 歌のフレーズが終わって次に進む前に入るギターが曲にメリハリをつけていていい。

 曲の最後が、ギターがなんだか疲れてしまったかのように秩序を乱した中で終わるのが面白い。

 繰り返し、僕は、ケニー・ロギンスの曲では1、2というくらいに大好きです。


 2曲目Heartlight

 マイナー調のほの暗いミドルテンポの曲。

 アコースティックギターのアルペジオが結構激しくて、心の揺らぎのようなものを感じる。

 本人もこの曲は大切に思って歌っているんじゃないかな、そういう気持ちが伝わってくる。 

 で、実はこの曲、どこかで聴いたことがある、とCDで最初に聴いて思った。

 しかし、いつどこでというはっきりとした記憶はまるでない。

 僕が持っているベスト盤にもライヴ盤にも入っていないし、最近どこかで聴いた覚えもない。

 もしかして当時友だちOがLPを買って聴かせてくれたのかな、と思ったけれど、でもそれなら多分覚えているはず。

 他の人が歌ったのかとWikipediaで調べると、そういうこともなさそう(ニール・ダイアモンドの同名異曲があるのは当時から知っていた)。

 シングルとして最高24位と中ヒットしたみたいで、その関係でラジオか何かで聞いたのでしょう、そう考えるのが自然な気がする。

 しかしそれにしても、どこかで聞いたことがあるという感覚が不思議で、かつ、懐かしかった。

 歌メロがとってもいいこの曲は、そんなこともあって、もはやすっかりお気に入りの1曲となりました。


 3曲目I Gotta Try

 マイケル・マクドナルドと共作、ヴォーカルでも参加、ただしコーラスだけで最後以外はあまり目立たない。

 端的にいうとWhat A Fool Believesの続編といった感じで、少なくともリズムは同じ。

 それにしてもマイケル・マクドナルドの曲はかなり癖があるようで、ブックレットを見ないで最初に聴いた時、これはMMだと分かりました。

 曲としてはまあ普通かな、二番煎じ的なものとして考えてしまうと、どうしても、前者と比べてしまうからなあ。


 4曲目Swear Your Love

 これがパット・ベネターっぽいちょっとハードな曲で、これにはニール・ジェラルドは参加していないケニーひとりの曲なんだけど、なんだか余裕で作ってみたといった感じ。

 特に、Aメロが終わってサビに入るところの「ジャジャッ ジャジャッ」というギターは、具体的にいうとパット・ベネターのHit Me With The Best Shotそのまんま。

 いかにも明るい1980年代ポップロック。


 5曲目The More We Try

 ケニーのアコースティックギターとペイチなど3人のキーボードをバックにしっとりと歌うバラード。

 こういう曲の人としての優しさがケニー・ロギンスの魅力なのかもしれない。

 切ない曲は好きですね、いつも言いますが。


 6曲目Heart To Heart

 マイケル・マクドナルド第2弾、デヴィッド・フォスターも参加したまさにそういう路線。

 マイケルはエレピの音も独特なものがあって、押しが強いロックミュージシャンであることがあらためて分かります。

 この曲は、1曲目の後でラジオなどで聴いたことがあるしベスト盤にも入っているけれど、当時、思ったほど大ヒットしなかったことを覚えています。

 思ったほどというのは、何も知らない僕がではなく、評論家というかファンというか、まあそういう感じの世評的なものとして、という意味。

 マイナー調のほの暗いこの曲は、穏やかなAメロからサビに向かうBメロに移るところが「ジャーン ジャーン」と唐突で、それはテクニックなのかもしれないけれど、曲としてはインパクトがありすぎる気もします。

 ケニーはBメロでファルセットで歌っているけれど、一部なのでこれは効果的。

 サビはCメロとうことに構成上はなるのでしょうけど、そこはとってもいい。

 誤解を恐れずにいえば、これはWhat A Fool Believesの裏物語という感じかな、て、さっきからそればっかり(笑)。


 7曲目If It's Not What You're Lookig For

 ギターの音が前に出ていて強いんだけど全体としてはむしろソフトと感じさせる曲。

 この中ではいちばん、古臭いという意味での1980年代っぽさが強い曲かな。

 この時代にしかなかった音、曲、というか。


 8曲目It Must Be Imagination

 曲の最初に雷のSEが入り、ピンク・フロイドのTHE WALLに出てくるようなギターがぽこぽこと鳴る。

 インストゥロメンタルかと思ったらかなり進んでケニーが歌い始めるけれど、後から見れば、ケニーは映画音楽への意識が高かったのかなと思わせる、歌というよりはサウンドを聴かせる曲。

 ただ、僕個人としては、7曲目までの歌もの路線でずっと行ってほしかった気はする、悪くはないけれど。


 9曲目Only A Miracle

 最後も映画音楽的な曲で、映画では家族の優しさのシーンに流れていると合いそう。

 バラードといえばそうだな、これもマイケル・マクドナルドとの共作、共演。

 つまりはこれ、マイケル・マクドナルドがいることが当時は売りだったのかな。

 ドゥービー・ブラザースは事実上解散し、マイケル・マクドナルドがソロで売れた頃だったし。

 まあそういう商業的なことはひとまず考えないで話すと、しっとりとした歌でアルバムは終わる。

 アルバムとして余韻は大きく残りますね。

 ただ、8曲目でも書いたけど、元気な普通のロックっぽいアルバムとして最後まで通すという考えはなかったのかな、と、不満ではないけれど、思う部分はあります。

 まあでも、最後2曲は次のステージへの挑戦と考えれば納得はできます。

 曲はいいですからね。



 さて、このジャケット、実は何を言いたいのかいまだによく分からない。

 漫画チックなデザインは僕はちょっと苦手で、でもこれは、アメリカの何か有名なもののパロディなのかもしれないとは思うけれど、調べはつきませんでした。

 ジャケットのケニー・ロギンスは右肩にギターのストラップのような革製のものをかけてこちらを睨んでいるけれど、よく見ると稜線を飛ぶ飛行機の絵が下のほうに描いてある。

 そうか、パラシュートで降りる直前ということなのかな。

 でもそうなら両肩にストラップがあるはずで、これは、パラシュートと見せかけてギターなのかな。

 飛行機の上でもギターを弾いてやるぜ、そしてそのまま落下してやるぜ、みたいな。


 そう考えると、で、1曲目はまさにそんな爽快感がある曲でアルバムタイトルにはぴったり。

 でも、だから余計に、最後の2曲は落とし過ぎのような気もしないでもないかな。


 ケニー・ロギンスはアルバムを聴くのがこれが初めてだけど、ということは、これからたくさん聴くべきものが未開のまま残っているというわけで、考えてみればうれしいことですね(笑)。


 それらを聴かないうちにこういうのもなんだけど、このアルバムはやっぱり僕には思い入れのある1枚となるでしょう。

 予想していたよりもはるかにアルバムとして充実していてよかったし、もっとやわだと思っていたのがそうでもなかったし。


 さて、僕は、一度80年代に入ると暫く抜けられない癖があるのですが、次の記事はどうかなあ・・・(笑)・・・